Web3.0解体新書 ~幕を開けるインターネットの新時代~
IT業界に身を置く人は、ここ数ヶ月でこのような話題を耳にする機会が急増したのではないだろうか。LINE で Product Manager を担う私もその一人である。
この note では、一部の界隈を賑わせている Web3.0 とは一体何なのか?を紐解くために、Web1.0 から現代までの流れ、ブロックチェーンやスマートコントラクトによって生まれた、暗号資産、DeFi、NFT、DAOなどの概念を解説する。
なお、この note に記載される多くの内容は、引用する記事や番組からのものであり、筆者によるオリジナルでは無い。インターネットの海に漂う複雑で難解な情報をかき集め、それを Web3.0 の世界に身を置かない人でも比較的理解できるように再編した。
1. Web3.0に至る歴史を辿る
1-1. Web3.0の定義
Web3.0 の概念を業界の著名人達が言い表すことに試みているが、一文で表すのは非常に難しい。
一通りの関連資料を漁った結果、私が理解する Web3.0 とは、"ブロックチェーンやスマートコントラクト技術を活用することで、プログラム・アプリケーション・集団が分散性・信頼性・透明性を有するようになり、また、デジタルデータに唯一性が保証されたことで真に個人がそれを所有可能となった、インターネットの新しい時代" である。
上述の説明は難解で直感的な理解が難しいため、Web3.0 の基盤となるブロックチェーン技術とその周囲に存在するエコシステムが可能としたことの説明を通じて、Web3.0 を少しずつ紐解いていきたいが、まずはその歴史を辿ることにする。
1-2. Web1.0 & 2.0 とは
Web3.0 に到達するまでにインターネットがどのように変遷してきたかは、既に様々な媒体にて詳細にまとめられているため、その要点を抜粋する。特に、Miyatake さん & Kusano さんの Off Topic の関連番組は本当にわかりやすい & ワクワクする内容で、ぜひ一度聞いてみて頂きたい。
まず、Web1.0 とは「リアルからデジタルに移植されたコンテンツを読む時代」のことで、インターネットに接続すれば誰もが静的な情報を発信・受信することが可能になった世界を指す。
インターネットのアイデア自体は1950~60年時代に生まれ、一部企業のセントラルなコントロールから抜け出し、分散型のネットワークを作るために研究が行われていた。
1990年代に入るまでは商業利用がNGだったが、2000年初頭にかけてTCP/IP/HTTP などのオープンソースなプロトコルが誕生し、高額なPCを購入する必要がある、ネット回線の速度など技術的制約はありながらも、ブラウザがあれば誰でも情報にアクセス出来るようになり、リアルなメディアが情報に対して圧倒的な主導権を握っていた世界からの移行が始まった。
Web1.0 とはオープンなポリシーとプロトコルによって、オフラインにあったものがオンライン化された時代だったが、ブラウザ上に決済プロトコルを実現出来なかったこともあって、多くのサービス提供者は広告という手段でマネタイズをすることになる。
その後、技術改革やスマートフォンの普及も相まって、多くのテクノロジー企業が誕生し、静的なインターネットの世界がより動的でインタラクティブな、「読み書きの Web2.0」へとアップデートされることになる。
2000年代から現在にも続く Web2.0 の世界では、世界中の人々の生活に大きな変化がもたらされた。機能的・技術的に優れたハードウェア、ウェブサービス、アプリなどを通じて、誰もが気軽に世界中の情報やコンテンツにアクセス出来るようになり、インターネット上での人と人とのつながりがリアルな世界を侵食するようになっていったのだ。
1-3. Web2.0の課題
インターネットの世界に新たなサービスやコンテンツが誕生し、競い合い、テック系企業がその勢力を拡大する流れは不可避のものであった。その最たる例が、ネットワーク効果やM&Aを通じて競合を排除し、参入障壁を高めていった、GAFAMなどのプラットフォーマーである。Web2.0 はやがて、限られた企業がシェアを拡大し寡占する時代に突入する。
