本屋が好き。やたらと本があるから。ありすぎ。
ライターの岡田悠と申します。本屋にいます。
いい本を見つけたいのですが、本がありすぎてわかりません。だから知りたいんです。
みんなどうやって、本屋で本を探してんの!?!?
本屋の魅力は、本との偶然の出会いだと思います。でも普段は一人で回るから、他の人がどうやって出会っているのか知りません。気になる!
そこで今回は都内の本屋をお借りして、こんな企画を行います。
そして舞台は、こちらの本屋さん。
このビル全部、本屋。
B1から9Fまでの10フロア、2000坪の面積に約150万冊の蔵書を誇る、日本最大級の本屋です。150万冊ってなに?今年で25周年を迎え、現在さまざまなフェアが開催されているそう。
副店長の中﨑さんと森さんにご協力いただき、この巨大書店で企画を行おうと思います。
本当にビル丸ごと使っていいんでしょうか。
はい。我々も、お客さんがどんなふうに店内を見て回っているのか、興味があるんです。
お客さんにこういう順路で回ってほしい、みたいな設計はされてるんですか?
フロアごとにジャンルが別れていて、1Fには話題書や新刊が置かれています。2F、3Fにも実用書や文芸など、読者層の広い棚がありますね。
1Fに近いほど、客層も広くなるのか。
逆に上の階に行くほど、専門書の割合が増える傾向にあります。
専門書もかなり多様ですね。医学や芸術の本もあるし、最上階の最深部には「ふるさとの棚」という全国の地方出版社の本を集めたコーナーもあります。
本棚は「関心の連続性」を重視していて、この本が気になる人はこれも気になるだろう、という順番に並べてはいます。ただ、あまりに本が多いので、正直そこまで人流をコントロールはできていません。
普段、我々もお客さんについて行ったりしないですから。お客さんがどういう行動をとるのかは、とても気になっています。
今回はたっぷりあとをつけちゃいましょう。
本屋をダンジョンにしよう
そういえば前から思ってたのですが、本屋ってダンジョンみたいじゃないですか?
ダンジョンって、RPGの?
そうです。例えばこの店には、150万冊の本があるわけですよね。しかもその一冊一冊に何万字もの字が詰められていて、来るたびに新しい本が並んでいて…この途方もない広大さが、ダンジョンに似てるなって。
入るたびに無限に形が変わる「トルネコ」的なダンジョンですね。
広さもわからない洞窟の中を、手探りで進みながら、宝箱を開けていく…本屋歩きって、あの感じに似てませんか?
本を見ながら歩いているうちに、だんだん店の全貌がわかってくる、みたいな感覚はあります。
そうなんです!そこで今回のコンセプトは、こちらです。
本屋をダンジョンに見立て、参加者に3千円を渡し、40分以内に宝の一冊…つまり「気に入った本」を見つけてもらうゲームを開催します。
予算が三千円だと、買える本が限られるかもしれませんね…
そこで「予算の増えるアイテム」を店内に設置したいと思います。
ダンジョンでアイテムを発見したら、買える本の幅も増えるわけですね!
アイテムはこういう宝箱に入れて、店内のどこかに設置します。
合計で10個設置しました。お金以外にも、本探しに役立つ様々なアイテムを入れてあります。
本当のダンジョンみたいで、ワクワクしてきました。
ダンジョンマスターってこんな気持ちなのかもしれない。
本も宝箱も、どんなふうに見つけるのか、楽しみですね。
一体、どのように本屋というダンジョンを探検するのか?
どうやって宝の一冊を発見するのか?
挑戦者は3名のライターたち。本屋ダンジョンの開幕です!
一人目の挑戦者:ダ・ヴィンチ・恐山
本屋は割と行く方ですね。普段は文芸のコーナーに行きがちなんですが、今日は新しいジャンルを開拓したい。
スタートは1Fの正面入り口。まだ開店前なのでお客さんはいません。なおプレーヤーには撮影班がついて回るほか、首元にGoProを着用してもらいます。
誰もいない本屋、心地いい。
あまりに目立つから、いなくてよかった。
それでは…
本屋といえば、まず入り口にこういう新刊コーナーがありますね。
(宝箱のある場所だ…)
でも今回はスルーします。
え?
