TRPGのシナリオ制作にObsidianを導入する試み
突然ですが皆さん、TRPGシナリオの頒布形式はPDFやWordが主流ですよね。しかし私はあえてObsidianを導入することにしました。
※大事なことなので最初に言っておきますがこのアプリは無料です。
シナリオ作者の立場としては購入者の皆様を巻き込む変更となるため、非常に悩みました。
が、本業が多忙で制作が滞っている中、今後も継続的にシナリオ制作をしていくには必要なことと判断したため、私と同じように制作に課題を抱えている人たちのために文章を残しておきます。
(とはいえ誰でも見られる便利さにおいてPDFが一番強いことは否めなせん。今の所はObsidianとCanva製のPDFを用意するのがベストと考えています。結局工数は結構かかるので後者はアウトソーシングすることにしました。バイトしてくださる方、是非お声がけください。)
ドキュメント形式をやめる理由
①創作性に制約を受けていること
ドキュメント形式は広くシナリオ頒布で用いられていますが、その性質ゆえに自身のシナリオ表現が制限されていると感じていました。
小説であれば、情報は一方向にのみ進みます。話の流れを忘れさえしなければ、巻き戻すことなく進めばよい。
ですがTRPGシナリオはそうではありません。
あらゆる情報はリンクしていますし、ストーリーは条件によって分岐します。
今はココフォリアを中心としたオンラインセッションが盛んなのに、紙と同じような情報整理でいいのかという思いが日に日に強くなりました。
ドキュメント形式だと分岐するシーンを無理やり一方向に記載することになり、シナリオを読むゲームマスターに認知負荷がかかります。創作する側としても、思考がフォーマットの制約を受けて分岐を増やすことができません。
自分自身でセッションを経験していくなかで、セッションやセッション後の交流の満足度は「誰はどこでどんな選択をしたのか」に大きく依存するという実感があり、自分のシナリオではそこを重視したいと思っています。ゆえに、ドキュメント形式は私の創作スタイルに合わないと感じました。
②情報同士のアクセス性の悪さ
実際は分岐しているにも関わらず、テキストが一方向にしかまとめられないということは、ゲームマスターはセッション中にページを何度もめくりながら様々な情報を確認しなければならなくなります。
プレイヤーはシナリオの想定順に探索を行いませんし、過去出た情報をもう一度参照したいことはよくあるでしょう。自分自身キーパリングをしていて、焦りながらシナリオを遡った経験は少なくありません。
率直に申し上げて、自分のシナリオに関しては、デザインに責任を負って販売しているわけですから、誰もが2秒でほしい情報に辿り着けなければならないと思っています。
ドキュメント形式よりもっと実態に即した、シーンや情報同士を相互にリンクする方法があるはず。そう考えるようになりました。
③既存のアプリの不便さ
また、ここ一年うまくシナリオの制作が進まない問題に悩まされていました。
私は正社員としてフルタイムで勤務をしているので、必然的に移動中の作業が半分以上を占めることになります。
iPhoneを使ってドキュメント形式でシナリオを制作する場合、必然的に使用するアプリは限られます。しかし、そのどれもがシナリオ制作に必要なニーズを満たすものではなく、パフォーマンスを発揮しきれないものだということがわかりました。
・純正メモ
UIとしては優れており、いつでもどこでも書くことができますが、このデータをそのまま頒布することはできません。必然的に純正メモで作った下書きは、のドキュメントアプリに移し替えて整える必要があります。移し替える時に書式が崩れるので、この作業の発生は地味にストレスです。
・Pages
メモアプリで下書きができたら、頒布用のデータの作成はこのアプリで作ることになります。このUIが非常に残念で、テキストの編集がしたいのに勝手にズームしたりズームアウトしたりするという問題に悩まされることになりました。
また、誤字脱字の検出機能が貧弱でミスも起こりやすい。
・Google Document
こちらもスマホ版のUIが残念です。
今まで私がドキュメントで分岐を作成するときには、見出しやインデント下げによって表現していたのですが、どうもその表示が美しくない。
・ Word
Apple製品との相性が悪く使い物になりません。
・TALTO
一度データが飛んで復元できなかったことがトラウマになりました。心に深い傷を負ったのでメインで使うことはもうないかと思います。
④バージョン管理の大変さ
前述のように複数のアプリで執筆作業をしていることから、アップデートを行う場合のフォルダ管理が非常に煩雑になるという問題が発生していました。
そもそもミスが発生しやすいのですから必然的にアップデート作業も増えるわけですが、ただでさえミスが生まれやすい形でファイルごとに管理しないといけないわけで、ミスを潰し切ることができません。
