美学をしない人のための簡単な美学リーディングリスト:音楽とその他について
概要
この記事は美学を専門的にやらない人間のための文献リストです。専門的に研究をしている方が書いた美学や分析哲学の文献リストはいくつかありますが、これはそれよらよりもかなり初心者向けです。「美学を学びたい」という人よりも「音楽について哲学的に考えたい」みたいな感じの人を想定しています。趣味で美学のトピックを読み漁っているだけの私が今まで読んだ本に基づいているので、美学は美学でもかなり偏りがあります。美学の概要と音楽美学、また興味のあるトピックに関する書籍の紹介となります。
専門的に美学をやりたい人は研究者の文献リストを参考にするなどしてください。
と思ったんですけど、上の文献リストで全部解決するような気がしました。
こちらも文献リストとして素晴らしい。2015年のものですが。
美学とはなにか
美学は美、芸術、感性的認識を哲学的に考察する学問です(詳しくは上を参照)。たとえば「美とはなにか」「芸術の必要十分条件とはなにか」といったもの。
これは素人の暴論ですが、本格的に美学を研究するわけではないが美学に触れたい人間にとって、どこまでが美学であるかというのはさほど重要ではないと思います。そこで重要なのはそれがどうやら美学に属するらしいことを知っているということ、よってなにかと検索しやすいみたいなことだけだったりします(何度も書くようですが美学を専門的にやらない人間の想定です)。美学は芸術哲学と同じような意味合いで使われることもありますが、このnoteにおいての美学はつまり「芸術について哲学的に考える」ための道具であり、そのためには美や感性へのアクセスも必要である、という認識でいいと思います。
以下、美学初心者向けの文献です。テーマ、一年前の私へ。
美学初心者向け:美学の全体像編
こちらが参考になります。
どちらも現代アートを取り上げた美学の入門書。身近なものを利用して美学の問いにつなげているので初めの一冊に向いています。美学の問いとはどんなものなのかがわかりやすいかと。
こちらはなんらかのトピックを検討するというよりも美学の歴史を見るタイプの本です。入門の時点ではそこまで重要じゃないように思います。これは個人的な思いなんですが、考えたいトピックがすでにある場合、美学全体の歴史を見渡す必要はあまりないんじゃないかと思います。この辺は専門的にやる人の守備範囲に近いような。もちろんやりたいならやればいいんでしょうけど。
「分析美学入門」は環境美学、芸術哲学としての美学の議論をそれぞれ追うことができます。少々値は張りますがかなり使い勝手のいい美学の地図のようなものです。ある特定のトピックへの興味が強い場合、この本は後回しでも問題ないのかなとも思います。とはいえ、美学の議論の進み方がよくわかる本でもありますし、芸術全般についてひろく学びたい人にとっては恰好の入門書。
「本書は教科書として構想され、辞典となった」という序文のとおり、教科書に近い性質の辞典。美学を学ぶ上で重要な基本概念をひとつひとつ丁寧に解説しています。
ちなみに「芸術の言語」と「芸術とその対象」は初心者が手を出すものではないなという印象。
美学初心者向け:音楽編
音楽の美学をするにおいてこの二冊は必須かと。専門的でない読者が想定されているので、どちらも比較的読みやすくなっています。『音楽の哲学入門』の序文には「音楽はとても重要だと思うけど、なぜ重要なのかを考えるために、ありきたりで使い古された言い回し以上のものが欲しい」人向けであることが記されています。ここで取り上げられているトピックの一つ、音楽と情動のかかわりについて掘り下げてあるのが『悲しい曲の何が悲しいのか』です。例も豊富で読みやすい。
この本は美学に特化した本ではありませんが、視点を増やすという意味では有効です(美学の話もあります)。いくつもの学問から「音楽はなぜ心に響くのか」を検討する本です。ひとつの学問が割くページ数は決して多くないですが、音楽を通じて学問とつながるとっかかりとして使えると思います。
音楽美学の本として紹介するのは正しくないですが、あえてここで。とてもいい本。音楽を批評する人間と批評について論じあいたいものです。
また、難波さんのこのまとめは非常に参考になります。自分の興味のある、あるいは興味に近いトピックを探すことができます。
その他現在進行形で議論されている事柄をチェック
書籍などでまとめられているもの以外にも、雑誌等で美学は日々議論されていたりします。というご紹介。
このあたりは好きなトピックが特集されている号を読むといいと思います。一冊手に取るだけで現代のさまざまな研究に触れられたりします。手っ取り早くて楽しい。現代の作品を使って論じてあったりするので、非常にとっかかりやすいです。
その他私が好きな研究の紹介
描写の哲学。まずは上のガイドを参照。「まずは」もなにもこれで大体道筋は見えるかと。以下はより狭い範囲での描写にかんするトピック。
ビデオゲームの美学。上の本は美学入門としてもいいと思います。読みやすいので美学ってこんな感じかあ、というのが一望できる。
この紹介わかりやすかったです。
ここでもゲーム研究系の書籍の紹介がされています。(アイキャッチ画像めっちゃ可愛いですね)
情動の哲学。こっちはあまり掘れている方面ではないのでもっと多くの良書があることと思います。情動の哲学に来たきっかけは「悲しい曲の何が悲しいのか」を読んだことだったりします。音楽と情動の関係性については論文もいくつも見つかります。
これ面白かったです。音楽と情動からは逸れますけど。
バーチャルユーチューバーでも美学、哲学はできるのだという紹介。このユリイカではバーチャルユーチューバーが寄稿している論考もあり、キズナアイのインタビューもあり、とても興味深かったです。
難波さんはさいきんSFで美学もしていらっしゃる。美学はなんにでも応用できるのだ。
〈SF×美学〉のアーカイブ動画序盤にも美学とはどのような学問なのかという説明があります。
近代デザイン。建築の話が多めの印象ですが、用語の定義についての検討がすごくなされており、建築やデザインに詳しくない人間でも読みやすかったです。建築やデザイン美学はもっと勉強したいところ。
脱線していく気がするのでこの辺にします。ここでもう一度書きますが私の興味の偏りがすごく反映されています。芸術や表現を哲学的に考えたい人のヒントになればという趣旨です。美学をやりたい人向けではない。これ大事。
とりあえずググるのもいい
あとは興味のある単語をGoogleやGoogleScholarで検索すると論文が引っかかるので読み漁るのもいいと思います。
論文を探すにあたってはこのnoteが参考になるかと。
ググってみると誰かが論じていたりいなかったりします。無料で読めるものも多くてありがたい。美学としての濃度が高いのはやはり書籍であるように思うので、興味のある分野の本を一冊読んでみてそこから広げていくのがいいのかなと思います(私にそのやり方が合っていそうだというだけなのですが)。ここはもう好きなようにやればいいんじゃないですかね。
音楽系の美学中心にはなりましたが、だれかの参考になれば。
ここで紹介した本や記事はすべて私の気に入っているものでもあるので、このラインナップならこの本読んだら面白いのでは…等あったらお気軽に教えていただければと思います。