プラットフォーマーによる寡占と囲い込みにより、ユーザーや企業は彼らが定める不透明なルールを信頼して、彼らが提供するエコシステムの中で生きるしか無くなっていった。多くのプラットフォーマーは株式会社という経済システムの中に成り立つため、初期の段階ではユーザー最優先で価値を提供しネットワークを構築するものの、事業が拡大するほど株主から収益性を求められるようになり、プラットフォーマー経済圏に囲い込まれスイッチングコストが高まってしまったユーザーやクリエイターの立ち場が弱くなっていった。
また、インターネットの世界ではユーザーの属性情報や行動履歴などのデータを収集することが競争力に直結するため、オンラインとオフラインを横断した個人情報の収集が重要となる。ユーザーとデータを保有する企業ほどネットワーク効果が働くため、強者がより強くなる世界となり、Web2.0 の代表格的プレイヤーであるGAFAMはその時価総額を合計10兆円近くまで高めることになる。
その後、クリエイターとコアなファンが直接繋がりネットワークを構築するクリエイターエコノミーと呼ばれる流れも醸成されるが、多くのプラットフォームでは報酬分配の比率などクリエイターの立場が弱い環境は続く。コンテンツや情報を提供しても、利益の大半を手に入れるのはプラットフォーム側とその株主、一部のトップクリエイターなのである。
つまり、Web2.0 には以下のような課題が存在する。
1. 中央集権的なプラットフォーマーによる寡占と不透明なルール
2. 利益を最大化する企業と搾取されるクリエイター
3. 加速する個人データの収集とプライバシーの侵害
Web2.0 の世界で加速した中央集権化、非透明化、不平等なパワーバランスなどに対するアンチテーゼであり、かつ技術的な発展に伴い進むべき方向に変化するインターネットの世界の潮流が Web3.0 なのだ。
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2. Web3.0: 全ての基盤となるブロックチェーン
ここまでで、Web3.0に至るまでのインターネットの流れについては大枠を掴めたと思うが、Web3.0 とは何なのか?を理解するためには、ブロックチェーンと暗号資産について語ることを避けられない。
2-1. ブロックチェーンとは
ブロックチェーンとは、Peer to Peer 技術を利用した分散型台帳技術のことを指す。従来の取引がマスターのサーバーで管理されていたのに対して、個々のサーバーに同じものが保存されユーザー同士が直接やり取りをおこなう。
一言にブロックチェーンといっても用途に応じて様々な基盤が存在するが、P2Pネットワーク内で発生した取引の記録をブロックと呼ばれる記録の塊にハッシュ化して格納し、チェーン上でブロックを不可逆的に繋いでいくため、共通して 1. 非中央集権的な分散管理、2. 改ざんや不正操作に対する困難性 、3. 匿名性などを実現する。
ブロックチェーンについて正確に詳細な説明をしようとすると、それだけで本が一冊書けてしまうので詳細は割愛するが、一般社団法人日本ブロックチェーン協会は下記のように定義する。
2-2. 暗号資産(仮想通貨)とビットコイン
ブロックチェーンはその特性である分散性や非改ざん性などから、様々な業界で活用が検討されているが、その知名度を向上させたのは、暗号資産(Crypt Currency)であるビットコインだろう。
ビットコインとは、ブロックチェーン技術を利用した「電子的にお金(価値)を送るシステム」で、「個人間の支払いを、第三者に依拠せず暗号的な証明によって可能にする技術」としてサトシ・ナカモトが2008年にアイデアを示した。
ビットコインでは暗号化された個々の取引を10分毎にまとめて一つのブロックに格納し、不可逆にブロックが繋がれていく(現在は71万個のブロック)。
