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成田美名子展に教わる逆にマンガ原画は絵じゃないってこと

※勘違いをご指摘いただきまして……デビュー40周年ではなくて「エイリアン通り」連載開始40周年でした。謹んでお詫びいたします。見出しにすでに書いてありますね……。ごめんなさい……。

 白泉社さんのLaLaでずっと連載されている成田美名子先生がエイリアン通り連載開始40周年!ということで原画展が開催されています。

ので見てきました。なんと写真撮り放題。現代のイベントはこうじゃないとですね。

成田先生の絵がめちゃくちゃ上手なのは直接見れば、いや見ずともわかるくらいなんですが上手すぎると何が起こるのか?っていうのを今日は出版社目線から少し。

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エイリアン通りから40周年なのでデビューは1980年より前ということですね。ぼくの生まれる前か……すごい……。

今回の原画展は1980年以降のカラー原稿だけの展示になっていました。上の写真はだからデビュー数年後ということですね。

まあお上手ですというのが失礼になるだろうと思うほどお上手…デビュー直後にこの完成度なんですか…というのはこの際置いておいて、驚いたのは画材にシャーペンがあることです。

この世界がまだアナログ原稿だったころ、原稿とは何らかの紙に手描きで描き込まれたものだったわけですが、漫画家さんがその絵を描くにあたりまず下書きという作業をします。アタリをとる、とか言ったりもする。で、その下書きはだいたいシャーペン、鉛筆で行われます。そして原稿全体に下書きをした上でそれに沿ってインクで本番の作画をしていく、で、すべてのペン入れが終わったら消しゴムをかけて鉛筆線を消したら出来上がり、という段取りです。

ところが、漫画原稿というのは皆さんご存知の通りギリギリの進行で作られがちなものなので、この鉛筆線が消し漏れていることがよくあります。また、消し漏れがなくても、フキダシの中にはどういうセリフが入るのかを鉛筆で描いてそのまま残しているケースが良くあって、その場合も「原稿に鉛筆の描き込みが残っている」という状況は同じです。

こういった場合、鉛筆の線を消すのは印刷所の仕事になります。消しゴムツール的な工程で手作業で消して行く場合も多いですが、ある種の設定で一括で消してしまう技もあります。原理的には皆さん子供のころに教科書へ赤ペンで書き込んだ上に赤い下敷を当てて書き込んだ文字を消しながら勉強したりしませんでしたか?あれです。一定の数値よりも黒色が薄い線を消してしまうのです。

鉛筆線の淡さを利用した技法なのですが、それくらい淡い画材を本番に使うわけで……と。すでにもはや印刷所さんの苦労が偲ばれます。

この時点で実に素晴らしすぎる原画なわけですが、こう見えても実はデビュー直後。成田先生のカラーはどんどん進化してゆくのです。

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このビーズ表現!気が遠くなるよ!と思ったら

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嫌いの個数じゃないよ!常人なら10個くらいでもう嫌いだよ!

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今度は好きなんですね。

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クオリティ異常だよ!すでにCGだよ!

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おお。これぞマンガ!って感じのカラー。

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そりゃあの描き込みされていれば楽でしょ…って比較がおかしい…絶対楽ではない……。

そしてこのあと成田先生はさらに別次元へ旅立たれます。

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金箔……もですが岩絵具!もうこれ絵じゃん!

そう、成田先生の原画はこのあたりから漫画を超えて「絵」になっています。

そう、成田先生自身コメントにもあるようにわかってやっていらっしゃるのですが、そもそも漫画の原画は絵であってはいけないのです。

なぜか。

マンガというものがそもそも紙の雑誌に掲載されることを前提としているからです。雑誌というのは原則として廉価版の紙に簡易な印刷で刷ることを前提としたもの。ですから漫画原稿というのはその印刷に合わせた形で納品されることが基本です。

いわば漫画原稿とは版画の原版みたいなもの。原版がどれだけ美しくても関係ないし、そもそも美しくしようとは思わないもののはずなわけです。

しかし成田先生はこだわりにこだわった結果、もはや印刷に出ない次元まで絵を描かれるという領域にまで旅立ってしまいました。これを無駄と呼びますか?いや誰も呼べないでしょう。この圧倒的な原画のオーラの前ではただただ感嘆するしかない。印刷に出ないからなんだっていうんですか???

ただ少しだけぼくの心には浮かびます。印刷所の職人さんの途方に暮れる顔も。すみません本当に……。いやぼくの仕事ではないですけどなんだか謝りたくなります。

そして最終的に現在の成田先生はというと

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絹に描くの!!!???

漫画とは紙に描くものって言っちゃってたよぼく……。

というわけである意味もうマンガじゃありません。絵です。だから雑誌掲載時はもちろんコミックス収録時だって印刷では全然再現できてないはずです。この絵は。その意味ではこんなにも原画展にふさわしい原画があっただろうか……!

いや実に素晴らしかった。こりゃ見といた方がいいかもですよ。

あと白泉社さん、本文原稿あると激アツなんでいつかその展示もやってくれないですかねえ。徹底的に描き込むカラーと違ってスケジュールと相談されながら適度に省略された結果の本文原稿はその漫画家さんの作風がさらに前面に出てきて本当に面白いじゃないですか。このカラー描く人の本文原稿めっちゃ見たいよ!


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竹村響 Hibiki  Takemura
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