プレゼンテーション1

アクセシビリティの国際会議で発表してみた〜CSUN2019

こんにちは、サイボウズ株式会社の小林です。

2019年3月に、CSUN2019という、アメリカのアナハイムで開催されたアクセシビリティの国際カンファンレンスで登壇してきました。この記事では、その動機や準備、発表についてまとめようと思います。

発表の動機とテーマ

CSUNには過去2回参加していました。参加することで、海外のさまざまな情報を吸収できていましたが、次第に日本人として情報をいただくばかりでいいのか?日本の情報を提供することがフェアではないのか?と考えるようになりました。

発表のテーマを考えた結果、私が普段行なっているアクセシビリティの啓発活動に焦点を絞ることにしました。海外では、アクセシビリティは「税金」——訴訟リスクの対策としてやらなければならないコスト、と捉えられてしまうことがあるそうです。日本は、法律によるアクセシビリティの強制力は強くありませんが、だからこそ法的強制力に頼らずアクセシビリティを啓発してきた歴史があります。日本での啓発活動をお伝えすることが、海外の方にも価値につながるテーマになると考えました。

2018年9月〜登壇に必要な文書準備

CSUNに登壇するには「Abstract」と「Extended Abstract」を提出する必要があります。この内容が査読され、受理されると発表できるようになります。

「Abstract」はおおよそ30wordsほどです。また、過去行われたすべての講演のAbstractが公開されているので、過去の内容を参考にしながら内容を検討することができます。厄介なのは「Extended Abstract」です。600words〜1300wordsほど必要な上に、内容が非公開なのです。

CSUNでExtended Abstractについての告知が出されたのは、提出締切の3週間前。私はExtended Abstractが必要なこと自体を知らなかったので「もっと早く言ってよ!」と思いつつ、日本語を書き上げ、英訳を試みました。

一度、自分で英訳を書き上げたのですが、分量が少なく内容にも自信がありませんでした。そこで、デザイン&リサーチの齋藤さんと、新人でバイリンガルの王子田くんにサポートをお願いしました。最終的に自分の英訳の大半はお蔵入りとなり、一から書き上げていくことになりました。原稿のニュアンスを王子田くんに伝えた上で、一般的な英語の語法などを細かく確認していきました。

発表締め切りの当日、齋藤さんと、最後まで、何度も何度も内容を確認してから、Extended Abstractを投稿しました。

2018年10月〜合否発表

2018年10月24日、メールで合否発表がありました。日本時間の午前7時頃発表になるということで、ドキドキしながら朝を迎えました。送られてきたメールの内容がこちらです:

TITLE: [2019 CSUN AT Conference - General CFP] Submission accepted

Dear Daisuke Kobayashi,
On behalf of the 34th CSUN Assistive Technology Conference review committee, I am pleased to inform you that your submission (#188), titled:
Promoting Web Accessibility with Organizational Vision
has been accepted.
You, and your co-speakers where applicable, will receive an email in the coming days with information regarding speaker registration for the CSUN AT Conference. Please take note of the following timeline:
...
Congratulations

英語ができない自分でも、acceptedとかCongratulationsの意味はわかるぞ!…と思いつつ、本当に合格したことが信じられず、一応Google翻訳にかけて、受理されたことを確認しました。

2018年11月〜英語の勉強

発表が受理されてからはずっと英会話の勉強をしていました。レアジョブを契約して、講師の方に自己紹介の内容などを確認してもらっていました。また、英語力を鍛えたいチームメンバーと一緒に、英語フレーズがすぐに発話できるように、お互いに練習をしていました。

モチベーションを上げるために、全員で1週間ごとに課題を設定し、クリアするとシールを貼れるようにしたりしてしました。台紙はデザイン&リサーチグループの篠原さんが作ってくれました…!今でも大切に保管しています。

シール台紙。1週間ごとにマス目があり日付が書かれている。チームメンバーのイラストも書かれている。

メンバーとは英語の勉強以外にも、発表の内容などを検討したり悩んでいる箇所を聞いてもらったりして、その度にアドバイスをもらえました。本当に感謝しています。

2019年1月〜スクリプトの用意と暗記

私はいつも、発表をするときには、細かい原稿を用意していません。しかし今回の発表に限っては、それは厳しいだろうと感じていました。そこで一旦日本語のスライドと原稿を用意した上で、すべて英訳し、本番までにそれを暗記しておくことにしました。

CSUNの発表の持ち時間は、質疑応答を含めて40分です。10分〜15分を質疑応答に回すとしても25分〜30分の英語原稿を暗記しなければなりません。できるだけ暗記しやすいよう、長文を避け、短いフレーズに切ることを心がけました。また、次に話す言葉がすぐに思い出せるように、スライドを細かく分割し、話す内容の断片がスライドに表示されるようにしておきました。

