果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて

こんぎつね

読了目安時間:6分

エピソード:45 / 150

【前話までのあらすじ】 094部隊の施設偵察を終えミミス村を抜け出したロスたち。しかし既に094部隊に察知され部隊長ゲルの罠にはまってしまう。ロスたちは森の道を惑わされ、銀狼の縄張り内に入ってしまった。群れに囲まれたロスたちだったが、銀狼の御頭片耳のラモックは幼き頃のギガウの友であり兄弟であった。

43話 ワイズ・コーグレン救出開始

 094部隊にはリジが『リジ・コーグレン』であることは知られてはいない。それどころかロスたちが銀狼に囲まれたあの状態から助かっているなど思いもよらないだろう。  ロスはワイズ・コーグレンの救出を予定通り翌日に行おうと思っていた。  銀狼たちはライスやリジをフカフカの体ですっぽり包み込むと、ライスとリジを深い眠りへと誘った。  「ロスさん、銀狼たちは嫌がっていません。むしろ私たちを歓迎してくれている。山はもっと冷え込みます。私たちも銀狼に体を借りて眠りましょう」  そう言うとギガウもラモックに包まれて眠りについた。  ―ガウゥ と銀狼がロスの近くに寄り添った。ロスもそのフカフカの中に入り眠りについた。  ・・・・・・  ・・  翌朝、狼たちと別れの抱擁を済ませると銀狼の縄張りを抜けた。  ギガウは時々両手を大地に付けて、敵の精霊の縄張りを警戒しながら道をすすんだ。  094部隊は街道をつぶさに見張っているに違いない。途中から森を奥に進み裏からミミス村に接近することにした。  ミミス村を半分に分けると街道側は094部隊が占領し、森側は村民が暮らしている構図になっている。おそらくは、森側の防御壁にも村民が使用する出入り口があるに違いない。それは094部隊が緊急の時の脱出口にもなっているはず。  4人は手分けして裏の防御壁近くのより鬱蒼とした藪を中心に、その出口を探した。  ロスの読みは当たっていた。リジが背高い草が人の足によって踏み倒されている場所を見つけた。  藪を狩り取ると地面に小さな木の扉が着いていた。扉に縄張りがかかっていないのを確認し、扉を開ける。  「ライス、頼む」  [—ハリュフレシオ—]  小さな灯りが下まで降りていくと、長い梯子の下の先に地下道があるようだった。  ロスたちはその地下道を渡りきると、森の神を祭る社の中にたどりついた。  施設の近くにある備蓄庫に身を隠すと、ワイズ救出作戦を開始した。    昨夜のことから施設には地の精霊使いの縄張りが隙間なく張り巡らされているに違いない。  たとえその縄張りを、ギガウによって上書きしようと、敵に察知される事には変わりはない。  つまり、強行突破しか方法はない。異変を察知した部隊が戻ってくる前に、ワイズを救出し、ギガウが縄張りをはる森を抜け、杣夫の小屋まで逃げきる。素早さが勝敗をわけるだろう。  ギガウが大地に両手をつけ集中する。  「大丈夫です。近くに地の精霊使いの気配はありません」  「よし、では俺の式紙に働いてもらおう」  ロスが一枚の紙を取り出し息を吹きかけると、青緑の炎になり燃え尽きる。それはあらかじめ仕掛けておいた式紙を遠隔召喚する術式だ。  —グガウ ガルル 空気が震えるような威嚇音を発しながら白虎と黒豹が壁門をくぐりぬける。  見張りが弓矢を放とうとすると、身軽に城壁の上に登った黒豹が大きな声で威嚇した。  見張りは、慌てて弓矢を投げ捨て、城壁から逃げだすと警笛を鳴らした。  その知らせを聞くと施設内に残っていた隊員2人が壁門へ向かって走っていく。  「よし、行くぞ!」  ロスたちは施設の1階の馬小屋へ入り、藁をどけて扉を開こうとする。  「ダメだ。鍵がかかっているのか?」  「ちょっと変わってください」  ロスに変わってギガウが両手で扉を握り締める。  「ロスさん、地の精霊の縄張りがかけられています。今、奴らの精霊使いに知られました」  「じゃ、昨夜も私が扉に触れたせいで、奴らに知られたの? ..