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「良いものが売れる」は間違いだった? 生成AI時代にPdMがボトルネックにならないための挑戦

0.  はじめに

株式会社マネーフォワードの西谷(ニック)です。SIer→製造業の情シス→製薬業の新デジタルサービス企画を経て、BtoBプロダクトのPdMをやっています。

いきなりですが、生成AIの進化が止まらない今、皆さんはこんな不安を感じたことはないでしょうか?

「今のままのPdMの働き方で、本当に未来の事業を作れるのだろうか?」

私はBtoBプロダクトのPdMを担当していますが、ここ最近、ずっと2つの強烈な現実(モヤモヤ)を抱えていました。

  1. 「良いものが売れる」わけではないという現実
    BtoBにおいて、「機能が良いから売れる」は幻想です。むしろ「売れたものが、良いプロダクトである」と定義される世界。この事実にどれだけコミット出来ているのか?

  2. 生成AI時代、PdMが「ボトルネック」になる危機感
    開発効率が爆発的に上がる中で、旧来の私の動き方では、事業スピードを殺してしまうのではないか?

そんな中、pmconf2025開催直前の11月17日、X(旧Twitter)で話題になっていたある投稿を見て、私は「まさにこの論点だ!」と共感しました。

「AIによってエンジニアやデザイナーがプロダクトディスカバリーに入る時間が生まれPMの“日々のタスク”はチームで分散されていく。では、PMに何が残るのか?」

エンジニアもデザイナーも、AIを相棒にしてどんどん領域を広げてくる。 仕様策定や調査といった「PMの日々のタスク」が分散された時、
私たちに残る「PMにしかできない仕事」とは一体何なのか?

この痛烈な「問い」への答えを探すために、私は11月21日、大阪で開催された pmconf2025 に参加しました。 今年のテーマは「未来に挑め」。
まさに私のために用意されたようなこのテーマの下、多くのセッションを通じて見えてきた「解」。 それは、「PdMが不要になる」という悲観的な未来ではなく、「PdMが『機能を作る人』から『事業を創る人』へと進化する」ための具体的な道筋でした。

1. 「コンテキスト」を広げよ:PdMから事業責任者への“本当の”ルート

「PdMとして経験を積んで、ゆくゆくは事業責任者になれたらいいな」 もし私と同じように考えている方がいたら、この言葉を聞いてください。

「事業責任者の前にPdMはいない。いるのはジュニアな事業責任者だけだ」
「プロダクトは事業の一手段であると捉えられるかどうかがキーです。」
「プロダクトと事業は地続きです。プロダクトと事業は別だと捉えてるのであれば、エキスパートがそれぞれやればいいんです。」

営業プロセス、市場環境、収益構造……自分の守備範囲(コンテキスト)を広げるのは、正直しんどい作業というご発表に共感しつつ、短期的な数字の作りと、中長期的なユーザーへの価値をぶらさない、両方を、合わせていくのがまさに、PdMの役割として重要と感じました。

「プロダクトの作り方をわかっていて、かつ数字を作ることが出来るPdM」
これからの自分が目指すPdM像として解像度が高まったセッションでした。

2. 「生産量」ではなく「生産性」を追え

マインドセットを変えた次は、具体的な「戦略」です。 ここで衝撃を受けたのが、エムスリー山崎さんのセッションでした。

生成AIの登場で、エンジニアやデザイナーが100人増えたかのような「圧倒的生産量」が実現できる時代になりました。しかし、山崎さんはこう警鐘を鳴らします。

「目指すべきは生産量じゃなくて生産性。いくら作っても、売れなきゃ意味がないんです」


私たちはつい、「AIを使えばたくさん作れる!数打ちゃ当たる!」と考えがちです。しかし、ビジネスの規模が大きくなればなるほど、生産量だけでは勝てなくなります。

「無理でも十中八九、できれば百発百中で当てるつもりでやる」


これを聞いて、ハッとしました。「良いプロダクトを作れば、あとでBiz側が売ってくれる」という甘えが自分になかったか? 「良いものが売れるのではない。売れたものが良いものなのだ」 という言葉が、これまで以上に重く響きました。

「楽だが儲からない」罠を避ける:プロダクトサイクロン

では、どうやって「百発百中」を目指すのか? 提唱されていた「プロダクトサイクロン」というフレームワークの最初のステップが非常に実践的でした。

  1. 探す(Search):「やるかやらないか」ではなく、A案、B案、C案と複数の選択肢を探す。

  2. 選ぶ(Select):その中から「インパクトがあるもの」を選ぶ。

多くの人は「楽だが儲からない」方法を選んでしまいがちとのこと。 目指すべきは、「楽じゃなくて儲からない」茨の道でもなく、「インパクト(儲かる)がある選択肢」を執念で探すこと。 そして、磨き込んだプロダクトは仲間に託し、自分はまた新しいインパクトを探しに行く。この回転こそが、組織全体の生産性を爆発的に高めるという考え方は参考になりました。

3. 始めるよりも難しい、「止める」という意思決定

攻めの戦略の一方で、PdMにとって最も苦しいのが「撤退」の判断です。 LayerX加藤さんのセッションでは、この「意思決定(やりきる技術)」について語られました。

「個人的には作るものを決めるより、やり始めたことを途中でやめる方が難しい」

これ、ものすごく共感しませんか? 「せっかくここまで作ったのに」「チームの士気が下がるかも」……サンクコストや感情が邪魔をして、ズルズルと開発を続けてしまう。 これを防ぐための技術として紹介された1つが「プレモーテム」でした。

プレモーテムとは・・・プロジェクト開始前に「このプロジェクトが大失敗したとしたら、何が原因か?」をチームで話し合う

最後はPdMが責任を持って、「これはユーザーのためにならない」「事業インパクトが出ない」と判断した場合、止める決断をする。これもまた、AI任せにはできない「事業へのコミットメント」です。
ただやはり難しい!
となると、プロジェクト開始前にプレモーテムは絶対やらないと、と思い、早速、AIで壁打ちを行うための”プレモーテムGemini Gem”を早速作成して実践し始めました。

4. 最後に

今回のpmconfを通じて、私の視点は大きく変わりました。 生成AI時代、PdMがボトルネックにならないために必要なこと。それはツールを使いこなすこと以上に、「自分はPdMだ」という枠(コンテキスト)を自分で壊すことでした。

  1. 「自分はジュニア事業責任者だ」と定義し直す。

  2. 「なんとなく」で作らず、インパクトのある選択肢を必死で探す。
    (そのようなPdMは少ないとは思いますが、必死さは人それぞれ程度があるはず)

  3. 勇気を持って「やめる」決断をし、事業リソースを守る。

これらは一朝一夕にはできません。柳川さんがおっしゃるように、自分の頭で考え、アウトプットし、フィードバックを受ける繰り返しでしか育たない「構造化能力の筋トレ」でマッチョにならないといけない。

そして、今日から、この事業(プロダクト)を成功させるには、どういうセールス&マーケが必要?どういうカスタマーサクセス?どういうカスタマーサポート?そのリソースはどう調整する?という具合に、開発視点やユーザー視点を超えた本当に「事業を伸ばすコンテキスト」を持とう!

AI時代、PdMの仕事はもっと面白くなるはずです。 なぜなら、私たちはもう「作る人」ではなく、「事業を創る人」になれるのですから。


最後に、マネーフォワードでは共に働く仲間を募集しています!オープンポジションなどもご用意しているので気軽にご応募ください。


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