果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて

こんぎつね

読了目安時間:3分

エピソード:12 / 150

【前話までのあらすじ】 花火を合図にいよいよ始まった決闘裁定。ロス、ライス、アシリアはリジのチームの格闘士デリカ、剣士レキ、そしてリジと良い勝負を展開していた。だが、ライスが火炎球をデリカに放つと、奴は禁断の魔道具『牢獄の指輪』で炎を凍らせてしまった。一瞬の隙をつきデリカの剛拳がライスを襲う時、リジが間に入りライスをかばったのだった。 ◇◇◇

11話 天賦の才

 「リジ!」  血を流すリジはライスを見つめ『よかった.. 生きてて』と言うと気を失った。血を流すほどのケガを覆いながらも、リジはどこか安心した表情をしていた。  防具が大きくひしゃげている。こんな凄まじい剛拳の前にライスの為に勇気を出して飛び込んだのだ。  「 ..私の未熟な魔法で迷惑かけて.. それがこじれて、よくわからないことになったけど.... リジ、ありがとう」  ライスはリジをそっと抱いて壁際に寝かせた。涙は出なかった。ただどうしても拳を放ったデリカに聞きたいことがあった。  ロスが放った式紙(しきがみ)がふわりとリジの胸元に貼りついた。  [ —リラ・ハシル— ]  ライスが式紙に浮かぶ呪文を詠唱すると、さわやかな涼しい香りが広がった。それは生命の樹と呼ばれるサイフォージュの木の香りだった。  リジの顔にできたすり傷がスッと治っていく。  [ 私は森の精霊ジル。 ライス・レイシャ、あなたの友達は大丈夫よ。 ]  「ありがとう」  —『友達』そうだ私の友達を傷つけた! ゆるせない!  一方、アシリアはレキの不気味な能力に手をこまねいていた。レキが並みの敵であったなら、リジを地面に縫い付けたままにしておくことができた。リジにあんな無謀な手段を取らせるような真似はさせなかった。  —トカ トカ トカ トカッ とルースの矢が地面に突き刺さる。  アシリアが放つ矢はレキの行く手をなんとか阻んでいた。  「 ほう.. アシリア、貴様、もう気が付いたか。この対応力ただ者ではないな」  レキは目を細め、警戒心を強めた。  「ああ、貴様が見ているのは私の矢ではなく『精霊ルースの姿』。ルースが矢をどこに誘導するかを見ているのだろ?」  「ふふふ。半分正解だ」  「半分? この氷のアシリアを見くびるな。精霊を見ているのはお前じゃないこともわかっている。漆黒の剣だ。そして私はその攻略も知っている」  アシリアはルースの矢を手放し、矢籠から普通の矢を取り出した。  だが、レキは知らなかったのだ。彼女の天賦の才を。その腕前は100m離れた場所の硬貨をも射貫くこともできるのだ。  アシリアが矢を放つ。その瞬間レキは放たれた矢に集中していた。アシリアは続けてレキからは見えにくい角度で天空にもう1本の矢を放っていた。  レキは1本目の矢を避けたが、天から降り落ちる矢には気が付いていなかった。  —ドガッ と重々しい音を立ててレキの足を地面に縫い付けた。  その瞬間にアシリアは唱えた『精霊ルースよ、閉塞の壁を作れ』  アシリアの手には再びルースの矢が現れ、それを天に放った。矢は天空で何百、何千と複製されていく。天から降る矢が幾分ものズレなく、円状に積み重なりレキを筒状の壁に閉じ込めた。  その狭い壁に閉じ込められたレキは腕をあげることすらできない。漆黒の剣を振ることが出来ないのだ。  『終わりだ!レキ』アシリアは目を閉じて、祈りを捧げる。  それは『矢によって断罪を受けた悪者が、光の世界に旅立つことを願う』祈りだった。  ひときわ輝く3本の矢を手に取り、天高く放つ。矢は天から落ちる流れ星のように煌めきの尾をひきながらレキの両肩を貫き、最後に彼の胸を貫いた。  地面にレキの血が流れ出ると、闘技場は勝利したアシリアへ大きな歓声がわいた。  アシリアはそんな観客を冷たい目で一瞥すると、デリカと対峙するライスに注視した。  この先、闘いの中でライスの真価が見られると思っていたからだ。

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