ごめんなさい」  リジは自分の考えなしの行動が昨夜の追跡に繋がった責任を感じていた。  「いや、リジ君、今は救出に集中しよう。まずはこの扉を開けなくては」  「ロスさん、私が縄張りの上書きをします」  「頼む!」  「—チャカス族、ギガウが願うはこの扉の占拠、精霊フラカよ、縄張りを張れ—」  ギガウの体中のタトゥが赤く光ると扉が真っ赤に閃光した。  「ぐあああ!」  ギガウが両手で観音扉をこじ開けると、引きちぎって投げ飛ばした。    ロスが先頭に下に降りていくと地下は奥へ広がっているようだ。  「だ、誰だ?」  「おじいさま?」  「リ、リジか?」  [—ハリュフレシオ—]  火の球が部屋の壁のロウソクを灯した。  「お、おじいさま!」  ワイズ・コーグレンは藁を敷き詰めた狭い牢屋に閉じ込められていた。  「おお、リジ。もう会えないかと思っていたよ」  「私はおじいさまの為ならどこへだって助けに参ります」  ワイズとリジは手を取り合った。  「お前、ケガはしていないか? な、なんでメイドの服など着ているのだ?」  「大丈夫よ。だって私には仲間がいるから」  「仲間か、この度は礼を—」  ロス、ギガウ、そしてライスの顔を見るとワイズは驚愕した。  「き、貴様はライス・レイシャ! 卑しい犯罪者がなぜここにいる!」  「やめて! おじいさま。ライスは私の仲間だし友達よ。とにかく今は急いでここを出なくちゃ!」  「あ、ああ」  「おじいさま、なるべく隅の方へ行ってください」  [ —聖なる空の剣よ、この鋼鉄を斬って— ]  リジが聖なる剣を握ると鞘の中に空気が集まっているのを感じた。  大きな錠舞に狙いを定めると鞘から一気に圧縮された空気が解放され、その勢いとともに剣が高速で放たれた。—リィィンという音とともに錠舞を2つに割った。  狭い牢に閉じ込められうまく立ち上がれないワイズをギガウが背負った。  ワイズは嫌がっていたが、有無を言っている場合じゃない。  素早く地上に出ると、社の出入り口へと向かった。  白虎と黒豹は隊員たちを威嚇してはうまく立ち回っていた。  「(しばらく任せたぞ..)」  梯子を降り地下道を通り防壁の外へ....脱出成功!?  「ロスさん..」  「ああ、わかった。俺たちは泳がされたな」  この森の気配は昨夜の地の精霊と同じ気配がしていた。  しかも爪でガラスをキキィっと引っ搔くような、嫌な感触がする。  「これは、これはご苦労さん。昨夜はお前らが助かったのは何となくわかっていたよ。あの銀狼をどうやって手懐けたかはわからないがな。でだ、お前らが『何を』目的にしているのか知りたかった」  「『何を』とはなんだ?」  「ああ、その前に自己紹介をしよう。私は094討伐部隊長のゲルだ。お前らの名前は.. 知らんでもいいか。どうせくたばるんだしな」  「じゃ、こっちだってあなたの名前なんか知らなくてもいいよ。あんたなんかすぐに倒しちゃうんだからね」  「ん~、なんか虫が鳴いているなぁ」  ゲルの煽りにライスは顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。  「あいつ、すっごく憎たらしいね、ロスさん」  ロスはそれどころではなかった。それはギガウが今にも暴走しようとしているからだ。  ゲルが使う『牢獄の魔道具』.. この森に漂う嫌な感じは精霊の穢れが始まっているからだ。ギガウは、それに対し、我を忘れんばかりの怒りを覚えているのだ。  「ギガウ、どうか落ち着いてくれ。他の敵も『牢獄の魔道具』を持っているかもしれない。冷静に奴らの攻撃を見極めるんだ」  「あいつら.. 殺してやる!」  ロスは勘違いをしていた。怒りはギガウのものではなく地の精霊フラカのものであったのだ。  「やる気満々と言ったところか。では、始めるとするか」  [ —シュラクタル・チキル— ]  ゲルの左足から白い光が地面を駆け巡るとロスのパーティはバラバラに分断された。

