玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第1節

前話
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第1節 - 玖足手帖-アニメ&創作-
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第17節 - 玖足手帖-アニメ&創作-


サブタイトル[ロマンスの休日]   
前書き:

千鳥:今だけよ 頭に血がのぼって周りが見えなくなってるだけ
   今は目の前のお兄ちゃんのことしか考えられないだろうけど
   そういうの長続きすると思わない
吉田基已『恋風』

  • ソレイユ病院.1101111号室

そら「お兄ちゃんって、大学生なのかな。バイトとか学校の夢が多いわ」



Jack IN
http://www8.ocn.ne.jp/~ikitale/diary/10.04.html
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Jack Out




兄の夢から目覚めて、その蒲団の上で妹はグデーっと体を伸ばす。ベッドの上の兄の枕もとの椅子に腰かけ、上半身だけ兄の胸の上に突っ伏していたのだ。自らの腕よりも長い妹の桃色の髪も兄の布団に広がって、少しウェーブのかかったそれが波打つ。
そら「だったら、やっぱりあたしも学生になっといた方がいいのかなーあああー」
1101111号室「そら様、それは結構ですが、夢見の件は社先生には教えない方がよろしいかと」
そら「心配しなくても、そんな必要ない事はしないわよ」
 だらしない姿勢だが、妹の目は髪の間から部屋の空気中にも満たされている宇宙人達を睨んだ。


  • 四辻の四つの塔の屋敷のそらの居間

 今日も今日とて、家庭教師の社亜砂(やしろ・あずな)の教えを受けている美少女の頭令そら(ずりょう・そら)である。先月にはそらが社の頭蓋骨を粉砕するなど多少の諍いもあったが、1ヶ月も経てば、授業のペースは軌道に乗る。
 6歳の時に養護学校の知的障害科を退学してから、そらは学校に行っていない。
 だが、そらはその後の6年間に宇宙人の超能力を使役し、独学していた。そのうえ、大雑把に出来ているそらの脳は勉強した事を忘れる事がなく、半年後のセントウォーター女学院中等部の受験に対しても、全く余裕である。
 もはや彼女と教師の目的は受験よりも「お兄ちゃんに認められるいい女になる」という事の方が主眼となっている。つまり、人生経験。
そら「そーいえば、あたしたち、まだアレをケーケンしてないわね」
社「アレ、とは?」
 授業後の恒例となった教師との午後の庭での茶会で、宇宙人執事のレイに給仕させた紅茶のカップから、そらは唇を離して、言う。
そら「ほら、テレビでよくやってる、アレ。教師が教え子にやるアレよ」
社「アレ!?」
そら「なにあらかじめハンカチ当ててんのよ。エロいアレじゃないわよ」
 白人と日本人のハーフで金髪美形だが重度のロリータコンプレックスであり、教育実習時に女子中学校の一クラス全員を強姦した廉(かど)で数年間服役した社である。春先に出所した時から被された白いロリコン矯正マスクは、彼の視線とペドフィリア脳波に反応して、耳からの超音波と電磁波で脳のロリコン神経を破壊する公的矯正器具である。ロリコン矯正波を受けると鼻血が出るので、彼の目と耳を覆う仮面の下の鼻にハンカチを用意したのだった。
そら「家庭訪問よ」
レイ「そら様。社先生は家庭教師ですので、毎日が家庭訪問です」
 長身痩躯、黒衣にサングラスをかけた白髪の老執事、宍戸隷司(ししど・れいじ)の面の皮を被った宇宙人のレイが、主人の後ろに立って訂正する。社も唇に付いたワッフルの蜂蜜を拭ってからガーゼハンカチを赤いスーツの胸ポケットにしまった。
社「そうです、宍戸さん。頭令、貴様は何か誤解をしているようだな。保護者面談も先月に済ませたではないか」
そら「あー、ちょっと違った。あたしがあんたの家に行きたいってことになるんだわ。この場合」
社「いかん」
そら「なんでよ」
社「私は少女を家に入れてはいけない事になっている」
そら「もしもーし!警察の人、聞こえてますかー?
 あたし、社センセーの教え子の頭令そらでーす!いたずらされそーになったらうちの執事にボコボコにさせるんで、大丈夫でーす!
」

