Beyonce「Formation」/ビヨンセは、自分のことを「黒いビル・ゲイツ」と言った

2月7日、スーパーボウルのハーフタイムショー出演の前日にビヨンセからサプライズリリースされた新曲「Formation」。ビデオを観ればとても社会的なテーマを持った楽曲であることは一目で伝わってくる。

冒頭のリリックはこんな感じ。

What happened after New Orleans?
Bitch, I'm back by popular demand

「ニュー・オーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナの後に何が起こった?」という歌い出し。ハリケーンの被害は2005年。その後には大規模な略奪行為が横行した。しかも、こちらのページによると、略奪を働く犯罪者のほぼ100パーセントが黒人だった(http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/06/index.html )。しかし、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの大手マスコミはそのことを報じなかった。そこには、アメリカが抱える人種差別のジレンマがある。

アメリカの長い人種差別の歴史の中で、アフリカ系は常に「被害者」だった。しかしアフリカ系アメリカンが「加害者」側に立ったとき、それはどう扱われるのか。そのことをビヨンセは告発している。ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』でもそのことはモチーフになっていた(https://note.mu/shiba710/n/n89140e5f0e6c )。そこへのアンサーにもなっている曲なのだろう。

My daddy Alabama, Momma Louisiana
You mix that negro with that Creole make a Texas bamma
I like my baby hair, with baby hair and afros
I like my negro nose with Jackson Five nostrils
Earned all this money but they never take the country out me
I got hot sauce in my bag, swag

ここはアフリカ系アメリカ人の父とルイジアナ・クレオールの血をひく母のもとにテキサスで生まれたビヨンセ自身のことを歌い上げるリリック。黒人としてのアイデンティティの誇りを歌うわけで、この曲が「Black Lives Matter」運動ともリンクしていることを示している。

Okay, okay, ladies, now let’s get in formation, cause I slay
Okay ladies, now let’s get in formation, cause I slay
Prove to me you got some coordination
Slay trick, or you get eliminated

ここは人種差別というより性差別についてのリリックかな。「Slay」というのは「殺す」という意味。かなり物騒な言葉だけれど、「やらなきゃやられる」くらいのニュアンスだろうか。そして女性に対してのエンパワーメントの言葉を歌い上げている。「get infomation」は「教育を受けなさい」ということかな。「coordination」は「対等な立場に立つ」ということ。そうじゃないと「eliminated」=排除される。

そして何よりすごいのは以下のリリック。

I might get your song played on the radio station, cause I slay
I might get your song played on the radio station, cause I slay
You just might be a black Bill Gates in the making, cause I slay
I just might be a black Bill Gates in the making

「私は黒いビル・ゲイツになる」と宣言してる。アメリカでは誰もが知るようにJay-Zとビヨンセは最も富豪なカップルだ。そして世界一の富豪であるビル・ゲイツが自分の資金の多くを社会貢献に使っていることも、よく知られたこと。

ものすごく社会かつ政治的な「宣言」の曲なのである。こんなものをスーパーボウルのハーフタイムショーにぶっこむのだから今のビヨンセのやってることは相当強力だ。

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