ブロックを繋げるには規則に則った鍵を見つけるマイニング(Proof of Work)が必要で、PoWでは直前のブロックのハッシュ値 + 今回のブロックに含まれる取引データ + 任意の文字列をハッシュ関数(SHA256)によってハッシュ値に置き換えた際に、最初の文字列の19程度の文字が0となる任意の文字列を見つける作業が求められ、その作業に対する対価としてビットコインが配布される。
ビットコインの取引は全てオープンに記録されるため不正操作や改ざんできず、ブロックチェーン技術を利用しているのでコピーや二重取引が行われないことも特徴だ(取引が不可逆的に一本の鎖に繋がれて、接続された全てのPCに記録されている)。P2Pでの送金時には公開鍵暗号・電子署名技術などによって取引の安全が担保され、ブロックチェーンは取引の台帳なのでビットコインそのものの独立したデータも存在しない。
一つのブロックに記録可能なトランザクション量には限りがあるので、取引量が増えるほど承認に時間が必要となる課題も抱えており、ブロックのサイズを増やすビックブロック、取引データを圧縮するセグウィット、ブロックに書き込む取引数を減らすライトニングネットワークなど様々な改善も検討、実行されている。
2-3. ステーブルコインと各国の情勢
ビットコイン以外にも、B2Bの取引に特化した暗号資産(リップル)や、ステーブルコインと呼ばれる取引価格が安定することを意図して設計された暗号資産なども誕生している(暗号資産の変動幅を抑えるために法定通貨と1:1で取引出来ることを保証する)。
これまでは、通貨の発行主体は国家に限られ、世界の基軸通貨の発行権を有するものが世界経済を制していたが、暗号資産やステーブルコインの誕生によって、企業が法定通貨を上回るデジタル通貨を発行できる可能性が生まれてしまったのだ。
Meta社もステーブルコインとしての特性をもつリブラを2019年に発表し、リブラ協会という複数の利害関係者によって設立された非営利団体の一員として推進すると主張したが、世界の人口の1/3程度に相当するユーザーを抱えるFBが国境を越えてデジタル通貨を発行することに対する各国からの反発や、各種規制(GDRPなど)の逆風が伴い、通貨バスケット方式を撤回した通常のステーブルコインとしてのディエムの発行を目指している。
ブロックチェーンと暗号資産は急激にその発展と市場への展開を遂げているため、各国の政策・経済状況・リテラシーなどによって法や規制の方針などに差が出ている。
日本: 改正資金決済法、2019年に法令名称が仮想通貨から暗号資産に
米国: 暗号資産は有価証券ではないのでSEC監督下とならない
中国: 暗号資産の取引自体が違法となり、ブロックチェーンを用いたデジタル人民元を推進 (分散化ではなく中央集権化)
エルサルバドル: ビットコインを法定通貨に指定
特に、かつてはマイニングで世界最大の勢力を誇っていた中国は、国家の管理が行き届かない暗号資産に対して取引の全面的な禁止を命じ、デジタル形式での法定通貨であるデジタル人民元の発行を進めている。
また、取引の承認にマイニング(PoW)が必要なビットコインは、年間の電力消費量が約106テラワット(オランダと同水準)に達しているといわれ、脱炭素やグリーントランスフォーメーションが求められる現在の情勢に逆行している点もあり、問題視されていることも忘れてはならない。
しかしながら、デジタル資産という価値を、時間や空間的な距離を越えて、誰でも簡単に、場合によっては安く、便利に送り合うことが出来るようになった暗号資産という技術が革新的な発明であることは間違いない。
2-4. イーサリアムとスマートコントラクト
ビットコインがブロックチェーン技術を活用した暗号資産であるのに対して、イーサリアムは Vitalik Buterin 氏らによって開発された、分散型アプリケーションを設計・実行することが可能な共通プラットフォームである。そのプラットフォーム内で通貨として利用されるのがイーサ(ETH)だ。
ビットコインはブロックチェーンに取引を記録する分散型台帳だが、イーサリアムではプログラムされた契約の内容もブロック内に書き込まれる。この契約をスマートコントラクトと呼び、定められた契約とルールを自動で実行するプログラムが定められる (Aの条件を満たした時は、Bをする、Cを支払う。約束を守らなかった時は、Dが実行されるなど)。
