石油が採れづらくなっている
石油が採れづらくなっている。石油を採るのにかかったエネルギーより、たくさんの石油エネルギーが採れなければ、経済的にもエネルギー的にも意味がない。石油が噴水のように吹き出していた時代は、採掘エネルギーの200倍の石油が採れたという。しかしシェールオイルは10を切っている。
エネルギー的に黒字にするためには、採掘エネルギーの3倍は必要。石油をガソリンや軽油に作り替えるのにもエネルギーが必要だから。この数値にどんどん近づいている。石油大手は、採掘エネルギーがかかりすぎて採算が悪くなり、石油に投資しなくなっている。しかも。
2019年から2020年にうっかり、サウジアラビアは石油を増産してしまい、石油価格が大幅に下落したことがあった。新型コロナで需要が低迷していたことも手伝って、石油価格は大いに低迷。この結果、シェールオイルを採掘する会社は投資を諦めたりするところが増えたらしい。
この時に投資が減ったことで、石油を増産したくてもできなくなっている。また、油田から石油を搾り取るにも、コストがかかるようになり、しかも効率よく石油が採れづらくなっているので、採算性が悪く、石油会社は投資を渋るようになった。このため、石油は今後、増産するどころか減る恐れが高い。
「石油・メタル・食糧・気候」(著:柴田明夫、中田雅彦、大場紀明、星野克己)によると、IEA(国際エネルギー機関)の予測では、2025年には石油産出量が半減する恐れがあるという。これは投資がゼロだった場合だが、投資が行われても、今後石油産出量は減少していく見込みだという。
他方、石油の需要は減っていない。ほぼ横ばい。石油は減るのに欲しがる人は多い。これでは、石油の価格は大幅に上昇する恐れがあるし、あるいは不足する石油のために経済が停滞する恐れがある。サウジアラビアは増産に向けた動きを約束しているらしいが、ともかく石油が採れづらくなっている。
一度絞った雑巾を、さらに絞って水滴を出そうと思ったら大変な苦労があるのと同じで、油田から石油を採るのも、いったん採れづらくなるとどんどん採れづらくなり、採算性が悪くなる。サウジアラビアは徹底した秘密主義で、油田がどうなっているのか皆目わからないのだけれど、およそ予想はつく。
それは、シェールオイルのように採掘コストがかかる方法でも採算ベースに乗っていたことからも推測できる。サウジアラビアでも、シェールオイルと大きく違わない程度に採掘コストがかかるようになっている可能性がある。投資をしてもたいして石油が採れない状況に近づいているのだろう。
石油がなければ、エンジンで動く機械の多くが動かせなくなる。天然ガスや石炭で動く機械はほとんどない。電気自動車はようやくスタートしたばかりで、しかも大型トラックのような重量のある自動車を電気で動かすのは難しい。石油は輸送エネルギーとして極めて重要。
厄介なのは、電気も石油などの化石燃料に頼っていること。電力の84.9%は、石油や石炭、天然ガスのエネルギーで生産されている。電気自動車はエンジン車よりは柄エネルギー効率はよいようなのだが、それでも化石燃料で作った電気で走るのでは、あまり意味がない。
科学が進歩し、新技術がエネルギー問題を解決するのでは?という意見はよく聞かれる。しかし新著でそのことを詳しく検討したが、化石燃料に代わるエネルギーは、現時点では見込みがない。特に石油のように、軽くて大量のエネルギーを含む優れものは他にない。
原子力が代替策として考えられるが、これも限界がある。燃料となるウランがそんなに資源量がない。もし石油が採れないとなれば、世界的に原発が見直されるだろうが、そうなるとウランはあっという間に枯渇する恐れがある。30~40年くらいもてばよいだろうか。
しかも、原発をフルに活用したとしても、化石燃料が提供してきたエネルギーの量には全く足りない。もし化石燃料と同じ量だけのエネルギーを生み出そうとしたら、ウランはあっという間に枯渇するだろう。あくまで、原発は一部を補うことができるに過ぎない。
半永久的にエネルギーが得られる技術として、プルトニウムを燃料とする方法がある。しかしプルトニウムで半永久的にエネルギーを製造しようとすると、高速増殖炉という特殊な原子炉を作る必要がある。しかし安全に運転する技術開発が進んでおらず、世界のどこも実用化できていない。
プルトニウムをウランと一緒に燃やすプルサーマル発電という方法があるが、この場合はアメリシウムという余計なゴミが発生し、エネルギーを取り出せなくなってしまう。高速増殖炉と違って、半永久的というわけにいかない。
核融合に至っては、研究でもエネルギー取り出しがうまくいっていない。核融合で得られるエネルギーが、核融合を起こすために必要なエネルギーを上回らなければ意味がないのだけれど、その「臨界点」を長い時間維持できない。これではエネルギーを取り出せるとは言えず、実用化のめどはたっていない。
こうしているうちにも、IEAの予測では、石油の採掘量が減っていくだろうと言われている。これは、新著も想定していなかったほど、早くに石油エネルギーの利用が難しくなることを意味する。
農林水産省が急に「みどりの食料システム戦略」を言い出した時、私は違和感を持った。こうした大きな構想は、事前に噂を聞くものだし、研究も同時にスタートすることが多い。しかしある日突然と言った形でみどり戦略は登場した。私は、石油が採れづらくなったのを把握したからではないかと考えている。
化学肥料も化学農薬も、石油を原料としている。石油が採れなくなってきたら、手に入りづらくなる。化学肥料が手に入りづらくなる未来を見越して、農林水産省はみどり戦略を打ち出したのではないか、という気がしている。官僚の人に聞くと、「あくまで環境問題が理由」というけれど。
中国のように、「うちはまだ発展途上国だから二酸化炭素なんか気にせずエネルギーを使い倒したい」と言い続けてきた国が、急に電気自動車にシフトするなど、温暖化対策に舵を切っている。これも、石油が採れづらくなり、手に入れにくくなることを見越した方針転換なのかもしれない。
国民がパニックに陥らないよう、表面上は温暖化対策ということにしているのかもしれない。もちろん、温暖化対策が重要な理由であることは間違いないだろうが、どうやら、そもそも石油が採れなくなり始めた、という切羽詰まった状況が、世界的な動きを生み出している気がする。
厄介なのは、社会システムすべてが石油など化石燃料に大きく依存していること。全エネルギーのうち、85%を占める。このうちの3分の1以上を石油が占めている。石油が減少した時、その不足分を補えそうなエネルギーが、あまり見当たらない。
それはそのまま、食料減産につながる恐れがある。アメリカなどの食糧輸出国がなぜあんなに穀物を輸出できるかというと、化学肥料を大量に使うから。そしてその化学肥料は、化石燃料から製造している。化石燃料が不足すれば、肥料が思うように作れなくなる恐れがあり、食料も減る恐れがある。
このことをできるだけ多くの人に把握していただき、一緒に知恵を絞っていただきたい。新著で私は問題点の洗い出しはしたが、解決策を示したわけではない。容易に解決できないほど、問題は難しい。「これさえやれば一気に解決」といった魔法は存在しない。私たちの地道な努力の積み重ねが必要となる。