果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて

こんぎつね

読了目安時間:3分

エピソード:50 / 150

【前話までのあらすじ】 094部隊長ゲルの境遇はギガウによく似たものだった。自然を愛し、自然を友にする。だが、その大切なものを失ってしまった喪失感。ゲルを歪ませたものはそれであった。ゲルは同じ憎しみという底なしの闇にギガウを誘う。死すらも自然の厳しさと受け入れ、そこに生きるたくましさを教えてくれた存在がギガウにはいた。その心を受け継いだギガウがゲルに負けるはずがなかった。 ◇◇◇

48話 大自然へ帰るのは少年の心

 大地から生えたツタによって拘束されたゲルは、もはや抵抗をしなかった。  「こいつが094部隊の隊長か..」  「ロス・ルーラ、貴様、討伐隊に手出しをしてどうなるかわかっているのか? 御三家が黙っていないぞ。そうなればペドゥル国はヴァン国の敵となるぞ」  その言葉を聞いてワイズ・コーグレンが顔を真っ赤にして声を荒げた。  「貴様らこそ、ヴァン国の長である私をこのような目に合わせてただで済むと思っておるのか! ペドゥル国など討ち滅ぼしてくれようぞ!」  「おじいさま、今はそのようなことを言うべき時ではありません。少し黙っていてください」  リジに冷静に窘められるとワイズはバツが悪そうに口を閉じた。  「ゲル隊長、あなたはまだ嘘を言うのか。もうわかっているんだ。あなた達の背後にいるのはカシュー国だ」  「カ、カ、カ、カシュー国だと!!」  ワイズはカシュー国の名がでると驚きを隠せなかった。  「そうか..何もかも知っているという事か」  「ああ、お前たちを動かしていたのはイヴ家ではないだろ。誰だ? お前たちに直接命令をしたのはカシュー国の誰なんだ?」  「俺たちに命令を出したのは—」  『ガルルルル!!』銀狼たちが一斉に威嚇の声をあげた・  その時、ゲルの足首の『牢獄の魔道具』が漆黒の瘴気を放ち始めた。  その瘴気が大きな闇を作るとその中から魔獣が出現した。  「精霊が穢れて化け物になったか!?」  「ロス・ルーラ、そいつはもともと精霊ではない。強い想いに縛られた森にすむ獣だ」  木の葉の陰からアシリアの声がした。  確かにその姿は立派な枝角を生やした巨大な鹿のようでもあった。だが首周りは固いウロコ状の鎧で覆われ、額には一角獣のような鋭い角も生やしていた。その姿はもはや魔獣であった。  —グオォォオ!!  地の底から湧き上がるような雄叫びが大地を震わすと、ゲルを縛り付けていたツルが腐り落ちた。  「リミ、君はあの小鹿のリミなのか?」  —ガッ! ガゥウウウ!  威嚇の声を発すると魔獣は鋭い角をリジ・コーグレンに向け、力強く大地を蹴る。まるで巨大な槍のように凄まじい勢いでリジの胸を貫こうとした。  「やめろ! リミ!!」  ゲルはリジの前に飛び出した。魔獣の鋭い角はゲルの胸を貫いた。  「もう..いいんだ。 ガフッ.. リミ..ごめんよ。 僕はまた君に会え..たんだね」  ゲルは胸元にある魔獣の頭を撫でると、抱いたまま力尽きた。  そしてゲルの身体が白い霧となり魔獣を包み込んだ。  霧が晴れると、そこには1匹の小鹿が立っていた。  小鹿は木々をすり抜け森の中へ消えて行った。  ロスたちはワイズ・コーグレンを救い出すことに成功した。  そして、ワイズの証言により点と点は結びつくのだ。  「おじいさま、決闘裁定で私のチームにデリカとレキを紹介したのは誰なの? きっとその人物がおじいさまの拉致に関わっています」  「私にあいつらを紹介したのはトレンだが.. 馬鹿な、奴は最高裁定人でありハーゲル中央裁定所の責任者だぞ」  リジは酷く困惑すると、ロスの顔を見た。  ロスは薄々気が付いていたことが確信に変わった。  「ワイズさん、俺には全ての筋書きがわかりました。まずはここから離れましょう。この場所は危険です。急いでペドゥル国へ行きましょう」  「なに? 094部隊は御三家のイヴ家の部隊だぞ。それにカシュー国が背後にいるのならペドゥル国など敵の胃の中ではないか! 冗談じゃない!」  「だからこそなんです。ペドゥル国でヴァン国の長であるあなたが生きていることを見せつけるのです。それで敵はあなたの命を狙う事ができなくなります」  「本当だろうな」  「はい。そしてあなたにはある方へ書簡を送っていただきたいのです」  「書簡?」  「詳しくはペドゥル国にてお話いたします」

0

この作品が面白かったら「いいね」を押してね!

