リジとライスは果樹園に続く森の道を走っていた。その途中で木々は薙ぎ倒され、道は無くなっていた。
二人は馬を降り、手綱を引いて歩くことにした。
「ここは..」
「え? なに?」
ライスが何かを呟いたのでリジは聞き返した。
「ここはね、私とロスさんが初めて出会った場所だったんだ。もうめちゃくちゃで何もないけど」
ライスの胸に手の平をあてリジは言った。
「何もなくないじゃない、ライス。あとでここもしっかり元に戻すんだ。私たちの手で」
「うん」
『ロスのすごい果樹園』は徹底的に破壊されていた。遠くまで見渡せる高い塔も家も全て木片と化していた。
「ライス、ここからは気を引き締めるんだ。もしかしたらあの『闇の従者』の仲間がいるかもしれない。私たちの目的は祠の中の本を回収する事。奴らがいても隠れて闘いをさけるんだ。いい?」
「うん」
リジは心配だった。魔獣や『闇の従者』を見た瞬間にライスが暴走してしまうのではないのかと。この果樹園の破壊。そしてロスが禁じていた魔法を使わなければならなかったほどの敵。もしもそれ以上の強敵と遭遇したら、勝ち目はない。
なるべく身を隠すことが出来る岩や転がる木に沿って歩いた。
山を周り込み少し下り坂に差し掛かる場所で、2人は異様な光景を目にしていた。周りの果樹園は破壊されるだけ破壊されたにもかかわらず、そこの林から山にかけては線を引いたように木が倒れていないのだ。
「リジ.. これは..」
「魔法使いのあなたならわかるはずでしょ」
「うん、結界だ」
2人がひとめ見ただけで気が付くほど、不自然な光景。『闇の従者』が見逃しているということは、何かの術が施されているのだ。
「リジ、これを見て」
「木の幹に式紙が張られていた」
ライスがその式紙に触れると、強い輝きの中から白銀の長い髪を持つ女性が現れた。その女性は大人の美貌を兼ね備えていたが、首をコキコキとならし、どこかその容姿に行動が釣り合っていないようだった。
「あ、あなたは?」
「まずは人に名前を尋ねる前に自分の名を名乗るものだ」
「私は、ライス。この子はリジ」
「..そうか。私がここにいるという事は、リベイルは逝ったのか? あいつは弱いからな」
その言葉に一瞬でライスの顔が紅潮した。
「なっ、ロスさんは弱くなんかない!」
「ライス、落ち着いて」
「ロスか。そう名乗っていたのか。私の名はルシャラだ。ライス、お前、魔法使いだな。私はお前を鍛えるための存在だ。だから、これからは私を先生と呼ぶんだ」
ライスは驚きと憤慨で気が付いていなかったが、確かにルシャラの服は魔法使い仕様のタイトなドレスを着ていた。スカートは腿までスリットを入れている。あまりにもセクシーだ。
まだ興奮しているライスにかわって、リジがルシャラと話をした。
「あ、あの私はリジ・コーグレン。私たちはこの先にある祠に本を取りに来たの。まずはその用事を済ませたいのだけれど」
「ああ、かまわないぞ。誰も引き留めてなどしていないだろ?」
「あ、はい」
リジは拍子抜けした。てっきり『ダメだ。今すぐ特訓だ』と言うものだと思っていた。そしてリジはひとつだけどうしても気になることを聞いてみた。
「あのぉ、ルシャラさんは..式紙なんですか?」
「..そうか。そうだったな。私は式紙だったな」
「??」
よくわからない回答だった。
「まぁ、その前に、空に鬱陶しい奴がいる。あいつをまず排除しよう」
見上げると羽を広げた嘴と猛禽類の鋭い脚を持つ魔獣人が飛んでいた。明らかに偵察をしているようだった。
ルシャラが懐から式紙を空に投げると一直線に天空まで上がっていく。そして小さな影が勢いよく降下してきた。段々と大きくなる影。魔獣人が異変に気が付き、上を見た時には、もう手遅れだった。巨大なミミズクは、大きな足で魔獣人を掴むとそのまま地上に着地した。
落下の衝撃とミミズクの全体重が乗り魔獣人は圧死した。そのあとはミミズクの嘴で.. とても見てはいられない光景だ。
「こいつは式紙のタマちゃんだ。さっ、おまえらの用事を済ますのだ」
リジには式紙のスケールが、ロス以上に感じられた。
「ライス、行こう」
「うん」
リジはライスの腕を掴むと林の奥へと進んだ。そして祠の奥にある洞窟へ入った。
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