編曲権の話とか、懲りずにJASRACさんに聞いたんだよ
お世話になっております
おかげさまで前回記事たくさんお読みいただけてとても嬉しいです!ありがとうございました。
で、今回は続編というか、また付随する別の問題についてJASRACさんに伺ってみたのでシェアしますね!
(記事の全文無料公開にともない、内容を一部変更しました)
※
私はJASRACでもなければただの専業主婦なので、ご質問はJASRACさんへお願いします&謎のクレームもご勘弁ください
私はこのnoteに書いてある以上のことはわかりません\(^o^)/
(記事の誤りのご指摘は大歓迎です!)
「編曲」ってなんなん
前回Twitterでのカバー動画と著作権について書いた記事では「カバーとはなんたるや」について定義せず進めてしまい文中で触れなかったのですが、そういうえばカバーにも色々あるかと思います。
たとえばもとの作品に忠実な演奏(コピーと言うのが適切なのかな)もあれば、元の作品(発表されている音源)にアレンジを加えた演奏もあるかと思います。そのアレンジも、同じジャンル・同じ形態で演奏することもあれば、バンド曲をEDMにアレンジするなどジャンルを超えたアレンジも世の中には多数存在するかと思います。
で、私はその「アレンジ」「編曲」について、その言葉は一体何をさすのか、我々が普段使っている「編曲」という言葉と、著作権法上の「編曲」は同じ意味なのかがいまいちよくわかっていなかったので、ツイッターで教えていただいたりまたJASRACさんに伺ってみたりしてそれらの疑問を解決してみました!
「編曲」への疑問を解消する必要性
まず、なぜ私がこの編曲ってなんだろという疑問を解消したかったかというと、
前回の記事で触れた「楽曲の使用」についての許諾は、その曲を原曲に忠実に演奏することに対する許諾であって、「編曲してもいいよ〜」という許諾は含まれていないと知ったからです。これ結構衝撃事実。
編曲・訳詞・替歌等を行って配信する場合
著作者・著作権者の許可なく編曲・訳詞・替歌など、作品を改変する行為は、著作者人格権(同一性保持権)および翻案権等の侵害となるおそれがありますのでご注意ください。
また、著作者の名誉・声望等を害するような方法で著作物を利用することも、著作者人格権の侵害行為とみなされますので、あわせてご注意ください。
「申込前のご注意(非商用配信)」
https://www.jasrac.or.jp/info/network/nbusiness/caution.html より引用
この文中にある「同一性保持権」について。
同一性保持権(著作権法第20条1項)
著作者人格権のひとつで、著作物の内容および題号(タイトル)の同一性を保持する権利をいいます。この権利は、著作者のみに専属(一身専属)するため(同法第59条)、編曲、替歌、詞の翻訳など作品を改変して利用する場合、JASRACの管理作品であっても、作曲者や作詞者など原著作者の同意が必要になります。
この同意については、音楽出版者を通じて確認するのが通例となっています。まず作品データベース「J-WID」でご利用になる作品の権利者をお調べのうえ、直接音楽出版者にご確認ください。
「同一性保持権」
https://www.jasrac.or.jp/info/20-1.html より引用
つまり同一性保持権とは、自分が作った著作物を勝手に変えないでね、っていう権利を守る法律です。
めっちゃ泣けるバラードなのにすっごいくだらない替え歌にされちゃったりすることによって、元の楽曲の品位が損なわれたりとか著作者の名誉が傷ついたりとかすることを防ごうね、というかんじ。
ちなみにこの「同一性保持権」は「著作者人格権」という権利のなかの一つで、この著作者人格権は著作者だけが持つことのできる権利(一身専属と言うそうな)であり、他人に譲渡できない権利なのです。
そう、すなわちJASRACの管轄外なのであります。したがってJASRACはこの著作者人格権に関わるあれこれを許諾する権利を持つことができません。
ただ、実務上では音楽出版社が人格権まわりを管理して窓口となってくれるため、許諾を得るためにアーティストのLINEを突き止めて直接「カバーしていい?」って連絡入れるようなことはしません。
そういったわけで、著作権法上「編曲・訳詞・替歌などをする場合は著作者さんに許可を取りましょうね」という風に定められていることを知ったのだけれども、条文いろいろ漁ってみるも「編曲」が何をさすのかいまいち不明確でよくわからないままでした。
著作権法上の「編曲」は私たちの言う「編曲」とわりと同義
私たち音楽を作る人たちは普段、ことポップスにおいては作曲=メロディー部分、編曲=オケ部分、という解釈をしていると思います。
ただ、著作権法上においての「編曲」はどいういうことを指すのだろうというのが私にはちょっとよくわかりませんでした。
なんとなくだけど、JASRACのデータベースで検索するとポップスの作詞と作曲はJASRACで著作権管理されているけど編曲の項目を管理されているような曲が見受けられないのと、業界でも「編曲は買い取り」っていう話を聞いたりするので、
著作権法上の「編曲」っていうのは我々の言う編曲すなわち「アレンジ」「オケ」は含まずに【メロディー】や【構成の改変】について指してるんじゃないのかなって勝手に勘違いをしてもおりました。
が、JASRACさんにお尋ねしたところ、著作権法上の「編曲」とは我々のいう編曲つまり「アレンジ」やら「オケ」と同義と考えて差し支えないようでした!!
