3人は村の人に見送られながらセレイ村を出た。 セレイ湖のほとりを歩いている時、ロスはリジに2つの質問をした。 「リジ君、俺は良くわからないことがあるんだが、いや、別に知らなくてもいいことなのかもしれないのだけど、ちょっと気になってね」 「ははは。前から思っていたんですが、ロスさんって探偵気質ですよね?」 「探偵?」 「そうです。コーグレン家では公にできない事を密かに探偵に頼むことがあるんですよ。つまりは知りたがりです。で、なんでしょう?」 「 ..君は、キースとの自己紹介で『リジ・コーグレン』と途中まで言いかけながら、ぎりぎりでコーグレンの名を伏せたよね。何でだい?」 リジは目を伏せて答えた。 「私は世間知らずで育ってきたけど、コーグレン家が長い年月その権力を維持するために圧政を引いてきたことぐらいは想像できます。そして、今回、私がライスを逮捕させてしまったことで、コーグレン家の横暴さを目の当たりにしたんです。私がコーグレン家と名乗ることでセレイ村に敵意を向けられてしまうことが怖かったんです」 「..そうか。 でも、俺はハーゲルやブレンの街の人々が俺の果樹園の果物を笑顔で食べてくれるのは、コーグレン家のおかげだと思っているよ」 「..そうですか。そう言ってもらえると、ありがたいです」 リジは感情をこめずに礼だけを伝える口ぶりだった。 「じゃ、あともうひとつ、さっき店の中でキースと何を話していたんだい?」 「ああ、あれは私の折れた剣のことです。なぜかキースさんは折れた剣のことに気が付いていたんです」 「ああ、なるほど。それで、キースは直すと言っていただろう」 「はい。何でわかるんですか?」 ロスが何でもいい当てることにリジは少し不満だった。 「奴とは長い付き合いだからな..」 「何でも折れた剣の修復はセレイ村の得意とするところらしくて..」 「ああ、普通は折れた部分を継ぎ足しで修理なんてしないからね。そんなことしたら強度や切れ味がちぐはぐになってしまう扱いづらい剣になってしまう」 「はい、キースさんもそう言ってました。でも、その按排を火の精霊がうまいこと調整してくれるらしいです」 「うん。じゃ、なぜ断ったんだい? 折れてしまった時にはあんなに落ち込んでいたじゃないか」 「剣の精霊には悪いけど、折れた部分だけくっ付けて直すのが何となくずるい気がしました。たぶん折れたのはバグジのせいじゃないんです。あれは、きっとレキの『漆黒の剣』の影響.. 私は自分への戒めとして、この剣が使えなくなるまで使い続けようかと思いました。それが私の覚悟の証明となるように」 「なるほど.. 君の剣はいつか伝説の剣になるかもしれないね」 「はは。そんなわけないですよ。でも.. そうなったらかっこいいですね」 「そうだね。その時は君の剣には新しい名前がついているかもね。興味深いものだ。はははは」 「ねぇ、ねぇ、ロスさん。そういえばアシリアはどうしてるのかな? あんなに綺麗なセレイ村でも全然姿を現さなかったけど」 「何言ってるんだ。姿見せないのはいつものことじゃないか」 「え~、それでもたまには姿見せてくれてもいいじゃん。私、アシリアに会いたいもん」 ほとんどの人は『氷のアシリア』と聞いただけで震えあがるのに、ライスはまったく気にしない。 「まぁな、アシリアにはセレイ村に近づけない理由があるんだ。実はキース・レックにはエルフの血が流れているんだ。あいつがリジの折れた剣に気が付いたのも精霊フゥの声を聞いたんだろう」 リジは驚いた後にキースの神秘的な雰囲気に合点がいったようだった。 「え~、じゃあアシリアもセレイ村に来てもいいじゃん」 「それがな、キース・レックも精霊殺しをするアシリアを良く思っていないんだ。そんなアシリアが村にはいれば火の精霊の加護にも影響が出てしまう。アシリアはそれに気をつかっているんだろう」 「なんだよ。みんなしてアシリアを悪く言うの、ちょっと面白くないな。アシリアはやさしいエルフだよ。私にはわかるんだ。彼女は、どのエルフよりもやさしいんだ」 ライスがそういうと気持ち良い風が頬にあたった。それは少しジャスミンの香りがした。 セレイの森を抜けると、3人は領主国ペドゥルへ急いだ。
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