一日目、AM10:51。 背後から爆音が迫ってくる。 つまりは、遥がもうすぐそこまで来ている、ということだな。 と、馬酔木恭介は、そう判断する。 恭介は、殲滅戦を指向した遥とは違い、小型モンスターのことは無視していた。 結界術レベル1程度のバリヤーを突破できないくらいのモンスターならば、無理して倒してもたいしたポイントにはならない。 かといって、倒すべき努力を怠っていてた、ということでもないのだが。 現在、恭介はグレネードランチャーなる装備を多用していた。 使い勝手のいい武器を探してシステムのマーケット情報を見回ったとき、たまたま目についたからだ。 結構重たく、総点数は六発と少ない。 それに、一発撃つごとに手動でシリンダーを操作しなければいけないし、再装填も、全部自分の手でやる必要がある。 なかなかに手間がかかり、鈍重というかお世辞にもスマートとはいえない武器だったが、現在のような状況ではかなり有用でもあった。 このグレネードランチャーは、要するに手榴弾みたいな榴弾を発射する仕組みだ。 引き金を引くと、発射された弾丸の軌道が肉眼で目視出来るほどの低初速。 放物線を描いて、空中で爆発して破片をばら撒く。 回転弾倉すべて、六発分を撃ち尽くせば、たいていのモンスターは消え失せていた。 つまり、今までは。 ということだが。 「なんだか、しぶとい大型のが増えてきているなあ」 恭介は、ひとりごちる。 グレネードランチャー六発斉射を耐えきるほどタフなモンスターに対して、恭介はアサルトライフルの連射で対応していた。 取り回しがしやすく、口径が小さいかわり連射性能に優れ、弾倉の交換も容易。 あらかじめグレネードランチャーの洗礼を浴びせていることもあって、さらにアサルトライフルの斉射まで受けて生き残るモンスターは、今のところ、出現していない。 銃器を操作しながら、恭介は横目でマップを確認する。 恭介の現在地は、円形の町の中心部にほど近い。 この中心部の広場から、モンスターが沸いている感じかな。 恭介は、そんな風に予測した。 最初は小型から。 時間が経つにつれて、大型で、タフなモンスターが沸くようになっている。 そして、その中心部にほど近い場所に居る恭介は、無限湧きモンスターの最前線で戦っている。 ということになる。 マップで確認すると、他のプレイヤーたちはどうやら、中心部から町の外側へ方面へと移動しつつあるようだった。 倒しにくいモンスターを相手にするよりも、数だけは多くて倒しやすいモンスターでポイントを稼ぐ方が、容易ではあった。 つまりは、町の外部へと移動している他のプレイヤーたちは、相応に合理的に動いている、ともいえた。 「この黄色いのが、彼方の落とし穴か」 黄色い部分は、恭介が居る大通りの左右、かなり広い範囲に及んでいる。 左右からモンスターに挟撃される、ということは、どうやらなさそうだった。 相変わらずやることがえげつねえな、あいつ。 恭介は、そう思わずにはいられなかった。 落とし穴を示す黄色う部分は、この町の通路、四分の一近くを占めているのではないか。 モンスターを示すマップ上の赤い光点は、落とし穴の部分に到達した途端に消えている。 一度設置してしまえば確実に仕留め、そこから出ることはかなわない落とし穴に、モンスターの方が勝手に殺到している形だった。 トランデントというパーティが獲得しているポイントも、その半分以上は彼方一人の働きによるものだろう。 「おっと、これは」 恭介は前方に姿を現したモンスターをみて、のんびりとした口調で呟いた。 まだ距離があったが、そこに姿を現したモンスターは、強いていうなら超大型。 「バスか、10トントラックくらいはあるんじゃね?」 それくらい、大きかった。 一応、グレネードランチャー、アサルトライフルの斉射を試してみたが、ダメージを受けている様子はなく、それまでと同じ歩調でこちらに進んでくる。 恭介はまず結界術のレベルを5まであげ、ついで、回復術のスキルも取得し、これもすぐにレベル5まであげた。 次いで、マーケットの画面を開いて、なにか有用な武器はないかと検索をかける。 「貫通力と破壊力重視、っていうと」 これになるのかなあ。 半信半疑で、恭介はマーケットからアンチマテリアルライフルを購入し、取り出した。 銃身はちょうだいで、手で持つとずしりと重い。 恭介は、一高校生だった。 いうまでもなく、射撃訓練を受けたおぼえもないし、間違ってもプロフェッショナルではない。 これまで、いくつかの銃器を扱ってはいたが、それも精密射撃とかを必要としない使用法だった。 まずは、徹甲弾ってやつかな。 そんなことを思いつつ、マーケット経由で弾丸を購入。 取り出した弾丸を、アンチマテリアルライフルに装填する。 これまで扱ってきた弾丸と比較すると、長くて重い。 次に、恭介は、ジョブ変更の画面を開き、ざっと見渡してから、「狩人」のジョブを取る。 現在恭介が変更可能なジョブの中で、このジョブだけが狙撃スキルを取得可能であったからだ。 自身のジョブをノービスから狩人に変え、狙撃のスキルをレベル5まであげる。 「準備OK、かな」 いいつつ、恭介はずしりと重いアンチマテリアルライフルを構える。 それはいいが。 「銃口が、震えている」 やはり、素人が手を出す代物ではなかったか。 そう思わないでもなかったが、かといって、このままなにもせずに引き揚げる手もなかった。 やるだけやってみるさ。 そう思い、恭介は引き金を引く。 「おわっ!」 想像していたよりもずっと大きな反動が来て、アンチマテリアルライフルの銃身が大きく跳ねあがった。 当然、発射した弾丸はあさっての方向に飛んで行き、モンスターにはかすりもしていない。 「ってぇー」 恭介は、呟く。 ストックを当てていた肩の部分が、ひどく痛んだ。 おそらくは、打ち身。 その程度で済んでよかった、ということでもある。 痣になっているかも知れない。 構えが、安定していないからだな。 恭介は一人で、そう判断する。 まあ、いい。 続けよう。 再び恭介は、アンチマテリアルライフルを構える。 超大型モンスターは、正面、つまり恭介の方に向けて、大きく口を開いていた。 彼我の距離は、まだ五十メートル以上ある。 なにごと? モンスターの意図を疑問に思いつつ、恭介は再度、引き金を引く。 ストックを押しあてている肩の部分に、馬にでも蹴られたかのような大きな衝撃。 かろうじて銃身が跳ねるのを押さえつけることに成功したのか、モンスターの口の中に着弾。 超大型モンスターは、大きく首をのけぞらせた。 と、同時に、上を向いた口から長大な火炎が伸びる。 ……あ、あっぶねえ。 ブレス、だよなあ、あれ。 もしも口の中に着弾していなかったら、あの炎はこちらまで届いたかも知れない。
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