クラファンで130万円以上集金した企画者の収支報告無し問題 国内CFの影響に懸念
ヌメ氏企画のクラウドファンディング(以下CF)が炎上した。誹謗中傷に対し訴えたいとして始まったこのCFは目標の4倍を超える約130万円を集め終了。しかし企画者の言動で支援者の一部で困惑が広がり、収支報告を求めるも声も一蹴されたことから、ついには収支報告を求める署名が始まった。署名は支援者のみならず国内CFを思い参加したものも多い。国内CFに影響しかねない本件の問題点とCFへのこれからを考えたい。
企画者であるヌメ氏の自由奔放な言動で揺らぐ信頼
CFは資金募集期間中も資金集めに苦労するものだが、本番は終わってからである。ヌメ氏(@_n_ume)のCFは「愚痴垢を訴えたい」というタイトルで開始した。しかし終了後「赤字補填」というこれからの訴訟ではなく、過去の訴訟に使うことを示唆するツイートをしたことで、不信感を抱かせることとなってしまった。
CF終了後使途予定にないものに支援金を使用することは詐欺と言われかねない行為である。しかし曖昧なツイートでははっきりせず、これだけで何かを判断はできないとして支援者の一部で収支報告、または領収書を求める声があがったが、「支出の明細報告などしませんが、なにを見て明細報告を貰えると思いましたか?」と拒否。ときに「バカなんですか?」などの乱暴な言葉もあった。さらに納得いかないならば返金対応をするとして回答はないままで現在に至る。
不安を持つ支援者の疑問に答えないヌメ氏の態度で不信感を拭うことは不可能である。返金対応をしているから良いという意見もあるが、その返金対応にはクレジットカードの支払い明細を要求しているのだ。CFでは支援履歴が残り支援証明にクレジットカードの明細といった個人情報は必要ない。多くのことが重なり、支援者が強い疑念を持つことは当然だった。
そしてこの問題は国内CFへの影響が考えられる。これらの会話は全てツイッター上で行われている。ヌメ氏はもともと実在する人物への感想を巡って炎上していたことで多くの人が目にすることとなっていたのだ。
伸びる国内CF しかし支援経験者は1割以下に留まる 支援抑制の理由は不信感
5月28日「READYFOR」にて「新型コロナウイルス感染症拡大防止活動基金」が5億3000万円を越え、国内CF史上最高額を更新した。多くの専門家が集結し、支援内容も充実している大規模なCFである。未だ収束の見えない新型コロナウイルスへの拡大防止活動であり注目度も高いことが大きな理由だろう。世界的に有名なCFサービス「Kickstarter」や「Indiegogo」での最高額には及ばないものの、国内CFはこれからも伸びていくことを感じさせるニュースであった。
しかし支援を経験しているという人はまだ多いとは言えない。マクロミルの調査(※1)(調査方法:インターネットリサーチ 期間:2019年11月15日~11月18日)で支援経験者は7%に留まる。認知度においても「どのようなサービスや仕組みなのか知っている」に限れば3割を切り、全体の半分が「詳しくは知らないが、名前は聞いたことがある」という状況である。
CFの存在は知っているものの支援したことがない、という人は7割に上る。彼らを支援にまで導くまでに必要なことは多くあるが、欠かせないものの一つに企画者に対する信頼感がある。神戸大学大学院教授片桐恵子氏のCF研究「人々はなぜクラウドファンディングをするのか」では、インタビュー調査において「支援を抑制する要因として「資金使用に対する不信感」があった」とある。
ヌメ氏のCFは、ヌメ氏本人の言動によって不信感は大きくなってしまっただろう。それはヌメ氏のCFにとどまらず、CF全体に対する不信に繋がっていく。これは関係者以外の視点ではヌメ氏という個人の問題として処理されず、「CFでは企画者が収支報告もせず何に使われるか不明なまま終わることがある」というCFに対する印象として記憶されていくことも多いのではないか。
切実な企画者の足を引っ張りかねない不誠実なCFに声を上げる意味
国内CFにおいて瑕疵担保責任や税務上の問題、リターンバランス、資金決済関連の法律などさまざまな法規制が考えられるものの、クラウドファンディング個別においては検討しなければならない課題は多い状況にある。法規制でカバーしきれないCFでは現在詐欺が横行しており、ただでさえ不安を覚える市場となっているのだ。
