まずは、一枚の写真をご覧いただきたい。
5年前の深夜、とあるホテルの一室で撮られたものだ。
レースカーテン越しに、青く光る窓。
この日、ホテルの付近で一人の男が死んだ。
1. 青い窓の真相
先日、新谷さんという雑誌記者と雑談をしていた。
新谷さんの勤める出版社は、主に旅行雑誌を制作しており、彼はローカルグルメに関するコーナーを担当している。
仕事がら、たびたび地方へ取材に行くことが多いらしい。
そんな彼が「以前泊まった地方のホテルで不思議な体験をした」と話してくれた。
新谷:2019年の9月7日、三重県の須賀原(すがはら)という所に行ったんです。
取材自体は割と早く終わったので日帰りでもよかったんですけど、その日は夜から明け方にかけて雨と強風の予報が出ていて、途中で新幹線が止まって足止めされてもやだなと思って、ホテルを取ることにしたんです。
もう今はないんですけど『ひちやぎホテル』ってところです。
――私はスマホで『ひちやぎホテル』を検索し、地図を開いた。
雨穴(筆者):すごい田舎ですね。
新谷:自然は豊かだけど、まわりに何もなくて寂しかったですね。
こんなところじゃ客入りも少なくて、経営状態は最悪だったようです。電気代の節約なのか、ライトアップもなくて雰囲気が暗かったのを覚えてます。
雨穴: 山間でそれはちょっと怖いですね。他にお客さんは?
新谷:たしかフロントの人が「珍しく団体さんが一組いらしてる」って言ってました。でも、館内は静かでしたね。
――その日、彼は夜8時頃にチェックインをした。
新谷:すでに小雨がぱらついていて、風も相当強かったので出かけるわけにもいかず、ぱぱっとお風呂入って、取材原稿をまとめて、12時前にはベッドに入りました。
割とすぐに寝入ったと思うんですけど、夜中に音で目を覚ましたんです。
雨穴:音?
新谷:「パン!」ていう……破裂音でした。それで驚いて飛び起きたんですけど……そのとき……変なものを見ちゃって……。
――新谷さんはスマホを取り出し、一枚の画像を表示させた。
ホテルの部屋。青く光る窓。
まるでSF映画のワンシーンのようだ。
新谷:職業病で、珍しいものを見ると反射的に写真を撮っちゃうんです。寝ぼけていたけど、とっさにスマホで撮影しました。
光ってたのは……体感で10秒くらいだったかな。そのあと突然音もなく消えて、窓の外は暗闇に戻りました。
おそるおそる窓に近づいて、外の様子を見たんですけど、何も変わったところはありませんでした。ホテルの向こうに広がる森の木が風でうごめいているのが、やけに不気味に感じたのを覚えています。
――彼は怖くなり、朝までベッドにもぐっていたという。
新谷:翌朝、すぐにチェックアウトして東京に帰りました。その日は休みだったので一日家でゆっくりして、ちょっと眠って。
で、夕方起きて夕刊を見たら……びっくりしましたよ。
――テレビに映る景色には見覚えがあった。
新谷:その日の朝……ひちやぎホテルの近くで殺人犯が事故死したそうです。
殺人犯の事故死
――新谷さんはスクラップブックを開き、当時の新聞記事を見せてくれた。
2019年9月8日未明、三重県の公道で乗用車が道路脇の樹木に衝突しているのが発見された。
事故から数時間が経過していたとみられ、運転手は死亡していた。
亡くなったのは東京都在住の会社員・倉辺誠二(くらべせいじ)さん。
彼の車には、遺体が積まれていた。
新谷:事故死した倉辺の車から白骨化した遺体と、土のついたスコップが発見されたそうです。
雨穴:つまり……スコップで遺体を掘り起こしたあとに事故死した……ということですか……?