イーサリアム上で実行可能なスマートコントラクトは Solidity という javascript に似たプログラミング言語で開発され、ブロックチェーンのP2P取引は改ざんが不可でオープンなため、これまで常識だった人手による契約のモニタリングや仲介などを不要にする。
スマートコントラクトを応用して作られた分散型アプリのことを Dapps (Decentralized Application)と呼ぶ。改ざん不可な記録を残しながら分散で管理可能、中央集権的な管理者無しで常に稼働し続ける、誰もがコードを検査可能でユーザー合意のもとでコードを変更する、などの特徴を持つ。
Gincoさんの記事が非常にわかりやすく、ブロックチェーン環境自体が階層構造によって構成されているのと同様に、イーサリアムのブロックチェーンも基盤となる Ethereum、開発言語としてのSolidity、取引をスケールさせるレイヤー、ユーザー・企業が利用するDappsなどで構成される。
2-5. DeFi と金融業界のパラダイムシフト
既存の銀行や証券会社、保険会社などの企業が中央集権的に介入することで金融事業を行うのに対して、同様の役割を果たすブロックチェーン & コントラクト群によって構成される分散型の金融サービスのことを、DeFi (Decentralized Finance)と呼ぶ。
P2Pでユーザー同士が繋がるため仲介業者やプラットフォーマーを必要とせず、ブロックチェーンに改ざんが困難な全ての取引が透明性を持って記録されるなど、イーサリアムプラットフォームの特徴を活かすことで分散型のサービス提供を試みている。
例えば、DEX(Decentralized Exchange)はDeFiの一種であり、スマートコントラクト機能によってユーザー同士の直接的な取引を実現する分散型取引所だ。中央集権型の取引所(Coincheck, bitflyerなど)と異なり、分散型取引所では中央機関を挟まずにスマートコントラクトに基づいてP2Pの契約(取引)を自動で実現するため、取引時間が早く手数料を削減できる。
Uniswapなどが有名だが、DEX毎に暗号資産を pool すると独自のトークンが発行されて付与されるシステムなどもあって普及した。しかしながら、プラットフォームのスケーラビリティによっては、需要過多で取引量が増大して性能が追いつかず取引料(ガス代と呼ばれる)が高騰し、他のプラットフォームに資産が流れ込むケースも生まれている。(イーサリアムをフォークして作られた Binance Smart Chainなど)
他にも、取引所を介さずに各自が保有するコインを貸して金利を得るレンディングなど、スマートコントラクトによって仲介者の銀行を排除し手数料を抑えるサービスなども存在する。
ビットコインの章で説明したステーブルコインは、暗号資産としての特性を維持しながらも価格の安定性を有し、分散性や信頼性を実現するため DeFi において頻繁に利用されている。
普通の生活では実感することが難しいが、ブロックチェーンとスマートコントラクトによって分散化と仲介者の排除、非改ざん性と透明性などを実現したDeFiが、金融業界に大きなパラダイムシフトをもたらそうとしている。今後も暗号資産やユーザーにとって便利なDappsが普及していくと、多くの業界で根本的な変化が生まれるだろう。
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3. Web3.0: デジタルデータの価値と所有権
3-1. NFT (Non-Fungible Token)
Non-Fungible Token、通称 NFT (非代替性トークン)について耳にしたことはあるだろうか。
2021年から急激にその勢いを加速させた NFTは、Web3.0の世界では非常に重要な概念だ。円やドル、ビットコインなどの Fungible Token (代替性トークン)は、あらゆる1円や1ビットコインの価値が平等なのに対して、Non-Fungible Token は唯一性を有する。
