大地から生えたツタによって拘束されたゲルは、もはや抵抗をしなかった。 「こいつが094部隊の隊長か..」 「ロス・ルーラ、貴様、討伐隊に手出しをしてどうなるかわかっているのか? 御三家が黙っていないぞ。そうなればペドゥル国はヴァン国の敵となるぞ」 その言葉を聞いてワイズ・コーグレンが顔を真っ赤にして声を荒げた。 「貴様らこそ、ヴァン国の長である私をこのような目に合わせてただで済むと思っておるのか! ペドゥル国など討ち滅ぼしてくれようぞ!」 「おじいさま、今はそのようなことを言うべき時ではありません。少し黙っていてください」 リジに冷静に窘められるとワイズはバツが悪そうに口を閉じた。 「ゲル隊長、あなたはまだ嘘を言うのか。もうわかっているんだ。あなた達の背後にいるのはカシュー国だ」 「カ、カ、カ、カシュー国だと!!」 ワイズはカシュー国の名がでると驚きを隠せなかった。 「そうか..何もかも知っているという事か」 「ああ、お前たちを動かしていたのはイヴ家ではないだろ。誰だ? お前たちに直接命令をしたのはカシュー国の誰なんだ?」 「俺たちに命令を出したのは—」 『ガルルルル!!』銀狼たちが一斉に威嚇の声をあげた・ その時、ゲルの足首の『牢獄の魔道具』が漆黒の瘴気を放ち始めた。 その瘴気が大きな闇を作るとその中から魔獣が出現した。 「精霊が穢れて化け物になったか!?」 「ロス・ルーラ、そいつはもともと精霊ではない。強い想いに縛られた森にすむ獣だ」 木の葉の陰からアシリアの声がした。 確かにその姿は立派な枝角を生やした巨大な鹿のようでもあった。だが首周りは固いウロコ状の鎧で覆われ、額には一角獣のような鋭い角も生やしていた。その姿はもはや魔獣であった。 —グオォォオ!! 地の底から湧き上がるような雄叫びが大地を震わすと、ゲルを縛り付けていたツルが腐り落ちた。 「リミ、君はあの小鹿のリミなのか?」 —ガッ! ガゥウウウ! 威嚇の声を発すると魔獣は鋭い角をリジ・コーグレンに向け、力強く大地を蹴る。まるで巨大な槍のように凄まじい勢いでリジの胸を貫こうとした。 「やめろ! リミ!!」 ゲルはリジの前に飛び出した。魔獣の鋭い角はゲルの胸を貫いた。 「もう..いいんだ。 ガフッ.. リミ..ごめんよ。 僕はまた君に会え..たんだね」 ゲルは胸元にある魔獣の頭を撫でると、抱いたまま力尽きた。 そしてゲルの身体が白い霧となり魔獣を包み込んだ。 霧が晴れると、そこには1匹の小鹿が立っていた。 小鹿は木々をすり抜け森の中へ消えて行った。 ロスたちはワイズ・コーグレンを救い出すことに成功した。 そして、ワイズの証言により点と点は結びつくのだ。 「おじいさま、決闘裁定で私のチームにデリカとレキを紹介したのは誰なの? きっとその人物がおじいさまの拉致に関わっています」 「私にあいつらを紹介したのはトレンだが.. 馬鹿な、奴は最高裁定人でありハーゲル中央裁定所の責任者だぞ」 リジは酷く困惑すると、ロスの顔を見た。 ロスは薄々気が付いていたことが確信に変わった。 「ワイズさん、俺には全ての筋書きがわかりました。まずはここから離れましょう。この場所は危険です。急いでペドゥル国へ行きましょう」 「なに? 094部隊は御三家のイヴ家の部隊だぞ。それにカシュー国が背後にいるのならペドゥル国など敵の胃の中ではないか! 冗談じゃない!」 「だからこそなんです。ペドゥル国でヴァン国の長であるあなたが生きていることを見せつけるのです。それで敵はあなたの命を狙う事ができなくなります」 「本当だろうな」 「はい。そしてあなたにはある方へ書簡を送っていただきたいのです」 「書簡?」 「詳しくはペドゥル国にてお話いたします」
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