新谷:その通りです。
実際、近くの森林から、土を掘り返した跡と、白骨の破片が見つかったようで……。
――新谷さんはスクラップブックをめくる。
新谷:のちの調べで、倉辺誠二の足取りが判明したそうです。
――彼の動きと現場の位置関係から、警察は次のような結論を出した。
倉辺はかつて、この場所〇に遺体を埋めた。
彼は自分が埋めた遺体を掘り返すために、付近のホテルに宿を取った。
人目に付きづらい夜中に外出し、掘り返した遺体を車のトランクに積み込んだ。
そしてホテルに戻る途中、自損事故を起こして死亡。
雨穴:もしかして、倉辺が宿泊したホテルって……
新谷:……ひちやぎホテルです。
新谷:9月7日……僕がひちやぎホテルに泊まった夜、倉辺もそこにいたんです。
そして……
新谷:僕があの青い光を見た夜、彼は事故死した。
……とはいえ、そこに何か関係があるのかといえば、見当もつかないんですけどね。
雨穴:不気味ですね……。
ところで車に積まれていた遺体は、誰のものだったんですか?
新谷:アイドルの若い女の子です。
――被害者は、東京都在住の春木名美来(はるきな みらい)さん。
生前はアイドルとして活動しており、人気配信番組に出演するなど、今後のブレイクが期待されていた。
しかし、遺体発見の3か月前に失踪し、行方が分からなくなっていた。
倉辺との接点は不明だが、両者とも東京都世田谷区に自宅があったという。
そして、倉辺には逮捕歴があった。
新谷:彼は、過去に性犯罪で数回逮捕されたことがあるみたいで……
雨穴:では、春木名美来さんも……?
新谷:おそらくそうだと思います……想像したくもないですけどね……。
――倉辺は性暴力の途中で、春木名美来さんを死亡させてしまった。そして、遺体を三重県の森林に埋めた。
しかし……
雨穴:どうして彼は、あとになって掘り返したんでしょうか?
新谷:なんでも、当時その付近で森林開発の話が持ち上がったみたいで、開発が入る前に遺体を別の場所に移そうと思ったんでしょうね。
まあ、開発の話も結局コロナで破綻して、今でも森林のままみたいですが。
新谷:そういうわけで、事件の全容はおおむね明らかになったけど、倉辺の事故に関して一つだけ不可解な点があるそうなんです。
雨穴:なんですか?
新谷:車に急ブレーキと急ハンドルの跡が残っていたそうです。
新谷:事故現場は直線道路。ハンドルを切るのはおかしいですよね。
当初は、道に出てきた動物を避けようとしたんじゃないかって言われてたみたいですが……
新谷:現場付近の防犯カメラには何も映ってなかったそうで。
雨穴:つまり……倉辺は目に見えない何かを避けようとして事故を起こした……
遺体を掘り返した直後に……
新谷:みたいなオカルト話も出回りましたけど、まあ、眉唾ですよね。
謎の声
帰宅後、もう一度写真を見直した。
9月8日……倉辺が事故死した夜に、新谷さんが目撃した青い光。
これはいったい何なのか…?
まず考えたのは雷だ。
その夜は雨が降っていた。雷が鳴ってもおかしくない。稲光は距離によって青に見えることがある。
だが、新谷さんは「光ってたのは体感で10秒くらい」と言っていた。稲光はどんなに長くても数秒程度。10秒も光り続けるなどありえない。
次に考えたのは事故の衝撃……倉辺が事故を起こした際、爆発や火災が起きたという可能性だ。
しかし……
事故現場とホテルは約180メートル離れている。すぐ近くで起きたならまだしも、この距離の事故が窓一面を光らせることはないだろう。
だとしたら……
考えたくはないが、霊現象のようなものを想像してしまう。実際、心霊スポットで『謎の光を見た』という体験談は多い。
私は、ひちやぎホテル付近に心霊情報はないか調べてみることにした。
すると、一つの動画に行きついた。
その動画は『ファレ兄のJAPAN廃墟探索』というYouTubeチャンネルにて、2022年の8月に投稿されたものだった。
タイトルは『三重の心霊ホテルに行ったらやばいことになった』……現在は廃墟となっている『ひちやぎホテル』を探索するという内容だ。
投稿者から許可を得て、該当箇所をここに掲載させていただく。
※音が出ます。
動画を再生できない方は、こちらをご覧ください。
知人
事故、遺体、青い光、そして謎の声。
調べるほど謎が深まっていく。そこで、私は一人の知人に助けを求めることにした。以前から、記事で何度も協力してくれている、栗原さんという男性だ。
彼は大学時代オカルト研究会に所属しており、心霊や怪奇現象に詳しい。何かアドバイスをもらえないかと、電話でこれまでの経緯を話した。
ところが『謎の声』に怯える私を、彼は鼻で笑った。
栗原:心霊現象なわけないじゃないですか。
雨穴:いや、栗原さんも聞いたでしょ?動画の最後に入ってた謎の声。
栗原:雨穴さん、ひとまずこれを聞いてみてください。
――突如、電話越しに女のすすり泣きと、男のうめき声が聞こえた。
例の動画に入っていた声だ。だが何かがおかしい。
動画の音声よりもクリアで、まったく雑音が混ざっていない。
栗原:これは、ネットで無料でダウンロードすることができる、いわゆるフリー音源です。つまり『謎の声』の正体は効果音。
その外国人YouTuberが、後から編集で入れたんでしょう。
雨穴:……ヤラセってことですか?