2017年にイーサリアムブロックチェーンから誕生したNFTは、メタデータ(資産情報)や過去から現在までの所有者情報などがブロックチェーン上に記録された、スマートコントラクトまたはそこで管理されるトークンのことを指す。
Web2.0までの世界において、インターネットに存在するデジタルファイルはコピーと配布が簡単に出来たため、ファイルの真偽や所有者の判別が困難だったが、NFTは改ざんが困難で分散化されたブロックチェーン上にユニークな hash 、token name、symbol などの文字列を格納することで、デジタルデータの唯一性と真偽性を証明する。
現在、NFTはその特性である 1. デジタルデータの価値証明 (唯一性の保証と改ざん困難性)、2. 価値の移転 (取引台帳としてのブロックチェーンとイーサリアムの共通規格)、3. プログラム化 (予め定められたコントラクト)…などを活用し、ゲーム、アート、スポーツ、コレクターズアイテム、会員権など様々な領域での実証実験と導入が進められている。
NFTも基盤となるプラットフォーム(イーサリアムなど)、活用するアプリケーションやサービス、発行するプロトコルや流通を可能とするマーケットプレイス、保管するウォレットなどいくつかのレイヤー構造に分かれている。
3-2. NFTコレクションとマーケットプレイス
NFTによってデジタルデータに唯一性と価値を付与することが可能となり、デジタルデータが価値を持ち所有権をトラックすることに意義のあるドメインのNFT化が進んでいる。
市場におけるNFTの利用・取引状況を見ると、現在主に利用されているのは、デジタルアートやコレクターズアイテム、ゲームの領域などである。
NBA選手の試合のハイライトをNFTとして所有できるデジタルトレーディングカードサービスである NBA Top Shot や、独自に生成された1万体のキャラクターである CryptoPunks など、NFTによってデジタルデータの価値が担保されることでそれを所有する人々が増加している。
なお、ブロックチェーンに格納されるのはあくまで属性と、ファイルがホストされたIPFSへのリンクであり、画像ファイルなどの作品自体が保存されるわけではない(例外もある)。つまり、NFTを購入しなくても画像ファイルのコピー自体は可能であり、NFTはあくまで所有の証明に留まる。
10,000枚のデジタルアイコンのコレクションである CryptoPunks も画像自体は誰でもコピーが可能なのである。また、法の裏付けのない所有権は国家的には認められない。
400万点以上のNFTアイテムを揃えるOpenSea など、企業やクリエイターが制作したNFTを購入したり、ユーザー同士が保有しているNFTを取引可能なマーケットプレイスの取引量が急激に増加している。
日本においても、NFTマーケットプレイスへ参入する企業の存在や、ファンディング系サービスの提供開始など、今後も流通量が拡大していくことが予測される。
また、Twitter / Facebook / Instagram など一部の SNS はNFTコレクションをプロフィールに設定できるようにしたり、特定のNFTを保有することでアクセス出来るようになる場が提供されたりと、その所有権を発揮できる場も拡大している。
3-3. NFT Game が生み出す新たな経済圏
コンピューターゲームを競技として捉えるeスポーツは昨今その知名度を高めているが、Play-to-Earnという概念が新しく誕生していることをご存知だろうか。
オンラインゲームをプレイした経験のある方には馴染みがあるだろうが、これまで多くのゲームでは Real Money Trade が許可されておらず、ゲームの世界における資産はあくまでもデジタルの中で完結するものであった。また、中央集権的にゲームを提供する管理者の一存でゲームバランスは変更され、収益状況によってはゲームの世界は閉じられる可能性もあった。