つまりはアレンジを変えてカバーするには著作権者の許諾が必要ということ。
一気に色々なハードルが高くなったぞ………。
とはいえ実際、世の中でカバーをしているアマチュアのどれだけが編曲の許諾を得ているかというと…得てないっぽいよね。そりゃ知らない方が大半だと思うもの。
そして編曲許諾を取っていないアマチュアめがけていきなり「侵害だ!逮捕!賠償!!」というような騒ぎが起こることもほぼほぼほぼ0に近いと思います。
また、リスペクトのあるカバーに対してはそもそもアーティスト本人が好意的である場合もあります。
ただ!!それは実は「3キロオーバーだからまあバレないよね」みたいな使用者側の感覚であって、見逃してもらっちゃってるだけだったりもします。
つまりアーティストのご厚意によって成り立ってるものだってことをちゃんと自覚することは大前提だと思います。
そもそも著作権等を侵害する行為そのものは刑事罰の対象だからね。(一部を除き親告罪です)
私のスタンスとしては無責任に「慣習だから大丈夫だよ」とは言えないし、やっぱり筋は通したいなって思うかな。
そんなこんなで、ちなみにこんなアマチュアがいちいち出版社に許諾取ることがかえってご迷惑になったりしませんかねえという世間話をJASRACの方にしてみましたが、
「あなた様の、楽曲や権利者様に対するリスペクトを担保する意味でも、リスクマネジメントの意味でも、許諾にチャレンジすることは意味のあること」
とおっしゃっていました。
文章で説明するのはとっても難しいのですが、権利者さんに対するリスペクトの気持ちをどれだけ持って作ったカバーであっても、権利者さんが「アレンジされては困る」と言う風になればそれはアウトなわけです。
そうなると権利者さんサイドも意に沿わない編曲がされて残念、カバーした側もせっかく作ったのに残念。残念で済めばいいけど賠償などが発生したら大変なことになります。
そんなケースは本当に稀で、私も別に脅すつもりも全然ないのですが、音楽をやっている身ならばとにかく現在のわりと自由なシーンは権利者さんのご厚意の元に成り立っていることを自覚すべきだなって思うのと、本来ならば許諾を取る必要があることだってことを知る必要はあるのかなって思いました。
で、そのリスペクトの形を許諾という形でも示していくのが本来なのかなあと思うわけです。
ちなみに、商業の世界であってもこの編曲権の許諾をしっかり取得していなかったために、編曲がなされた収録曲に対して権利者さんからストップがかかりCDが回収になったケースがあることも教えてもらいました。
発売中止や回収ともなると予算も回収できないし大打撃です。
インディーズであっても「JASRACで使用許諾は得たしお金払ったし」と思ってカバー楽曲をリリースした結果思わぬトラブルが起きる可能性もゼロではないのよなとちょっと思ってみたり。
ただこれは権利者さんを守る法律であって、我々使用者をいじめる法律ではないわけだから、そう考えると自ずと立ち振る舞いも変わってくるのかなと思います。
とりあえず、私は編曲許諾はチャレンジしてみるつもりでいます。出版社サイドが一般ピーポーからの許諾についてどういうスタンスなのかも知りたい。
とはいえめんどくさいこの仕組み
YouTubeがあってTwitterがあってSNSがどんどん発達して、人は何かしらの形で「発信」をするようになった昨今において正直いまのスキームは結構不便だし、とはいえ権利者さんに寄り添えば寄り添うほど画一的にできないというのもわかる。
ただその解決策として「面倒くさいからルールを破る」という行動ばかりしていると、どんどん権利者さんが不利益被ったり正しいお金の流れができなくて音楽業界どんどん細っていくし、不要な締め付けさえきつくなる一方な気がする。
だから私が望むのは、とことんルールを守って守って守ることで仕組みづくりの必要性が明確になって、仕組みができていくようになるといいなって、まあ綺麗事だけど思うよね。
できれば、次の世代の子たちが「グレー」のままで音楽やらずにすむように、気持ちよく「白」で音楽楽しめるように整備していくのが、今大人ができることなのかなあてっていうのは思います。
というわけで、編曲は実は許諾を得なきゃいけないんですよっていう話でした〜!