栗原:心霊動画に入っている怪奇現象は、97%がやらせだと思っています。
雨穴:……残りの3%は?
栗原:「不明」とでも言っておきましょうか。世の中、理屈で説明できないことは3%程度しかありません。
雨穴:……じゃあ、『青い窓』についてはどうですか?理屈で説明できます?
栗原:ええ。一言で説明できます。
『窓の外に光る何かがあった』……それだけです。
雨穴:いや、それは分かってるんですけど……
――そう言いかけたとき、違和感に気づいた。
「窓の外が光った」ではなく「光る何かがあった」……まるで窓の外に青色の発光体があったかのような…
栗原:では、光の正体は何だったのか。
はじめに、ヒントになる要素を確認していきましょう。
まず私が気になったのは、新谷さんが聞いた「音」です。
栗原:この「パンッ」という音が、青色の光が点灯するスイッチ音だったのではないかと私は考えました。
たとえば、何者かがホテルに向かって巨大なライトを設置したとします。
雨穴:巨大なライト……?
栗原:巨大なライトですから、スイッチ音も大きいはずです。
その音で新谷さんは目を覚ました。そして、窓越しにライトの光を見た。
雨穴:いや……あの……
栗原:ただし、この説には問題点があります。新谷さんの言葉を再び引用しましょう。
栗原:青色の光が消えたとき、新谷さんは『音』を聞いていない。点灯時には鳴ったスイッチ音が、消灯時には鳴らなかった。これはおかしいです。
それだけではありません。
栗原:光が消えたあと、新谷さんは窓の外を見た。しかし、何も変わったところはなかった。
つまり、その時点で窓の外には何もなかったわけです。巨大なライトをそんなに素早く撤去するのは不可能。
つまり『光源は巨大なライトではない』と断言できます。
雨穴:(当然のことを長い時間使って説明したな)
栗原:では、光源は何なのか。ここで注目すべきは、その夜の気候です。
栗原:その夜は強風が吹いていた。するとですよ。
たとえば『光る巨大な物体』が風で飛ばされてホテルの壁に激突した、とは考えられないでしょうか。
電光掲示板とかイルミネーションとかね。
栗原:『パンッ』という音は衝突音だったわけです。やがて風が止み、それは下に落ちた。
雨穴:うーん……『巨大なライト』よりは、ちょっとだけ現実的な気はしますけど……
栗原:ただし、これにも問題点はあります。
新谷さんの体感によれば、窓が光っていたのは10秒。どれほどの強風だったとしても、電光掲示板のような重いものが、10秒も壁に張り付いていたとは考えづらい。
それに、ホテルの下にそんなものが落ちていたら、新谷さんが気づくはずです。つまり……
①『光る物体』は
10秒間も風で壁に張り付いていられるほど
薄くて軽いものだった
②風がやんだあと
それを素早く回収した人物がいた
ということです。
――たしかに、そう考えれば『光る窓』の謎は解ける。だがはたして、そんな物体が……そんな人物が存在するのだろうか?