しかしながら、ブロックチェーンとNFTによってゲームの世界にいま経済が誕生しようとしている。NFTによってゲーム内資産(キャラクター、アバター、アイテムなど)の唯一性と所有権が保証され、暗号資産を活用することでゲームを横断した資産流通やRMTも可能となり、分散化によって不透明性や不正も排除されるのだ。
Axie Infinity はその最先端をいく、2018年に開始した遊びながら稼げる(Play-to-Earn)ポケモン風のNFTゲームである。ゲーム内で流通する暗号資産を入手したり、NFTを入手し販売することで収益をあげられる。
Axie の世界では3体の初期モンスターをイーサリアムで購入し、デイリークエストの消化、対人戦やCPU戦、Axie と呼ばれる NFT の売買などを通じて、SLP や AXS などのゲーム内通貨(暗号資産)を手に入れることが可能だ。ゲームをやり込むと月10~20万程度稼ぐことも可能で、東南アジアなど低賃金者や失業者などを中心に若者の参入が加速している。
日本では多くの場合、最終的に暗号資産から現金に戻す必要があるが、今後メタバースなどリアルとデジタルの境界線が曖昧になっていくと、国境を越えてよりデジタルな世界に主軸を置く人々が増えていくだろう。
Axie infinity のエコシステムを活性化させるYield Guild Gamesとそのスカラーシップ制度については、以下の note にわかりやすくまとめられている。
他にも、166,464個のLAND(土地)で構成されるMetaverseと呼ばれる仮想空間において、マインクラフトのようにキャラクターを操作しながらLANDやアイテム・キャラクターをNFT化し売買を行ったりする、イーサリウムを基盤としたユーザー主導のゲームプラットフォーム Sandbox が誕生するなど、ブロックチェーンとNFTを組み合わせることによって、デジタル世界の経済圏が次のフェーズに突入しようとしている。
3-4. NFTのこれから
NFTによってデジタルデータの唯一性と所有の証明が可能となり、2021年はコレクションの領域で認知拡大と普及が進んだ。
しかしながら、リアルとデジタルが共存する現代において、一般ユーザーがデジタルデータの唯一性を意識する機会は少ない。メタバースの流れに伴いユーザーの主軸がデジタルに移り変わっていくこともそうだが、NFTを活用出来るプラットフォームやアプリケーションを生み出し、NFTを意識せずに新しい価値を提供できるかどうかが鍵となるだろう。
例えば、オフラインとオンラインを横断した権利証明書としてのNFTは利用が加速しそうである (NFTゲームでも利用でき、オフラインでも商品と引き換えられるなど)。
個人的には、教育における Proof-of-Learn や、本業にも関係する広告 × NFTの領域についても期待している。
また、NFTの非常に重要な要素として、NFTの所有権がプラットフォームを通じてクリエイターから購入者に移ったとしても、著作権はクリエイターが保持し続け、スマートコントラクトの実装次第ではリセール販売時に著作権者に収益の一部をプログラマティックにわたすといったことも可能な点がある。
つまり、所有権が明確にプラットフォーム側からクリエイターへ移行し、これまで以上にクリエイターがデジタルデータの価値に対して権利を維持し続けることが可能となったのだ。これによって、クリエイター側のプラットフォーマー間のスイッチングコストが低下することになり、クリエイターエコノミーを強化する流れに繋がる。
なお、昨今NFTの価格は急激に高まっていっているが、所有することによって本当に価値が生まれるもの以外のNFTに関しては、将来的に価格が上昇し続けるかは不透明であろう。
NFTバブルといえるくらい、現在のNFTは玉石混交でトークンの価値が急上昇しており、トレーダーのわずか10%がすべてのNFTトランザクションの85%を占めている。
NFTの価値は、人々がその所有権にいくら支払いたいと思うか、どれくらい価値を感じるかによって、決定される。つまり、誰も価値を感じなくなったら価格は暴落する可能性は存在する。
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4. Web3.0: 分散化と新しい組織のあり方
