山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
これぞまさしく「電子書籍端末 2.0」?折りたためる13.3型端末「ThinkPad X1 Fold」で電子書籍を試す
2020年11月26日 09:50
レノボの「ThinkPad X1 Fold」は、中央で折りたためる13.3型OLEDディスプレイを搭載した、Windows 10搭載パソコン。同社では世界初の画面折りたたみ式パソコンであるとアピールしている。
中央で折りたためるこのディスプレイは広げた状態で段差もほとんどないため、電子書籍を表示してもノドに影ができることなく、見開き表示には最適だ。また、完全に開ききらずにわずかに角度をつけた状態は、ハードカバーの本を開いた状態に酷似しており、読書端末として実にそそられるルックスだ。
今回はメーカーから借用した機材をもとに、電子書籍ユースを中心に使い勝手をチェックする。ノートパソコンとしての使い勝手やベンチマークの詳細、評価機のスペックは弊紙のHothotレビューで紹介しているので、あわせて参照いただきたい。
12.9インチiPad Proをひとまわり大きくしたサイズ
本製品は13.3型の画面を中央で折りたためることが最大の特徴だが、ここではまず、広げた状態で同等サイズとなるタブレットとして、12.9インチiPad Proと比較してみよう。性格自体まったく異なる製品なので、ディスプレイ回りのスペックや、重量を中心に違いを見てほしい。
ThinkPad X1 Fold | 12.9インチiPad Pro(第4世代) | |
---|---|---|
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 約299.4×236×11.5mm | 280.6×214.9×5.9mm |
重量 | 約973g | 約641g |
OS | Windows 10 | iPadOS |
CPU | インテルCore i5-L16G7 プロセッサ(1.4GB/4MB) | 64ビットアーキテクチャ搭載 A12Z Bionicチップ、Neural Engine、組み込み型M12コプロセッサ |
メモリ | 8GB | 6GB |
ストレージ | 256GB/512GB | 128GB/256GB/512GB/1TB |
画面サイズ | 13.3型 | 12.9型 |
解像度 | 2,048×1,536ドット(192ppi) | 2,732×2,048ドット(264ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 6(802.11ax) | Wi-Fi 6(802.11ax) |
バッテリ持続時間(公称値) | 最大約11.7時間 | 最大10時間 |
コネクタ | USB Type-C | USB Type-C |
※いずれもWi-Fiモデルで比較 |
本製品は12.9インチiPad Proと同じ、4:3というアスペクト比を採用している。本製品が13.3型なので、ひとまわり大きくしたサイズだ。12.9インチiPad Proは、単行本の見開きや雑誌の表示に耐えうる大型ディスプレイを備えたデバイスとして筆頭に挙げられる存在なので、それよりも若干大きい本製品は、サイズ的には文句のつけようがない。
解像度は192ppiとやや低め。パソコンとしての利用に問題はなくとも、電子書籍ユースで注釈やルビなどの細かい文字を表示するには少々きついレベルだ。本製品はあくまでもパソコンであってタブレットではないというメーカーの主張は、このあたりのスペックも関係しているように感じる。
フットプリントは、13.3型と12.9型という両製品の画面サイズ以上に差がある。これはベゼルが太いためだが、もっとも本製品は折りたたむと約半分のサイズになるので、持ち歩き時に巨大なバッグを必要としない点では、本製品が有利だ。ただし本革カバーやキックスタンドが一体化しているせいで、厚みについては相当な差がある。