社「耳元でどなるな!息が!」
 キュィイイイイン
社「いたいいたいいたい」
 茶会用の白いクロスの丸テーブルに乗り出したそらの唇に、仮面の矯正波がうっすらと感じられるほどの近さ。近づいたそらの吐息と美貌に反応してしまい、弱めのロリコン矯正波を受けた社はうずくまる。
そら「あはははは!社の顔真っ赤!」
 高らかに笑い転げて椅子に座り直す美少女。あきらかにロリコンを珍獣扱いしている。
レイ「我々は社先生を傷つけるべきではないと具申します。そら様、どうか穏便に願います」
そら「なによ、あんた逆らおうっての?」
社「ぐぬぬ・・・。頭令っ。いくら宍戸さんが貴様の執事でも、年長者にその物言いはいかんな。
 それではいい女には成れん。私の家に来る事も許さんっ」

 文句を言いつつ教師はテーブルの下から起きあがったが、幸い鼻血が出ていなかった。そのまま立ち上がって立ち去ろうと、鞄を持ち直して捨て台詞を吐く。
社「罰として宿題の算数ドリルのページ数を通常の3倍とする。今日は宿題をしてさっさと寝るのだ」
そら「えぇーっ!ひどーい!」
 


  • そして1時間後の勉強部屋

 ふぅ、と一息ついて髪を掻きあげ、
そら「てなわけで、社を家に帰して、宿題も終わりましたとさ」
レイ「さすがそら様。普段より早いですね」
 プリントを提出用のクリアファイルにまとめるそらの椅子の後ろに侍るレイ。今は人間の皮を脱いで宇宙人が憑依したロボットの頭部が露出している。
そら「うん。いつもは9割お兄ちゃんの事を考えながら宿題してるしね。今日はお兄ちゃん2割5分にしたから速いのよ。じゃ、お兄ちゃんの病院に寄ったら社の家に行こう」
レイ「社先生は来て欲しくないとおっしゃいました」
そら「罰の宿題は済ませたんだから、良いのよ」
レイ「そうでしょうか?」
そら「そうなのよっ。せっかくお兄ちゃん分を減らしたんだから、行かなきゃ損しちゃうじゃん」
レイ「なぜ、社先生のご自宅へいらっしゃりたいのです?」
そら「だって、あの白い仮面の下、気になるじゃない?」
レイ「我々は社先生が逮捕された当時のニュース映像や新聞を取り寄せました。そら様も見たではないですか」
そら「いやっ!今の社の顔を生の三次元で見たい!」
レイ「了解いたしました。我々がスキャンした現在の社先生の頭部を再現いたします」
 と、言いざま、レイは勉強部屋の窓ガラスに左の手の平を押し当てた。引いた手に伸ばされたガラスは一辺30センチ程の透明立方体となる。レイが両の手に挟み抱えたガラス内部を宇宙的技術で着色し、社亜砂の頭部を造形し始めたが、
そら「人体錬成禁止!」
 蹴り払われたガラス塊は敢え無く床で砕け、社亜砂の脳や目玉のレプリカが散らばった。
そら「気持ち悪い事してんじゃないわよ!」
レイ「そら様が途中で止めるからです」
 ぬるっと桃色の肉塊のようなガラスがとろけて、床を這いずって宇宙人の力で透明な窓に戻っていく。
そら「とにかく、あんたはあたしの言う事を聞いてりゃあいいのよ。社の住所、分かってるわよね」
レイ「存じております。しかし、先生の意思を尊重すべきではないでしょうか?」
そら「あー、もー。じゃあ、光学迷彩と原子間浸透*1で、こっそり社の家の中で素顔を見て、帰ってくる。これでいいんじゃない?」
レイ「了解し、実行します」


