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NetflixはUI/UXの改善に機械学習をどのように使っているのか?

ドラマや映画を視聴する上で、専らテレビではなく動画配信サービスを使っているという方も増えてきているでしょう。その普及度は非常に高く、2020年には国内市場規模が2600億円にまで拡大すると予測されています。

中でも独自コンテンツに強みを持つのが、2015年に日本へ上陸したアメリカのサービスNetflixです。2019年度だけでもおよそ1兆円(!)もの予算を自社制作のオリジナルコンテンツに投入しており、従来の映画やドラマの配信サービスを超えた規模感を持っていることが伺えます。繰り返しますが、オリジナルコンテンツ『だけ』で1兆円です(;^ω^)すごい…

しかし、Netflixの独自性として強みを持つのは映画やドラマといった表の部分だけではありません。実はそうしたコンテンツを『最適なユーザーエクスペリエンス』として届ける仕組み作りにおいても、Netflixは非常に高い技術を持って取り組んでいます。いわゆるおすすめの作品をインターフェイス上に表示させるレコメンド機能のアルゴリズムです。


Netflixで表示される作品一覧のカテゴリは非常にユニーク。『人気急上昇中』とかなら分かるけど、『複数の主人公が活躍』とか『ちょっと変わったラブロマンス』とか、『強い女性が活躍』とか、一体何種類あるの?っていうくらい沢山ありますし、何より自分が好きそうな作品を表示してくれると思ったことありませんか?実に個々人に合わせた(パーソナライズされた)UXがデザインされています。一体どんな仕組みなのか気になりますよね。


今回は、ど派手なコンテンツや予算規模に隠れがちなNetflixのアルゴリズムについて解説していきたいと思います(^^♪ 一見視聴履歴などのオーソドックスなデータを用いているかと思いきや、徹底したパーソナライゼーションを追求していることがわかりますよ(*'ω'*)

機械学習を活用したアルゴリズム

『アルゴリズム』と聞くとGoogleの検索アルゴリズムなどが有名かも知れません。Googleはその仕組みを広く公開していますが、Netflixもサイト内でレコメンド機能のアルゴリズムについて紹介しています。

アルゴリズムに用いられる要素
レコメンド機能のアルゴリズムには、次のようなデータが用いられているとされています。

・作品のジャンル、カテゴリー
・出演者、公開年などの作品情報
・視聴した時間帯
・似た好みを持つ視聴者の行動
・視聴履歴
・検索キーワード
・作品への評価(星)
・視聴時間の長さ

(Netflixヘルプセンターより)

こうした複合的なデータを会員の行動からインプットし、機械学習によりパーソナライズ、それぞれの視聴者に最適な形で提供しているのがNetflixの基本的なアルゴリズムです。なお、性別や年齢といった情報は含まれていません(そもそもアカウント作成時に入力を求められないので、Netflix側には渡りません)。

Netflixに登録すると、最初に『初めの一歩』といって好きな作品をいくつか聞かれます。これはその後のパーソナライズに活用されますが、実際には上記サービス利用中に収集されるデータが(そしてより最新のデータが)より重要視されるそうです。

“カテゴリ”の種類は数万

プロダクト・イノベーション担当のTodd Yellin氏によると、上記データは更に細かく分析されているとのこと。『昨日見た作品はどれくらい重要か?』『10分だけ観た場合と2夜にわたって観た場合をどう判断するか?』などといったとても細かく、人によって違いが出る部分までアルゴリズムに取り入れてるんだって!

そうしてアルゴリズムを通して導き出されるのが、先ほど出したようなユニークなカテゴリ。その種類は数万ともされており、当然同時に表示することもできないため、機械学習によって個々人に最適な形で表示しているんだそうです。どうりで思わずビックリするようなカテゴリが出てくる訳ですね…

人力の“タグづけ”

こうした機械学習を活用する一方、Netflixには大勢の在宅スタッフやフリーランサーが関わっており、作品を視聴、それぞれふさわしい“タグ”を付けることでアルゴリズムをより正確なものとしています。ここでも先述のユニークなタグが使われているそう。

人力によるタグづけというアナログな作業と、機械学習を取り入れた高度なアルゴリズム。これがNetflixの究極的にパーソナライズされたユーザーエクスペリエンスの秘密だったんですね(*'ω'*)

アルゴリズムの結果をどう表示するのか

Netflixの開発者によると、レコメンド機能のゴールは『会員が正しいタイミングに正しいタイトルを見つけられるようにする』こと。そのため単にアルゴリズムを改善するだけでなく、作品表示のインターフェイスも計算されています。