0

この作品が面白かったら「いいね」を押してね!

会員登録をして、さらに応援スタンプ・コメントで作品を応援しよう!

コメント

コメント投稿

スタンプ投稿


このエピソードには、
まだコメントがありません。

同じジャンルの新着・更新作品

もっと見る

  • 先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

    なろうで84万PVの作品の改訂第二版

    1

    0

    0


    2025年1月5日更新

    無限の寿命を持つ、アルク族の先祖返りとして生まれた主人公。 彼には前世と思われるものの知識が存在した。 何もない里の生活に最初はとまどいながらも、だんだんと慣れ親しみ、成長した主人公。 成人した彼は、好奇心から里の外の世界へ向けて出発する。 腰を落ち着けた都市で魔道具職人として生活するも、親方の引退を機に、自分も後進へと席を譲る。 十分な貯蓄を得た主人公は、冒険心から傭兵へと志願する。そこで思わぬ武勲を立ててしまい、小さな村の領主となる。 村を少しでも発展させるために、日夜奮闘を重ねる主人公。 壮大な野望を胸に秘め、長い長い旅路の果てに、たどり着く場所とは───── 本作品は、小説家になろうのサイト等で公開している拙作の先祖返りの町作りに加筆修正を加えたバージョンになります。 同じ内容を、小説家になろうのサイト( https://mypage.syosetu.com/2087748/ ) と、私の自宅サーバー( https://www.kumahachi.xyz/ ) にも掲載しています。

    読了目安時間:25分

    この作品を読む

  • 超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~

    異世界でも僕は友達ができない(泣)

    0

    2.5K

    0


    2025年1月5日更新

    友達がいなければ、頼れる相棒もいない。そんなぼっちな主人公が転生したのは、妙に現実的な異世界。 異世界でも友達ができなくたっていいじゃないか人間だもの。という言葉を胸に今日も彼は孤独に生きるのであった。 なお、このあらすじの4割ぐらいは嘘だし、主人公は信頼できない語り手であるとする。

    • 暴力描写あり

    読了目安時間:40分

    この作品を読む

  • ほら、復讐者

    「あの女に必ず復讐してみせる」

    1

    500

    0


    2025年1月5日更新

    「私の復讐を手伝ってくれない?」 個人でひっそりと便利屋をしているキリンは、店の常連であるカルミアから復讐の手伝いを依頼された。 カルミアに対して密かに想いを寄せるキリンは依頼を受け、彼女のために奔走する。 「あの女に必ず復讐してみせる」 果たして彼らは無事、復讐を遂げたのか…… ※気まぐれに更新します。 ※プロローグは、もどかしいかもしれませんが投稿された順番通りに読んでいただけると幸いです。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ツギクル、pixivでも掲載しています。

    読了目安時間:2時間35分

    この作品を読む

  • 「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

    勝手に世界最強に⁉その時景色が変わった

    157

    70.1K

    1


    2025年1月5日更新

    異世界転生、レベルアップ無双……だけど、何かモヤモヤする? ゲーム三昧の末に死んでしまった俺、元・就活失敗フリーターは、女神様(元・サークルの美人先輩!)のお陰で異世界転生。 しかし、もらったジョブはなんと【商人】!? しかし俺はくじけない! ゲームの知識を駆使して、ついに寝てるだけでレベルアップするチート野郎に! 最強の力を手にした俺は、可愛い奴隷(元・魔物)を従え、お気楽無双ライフを満喫! 「よっしゃ、これで異世界ハーレムつくるぞー!」 …なんて思ってたんだけど。 ある日、街の英雄「勇者」のせいで、大切な人が窮地に陥ってしまう。 「まさか、あいつ…そんな奴だったなんて…」 街の人気者「勇者」の正体は、実は最低最悪のクズ男だったのだ! 怒りに震える俺は、勇者を倒すことを決意する。 迎えた武闘会の舞台、最強の力を持つ俺は、勇者を瞬殺! ざまぁみろ! これで一件落着。 ――――のはずだった。 勇者を倒した時、俺の心に生まれたのは達成感ではなく、言いようのない違和感だった。 「あれ? そもそも異世界ってなんなんだ?」 「魔法の仕組みって…?」 最強になった俺を待っていたのは、世界の真実に迫る、更なる冒険と戦いだった――――。 これは、最強だけどちょっとポンコツな主人公が、大切な仲間と共に、世界の謎を解き明かす、爽快異世界ファンタジー!