  • ソレイユ病院.1101111号室



Jack IN

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http://www8.ocn.ne.jp/~ikitale/diary/10.25.html

Jack OUT


そら「あははは!お兄ちゃんは相変わらず呑気って言うか、変な夢!おっかしーぃ!あははは!
 でも、社も変なんだよっ。ロリコンの犯罪者で、GPS付きの仮面被ってるって、毎日笑えるもん。
 服とか、パッと見はイケメンっぽいんだけどねー。あははっ。あの仮面は無いわー。しかもあたしに欲情してんの。ロリだから。あたしがセクシーポーズしたら鼻血出すしさー。えへへへへっ。モテてんのよ、あたし。
 で、おもしろそうだから今からそいつの家に遊びに行ってくる。
 レイが居るから大丈夫、お兄ちゃんは心配しないで待ってて。それじゃ、おやすみ、お兄ちゃん」

 いつものように妹は兄に言うだけ言うと、頬にキスをして出て行った。


  • 逢う魔が時の峠道

そら「日が落ちるのも早くなってきたわねえー」 
 レイが跨り、そらを乗せた2番目のしもべ、サイドバイクロンのヘッドライトが林道を走る。
そら「あたしの家から結構遠い、っていうか辺鄙なところに住んでるのね。社の奴」
 潜入行動と言って、そらは黒いデニムのジャケットとパンタロンの上下を着て、小型車の助手席を改造したサイドカーの側車のシートに収まっている。
サイドバイクロン「そら様、窓からお顔を出されると危険です」
そら「バリアで守ってくれるでしょ」
 社亜砂の住む町の感じも視察したいと言って、テレポートではなく、わざわざサイドバイクロンを使用したのはそらの命令である。レイも謎の多い仮面の男、社先生の周辺へのワープアウトを警戒していたため賛同した。
 サイドカーがつづら折の山道を下れば、冷たくなり始めた風がそらの髪を梳きなびかせる。そらは髪をまとめたり縛るのが嫌いなのだ。横からの夕日が杉林越しの木漏れ日となり、そらの色白の顔をちらちらと紅く煌めかせる。
レイ「そら様、この辺りは再開発地区で、社先生のマンションも廃業畑の跡に建っています。そろそろ、10時の方向に見えます」
そら「あ、あのぽつんとしてるビルかぁ。結構高いわね。社って一番上に一人で住んでるのよね。たしか、性犯罪者だから、他の住民も入らないって」
レイ「はい。周囲の開発がさらに進んだ場合は不明ですが」
 社亜砂元受刑者がGPS仮面を付けて出所した時、そのような住民の反対運動があったという報道は、記録をしもべの宇宙人に取りよせさせてそらも見た。そらの新しい屋敷も住宅地から隔絶した、山畑と国道しかない土地にある。
 半分に切れたシトロエンの車体を使ったサイドカーのゴンドラの窓枠に、そらは頬杖をつきながら
そら「あいつもあたしも、はぐれ者か……」
ロザリオ「そら様には倶雫様も、我々もおります」
そら「そうだけど……。
 あっ!ちょっと!人の声がする!」

 果たして、そら達が下っている道の、もう一段下の峠道からは男女の言い争う声が上がってきていた。サイドバイクロンはサイドカーに擬装しているが、宇宙的技術でリニアモーターカーのように少し浮いて飛行しており、エンジン音や走行音が全くしない。それで、そらは木々越しに声を聞き咎めたのだ。
レイ「乗用車が停車しておりますが、我々の通行に支障はございません」
そら「サイドバイクロン、停車しなさい。ロザリオは集音と望遠鏡」
レイ「そら様、我々には関係ない事です」
そら「でも、こんな時間に山道で女の人と男の大声よ?事件の予感じゃない。ほっとけないわ」
 人目が無く、下の道の男女にも気付かれていないサイドバイクロンは音もなく、慣性もなく、ピタリと停車した。
レイ「そら様がおっしゃるのなら、了解し、実行します」


次節
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第2節 - 玖足手帖-アニメ&創作-

*1:いわゆる壁抜け