エレベーターに乗ろうかなと。
いきなりエレベーターに向かう恐山。一体どうしたんでしょうか。
何階に行くんですか?
9Fです。
いきなり最上階へ!?
まず最上階に行って、順番に1Fまで降りてくる作戦です。普段本屋に行く時も、よく使う手法ですね。
ダンジョンの分かれ道を全部調べるタイプだ。
1Fを完全スルーし、専門性の高い9Fから本を探していきます。
さて、ここが9階か…。
普段どうやって本を選ぶんですか?
パッと目に入った背表紙で選ぶことが多いですね。例えばここは「ディズニー」の棚なんですけど、こうやって眺めていて…
「ディズニー批判序説」という背表紙が目に留まりました。
全く知らない本だけど、とりあえず気にはなる。そしたら手にとって、今度は目次を開いてみます。「ミッキーはうさぎだった」って書いてある。
ますます気になる。
でも1400円するので、これに予算を半分使う勇気はない。だから棚に戻す。そんな感じです。
背表紙と目次で判断していくんですね。
そういう意味では、この本も気になるな…
『落語登場人物事典』
[矢野誠一編・白水社] 落語固有のユニーク極まる人物たち延べ2500名が繰り広げる、比類なき人間模様。
落語って2500人も登場するんだ。
気になった本は、とりあえずカゴにキープできますよ。
じゃあキープしようかな…あ、
2万4000円する。
予算を8倍オーバーしている。
もう少し手頃な本を探すことにします。
『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
[川内有緒著・集英社インターナショナル] 全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞することにより、浮かびあがってくる社会や人間の真実、アートの力。
これはいいですね。障害とアート、みたいなテーマは、気になってたんです。Twitterの「ALT機能(画像に代替テキストを記入する機能)」が最近話題になっていて。
データならわかるけど、アートの場合はどうやって鑑賞するんだろう。
「見えない人と見るからこそ、見えてくる」。このキャッチコピーがそそるので、一冊目のキープはこの本にします。
それにしてもこの階、変わった本がいろいろあるな…。
『王羲之蘭亭序』
[潘海清著・新華出版社] 中国東晋の書家、王羲之の『蘭亭序』の書道なぞり叢書の一冊。
なにこれ?
この棚、全部こういう本で埋まっている。
なぞり書きの練習ができるみたいですね。
気になるけど、これを買ってどうすれば良いんだ?という気持ちが勝るのでやめておきます。
このあたりで制限時間40分のうち、10分が経過しました。
まずい、そろそろ移動しないと..
あ、前方から洋書の気配を感じる。
洋書の気配?
本屋では気配を感じ取るのが重要です。ここで9Fは終わりにして、次の階へ降りましょう。
9Fでわりと時間をとられましたね。
専門書だけだと思ってたら、予想よりジャンルが多様でした。なんで「中国なぞり書道」の棚があるんだ。
ちなみに開店前なので、エスカレーターは止まっています。
止まってるエスカレーター歩くの、気持ち悪っ!
9Fの幅広さに時間を取られてしまった恐山。「1Fまで降りる」と言ってましたが、果たして…。
8Fは児童書か…ゾロリがいっぱい並んでる。昔から好きなんですよね。
今でもこんなに人気なんだ。
あ、なんだこれ!
『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』
[おかだだいすけ著・岩崎書店] キンメダイ、アナゴ、イカなど、釣り上げた魚をさばき、だんだんと美味しそうな切り身へとかわって行く様子がわかる写真絵本。
魚が寿司に変わっていく過程が、写真集になってる。
夏休みの課題図書にもなってる。確かに教育にいいのかも。
これはすごい本ですよ。子供が寿司屋に来てるけど、明らかに子供の来るような店ではない。
そこ?
だって、シャリが赤酢ですよ。
めちゃくちゃいい寿司屋だ。
生き物の本は好きだし、これもキープします。
そういう分類なんだ。
キープした本が、続々とカゴに溜まっていきます。
生き物で言うと、7Fには生き物の話題書コーナーが大きく展開されてますね…
はいはい。でも、すぐには飛びつきません。こういう特集の棚って、本屋の色が出るんですよね。ただ売れ筋を置いてるだけの棚と、ちゃんと面白い本を選別してる棚は、すぐに違いがわかりますから。さて、ここの棚は….
