日本を代表する企業「トヨタ自動車」はどこがすごいのか。東京大学大学院の出口剛司教授は「人びとのニーズの多様化によって、大量生産・大量消費をめざす時代が終わった。かわって必要とされたのが、無駄を徹底的に排除した『トヨタ生産方式』だ」という――。
※本稿は、出口剛司『大学4年間の社会学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
資本主義の背景に「禁欲」と「自由恋愛」
本稿では仕事と労働の世界(生産領域)を説明します。私たちは会社に勤め、そこから賃金を受けとって生活する資本主義社会に生きています。そうした資本主義はどのように生まれたのでしょうか。ここでは代表的な二つの学説を紹介します。
一つは資本の蓄積という産業資本主義にとって不可欠な出来事に注目するものです。キリスト教の一つであるプロテスタンティズムが消費への欲望を抑圧し、禁欲的な生活態度を生み出すことによって、資本蓄積が可能になったという説で、おなじみのヴェーバーが唱えました。
もう一つは、需要と市場の拡大に注目するもので、ヴェルナー・ゾンバルトの営利欲の解放説です。彼によると、自由恋愛こそが贈り物や贅沢品に対する需要を生み出し、それらを取り扱う市場や製造業(織物業や陶器製造業)が大きく発展したというのです。
中世ヨーロッパでは、結婚は家と家との結合であり、結婚と恋愛は別物でした。自由恋愛は婚姻外(不倫関係や娼婦との関係)に求められます。そして、恋愛には贈り物がつきものです。贈り物や贅沢品を扱う市場をゾンバルトは愛妾経済と名付けました。ヴェーバーとゾンバルトは、宗教的な禁欲と自由恋愛に伴う贅沢というまったく異なる精神的態度に資本主義誕生の秘密を見出したのです。


