「ブラジル 音楽・オールタイム・アルバム・ベスト 100」のための柳樂光隆の30選
『ミュージックマガジン』誌の特集
<2020年代への視点「ブラジル音楽・オールタイム・アルバム・ベスト100」>
に掲載したベスト30をここにも転載しておきます。企画趣旨はこんな感じらしいです。
ショーロやサンバ、ボサノヴァなど、古くから素晴らしい音楽を生み出してきた音楽大国ですが、近年も新しいシーンや才能が次々と登場。その盛り上がりとこれまでの歴史をランキングというかたちで振り返ってみました。選者は41人。それぞれ1位から30位まで順位をつけていただいたものを編集部で集計し、ベスト100を選出しました。(ミュージック・マガジン 2019年5月号)
2020年代への視点ということだったので、
といったあたりを意識して考えてみました。
アントニオ・カルロス・ジョビン(とハダメス・ニャタリ)やジョアン・ジルベルトはもちろんですが、ミルトン・ナシメント、エグベルト・ジスモンチやエルメート・パスコアルはジャンルを超えて高い評価を得ていて、ジャズのシーンでは近年「作曲家」としてかなり研究されているように感じます。ギンガあたりもこの先、こういう枠に入ってくると面白いかなと思ってます。
ちょうど現代ジャズ注目のボーカリストのカミラ・メサによるミルトン・ナシメントのカヴァーが公開されてたり、
現代ジャズファンが大好きなSF Jazz Collectiveが出してる年一のカヴァー企画の2018年はアントニオ・カルロス・ジョビンがテーマだったり。
主にアメリカのジャズシーンですが、ショーロに着目するミュージシャンが増えていて、ピシンギーニャやジャコー・ド・バンドリンは注目度が上がりそうです。ここはアメリカでラグタイムやストライドピアノ、ニューオーリンズジャズが再注目されている感じと繋がっている気がします。
作曲家ということで言えば、ジャズシーンでこれからブラジルが掘り下げられていくとともにモアシール・サントスやヴィラ=ロボスといった作曲家へも視線が向くのかなという気も。編曲家としてのジャキス・モレレンバウムも同じように評価が高まりそうな気がします。この文脈でカエターノ・ヴェローソ『Livro』やエグベルト・ジスモンチ『Infancia』『Trem Caipira』を聴きたいかなと。
LAのシーンから再評価に火が着いたアルチュール・ヴェロカイも改めて聴いてみると面白くて、イヴァン・リンスあたりもヴェロカイが編曲した曲に着目すると聴こえ方が変わったり。
このDJ Nutsのミックスは再評価が起きた時期のもの。
再評価予測で言えば、アフロブラジルものに注目するミュージシャンは増えそうな気がしていて、たとえば、アンジェリーク・キジョーがサルサのセリア・クルースに注目したような流れでアフリカのディアスポラ的な意味でアフロブラジリアンに関心を持つアメリカやヨーロッパのミュージシャンが増えないかなと。モアシール・サントスやバーデン・パウエル、ジョルジュ・ベン、ナナ・ヴァスコンセロスなどもそういう流れから聴かれる可能性も秘めている気が。
個人的にはインディオの音楽に注目する人は出そうな気がしていて、そういう意味でもマールイ・ミランダを入れてみた。マールイ・ミランダはバレアリック文脈でその筋のDJから再評価されて、UKのレーベルOPTIMO MUSIC SELVA DISCOSから「Tchori Tchori」の12inchが出てたりもするので、そのうち発見されそうな気がします。プロデュースはエグベルト・ジスモンチだし。ジスモンチのアマゾン絡みのプロジェクトも要注目かもですね。
その他にはコンテンポラリーなシンガーとしてのエリス・レジーナとか、ブラジル音楽とクラウス・オガーマンの編曲の関係とか、女性シンガーソングライターとしてのジョイスとか、欧米とは異なる音像のブラジリアン・サイケデリックとしてのトロピカリアやサイケ期のミルトン・ナシメントの再評価とか、洗練されたブラジル産ポップス=シティポップとしてのジャヴァンとか、そういう感じで、一応、意味を考えつつ選びました。
クラブ~カフェミュージック経由で90年代以降に再評価されたものはDJ的な機能性重視だったり、時代の雰囲気もありなんかピンとこないものも多かった。あの時代以来ディスクガイドもあまり出てないので、書き換えが必要なのかなとも感じました。ディスクガイドと時代性問題あるな、と。
90年代以降のブラジルのオルタナティブな新世代とか、新世代サンバとかブラジルのヒップホップ~クラブミュージックとかも改めて聴いてみたんだけど、ブラジル国内での歴史的な意味づけ以外にあまりピンとこなかったのと、今のリスナーに聴いてもらおうって気持ちにならなかったのでリストからは外しました。もう少ししたら、あの感じが「敢えてあり」になったりするかもですが。
誌面で痺れたのはこれ。
なんとなくボサノヴァは別にいいかなと思ったんだけど、軍事政権との関係とか考慮するとなるほど、『Domingo』は2010年代にぴったり。素晴らしい指摘。
以下、ランキング・ベスト30と次点のリストです。
■次点
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