重量は公称973gと、641gのiPad Proと比べるとヘビー級だ。背面を覆う本革カバー、およびキックスタンドが一体化しているので、素のiPad Proとの重量比較で相対的に不利になるのはやむを得ないが、とはいえ絶対値として重いことに変わりはない。電子書籍ユースでこれが耐えられる重量かどうかは、のちほど詳しく見ていく。
なおこの表で比較しているのはいずれもWi-Fiモデルで、iPad ProはLTEモデル、また本製品は5G対応モデルもラインナップされている。iPad Proは次のモデルチェンジで5G対応となるのはほぼ確実だが、現時点では本製品のほうが有利ということになる。
紙の本と同じスタイルでの読書が可能
では実際に使ってみよう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」と「大東京トイボックス 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」、雑誌は姉妹紙「DOS/V POWER REPORT」の最新号、電子書籍ストアはおもに紀伊國屋書店Kinoppyを使用している。
前のSurface Go 2のレビューでも触れたが、Windows 10のタブレットモードで使える電子書籍ストアアプリは「紀伊國屋書店Kinoppy」ほぼ一択で、それ以外のストアはブラウザビューアを使うことになる。
最近のブラウザビューアは専用アプリに近い操作性を備えているが、例えば「マンガ本棚」という名で提供されるKindleのビューアは、対応はコミックのみで、テキストはもちろん雑誌の表示にも対応しない。またWindows 10固有の問題として、ベゼルの外側からスワイプすると起動中のアプリ一覧が表示されるなど、ページめくりを邪魔する操作もある。
つまり選択肢自体が限られている上に機能に制限があり、かつ操作もiOSやAndroidに比べて気を使わざるを得ないのだが、こと本製品に限っては、ひとたび電子書籍を呼び出してしまえば、それらのマイナスを感じさせない快適な読書体験が得られる。特にコミックは、本製品との一体感は抜群で、まるで紙の本を読んでいるかのようだ。
本らしさを演出している最大の要因は、画面の中央がわずかに下に沈んだ、紙の本ではおなじみのスタイルで読書が行えることだ。左右が持ち上がり、中央のノドの部分が沈んだこのスタイルは、読書における姿勢として見慣れているだけでなく、両手で持った時の重量バランスもよく、膝の上に置いた場合も安定感があるなど、極めて合理的だ。
前述のように本製品は900gを超える重量があり、通常ならばすぐにギブアップしておかしくないのだが、本製品はその本ライクな形状のせいか意外に重く感じず、仰向けになって持ち上げたまま、気づいたら読書に没頭してしまっていたりする。数値だけで判断できないものがあり興味深い。
また、左右の画面が完全につながっているので、紙の本のようにノドの部分に影ができることもなく、コミックなどの左右ページにまたがる見開きも、左右が連結した一枚の画像として表示できる。テキストについても、左右2画面をつないだデバイスによくある、継ぎ目に行が重なって読めない問題もない。見た目のインパクトだけで言えば、これがもっとも訴求力があるだろう。
特に本製品の場合、フレキシブルタイプのスクリーンにありがちな折り目がほぼ皆無で、広げた状態ではほぼ完全にフラットになるので、ストレスがなく快適だ。同じ折りたたみ端末で言うと、日本未発売のSurface Duoは本製品よりもコンパクトかつ薄型だが、折り目の有無以前に画面が中央で分割されているので、読書における没入感は本製品のほうが優勢だ。
本製品は、アスペクト比が4:3と紙の本に非常に近いため、見開き状態はもちろん、縦向きにして雑誌を表示した場合も無駄な余白がほとんど発生しない。余白ができても、Kindleのブラウザビューアのように背景色が黒であれば、本製品のベゼル色に完全に埋没してしまうので、かなりの一体感がある。
ちなみにベゼル幅は、タブレットとして見た時は決して狭額縁ではないが、指をかけて持つにはちょうどよい幅なので、本製品のやや重めの重量を支えるには都合がよい。ベゼルは柔らかい樹脂で覆われており滑りにくいほか、背面は本革のカバーと一体化しているので、手に触れた時の感触も良好だ。
解像度はもう一声ほしい
電子書籍端末としての表示性能、および使い勝手まわりを見ていこう。