栗原:①に関しては物理的には可能です。
雨穴さん、夜光塗料って知ってますか?
栗原:電気を使わず発光する物質です。塗るだけで「自ら光るもの」が作れるので、アクセサリーや釣り具なんかによく使われます。
雨穴:ああ、暗闇で光るあれですか。
栗原:市販の夜光塗料の光はあまり強くないですが、ヘリポートや軍需品に使われる高価な製品は、かなり強力な光を放ちます。
栗原:大きな紙に高価な夜光塗料を厚く塗れば『光る巨大な薄い物体』が作れる、というわけです。
雨穴:それが強風で飛ばされてホテルの壁に張り付いた……?
栗原:はい。残る疑問は、誰が何のためにそんなものを作ったのか。そして、誰がどうやって回収したのか、です。
ここで私は、新谷さんのとある発言に注目しました。
栗原:「団体さん」……雨と強風の日に、わざわざ片田舎のホテルに泊まる団体客……ちょっと変じゃありませんか?
雨穴:……まあ、言われてみれば……
栗原:では、その団体客とはどんな連中なのか。例の動画を確認してみましょう。
栗原:宿泊名簿によれば、この日ひちやぎホテルに泊まっていたのは、新谷さん、倉辺容疑者を除くと8人。
栗原:では、この8人のうち、誰が『団体さん』なのか。
部屋番号から推測していきます。
栗原:ひちやぎホテルの客室は2~7階。ワンフロアに窓が6つ、名簿に書かれている部屋番号に「06」以上がないことから、ワンフロアには6部屋しかないと思われます。
栗原:仮に、部屋番号を向かって左から「01~06」とします。もしかしたら逆かもしれませんが、どちらにせよ私の推理に影響ありません。
さて、宿泊名簿をもとにこの日の部屋割りを作ってみてください。
雨穴:え?……あ、はい。
――私は名簿を見ながら、宿泊者の名前を書き込んでいった。
すると、不思議なことに気づいた。
雨穴:これ……
栗原:わかりましたか?
栗原:伊志田、村井、猿張、奈崎、安岐、刈茅、田中、枝野の8人が、3×3の四角形を形作っているんです。
ホテル側がこんな不可解な部屋割りをするメリットはありませんから、彼ら自身が予約の段階でこれを望んだのでしょう。
つまり、この8人が『団体客』です。そして注目すべきは、新谷さんの部屋。
栗原:彼の泊まった605号室は『団体客』が作る四角形の隣に位置しています。こうなったのは偶然でしょう。
経営難のひちやぎホテルは、おそらく光熱費の節約のために、客を5階から7階に詰め込む必要があった。そうすれば2~4階の廊下は消灯できますからね。
この偶然によって、新谷さんは不思議な光景を目にすることになった。
『団体客』によって作られた、青い光です。
雨穴:え……
栗原:横断幕のようなものを想像してください。
8人の団体客はその夜、窓から手を出し、巨大な紙……青色の夜光塗料を塗った巨大な紙を、外に向かって貼り出した。
栗原:ところが……途中で強風が吹き、向かって左側の誰かが堪えきれず手を放してしまった。
支えを一つ失ったことで強度は弱くなり、風の力で一人、また一人と手を放してしまう。そして……
栗原:ついに紙は「本がめくれるように」ホテルの壁に打ち付けられた。
その音で目を覚ました新谷さんは……
栗原:『裏返った紙』を見た。
強風が止んだのち、団体客は慌てて紙を窓から回収。
こう考えれば、窓が10秒も光り続けたこと、そのあと跡形もなく消えたこと、どちらも説明がつきます。
雨穴:……たしかに、理屈は取ってますけど
……そもそも団体客は、何でそんなことを……?
栗原:単純な話です。
彼らは外に向かって紙を貼り出した。つまり外にいる誰かにそれを見せたかったということです。
雨穴:外にいる誰か……?