4-1. DAO (Decentralized Autonomous Organization)
デジタルデータの唯一性を証明し、所有という概念を与えたNFTに加えて、Web3.0 の時代において重要な概念の一つがDAO(自律分散型組織)である。
DAO とは、組織の長がトップダウンで方針を決める中央集権的組織ではなく、ブロックチェーンを活用することで自律した個人が集まって価値提供と組織の運営をおこなう、新しい組織の形である。
DAOでは、ブロックチェーン上に設計されたプログラム(スマートコントラクト)により、インセンティブ体系やガバナンスが定められる。DAOの中には社長や経営陣は存在せず、DAOが掲げる存在意義や目標実現に向けて、所属するメンバーが実行する行動や貢献によって発展と改善が行われる。
DAOへの貢献度合いに応じて所有権であるトークンが分配され、トークンを保有するメンバーによって持続的な改善の提案や投票が行われる。これまでの組織では、後から採用された従業員は金銭的な報酬を得ることしか基本的には出来なかったが、DAOではDAOに貢献することで、DAOの方向性を決めることにつながるトークンの所有権を手に入れられるのだ。
Web2.0 の世界では、中央集権的にプラットフォームを開発・提供する企業に対して、ユーザーがコンテンツや個人情報などのデータを提供し、その見返りとしてサービスが継続されていった。金銭的な収益を得られるのは限られた一部のクリエイター達であり、クリエイターエコノミーの流れはありつつも、現状としては企業の株式を保有する人々が多くの利益を得ることになる。
しかしながら、DAOではスマートコントラクトによって定めらる透明性を持ったルールのもと、組織に対して貢献することで対価としてトークンを手に入れ、またトークンを所有することで民主的な組織運営にも参画が可能となる。ブロックチェーンよって中央集権的ではないエコシステムが誕生しようとしているのだ。
つまり、DAOは組織や集団において、1. 分散型で独立した組織運営と意思決定、2. 透明性や非改ざん性の高いガバナンス、3. 参加者が価値と所有権を手に入れられるインセンティブ設計、などを実現する。
これまでの、株主の利益を追求する企業経営の形から、DAOのトークンを保有するメンバーのための組織運営に変わるのだ。
とはいえ、分散的な組織のガバナンス(インセンティブ設計、平等性、モニタリング、オペレーション...)は非常に困難なのが容易に想像できるし、中央集権ではない組織は意思決定にも時間がかかるであろうし、複数のDAOに所属して主体的に運営に参加することもハードルは高いし、結局株式会社と同じで多くのトークンを保有する人物の声が大きくなって利益を追求するのではないか?など、様々な懸念点も存在する。
もちろん、全ての組織のあり方がDAOに向いているとは限らないし、また誰もが分散化を求めているわけではないだろうが、DAOという組織のガバナンスモデルは新しい集団のあり方の一つとして、これから検証と発展が繰り広げられていくであろう。
4-2. DAOによる新しい組織
DAOの目的とユースケースは非常に多岐にわたっており、新しいソーシャルコミュニティとしてのDAO、金融サービス・プラットフォームとしてのDAO、メディアを提供したりやコンテンツを入手するためのDAOなど、日々進化を遂げている。
DAOの組織構造はオープンで非中央集権的であり、DAOへの参入障壁もスイッチングコストも低いため、参加者と貢献者に対して適切な価値を提供し続けていく必要がある。
様々なDAOが立ち上がり始めているが、いかにインセンティブ体系やガバナンスモデルを適切に設計し、DAOのステークホルダーと参加者が利己では無く利他の精神に基づき共存の関係を構築出来るかどうかが、個々のDAOの将来を決定づけるのであろう。
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5. Web3.0: インターネットの新たな時代
5-1. Web3.0 とは何なのか?