列表示の仕組み

例えばNetflixを開くと、画面いっぱいにカテゴリ別に区画された作品一覧を目にすることになります。この並び方にも意味があるんです。

カテゴリは列で区切られており、画面上で会員が素早く『観たい!』と思う作品にたどり着けるよう設計されています。1列=1カテゴリという分かりやすい並び方がされているので、作品“群”単位で一気に目を通すことができ、興味のあるカテゴリなら作品を確認、無ければ違う列を…というスムーズな動きが可能となるのです。もちろん表示されるカテゴリは機械学習で常に更新されます!('ω')

新たに導入されたアルゴリズム“アートワーク”

UI面を改善するアルゴリズムの更新について言えば、2017年に“アートワーク”という仕組みが新たに導入されています。

Netflixを使ったことのある方は、有名作品のサムネイルが見慣れないシーンのキャプチャだったり、同じ作品でも日によって違う画像が使われていることに気付いたかも知れません。これは適当に選ばれたり画像を意図的に更新したのとは、ちょっと違うのです。

Netflixによると、ユーザーの興味を90秒以内に引くことができないとサービスから離脱してしまう、とのこと。昨今よく言われますが、画像や動画の情報量はテキストの比ではありません。ということで、目的を最短で達成するために導入されたのが、作品のサムネイル画像を機械学習でパーソナライズするアルゴリズム“アートワーク”でした。

Netflixは膨大なテストを通じ、その作品のトーンや感情を表すサムネイルがよりクリックされやすいという結論に至りました。そうしてそれぞれの作品のサムネイルには、実は会員が最もクリックした画像が使用されています。これも機械学習、アルゴリズムの結果ではありますが、まだパーソナライズとは言えませんよね。

Netflixはここから更に踏み込み、各会員が観た作品に応じて最適なサムネイルを選択し表示させています。

どういうことかと言うと、例えばタランティーノ監督の傑作にパルプ・フィクションという映画があります。この作品にはユマ・サーマンとジョン・トラボルタなど著名な俳優が出演していますが、会員がユマ・サーマンの他作品を数多く見ているというデータがあれば、同作の表示時にサーマンの写った画像をサムネイルに、逆にトラボルタが好きなら彼をヒューチャリングしたシーンを、といった風に、会員の傾向や行動に応じて表示するサムネイルを変えているのです( ゚Д゚) 
(※こちらの開発ブログでキャプチャを見ることができます)

表示する作品をチョイスするならまだしも、サムネイルまで個人の好みに合わせてくるとは…究極のパーソナライゼーションですね。


会員が視聴する作品の80%を占めるというNetflixのレコメンド機能。今後もアルゴリズムの改善により更なるパーソナライズが期待できるでしょう。

最後に

在宅スタッフの採用でも分かるように、NetflixはUXの改善に機械学習だけを活用している訳ではありません。

最近(2019年8月)にもiOSを対象に、レコメンド機能を会員のマニュアル操作で改善させることを狙いとしたテストを実施していたことが明らかになりました。これは機械学習というより人間による(human-driven)サービス改善の一例と言えるでしょう。。

『会員が正しいタイミングに正しいタイトルを見つけられるようにする』という目的を達成するため、テクノロジーに頼らずあらゆる手段を用いた試行錯誤を繰り返しているということが伺えますね。しかし度々アップデートされるそのアルゴリズムやUI/UXは、世界屈指のエンジニアが膨大なテストを繰り返して導き出されたもの。次にNetflixを開いた時、ここでは紹介されていない新たな要素が実装されているかも…(゜-゜)


参照サイト

https://help.netflix.com/ja/node/100639
https://doga.hikakujoho.com/service-compare/share/
https://uxplanet.org/netflix-binging-on-the-algorithm-a3a74a6c1f59
https://www.google.com/amp/s/amp.interestingengineering.com/how-exactly-does-netflix-recommend-movies-to-you
https://www.google.com/amp/s/www.buzzfeednews.com/amphtml/nicolenguyen/netflix-recommendation-algorithm-explained-binge-watching
https://www.wired.co.uk/article/how-do-netflixs-algorithms-work-machine-learning-helps-to-predict-what-viewers-will-like
https://techcrunch.com/2019/08/23/netflix-tests-human-driven-curation-with-launch-of-collections/
https://biz-journal.jp/2019/09/post_119328.html


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