おまけ。忘年会で使っていただきたい著作権ギャグ
さてここからはおまけです。
ちなみに、この編曲について「やむを得ない改変は許諾を得なくてOK」ということになっているそうです。
たとえば難しすぎる曲の32分音符を1つ省略して演奏するという程度は「やむを得ない改変」とのことです。
そして、音痴な人が音を外して歌うことも「やむを得ない改変」になるので、許諾は取らなくてもいいそうです。そこで忘年会などでカラオケに興じる際には「よっ!!やむを得ない改変!!」などという知的な合いの手を入れてみてはいかがかと思います。その後の友人関係は保証しません。
実際の運用やさじ加減
さて、以下誤解されそうなのでオープンにするか迷いましたが、心にとめておきたいことなので書いておきますね。
ここまでずっと固いことを言っておいてなんですが、この編曲許諾まわり、ポップスの分野ではかなり寛容なのだそうです。(無許諾を推奨するわけではありません)
というのも、ご存知の通りポップスでは「作曲(メロ)」と「編曲(オケ)」を別の人が作っているというこは当たり前の当たり前にあることで、つまりメロを作った人が編曲(オケ)に関与する割合が純音楽に比べてそもそも少ないわけです。
なので、「アレンジ違い」みたいなものぜんぜん一般的だし、カバーなんかもリスペクトの形として好意的にとらえられることがほとんどとのことです。
まして、これから音楽やろうとしている若い子たちのカバー動画なんかをバシバシ取り締まっていこうっていうのは権利者さんの本意では全然なかったりするようです。
ただ!!それに便乗していい大人まで使用許諾さえも取らずに好き放題するのはちょっとどうなの?ということと、こちらがリスペクトがあるからといって無許諾で編曲した場合、権利侵害を訴えられた場合に代償が大きなものになる可能性もあるんだよと伺いました。
これも誤解を招きそうなので書かくか迷いましたが、
著作権は一部を除き親告罪なので、著作権等を侵害する行為そのものは刑事罰の対象とはいえ、著作権者等の告訴がなければ公訴を提起することができないわけです。
これを「バレなきゃOK」ととるか、「訴えられないだろうから大丈夫」ととるか、「権利侵害したくないからあらかじめ許諾を取る」か、よく考える必要があると思います。
まあ、言い方が難しいですが私自身は「告訴されなかったからって罪じゃないということではない」と思うので、守らなくても大丈夫だよ〜みたいなことはやっぱりいえないし、建前であっても「筋を通していくのが正しいんだよ」っていうスタンスではいたいかなあ〜と思います。
まとめ
・編曲にもJASRAC管轄とは別の許諾がいるらしいぞ!
・編曲とは我々がいうところの「アレンジ」「オケ」の認識でOK!
・やっぱり守るもん守ってから文句は言いたいよねっていう乙女心
もうね〜、藪蛇だっていうことも承知しているし、私がこうして調べることで良い気分じゃない方がいらっしゃるのもわかってるのです。
だけどやっぱし、これからの子どもたちがもっと音楽を気軽に楽しむためにずっと「グレー」を付きまとわせるのが嫌なんだよな………
できるかぎりホワイトなユートピアを作ることができないか、引き続きいろいろ考えていこうと思いますね〜!