    読了目安時間:9時間54分

    この作品を読む

読者のおすすめ作品

もっと見る

  • 雪夜の螢

    雪夜の螢は輝くことなく消えていく

    50

    72.5K

    102


    2025年1月4日更新

    【歴史伝奇小説】 雪夜に生まれた螢は輝くことなく消えていく。 消された春宮(はるのみや)、謀叛人の次男、凄腕の陰陽師……三人の出会いが運命を変えていく。 平安時代に歴史から消された春宮がいた。 春宮の母は美しく穏やかな女性ではあったが、実家の官位は低く後ろ盾はなかった。夫である天皇は静子を心から愛し慈しんでいた。だが、それを喜ばない者たちがいた。 やがて、静子は男児を出産した。その子は虚弱体質ではあったものの健やかに成長していく。十歳になる頃には母親に優しげな雰囲気を纏うようになった。 春宮が十二歳になるころ、悲劇が起こる。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:27分

    この作品を読む

  • 【完結しました!!】琴宮アカリは黄泉がえりたい。~ゾンビなJKと異世界逃亡者のやんごとなき死体探し冒険譚。幼馴染を守るのは熱血乙女のたしなみです!~

    死にかけたりもしたけれど、私はげんきです

    234

    273.3K

    1.4K


    2025年1月4日更新

    花も恥じらう女子高生・琴宮アカリは、子犬を助けようとしてトラックにひかれてしまった。 血は噴き出て肋骨は飛び出し足はぐちゃぐちゃ。 更には大股開いてパンツ丸見え。 『あまりに情けない恰好。でもまあ、辞世の句も読んだし、あとはお迎えを待つだけだ』 そんな諦めの境地にいたアカリだったが、いつまでたっても死は訪れなかった。 ――それどころか、身体が全回復している!? これというのも全て、手の中にある丸い石が原因だった。 「嬢ちゃんはワイの魔力の影響で、死んだか死んでないかわからんくらいのギリで助かったんや」 と、エセ関西弁でしゃべる石。 なんとか仮の命で生き永らえたアカリ、しかし石と離れると事故のダメージが戻ってきて死んでしまう。 「一生このままなのか……」 嘆くアカリに、石は提案を投げかけた。 「ワイに体があれば、蘇生魔法で完全に生き返らせてやれるで!」 ――ただし。 「条件は、死んで48時間以内の外傷の少ないフレッシュな死体であること」 「死体にフレッシュとかあるんかい!」 「もちろんや。腐ってたらゾンビになってまうやないか」 わけも分からず説得されてしまうアカリ。 「そや、もう一つ条件があるんやが……」 かくして黄泉がえりJK琴宮アカリは、厄介な条件付きの“やんごとなき死体”を探すことになってしまったのだった。 ※表紙及び作中で使用しているイメージイラストは、AI生成後に加筆修正して使用しています。 ©2024 猫鰯 All Rights Reserved. 本作はカクヨムにてカクコン10にも参加しています。もしアカウントをお持ちであれば、そちらの方でも応援を頂けるとありがたいですm(__)m

    読了目安時間:3時間57分

    この作品を読む

  • 【一言あらすじ】 愛し合った老夫婦が異世界に転移したが、遺骨だった妻は特別なスライムを使われ うどんが作れるスライムに転生し、廃墟となった街で貧しい人々を助けていく話。 【もう少しあらすじ】 老夫婦はとても愛し合っていたが、婆様が先に旅立ってしまい、耐え切れず爺様も体が弱って遺骨を抱きしめて死んでしまう。 それを見ていた『異世界転移管理課』が哀れで愛に溢れた夫婦を異世界に転移させるが、婆様の方にちょっとしたミスが起きて特別なスライムとして転生してしまう。 爺様はそれでも婆様が生き返ってくれたことを喜び、若返った体も使い、スタンピードが起きて廃墟となって久しい街の更に貧しい貧困区で、孤児たち、そして体を破損した者達に手を差し伸べながら、二人うどんを作って、助けられる者たちは助けて行こうとするのだった。 他サイトでもアップ予定です。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり

    読了目安時間:57分

    この作品を読む

  • 麻生教授の魔法考古学

    これは今は表舞台から姿を消した神秘の話。

    17

    27.8K

    62


    2024年11月29日更新

    魔法――現代においてフィクションの産物やおとぎ話とされるそれを研究する『裏』の学問、魔法考古学。 日本有数の大企業、星宮グループが運営する『聖応大学(せいおうだいがく)』に入学した化野 樹(あだしの いつき)は美しき大学教授の麻生 真那(あそう まな)と出会い、今は隠され、表舞台から姿を消した神秘の世界へ飛び込んで行く。 これは少し変わり者な教授と、いろいろと頭のネジが吹っ飛んだ特異な大学生が送るファンタジックで少しホラーなキャンパスライフ。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。 ※こちらは短編版「麻生教授の魔法考古学」を基にした長編版となっています。短編版のエピソードも大幅に改稿して載せるかもしれません。ご了承ください。

    • 残酷描写あり
    • 暴力描写あり
    • 性的表現あり

    読了目安時間:21分

    この作品を読む