会員登録をして、さらに応援スタンプ・コメントで作品を応援しよう!

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

    なろうで84万PVの作品の改訂第二版

    1

    0

    0


    2025年1月5日更新

    無限の寿命を持つ、アルク族の先祖返りとして生まれた主人公。 彼には前世と思われるものの知識が存在した。 何もない里の生活に最初はとまどいながらも、だんだんと慣れ親しみ、成長した主人公。 成人した彼は、好奇心から里の外の世界へ向けて出発する。 腰を落ち着けた都市で魔道具職人として生活するも、親方の引退を機に、自分も後進へと席を譲る。 十分な貯蓄を得た主人公は、冒険心から傭兵へと志願する。そこで思わぬ武勲を立ててしまい、小さな村の領主となる。 村を少しでも発展させるために、日夜奮闘を重ねる主人公。 壮大な野望を胸に秘め、長い長い旅路の果てに、たどり着く場所とは───── 本作品は、小説家になろうのサイト等で公開している拙作の先祖返りの町作りに加筆修正を加えたバージョンになります。 同じ内容を、小説家になろうのサイト( https://mypage.syosetu.com/2087748/ ) と、私の自宅サーバー( https://www.kumahachi.xyz/ ) にも掲載しています。

    読了目安時間:25分

    この作品を読む

  • 超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~

    異世界でも僕は友達ができない(泣)

    0

    2.5K

    0


    2025年1月5日更新

    友達がいなければ、頼れる相棒もいない。そんなぼっちな主人公が転生したのは、妙に現実的な異世界。 異世界でも友達ができなくたっていいじゃないか人間だもの。という言葉を胸に今日も彼は孤独に生きるのであった。 なお、このあらすじの4割ぐらいは嘘だし、主人公は信頼できない語り手であるとする。

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:40分

    この作品を読む

  • ほら、復讐者

    「あの女に必ず復讐してみせる」

    1

    500

    0


    2025年1月5日更新

    「私の復讐を手伝ってくれない?」 個人でひっそりと便利屋をしているキリンは、店の常連であるカルミアから復讐の手伝いを依頼された。 カルミアに対して密かに想いを寄せるキリンは依頼を受け、彼女のために奔走する。 「あの女に必ず復讐してみせる」 果たして彼らは無事、復讐を遂げたのか…… ※気まぐれに更新します。 ※プロローグは、もどかしいかもしれませんが投稿された順番通りに読んでいただけると幸いです。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ツギクル、pixivでも掲載しています。

    読了目安時間:2時間35分

    この作品を読む

  • 「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

    勝手に世界最強に⁉その時景色が変わった

    157

    70.1K

    1


    2025年1月5日更新

    異世界転生、レベルアップ無双……だけど、何かモヤモヤする? ゲーム三昧の末に死んでしまった俺、元・就活失敗フリーターは、女神様(元・サークルの美人先輩!)のお陰で異世界転生。 しかし、もらったジョブはなんと【商人】!? しかし俺はくじけない! ゲームの知識を駆使して、ついに寝てるだけでレベルアップするチート野郎に! 最強の力を手にした俺は、可愛い奴隷(元・魔物)を従え、お気楽無双ライフを満喫! 「よっしゃ、これで異世界ハーレムつくるぞー!」 …なんて思ってたんだけど。 ある日、街の英雄「勇者」のせいで、大切な人が窮地に陥ってしまう。 「まさか、あいつ…そんな奴だったなんて…」 街の人気者「勇者」の正体は、実は最低最悪のクズ男だったのだ! 怒りに震える俺は、勇者を倒すことを決意する。 迎えた武闘会の舞台、最強の力を持つ俺は、勇者を瞬殺! ざまぁみろ! これで一件落着。 ――――のはずだった。 勇者を倒した時、俺の心に生まれたのは達成感ではなく、言いようのない違和感だった。 「あれ? そもそも異世界ってなんなんだ?」 「魔法の仕組みって…?」 最強になった俺を待っていたのは、世界の真実に迫る、更なる冒険と戦いだった――――。 これは、最強だけどちょっとポンコツな主人公が、大切な仲間と共に、世界の謎を解き明かす、爽快異世界ファンタジー!

