素人の写真がプロの20倍以上の値段で売れる理由
面白い世の中になったものだなぁ...と思った。
なんの話かというと、先月頭にリリースした「フォロワー1万人以上の人気インスタグラマーによるブツ撮りサービス」の件である。このサービスがすこぶる調子がいいのだ。
最初にこのサービスをリリースする際、正直なところ私は需要があるかどうか半信半疑だった。いくら人気のあるインスタグラマーとはいえ、プロカメラマンの商品撮影相場よりも高い値段(1枚あたり単価でいえば20〜30倍、1撮影あたりでも2倍以上)で、本当に普通の主婦や学生に依頼がくるのだろうか?と。
というのも、従来インスタグラマーにくる商品撮影の仕事というのは、本人の運営するアカウントへのポスト(による拡散)が最大の狙いで、コンテンツそのものに価値を見出しているクライアントがどれだけいるかは全く未知数だったからだ(ちなみに弊社のブツ撮りサービスは、撮影者のアカウントへの投稿・拡散は別途相談となっている。もちろん料金には含まれない)。
しかし蓋をあけてみたら問い合わせがバンバン入り、しかもその依頼の半数以上はポートフォリオを見ての「ご指名」だった。誰もが名前を知っているような企業が「この人にぜひうちの商品の写真を撮って欲しい」「構図も小物の選定も全部お任せします!」と言ってきているのだ。
私たちが声高に叫ばなくても「素人革命」はすでに起こっているのだと、確信した瞬間だった。
”素人革命”は価格破壊にあらず
頭の固いおじさん(おばさんの私が言うのもなんですがw)と話していると、スナップマートの構想や私たちがやろうとしていることは、素人の余剰労働力を活用した価格破壊のように見えることがあるらしい。
実際、その側面もあることは否定はしない。スマホという誰もが持っていて使い慣れているデバイスを通じて写真の撮影から売買までワンストップで行うことにより、コンテンツの流通量が増え、必然的に”商品”の原価を下げることができる。確かにその作用はあるだろう。
でもそんな安売りビジネスをいまさらやることに、自分の人生をかけるほどの意味があるのか?と思う。既存の商売の枠組みで価格競争をして仮に勝ったところで、なんになるというのかと。つまらないだけでなく商売としても旨味がない。
そもそもストックフォトビジネスにはすでに圧倒的価格破壊を実現している「フリー素材」が数多く存在している。100円と無料の間には厳然たる大きな壁があり、価格を低くすればするほど集客にコストがかからないフリー素材のほうが有利になる。ここで私が「よし、素人のスマホ写真で価格破壊を起こそう!」という方向に全力で走り出したら、経営者としての資質に疑問符がつく以前にただのバカである。少なくとも私はそう思う。
「魔法のiらんど」で知った素人コンテンツの破壊力
話を元に戻すが、私がスナップマートでやりたかった「素人革命」は、なぜ素人でなければならなかったのかというと、もう純粋に素人コンテンツには期待を裏切る「意外性」や予想をはるかに超えるような「創造性」があるからだ。
私がこの思いを強くした最初のきっかけは、自分がライターをやっていた頃に彗星のごとく現れた「魔法のiらんど」という携帯小説サイトだった。このサイトをリアルタイムで見たことがある人はすぐイメージできると思うが、ここで発表されている文章は到底従来の枠組みで言うところの「小説」の要件を満たしておらず、テキストは文節も段落も無視して改行され、日本語としておかしいところなど数えだしたらキリがないほどだった。私も最初にサイトを見たときは強い衝撃を受けた。
ところが、この魔法のiらんどで人気だったある小説が紙の単行本となって発売されたところ、おおかたの予想を裏切り数百万部という大ベストセラーになったのだ。
私の中で売文業における”パラダイムシフト”が起こった瞬間だった。
従来の「正しさ」は未来永劫正しいと言えるのか
この現象に対し、いわゆるプロの同業者(著述家や編集者)は強い拒絶反応を示した。「日本語の乱れ」「国語力の低下」「ゆとり教育の弊害」「日本の将来は暗い」といった論調で、そのほとんどが従来の小説のスタイルや正しいとされている日本語との乖離を嘆き、是正していかなければならないというものだった。
その背景にはプロが考える「常識」や「定石」があるということは、私もプロの端くれだったので理解できた。ただ一方で、紙で読むときに最適化されたフォーマットがガラケーで読むときにも読みやすいとは限らないのでは?あの携帯小説のフォーマットはデバイスに最適化された結果だったのでは?むしろ「退化」ではなく「進化」なのでは?という思いもあった。
とはいうものの、当時の私にあの携帯小説を書くことができたのか?と言われると、100%無理だったと断言できる。プロがその体に染み付いた「常識」や「定石」を一切無視してコンテンツを作るということは、部外者が考える以上に難しいのだ。
そんな経験もあってか、私は常識や定石にとらわれない素人のクリエイティブに大きな価値があるのではないかと考えるようになった。私が携帯小説を見て「なんだこりゃ」と思ったように、きっとプロの写真家から見たらインスタグラマーの写真は「なんだこりゃ」と思うような作品も多いのだろう。
実際、インスタで3,000いいねくらい付いたテーブルフォトをプロのクリエイティブディレクターに見せたら「シズル感がないからこの写真は広告には使えないですね」とあっさり言われたこともあった。
プロの定石で言えば、確かにそれが「正解」なんだろう。私が携帯小説を読んで「こんな”てにをは”のおかしな文章は小説とは言えませんね」と言ったように。だけど、現実問題としてその「シズル感のない写真」は多くの人の支持(いいね)を集め、それが商業的価値(価格)に跳ね返ってきている。
パラダイムは刻一刻と変化しているのだ。
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