13.3型、2048×1536ドット(192ppi)ということで、解像度は平均よりやや低め。通常の文字サイズであれば何ら問題ないが、雑誌の注釈のような細かい文字やルビ、またコミックの細かいディティールの表示は、あまり得意ではない。特に264ppiのiPad Proと比べると、その差ははっきりと分かる。見開き対応としてはもう一声ほしいのが本音だ。
本製品は背面カバーの端がキックスタンドになっており、折り曲げると自立できるのもメリットだ。電子書籍を読む時は、何もずっと手に持った状態のまま、宙に浮かせて読み続けるわけではなく、テーブルの上に置いたり、あるいはソファに座った時に膝の上に置くこともある。こうした場合にスタンドがいつでも使えるのは、何かと重宝する。
本製品ならではの問題として、放熱のためにファンが不定期に回ることが挙げられる。常時回っているわけではないが、起動時には本体側面から放出された熱風が手に当たってびっくりすることがある。もっとも電子書籍ユースはそれほどCPUに負荷はかからないため頻度は低く、また本体が熱くて触れられないなどの問題もない。
また、上でも触れたが、ページをめくろうとスワイプを行った時に、誤ってアクションセンターが表示されたり、起動中アプリの一覧が表示されるというWindows 10ならではの問題はそのままだ。エッジをまたいでスワイプしなければよいだけの話なのだが、iPadやAndroidタブレットより操作に気を使うのは事実だ。
以上なのだが、本製品で電子書籍を読む場合に、必ず行っておきたいのが、画面の回転ロックだ。もともとWindowsの自動画面回転は、あまり挙動がきびきびとしておらず、本製品でもそれは例に漏れない。
そこで見開きで読む時は横向き、雑誌などを単ページで読む場合は縦向きと、回転のロックは欠かさずに行なっておきたい。これらはアクションセンターを表示し「回転ロック」を有効化するだけで済む。
重量のハンデを感じさせない完成度
筆者はもともと携帯デバイスは「軽さこそ命」派で、スマホであれば150g以下、10型前後のタブレットは450gまでが理想と、自分なりのボーダーラインを定めている。それらの基準からすると、いかに13.3型の大画面とはいえ、963gにも達する本製品は、ウェイトオーバーも甚だしい。
ところが本製品をいざ使ってみると、この重量があまり気にならないから不思議だ。つまり得られる読書体験が快適なあまり、重さに対する感覚が麻痺してくるのである。筆者自身、端末の出来がどれだけよくても、重量のハードルはそう簡単に超えられないと考えていただけに、目からウロコだった。
もちろん実際には、端末を保持している間、完全に宙に浮かせずに片肘をついてみたり、膝の上に載せたりと、適度に重量を分散させているのだが、これらはハードカバー本などでも行っている行為で、むしろページが反ったりしないぶん、本製品のほうが持ちやすい。これらで得られる読書時の没頭感は、過去のデバイスにはないものだ。
ちなみに折りたたみが可能な端末としては、読書用としてはかつてのシグマブックが挙げられるが、当時の技術では性能的にも限界があり(通信機能すらない)、そもそもカラーでないという問題があった。
また、最近ではサムスンのGalaxy Foldなど左右2画面を搭載したデバイスが複数登場しているが、いずれもスマホの域を出ず、縦横の切り替えができなかったり、サイズ自体小さすぎるという問題もある。その点、左右1枚のスクリーンで十分なサイズがあり、かつ汎用性も高い本製品は、実に魅力的だ。
30万円オーバーの価格は、ノートパソコンとして15~20万程度、さらにこの画面サイズのタブレットが10万で、そこに諸々のギミックが追加されていると考えると、実際にはそう法外ではない。ただしそうした適正価格うんぬんの話とは別に、電子書籍ユース単独では高額すぎるのは事実で、そこが難しいところではある。
本製品はキーボードやペンも同梱され、汎用性も高いことから、ノートパソコンを買い替える形で導入し、その上で電子書籍端末としても活用するのが、筋書きとしては正しそうだ。電子書籍の楽しさをあらためて感じさせてくれる貴重な製品だけに、ビジネスユースで本製品を購入した人は、電子書籍用途でもぜひ試してみてほしい。