『ビーバー』
[ベン・ゴールドファーブ著・草思社] 可愛いだけかと思っていた存在が、世界を救うかもしれない。ビーバー本の決定版。
はい、面白い。
ビーバー本に決定版ってあるんだ。
『ハエトリグモハンドブック 増補改訂版』
[須黒達巳著・文一総合出版] 日本で見られるほぼすべてのハエトリグモ113種を収録した識別図鑑。
これなんて、「ハエトリグモハンドブック」ですよ。もうただ売れてるから置いてる、とかじゃない。
でも増補改訂版が出てる。
それでも、万人向けの本ではないですよね。この「ハエトリグモハンドブック」が平積みになっている。そこに私は信頼を覚えます。私はこの本屋を信用する。
特集の棚で、信頼度を測る。
最近、顕微鏡を買って家で見つけた虫とかを見てるんですけど、ハエトリグモって、めっちゃちっちゃいのに細かい毛がいっぱい生えてて、かなり可愛いんですよ。
家に出た虫を顕微鏡で見ている…?
これでうちに出るハエトリグモの種類を判別できる。2000円なので、これもキープします。
もう一冊文庫本を組み合わせて、2冊いくのがベストかもしれないな…そういう足し算が重要なフェーズになってきました。
『ありえない生きもの―生命の概念をくつがえす生物は存在するか?』
[デイヴィッド・トゥーミー著・白揚社] 生命にまつわる型破りな理論も紹介しながら、「ありえない生きもの」の可能性を探る。
これもいいタイトルですね。帯の説明にある「型破りな理論」が気になる。
よくある「珍しい生き物紹介」みたいな本じゃなくて、本当に存在しない生き物について論じてるんだ。
買うか迷った時は、パラパラとページをめくってみて、文中のキーワードを拾ったりします。
「背表紙→カバー→目次→キーワード」という順番で見ていくんですね。
「多宇宙」とか「多世界解釈」とかいうワードが出てきた。タイトル以上の期待が持てるので、これもキープします。
同じ生き物ジャンルでも、かなりいろんな本があるな…。
この7Fは魔境ですよ。全部面白そうすぎる。もうここで骨を埋めてもいいかなという気がしてきた。
1Fまで行くって言ってたのに。
こういう全然知らないジャンルの棚があるのも、またいいんですよね。バルブのことなんて、何もわからない。でもそれがいい。
世界には、滑り軸受の本があるんだな、って思う。全然わからない。それが楽しい。
私、覚悟を決めました。
いつも行く「文芸」のフロアにはもう行きません。文芸の本は、いつだって買える。やっぱりこういう知らない本との出会いこそ、本屋ならではだなって。
知らない本を楽しみすぎて、7Fのほぼ全ての棚を見てしまった恐山。残りわずかな時間で、4Fの哲学・思想コーナーへ向かいます。
6Fは医学とITだから、スキップっと…
え…..
文芸の棚があるんですけど。
専門書の階なんですが、いま特別に文芸誌のフェアを開催しています。
せっかく飛ばす覚悟を決めたのに。
あ〜、こういうポップとか見てしまう〜。
この作者の本、買ったけどまだ読んでないな…。
あ、この本も、買っただけで読んでない。
あ〜、買ったのに読んでない本が私を攻めてくる。別の本を買うんですか?って顔で私を見てくる〜。
なぜかあった文芸誌コーナーで、積ん読本に攻められて終了。1Fまで降りることはできませんでした。
本を買おう
キープした中から、三千円以内で買う本を選んでください。
全部面白そうなんだよな…でもどれも二千円くらいで、組み合わせられない。
あんなに計算してたのに。
ここは…「ハエトリグモ ハンドブック」で!
この本が一番びびっときたから。
感想戦
副店長のお二人は、側から見ていてどうでした?
いきなり9Fへ行ったのが意外でした。まず1Fに目玉を置いてるので、そこをスルーされるとは…。
棚を見るときに、背表紙が重視されるのを痛感しましたね。あと、アイテム宝箱が見つからなかったのは残念でした。
1Fから行くと思って配置してたんですよね。
宝箱のこと、今思い出したな。でも上から降りなければこの本には出会えなかったので、満足しています。
予算の使い方を悔やみつつも、満足いく一冊を選べたようです。次の挑戦者は、どんな本探しをするのでしょうか。