これまでに、ブロックチェーンやスマートコントラクト、それらを活用した暗号資産、DeFi 、NFT、DAO などの実態とそれらがもたらす変革を解説した。
1. ブロックチェーン
非中央集権的な分散管理
改ざんや不正操作に対する困難さと匿名性
2. 暗号資産
デジタル資産という価値を、時間や空間的な距離を越えて、第三者に依拠せず、暗号的な証明によって送り合うことを可能に
3. イーサリアムとスマートコントラクト
オープンにプログラム化され、仲介者を不要とする契約と実行
分散型アプリケーションプラットフォーム
4. NFT
デジタルデータの唯一性と真偽性の証明
デジタルデータの価値と所有を保証
クリエイターとプラットフォーマー間のパワーバランスの転換
5. DAO
分散型で独立した組織運営と意思決定
透明性や非改ざん性の高いガバナンスとインセンティブ
株主ではなくトークンホルダー重視の組織構造
これらのテクノロジー、コンセプト、アプリケーションを通じて、Web2.0 の課題であった、1. 中央集権的なプラットフォーマーによる寡占と不透明なルール、2. 利益を最大化する企業と搾取されるユーザーやクリエイター、3. 加速する個人データの収集とプライバシーの侵害… などを一部解決し、インターネットのあり方が変化する潮流が Web3.0 であり、
言い換えると、"ブロックチェーンやスマートコントラクト技術を活用することで、プログラム・アプリケーション・集団が分散性・信頼性・透明性を有するようになり、また、デジタルデータに唯一性が保証されたことで真に個人がそれを所有可能となった、インターネットの新しい時代" が Web3.0 なのだと考える。
5-2. Web3.0 の展望
Web3.0 という時代の流れと関連するアプリケーションが提供する価値が、 Web2.0 の世界と大きく異なるものになるのは間違いないだろう。一方で、Web3.0 の価値が現時点では限られた一部のプレイヤーにのみ享受されていることもまた事実だ。
現在 Web3.0 に関連するサービスは一般ユーザーにとっては利用ハードルが高く、求められるリテラシーも高い。Venture Capital による急激な Web3.0 ドメインへの投資の拡大や、NFTの高騰など、資金や情報を持つものと持たざる者の格差が広がっているという見解があることも、中立的に認識すべきであろう。
しかしながら、Blockchain、DeFi、NFT、DAOなど、様々な技術やコンセプトが各業界を Web3.0 化させ、ビジネスモデルや組織のあり方が根本から変わり、新たなアプリケーションを通じて、Web3.0 の流れが加速度的に進んでいくことは間違いないだろう。
Web3.0 の世界は、今まさに激動の時代を迎えようとしている。Web2.0 の世界のように各領域での絶対的な勝者が決まってない状態なので、いま参入することで、グローバルで最前線を駆け上がることも可能だ。
日本人である渡辺さんらのチームが先日ローンチしたパブリックブロックチェーンである Astar Network は、その時価総額が早々に2,000億円を超える。
Web2.0 の代表的なプレイヤーである GAFAM 達も、その強大な既存ビジネスを成長させながら、メタバース × Web3.0 の時代を見越した戦略を模索しているように見受けられるが、そのアプローチは企業それぞれである。
いずれにせよ、数十年前から続くインターネットの世界がいま大きな転換点にありうることは、この世界に身を置く人間であれば理解すべきであり、Web2.0 のプレイヤー達は自社におよびうる影響とタイミング、その際にどのような行動を取るべきなのかを検討し、これからの時代に適合し生き抜いていく必要があるのだ。
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6. あとがき & 参考文献
ビジネススクールを卒業することに精一杯だった2021年が終わり、前々からキチンと理解して整理したいと思っていたブロックチェーン界隈や Web3.0 について調べ始め、理解を深めるためにも note での執筆を開始し、気がついたら2万字弱の長編になってしまっていた。
note 一本で全てを事細かに、わかりやすく、正確に説明するのは不可能だと思うし、Web3.0 領域のPMでも無い自分の理解は間違っている点もあるだろうけど、初見の人でも大枠を掴めるようなアウトプットになっていれば幸いです。
今回の執筆を通じて、Blockchain / Crypt / Web3.0… などへの興味関心が高まったので、この note を読んで頂いた方で、情報交換・議論・交流などしてくださる方がいましたら、お気軽にご連絡ください。
また、多くの記事は文中に引用しましたが、note を執筆するにあたって特に参考にさせて頂いた文献やサービスを紹介します。どのメディアやコンテンツも非常にクオリティが高いので、興味を持った方はぜひ。