栗原:人里離れたこの場所で、深夜に出歩いている人なんてめったにいないでしょう。
しかしこの夜に限っては、一人の人物が外出していた。
――9月8日の夜中、ひちやぎホテルの外にいた人物……
雨穴:……倉辺誠二ですか?
栗原:地図を見ると面白いことがわかります。
栗原:倉辺容疑者が事故死した場所は、ひちやぎホテルのちょうど真正面でなんです。
彼がこの道を走った時刻と、団体客が『紙』を広げた時刻が同じだったとしたら、彼は死ぬ直前に青色の光を見たことになります。
あるいは、運転中に青い光を見たせいで事故を起こしてしまったのかもしれません。
雨穴:青い光を見たせいで……まさか、青信号と見間違えた……とか?
いや、それだったら急ブレーキをかけるのはおかしいか。じゃあ、突然目の前が青く光ったからびっくりした……?
栗原:びっくりはするかもしれませんが、事故を起こすほどではないでしょう。
その光には、彼を激しく動揺される、ある仕掛けが施されていたんです。
写真をもう一度よく見てください。
栗原:光の中に、カーテンの縦ジワとは異なる、2本の線が見えませんか?
コントラストを強くすると、よりはっきりします。
――たしかに浮かび上がる、二本の線。
雨穴:何かの影……ですかね?
栗原:実はこの影、ある写真の一部とぴったり一致するんです。
雨穴:ある写真?
栗原:雨穴さんもすでに見ているはずですよ。遺体の身元が特定された際の、新聞記事です。
雨穴:え?それって……
雨穴:春木名美来さんの……?
栗原:彼女の顔を写真と合わせてみると、面白いことがわかります。
――それは、偶然の一致とは思えなった。
栗原:この線、美来さんの顔の一部にそっくりなんです。
雨穴:……たしかに
栗原:窓から見えるのは、紙の一部。すると、紙全体には美来さんの顔が大きく描かれていた……と考えられる。
雨穴:美来さんの顔が描かれた、巨大な紙……
栗原:作り方は簡単です。
栗原:まず、紙一面に美来さんの顔をプリントする。
印刷会社に頼めば数万円でやってくれますし、コピー機を使って地道にやる方法もあります。
栗原:その上から夜光塗料を塗る。
夜光塗料は『下地の色が異なる部分は違う光り方をする』という性質を持っています。
これを夜中に見たらどうなるでしょうか?
栗原:暗闇にぼんやりと浮かび上がる顔……まるで、幽霊のようじゃないですか?
雨穴:……つまり、倉辺が最後に見たものは……
美来さんの幽霊……。
栗原:はい。
栗原:倉辺容疑者はホテルに戻るためにカーブを曲がった。そこで突然、幽霊に出くわしたわけです。
ただでさえ、真夜中に一人で遺体を掘り起こした直後。恐怖、不安、焦りで心は乱れていたことでしょう。
そんな中、死人が目の前に化けて出たら、冷静な判断力など吹き飛んでもおかしくない。
雨穴:倉辺は『美来さんの幽霊』を避けようとして急ハンドルを切ったということですか。
栗原:防犯カメラに何も映っていないのは当たり前です。防犯カメラは通常、上から道路を撮影する。
彼が避けようとしたものは、道路ではなく、遥か遠くのホテルの壁にあったわけですから。
雨穴:なるほど……ん?待ってください。
ってことは団体客は、倉辺がこの日に遺体を掘り返すことをあらかじめ知っていて、待ち伏せしていたってことですよね。
栗原:そういうことになります。
いたずらやドッキリにしては悪質、そして手が込みすぎています。
計画的な遠隔殺人と呼んでいいでしょう。
雨穴:遠隔殺人……
――倉辺誠二、安岐健太郎、伊志田和也、枝野誠、刈茅郁人、猿張直希、田中江美、奈崎尋歌、村井孝太
彼らの間にどんな関係が……?
栗原:残念ながら、私が推理できたのはここまでです。
何か新しい情報が見つかったら連絡してください。どんなに小さいことでもかまいません。
雨穴:はい……
――このとき私は、事件の真相につながる『ある重大な事実』を見逃していた。
それが分かるのは、もっと先のことだった。