また、アップデートするたびに購入者の皆様に再ダウンロードをお願いしなければならないわけですから、ユーザー体験としては非常によろしくない状態です。
もちろんこちらの不備へのサポートは最大限致しますし、公開後も創作活動を続けている限りアップデートは永遠に続くものと考えていますが、その対応で時間を使って新作を出すのが遅れたりしてはシナリオ作者として本末転倒になってしまいます。そもそもミスが生まれやすい作業環境を正したい、と思っていました。
Obsidianの利点
以上の課題を念頭にさまざまな方法を試してみたところ、Obsidianというアプリであれば一気に解決できることが判明しました。
Obsidianは、ネットワーク型のノートテイキングアプリです。
簡単に言えば自分用Wikipediaのようなイメージのアプリなのですが、どうやら英語圏のTRPGユーザーでこれを使っている人が多いようです。
使ってみると、利用に値するアプリであることがわかりました。
①情報同士をリンクさせることができる
Obsidianで最も強力な機能、それが内部リンクとグラフビューです。
内部リンクとは、Wikipediaのようにある単語に対してリンクを繋げる機能になります。
グラフビューは、そのつながったリンクを視覚的に表現する機能です。
これができると何が起こるかというと、シーンを書いたカード同士を繋げるように、分岐を自由に表現することができるようになります(ちょうどDetroit:become humanのルート分岐演出のようなイメージです)。
また、あるシーンに出てくるキーワードは、そのキーワード専用ページへとリンクを繋げることで迷子になりにくくもなります。
文章で表現すると地味ですが、とても強力です。作者目線ではこれだけで表現の幅が広がる上に、情報を一方向へ再構築する手間がなくなり制作時間の短縮にも繋がります。また、このアプリは元々Wikipediaに近い構造ということで、アプリに蓄えておいた膨大な知識のリンクをそのままシナリオに流用できるというメリットもあり、制作スピードが格段に上がります。
読者目線では非常に直感的に分岐が表現されるためシナリオの理解が早く、セッション中にキーワードを探して迷子になるということも起こりにくいため、タイムロスも防げます。
②全ての作業をObsidianで完結できる
Obsidianは以下のプラットフォームに対応しています。
私は持っている端末の都合上iOSとMacを使用しているのですが、その機能の優秀さから文献調査・取材〜インプット〜草案〜清書〜パブリッシュ〜セッション準備までを一貫してできる大変優れたアプリです。スマートフォンで全ての作業を完結することができます。
フルタイム勤務の人間にとっては、いかに可処分時間を余すことなく創作に充てるかが非常に重要ですので、こういうアプリがあると知って使わない手はありません。
③タグ機能で修正箇所を管理できる
こちらはあまり読者の皆さんには関係がないのですが、マシュマロで誤字・脱字やミスの報告があった箇所はObsidianエディタのタグ機能で管理することができます。
スマホ上でも大変閲覧しやすいのでとても便利です。
(管理工数を減らすという観点では本当はObsidianのパブリッシュ機能を使って、シナリオ購入者は一つのURLにアクセスするだけで常に最新版のシナリオを閲覧できる状態にしたかったのですが、1シナリオにつき8ドルかかるので断念しました)
④BGMの埋め込みができる
こちらによってKPが毎度BGMを検索する手間が省けます。
使い方
PCの場合
1. 公式サイトにアクセス: Obsidian公式サイトにアクセスします。
2. ダウンロード: 自分のOS(Windows、macOS、Linux)に対応するインストーラーをダウンロードします。
3. インストール: ダウンロードしたインストーラーを実行し、インストールを完了します。
4. Obsidianを開く: Obsidianを開くとこのような画面が開くので、日本語に設定します。
5. 購入したシナリオを開く: 「保管庫としてフォルダを開く」からシナリオのmd.ファイルが入ったフォルダを選択して開きます。
するとこのような画面を開くことができます。
こちらで準備完了です。
メモや改変を行う場合はこのまま使いますが、右上の本のマークをクリックすることでリーディングビューに切り替えられ、シナリオを読むのに便利な状態になります。
md.ファイルが入っているフォルダをそのままObsidianにドラッグ&ドロップすれば、複数のシナリオを一気に入れることができます。
このアプリは非常に奥が深いもので、1記事だけでは到底語り尽くせるものではありません。
いつか活用方法についてもう少し詳しく記事にしてみたいと思います。