それでも暗記はかなり難航しました。渡米する前でも、原稿は6割くらいしか暗記できていなかったと思います。メンバーの前で発表練習をしましたが、必死に原稿を思い出すような拙い発表になってしまいました。

2019年3月〜アナハイムへ

3月4日に渡米しました。最初、サンフランシスコにあるサイボウズのオフィスで仕事をしてから、CSUNが開かれるアナハイムへ向かったのですが、道中の空港でも、機内でも、ひたすら原稿の暗記をし続けたのを覚えています。

CSUN会場に到着してからも暗記作業は続きました。一緒に渡米した齋藤さんと一緒に、ホテルでも発表練習をしました。

ホテルで発表練習している様子。小林が身振り手振りを使って話し、齋藤さんが後ろでじっと見守っている。

またテレビ会議で日本メンバーとも発表練習をしました。

テレビ会議で発表練習する様子。スマホとノートPCを使って日本メンバーとやりとりしている。

2019年3月15日 発表当日

いよいよ発表の当日です。自分の発表は、カンファレンスの最終日かつ午前8時から開始という、最も参加者が集まりにくい日程だったのですが、それでも30人くらいの参加者が集まってくださいました。

発表では、自分の今までの準備を確認するようにゆっくりと喋っていきました。参加者の方を表情を見ながら話しましたが、一番主張したい場面に差し掛かったとき、うなづいている方がいらっしゃったことが、自信に繋がったのを覚えています。

写真:小林が発表している様子

写真:発表している会場の全景

質疑応答

質疑応答では、最初に「英語がうまく理解できないので、Google翻訳を使うことをお許しください」と伝えました。質問者には、Google翻訳を起動したスマホを渡して、内容を吹き込んでもらいました。

Google翻訳でなんとか解決できるかと思ったのですが、いきなり1つ目の質問から戸惑ってしまいました。質問の中で出てきた「losing face」という言葉の意味がわからなかったのです。Google翻訳には「顔を失う」と表示されています。質問者の方は気を遣って「reputation! reputation!」と伝えてくださっているのですが、その単語の意味も自分は知りません。どういうことだろう?すごく混乱してしまいました。結局、出席していた日本人の植木さんに助言いただき、これが「面子が潰れる」とか「評判を落とす」という意味だとわかりました。

その後も2つの質問がでました。2つ目の質問は、Google翻訳が正確に訳してくれ、回答することができました。最後の質問は「あなたが今回のカンファレンスで学んだお気に入りの技術を教えてください」でした。易しい英語で、おそらく自分の語学力を察して質問にしてくださったように思います。AI技術やWAI-ARIAがinterestingだったよ、と答えました。

以下は発表直後に撮影したGoogle翻訳のスクリーンショットです。

Google翻訳のスクリーンショット

発表後に何名かの聴講者の方から声をかけていただきました。一番嬉しかったのは「よい発表だった。言語の壁があるのに本当によく頑張った」「ナーバスになる必要なんてないよ」と伝えてくださった人がいたことです。これまでの努力が報われて、海外の人に自分の主張が伝わったのだなと、深く感動しました。

言語の壁に悩む人へ

海外発表と聞くと、尻込みをしてしまう人がほとんどだと思います。様々な理由があると思いますが、最も大きな問題は言語の壁ではないでしょうか。

私のTOEICの点数は500点もありません。客観的には「英語力がある」とはいえないと思います。それでも相応の準備をしつつ、翻訳サービスを使ったり、周囲の人や参加者の協力を得ながら、なんとか乗り切ることができました。

私の意見ですが、言語の壁とは、私たちが海外で経験する障害(Disability)なのではないでしょうか。障害の社会モデルと同じように、障害(Disability)を抱えた個人が全責任を負うべきと考えるのではなく、時には技術に頼りながら、時には聴衆の協力を得ながら、よい発表の場をつくりあげていけばよいと思います。

海外で日本のアクセシビリティを伝えてみませんか?

しばしば、日本のアクセシビリティは、海外に比べて取り組みが遅れていると言われています。特に法的強制力の有無などを見ると、不足していると言われても仕方がないかもしれません。

しかし、だからこそ、強制力の乏しい環境下でいかにアクセシビリティを啓発し、他者を動機づけ、成果につなげていくのか、それは日本にいる私たちだからこそ発信する価値があると思います。

日本の取り組みを海外で発表していくことはとても意義があることだと思います。みなさんもCSUNで発表してみませんか?

最後になりましたが、今回の発表で協力していただいたチームメンバーには、本当に本当に感謝してもしきれません。ありがとうございました。




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sukoyakarizumu
サイボウズ株式会社 アクセシビリティエキスパート。 2014年にロービジョンの方のユーザビリティを見たことをきっっかけにアクセシビリティの啓発活動を開始。「すべてのユーザがチーム参加できるように」サービスをつくる方法を模索中。