ヌメ氏の件はそんな中で起こってしまった事態だ。例えば今、誹謗中傷を受け訴訟を決意した企画者がCFを開始したとして、ヌメ氏の問題以前ほどの資金が集まるだろうか。私は難しいと思う。例え不安があったとしても企画者の願いを支えたいという気持ちは、不安を押し殺して踏み込む大きな純然たる善意だ。それが不誠実な対応によって信頼を失えば、また別のCFに対する支援へのブレーキになりかねない。
TwiPla(※2)で行われたヌメ氏への収支報告を求める署名「ヌメ氏企画のクラウドファンディングの収支報告を求める会 」(終了済)では「収支報告を求める」に署名したツイッターアカウントが2800を越えた。主催者の予想を大きく上回る参加数となったようだ。さまざまな要因(※3)により署名主催が自主的に前倒し終了を行ったが、CF企画者には誠実に対応して欲しいという多くの人の思いが可視化されたことは非常に有意義な結果だ。
詐欺が横行するCFだが、自浄作用が働く環境は未来に光が見える。支援者の不安を拭うため声を上げ続けていくことが、これからのCFへの力となっていくだろう。
ヌメ氏へ望むことは誠意ある対応での信頼の回復
ヌメ氏への誹謗中傷は許しがたい行為だ。だからこそ皆支援したのだ。CFはその性質上コンサマトリー性があるとはいえ、支援者の多くはヌメ氏の自由奔放な態度が昨年の炎上時からずっと続いているにも関わらず、訴えを応援しようと手を差し伸べた人々なのだ。今からでも思い出してほしい。誠意ある対応によって許容してくれる人は今ならまだ居るはずだ。
現在多くの意見を向けられてヌメ氏の負担は大きいだろう。だが、プロジェクトの企画者であるならばきちんと対応しなければならない。このままだと批判や意見はさらに多くなり、取り返しのつかない事態になりかねない。ヌメ氏の誹謗中傷をなくしたいという気持ちは本物に違いない。しかしこれでは、ヌメ氏のCFが誹謗中傷に苦しむ人の足を引っ張りかねないのだ。そんなことはヌメ氏の本意ではないのではないか。
ツイッター上で「収支報告はいらない」などと言っている人々はアカウントを消せば消えていく希薄な存在である。今一度、誰の声に耳を傾けるべきなのか深く考えて欲しいと思う。(しろの )
注※
※1 株式会社マクロミル調べ
調査対象 全国20~69歳の男女(マクロミルモニタ会員)
割付方法 平成27年国勢調査による性別×年代の人口動態割付/合計20,000サンプル
調査期間 2019年11月20日(水)~2019年11月21日(木)
※2 署名は禁止ではないが注意が必要。TwiPla運営OKUYAMA氏ツイートより抜粋「TwiPlaの使い方について署名のために使う事は禁止しておりません。ただ、もともと小規模なオフ会などを想定して作ったサイトですので参加者が数千人になるような利用はサーバー負荷が高くなるためお勧めいたしません。」
※3 主催すごい一体感を感じる。氏ツイートより抜粋「・サーバーへの負担・署名人数から見て目的を達成(本当にありがとうございます) そして・参加者および当企画への嫌がらせ」
参考
国内クラウドファンディング史上最高額を更新!「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」、開始から55日で5億3000万円の寄附金が集まる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000031325.html
新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金
https://readyfor.jp/projects/covid19-relief-fund
依頼者の被害救済を目的としたクラウドファンディングの支援
https://www.vbest.jp/office/csr/legalfunding/
人々はなぜクラウドファンディングをするのか
http://www.yhmf.jp/pdf/activity/aid/52_03.pdf
クラウドファンディングの法規制
https://www.azx.co.jp/blog/?p=464
関連リンク
ヌメ氏のツイッターアカウント(https://twitter.com/_n_ume)
Polca(https://polca.jp/)10月1日サービス終了予定
関連まとめ
トップ画像(Pixabayから)
https://pixabay.com/images/id-620822/