エストニア・デジタル医療システムの実際
エストニアに長期滞在を始めてから、医療関係のデジタル行政についても調べては居たのだけれど、なにせ実際の医療記録や処方箋がないので実感しづらかった。でも今回システムの主要部分を始めて「体感」することができた。以下に紹介したい。
まずこれが、エストニアの「患者ポータル」 Digilugu サイトだ。
ここに、各人が必ず持っているエストニアIDカード(マイナンバーカードの元祖)とカードリーダー、またはそれに紐づいたスマホアプリの "SmartID" などを用いてログインする。ログインすると自分の情報を取り込んだダッシュボードが見える。
左上の「My Data」をクリックすると、保険加入状況や自分のrepresetative(代理人)、自分が誰のrepresentativeになっているか、そして緊急連絡先(ここに妻の情報を入れるのを忘れていた)などを追加変更できる。つまり家族の分なども管理できるということだ。
保険加入状況については、"INSURED" つまり加入済みになっているのが分かると思う。
そして、既に闘病記(1)でアクセスした「救急搬送レポート」についてもここからアクセスできる。
内容はこんな感じ。
これは非常に詳しく書かれていて、どこの分署からだれが急行したか(3人の名前が見える。ありがとうマレク!)、時系列で何が起きてどう対処したか、そういう医療的処置をとったか、バイタルデータ、そして投薬内容まで「すべて」網羅されている、のは当然かもしれないが、これが搬送後数日で患者自身にも「見えるように」なっているところがほんとにすごいと思う。
つまり、救急処置で何か問題があったら、それが患者自身や他の医師があとから検証できる、ということだ…。
そして当然病院での検査記録も参照できる。
これは27日の朝7時に採決した血液検査の結果だが、9時半ごろにはこの患者ポータルで自分で参照できるようになっていた。
そして、退院時に発行してくれた処方箋だが、
3か月分を1ヵ月づつ出してくれており、最初の1ヵ月分を「購入済み」、残りはまだ未購入、となっているのが分かると思う。基本薬の種類単位となっている。購入前の医薬品詳細は
医薬品データとともに患者のデータも見える。この医薬品データをもとに、薬局にある別の同等品やジェネリック医薬品などを提案されることもある(この辺は日本と一緒)。
購入済みの処方箋は
となり、「購入元」「購入者」の情報も記載される。つまり代替品を提案したこともここに記録されるし、患者以外に誰が買いに来たのか、も記載される。
処方薬を購入する際は、患者本人のエストニアIDカードはもちろん、代理の人が買う場合はその人のIDカードも提示を求められ、その情報がここに記録されることになる。患者のカードを盗んで購入しようとしても、購入者の記録もされてしまう、ということだ。つまり横流しはとても難しくなる。
そしてこれが、ハードコピーではもらった診療記録。これもかなり詳細な内容で、時系列で何をどう処置したか、どんな検査をしたか、結果はどうだったか、までが詳しく書かれる。
[追加]
そして、今回は心臓リハビリテーションを受けろと言われているので、その「紹介状」もここからアクセスできる。紹介状には症状や検査データなども書かれている。該当する医療機関を予約する際にデジタル紹介状データが「勝手に紐づく」ので何の説明も理由も要らない。
ちなみに、ほとんどの公的医療機関の予約そのものも、この同じ「患者ポータル」の上からできる。患者や症状のデータも同時に渡されるので、予約した医療機関に出向いてIDカードを見せるだけだ。問診票も診療申込書も診察券もなんにもいらない。
重要なのは、患者自身、およびその代理人(親とか)はこれらのデータが
ほぼリアルタイムに
入手可能になる、ということ。検査結果ももちろんだが、処方箋についても全くタイムラグがない。購入記録も「即座に」更新される。何かを「待つ」必要が全くない。
このシステムは全病院と全薬局にいきわたり、これはまだ展開中だが一部の救急サービスにもオンラインでアクセス可能になっている。つまり患者搬送前に、患者がどんな病歴でどんな薬を処方されていたかが全部わかる。
また、たとえ病院を変えても過去の病歴や処方歴が一覧で入手でき、その治療や処方までも別の医者が検証できる。セカンドオピニオンも非常に得やすい、ということでもある。