ルポ「つけびの村」 06/06
2013年7月に山口県周南市で発生した山口連続殺人放火事件について、2017年に取材し、まとめたものを6回に分けて公開します。存命の関係者のお名前は全て仮名です。2017年9月7日脱稿、その後少し寝かせていました。
ポパイが今も思いを寄せる飼い主のワタルに面会するため、広島拘置所へ向かった。その日の広島駅周辺は、朝から曇っていた。蒸し暑く、歩いていると髪が湿気を含む。ホテルから10分ほどしか歩いていないのに、広島拘置所に着く頃は髪が膨らんでボサボサになっていた。
地方都市では城や城跡の近くに役所や裁判所が置かれていることが多い。ここ広島も例に漏れず、広島城のそばに裁判所があった。だが拘置所となると事情は異なり、必ずしも城の近くにあるというわけではないのだが、ここは拘置所が裁判所と同じブロックにある。拘置所敷地の外壁には、浮世絵のようなタッチの、海の上に多数の船が浮かぶ絵が描かれていた。拘置所の職員にこの絵の由来を訪ねたが「さぁ……なんでしょうね」と、何を知っているわけでもなかった。
狭く古い待合室で、グレーの汚れた壁を見ながら待っていると、あっという間に番号が呼ばれた。スピーカーから流れて来る職員の声が大音量で割れている。キーンというハウリングの音とともに、こう聞こえてきた。
「四番面会室にお入りください!」
面会室に入るとすぐに、ワタルが入って来た。アクリル板越しのワタルは、黒い半袖Tシャツにグレーのスウェットズボンを履いている。金峰地区の村人達はワタルを「体がでかいけぇね」と言っていたが、確かに背丈もあり、体格もがっしりとしていた。骨太な姿が、須金で会った長女の娘、ワタルの姪に似ている。ホームベース型の顔は、原始人のようにも見える。まず挨拶をして、面会に応じてくれたことに対する礼を言ったのだが、ワタルは聞いているのかいないのか「時間がないけぇね」と言いながらすぐにパイプ椅子に座った。挨拶をしないという噂は本当だ。
ワタルは会話のキャッチボールをする気がないのか、面会時間が15分しかないために自分の思いをすべて伝えたいと焦っているのか、こちらが質問する隙を与えない。持っている資料の束をひとつずつ広げながらアクリル板に押し付けて私に見せながら、まくしたてた。
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