カリーニャが戻ってくるまでに銃の整備が終わっていて、本当に良かった。そうでなければ、あれやこれやと質問攻めにあって作業にならなかっただろう。その上、ソニアの秘密の存在に気付くことも無いままだったかも知れない。
ソニアの武器庫は霧のように消え去り、再び宿の部屋が目の前に広がる。カリーニャが円卓の椅子に座ったので、僕とソニアもつられて腰掛けた。
「マーサって、すっごくいいお姉さんだよ! 優しいし、物知りだし、おっぱいも大きいし!」
「物知りって言うのは疑問だな。彼女の常識はかなり疑わしいからね」
『それは同感だわ。この世界の常識にはアタシの方が疎いはずなのに、中佐の方が怪しいんだもの。もしかすると、あの人の方こそ異世界人なのかもね』
「そんなこと言いながら、マーサと一緒に旅ができて、実はノエルも嬉しいんでしょ? 今も、あの大きなおっぱいが頭から離れないんじゃないの?」
相変わらずカリーニャが妙なことを言う。相手をすれば、余計に変なことを言い出しかねないので、放っておくことにしよう。
「でもマーサがいれば、官憲や役人に対して融通が利くかも知れないね。いちゃもんを付けられることも無さそうだし」
『確かにそれは言えるわね。まあせいぜい、帝国軍人の身分を利用させて貰いましょう』
「あれ、マーサに頭が上がらないはずなのに、結構酷いことを言うね」
『別に酷くなんてないわよ。あくまでもアタシは、中佐の階級を敬っているだけであって、あの人に傅いているわけじゃないもの。他国軍の上級士官に対する態度以外の何ものでもないわよ』
「そのわりには、結構マーサのことを気に入っているみたいじゃないか」
『まあ、中佐が悪人じゃないことはよく分かったしね。それに、軍の情報源としても使えそうじゃない? 付き合っていて、損はないかも』
「マーサはいい人だよー。楽しいお話ししてくれるし。それに、おっぱいも大きいしね!」
『いい加減にしてっ! さっきから、おっぱい、おっぱいってうるさいのよっ! そんなに乳が重要か!? 胸が女の価値なんか!? 胸なんかなぁ、胸なんか……。うぅぅぅ……』
「急にどうしたの? ソニアさん。もしかして、自分の大きいおっぱいが嫌いなの? ダメだよ、自分に自信を持たなきゃ! 大きいおっぱいには、その分素敵な未来がいっぱい詰まっているんだから!」
「カリーニャ、あのさ。まあその辺で勘弁してやってよ」
「なぁに? わたしはソニアさんを責めているんじゃないよ。わたしはソニアさんの味方。だから、いつでも相談に乗るよ」
『ファック! あのクソハゲ陸軍中将め!! アイツさえ余計なことを言わなかったら、今頃アタシは……。ウゥゥゥゥ……』
胸の大きさを嘆くソニアは放っておいて、僕は席を立つと寝床の準備を始めた。どうせ彼女のことだ。すぐに気持ちを切り替えて、嘆いたことなど忘れてしまうことだろう。
『まあいいわ。いずれセキュリティコードを書き換えて、コスプレだけじゃなく身体も替えてやるんだから! 今に見てなさい!』
ほら、もう機嫌が直ってる。でもそこが、ソニアのいいところなんだよな。
「ふう、それにしても疲れた一日だったな。まあ、いつも疲れているけどね」
「ほんと、疲れたよねー。ゆっくり寝たいよねー」
『あんた、お風呂まで入っといて、何に疲れるって言うのよ』
「えへへ、そういえばそうだね。そうだ、もう一度入ろうかな、お風呂」
『ホントにこの娘ったら。まあ、あんたらしくていいけどね。でも、さすがにもう冷めてるんじゃないの』
「冗談よ、冗談。でもまだこのお湯、少し温いよ。ノエル、お風呂入って汗を流したら?」
湯桶の側に歩み寄って中に手を入れながら、僕の方を振り向くカリーニャ。それもそうだな、今日は汗もかいたし、砂まみれにもなったしな。水風呂であっても入りたい気分だ。あれ、よく考えるとゲルタッシュでも風呂に入りそびれたし、いったい何日間風呂に入っていないんだろう。
僕は風呂に入るため、ヘルメットを脱いで円卓の上に置く。続いてブーツと両足裏の傷口に張り付けている、ゴワゴワとした薬草葉を剥がす。薬草葉に込められているという魔力のせいか、痛みは大分マシにはなってはいるものの、湯に浸かればしみそうだ。とはいえ、入浴の誘惑を妨げるほどの痛みではないだろう。
「じゃあ、遠慮無くお風呂に入らせてもらおうかな」
「どうぞどうぞ」
「……。あの、カリーニャさん? 僕お風呂に入りたいんだけど……」
「どうぞどうぞ」
「裸になりたいんですけど」
「どうぞどうぞ」
「なんでそんなに凝視するのかな、僕のこと」
「気にしないで、どうぞどうぞ」
くそっ、こいつ僕の裸を見たくて仕方が無いらしい。マーサが全裸になったときのような爛々とした目で、エルフは僕の方を見つめている。心なしか、鼻の穴が大きく開いているようにも見える。なのにソニアは、一言も喋らない。昼はあれだけ僕を怒ったくせに、僕は見られてもいいって事なのか。それとも、胸の件をまだ引きずっているのだろうか。