    読了目安時間:9時間54分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 人の恋路に口出すヤツは、イヌに蹴られて死んでまえ

    半獣少女、恋模様

    12

    22.7K

    0


    2025年1月4日更新

    唐木広幸こと『ユキ』は、身体が獣人へと変異する体質を持つ先輩、一宮蓮子こと『ワンコ』に恋心を抱いていた。 しかし悲しいかな、彼女には好きな人がいるらしい。ならば好きな人を全力で幸せにしようと、ユキはワンコの恋を日々サポートしていた。 そんな彼の想いはつゆ知らず、彼の行動に辟易としているワンコ。 なぜならワンコの好きな人は、何を隠そう恋のサポートをしようとしてくるユキに他ならなかったからだ! はびこる『怪異』が日常化する現代日本で、愉快な仲間たちと共に繰り広げられる、唐変木少年と半獣少女の両片思いラブコメディ! ※表紙イラスト、キャラクターデザインなどは白井銀歌さん(https://novelup.plus/user/956125911/profile)にお願い致しました。ありがとうございます。 ※第5回HJ小説大賞応募作品です。

    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:1時間19分

    この作品を読む

  • 【完結しました!!】琴宮アカリは黄泉がえりたい。~ゾンビなJKと異世界逃亡者のやんごとなき死体探し冒険譚。幼馴染を守るのは熱血乙女のたしなみです!~

    死にかけたりもしたけれど、私はげんきです

    234

    273.3K

    1.4K


    2025年1月4日更新

    花も恥じらう女子高生・琴宮アカリは、子犬を助けようとしてトラックにひかれてしまった。 血は噴き出て肋骨は飛び出し足はぐちゃぐちゃ。 更には大股開いてパンツ丸見え。 『あまりに情けない恰好。でもまあ、辞世の句も読んだし、あとはお迎えを待つだけだ』 そんな諦めの境地にいたアカリだったが、いつまでたっても死は訪れなかった。 ――それどころか、身体が全回復している!? これというのも全て、手の中にある丸い石が原因だった。 「嬢ちゃんはワイの魔力の影響で、死んだか死んでないかわからんくらいのギリで助かったんや」 と、エセ関西弁でしゃべる石。 なんとか仮の命で生き永らえたアカリ、しかし石と離れると事故のダメージが戻ってきて死んでしまう。 「一生このままなのか……」 嘆くアカリに、石は提案を投げかけた。 「ワイに体があれば、蘇生魔法で完全に生き返らせてやれるで!」 ――ただし。 「条件は、死んで48時間以内の外傷の少ないフレッシュな死体であること」 「死体にフレッシュとかあるんかい!」 「もちろんや。腐ってたらゾンビになってまうやないか」 わけも分からず説得されてしまうアカリ。 「そや、もう一つ条件があるんやが……」 かくして黄泉がえりJK琴宮アカリは、厄介な条件付きの“やんごとなき死体”を探すことになってしまったのだった。 ※表紙及び作中で使用しているイメージイラストは、AI生成後に加筆修正して使用しています。 ©2024 猫鰯 All Rights Reserved. 本作はカクヨムにてカクコン10にも参加しています。もしアカウントをお持ちであれば、そちらの方でも応援を頂けるとありがたいですm(__)m

    読了目安時間:3時間57分

    この作品を読む

  • 麻生教授の魔法考古学

    これは今は表舞台から姿を消した神秘の話。

    17

    27.8K

    62


    2024年11月29日更新

    魔法――現代においてフィクションの産物やおとぎ話とされるそれを研究する『裏』の学問、魔法考古学。 日本有数の大企業、星宮グループが運営する『聖応大学(せいおうだいがく)』に入学した化野 樹(あだしの いつき)は美しき大学教授の麻生 真那(あそう まな)と出会い、今は隠され、表舞台から姿を消した神秘の世界へ飛び込んで行く。 これは少し変わり者な教授と、いろいろと頭のネジが吹っ飛んだ特異な大学生が送るファンタジックで少しホラーなキャンパスライフ。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。 ※こちらは短編版「麻生教授の魔法考古学」を基にした長編版となっています。短編版のエピソードも大幅に改稿して載せるかもしれません。ご了承ください。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:21分

    この作品を読む

  • 【一言あらすじ】 愛し合った老夫婦が異世界に転移したが、遺骨だった妻は特別なスライムを使われ うどんが作れるスライムに転生し、廃墟となった街で貧しい人々を助けていく話。 【もう少しあらすじ】 老夫婦はとても愛し合っていたが、婆様が先に旅立ってしまい、耐え切れず爺様も体が弱って遺骨を抱きしめて死んでしまう。 それを見ていた『異世界転移管理課』が哀れで愛に溢れた夫婦を異世界に転移させるが、婆様の方にちょっとしたミスが起きて特別なスライムとして転生してしまう。 爺様はそれでも婆様が生き返ってくれたことを喜び、若返った体も使い、スタンピードが起きて廃墟となって久しい街の更に貧しい貧困区で、孤児たち、そして体を破損した者達に手を差し伸べながら、二人うどんを作って、助けられる者たちは助けて行こうとするのだった。 他サイトでもアップ予定です。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:57分

    この作品を読む