ようし、こうなったらしっかり見せてやろうじゃないか! とことん見せつけてやることにする。嫌だと言っても無理矢理に。そう思いながら湯桶に近づき、おもむろにズボンを下ろそうとしたとき、湯桶の中の違和感に気付いた。
「……。なんだこれ」
コメント投稿
スタンプ投稿
うさみしん
1,000pt 100pt 2023年10月6日 1時00分
とんでもない状況で男気を見せつけようとするノエルであります! そこで気になるのは湯おけの中の違和感。いったい何があったのでしょうか。ここぞという時に気になりますぞ押忍!
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
うさみしん
2023年10月6日 1時00分
乃木重獏久
2023年10月7日 0時03分
いつも応援下さいまして、ありがとうございます。見せつけようと思ったら、風呂桶に異変が。まあ、大した異変では無いのでご安心を。大家族で一番最後にお風呂に入れば、誰もが経験することですから。レベルは相当違うようですが。今後ともよろしくお願いいたします。
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
乃木重獏久
2023年10月7日 0時03分
羽山一明
1,000pt 100pt 2021年12月31日 2時24分
嗚呼、ソニアとカリーニャのイメージがどんどん(いい意味で)崩壊していく。エルフゆえの好奇心なのか、そういうお年頃なのか……そういえば、マーサが乱心したときも楽しそうでしたね。ソニアも泣かないで。どんな君でも好きだ、みたいな言い回しで、ノエルがちょいちょい惚気けてるから泣かないで。
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
羽山一明
2021年12月31日 2時24分
乃木重獏久
2021年12月31日 20時52分
ソニアは、デザインから性的魅力を取り除くよう求めた陸軍中将を恨んでいるようです。そもそも中将は、戦闘支援システムにキャラなど不要。AI支援は、文字のみで事足りると主張していたので、下手をすればソニアは存在していなかったかも知れません。この辺の所は、外伝か何かで書いてみたいですね。
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
乃木重獏久
2021年12月31日 20時52分
長月 鳥
500pt 50pt 2021年1月27日 7時41分
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
長月 鳥
2021年1月27日 7時41分
乃木重獏久
2021年1月27日 20時47分
いつもありがとうございます! ストーリーの歩みは遅いですが、着実に進めて参りますので、今後ともお付き合い下されば幸いです!
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
乃木重獏久
2021年1月27日 20時47分
特攻君
50pt 10pt 2022年4月12日 14時10分
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
特攻君
2022年4月12日 14時10分
乃木重獏久
2022年4月13日 0時08分
いつも応援下さいまして、ありがとうございます! ノエル達の物語を好きだと言って下さり、とても光栄です! おかげさまで頑張れます。この先もお楽しみいただけましたら幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
乃木重獏久
2022年4月13日 0時08分
dobby boy
500pt 1pt 2022年6月14日 21時56分
カリーニャは、旅を通じて性格が明るくなった気がします。元々の部分があるかもしれないですが、故郷では心配事が多かったせいかふさぎこみがちだった記憶があります。
※ 注意!このコメントには
ネタバレが含まれています
タップして表示
dobby boy
2022年6月14日 21時56分
乃木重獏久
2022年6月15日 23時48分
いつも応援下さいまして、ありがとうございます! カリーニャは元気を取り戻しました! ノエルにも心を開きすぎて、結構暴走気味ですが(笑) きっと、これからの旅のムードメーカーになってくれることでしょう。この先もお楽しみいただけましたら幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
※ 注意!この返信には
ネタバレが含まれています
タップして表示
乃木重獏久
2022年6月15日 23時48分
すべてのコメントを見る(18件)