ジェンダーギャップ指数レポートとの向き合い方
はじめに
昨今、SNS上でジェンダーギャップ指数=日本121位(153カ国中)を錦の御旗に、様々なジェンダー問題を提起する投稿が散見されるようになりました。しかし中には、本レポートの内容を余り理解せずに「121位の日本は男性が有利で女性が不利な社会構造だ」と反射的にタイトルだけを引用し誤用されるケースも少なくありません。
こうした誤用の問題点は、一つ目に本レポートの意図に関わらずランキング下位国の女性が蔑視・差別されているように誤解されてしまうばかりか、いつしか日本のイメージとして定着してしまう点です。特にここ数年でSNSを中心に目立ち始め、日本はあたかも女性差別国であるかのような誤認が拡大し、テレビメディアのピックアップ手法もこれに準じているように感じます。
二つ目に、このレポートは読める人は簡単に読めますが、余り興味のない人には読み解くのが面倒で、さらには読めない人に説明するのもかなり面倒なレポートである点です。ですからSNS上で誤用を見つけても、
「日本では女性は差別されているよ。ジェンダーギャップ指数121位なんだから。」
ー その認識は違うよ?
「違わない。日本では女性は差別されているよ。」
ー その認識は違うよ?
の堂々巡りの消耗戦になってしまいます。現在では既に説明するのが面倒なのか「121位の日本は男性が有利で女性が不利な社会構造だ」が、そのまま放置され、発信する側の言いたい放題になり、ワイドショー等のテレビメディアをはじめ、自治体やNGO等に都合良く利用されている節もあるようにも見受けられます。このままでは、恐らく来年も、再来年も、利用され続けるでしょう。
本noteの目的
従いましてnoteの目的は大まかに下記になります。本レポートを余り深く読んだ事の無い方向けに書きますので、既にご存じの方には冗長的で回りくどい説明になります事をご容赦ください。
1.ジェンダーギャップ指数を読み解くと共に、誤用を回避したい
2.ランキングを改善するにはどうすれば良いかを考察します
3.順位が低い国の女性が他国と比べて差別されていない事を主張したい
それでは早速、以下より考察をはじめてみましょう。
1. ジェンダーギャップ指数レポート(Global Gender Gap Report)とは何か?
世界経済フォーラム(WEF)がジェンダー間格差や不平等を調査・分析して指数化、順位付けしレポートにまとめたものです。
Global Gender Gap Report 2020 ( PDF )
4つのメインインデックスからなり、
・経済部門における参画度と機会(C)
・教育達成度(B)
・健康と生存(A)
・政治的権限の有無(D)
各メインインデックスはいくつかのサブインデックスから構成されています。サブインデックスのスコアが統合されメインインデックスに、メインインデックスが統合され、最終的にジェンダーギャップ指数に統合されます。
以降、名前が大変長いのでジェンダーギャップ指数をGGI、ジェンダーギャップ指数レポートをGGGR(=Global Gender Gap Report )と呼び、断りのない限り2020年版を基準に話を進めます。また構成の都合上、各メインインデックスの後ろに付けたアルファベット、A~Dの順に解説を進めます。
2. 「健康と生存」
まずはじめに紹介するメインインデックスは健康と生存です。本インデックスには2016年以降のWHOの最新データが採用されています。
40位。
悪いですね。世界で40位。健康と生存のインデックスで日本を上回る国が39ヶ国もあるなんて!これだけ見ると「日本はこんなに世界に遅れをとっているのか」と思われるのも不思議ではありません。
それでは健康と生存を構成するサブインデックスを見てみましょう。サブインデックスは二つあります。
ー男女出生比率
ー健康寿命
男女出生比率は日本では余り馴染みがありませんが、世界的にどういう状況にあるかは下記の記事が端的に参考になるでしょう。
すなわち、世界では未だに出産時に性別の選択が行われており、女児の中絶が跡を絶たないと言う事を示しています。先に日本では馴染みがないと評したように、こうした人為的操作が一般的ではない日本はこの部門で1位を獲得しています。すなわち「女の子はいらない」と言う人権を無視した操作がより少ない事を意味します(日本でも決してゼロではなく、着床前診断による生命の選択は日本産科婦人科学会でも度々取り上げられるテーマです)。
では、なぜこのインデックスにおいて日本は40位になってしまったのでしょうか。どうやら二つ目の健康寿命が足を引っ張っていそうです。でもおかしいですよね?健康寿命なら日本はそう簡単に他国に負ける訳がありません。しかしこのサブインデックスでの順位は59位なのです。そうです。このレポートの主旨は男女間格差にある事を思い出してください。各国の健康寿命や平均寿命を比べているのではなく、男女格差が”いかに女性側に有利に傾くか?”を比べているのです。
例えば2016年のWHOのデータ、国別健康寿命から抜粋しますと、日本の健康寿命が男性72.6歳、女性76.9歳ですから差が4.3ポイントとなりましょうか。対して同じくブラジルを例に取りますと男性63.4歳、女性68.7歳で差が5.3ポイント。ブラジルの方が順位が高くなります(=女性優位)。
日本より下位にランキングされた国も見てみましょう。アメリカが3.2ポイントで70位、シンガポールが2.9ポイントで133位、ほぼ男女差の無い中国が1.3ポイントで153位(最下位)となっています(WHO2016のデータには男女人口比率が加味されていませんのでGGGRでは日本よりGAPが小さいにも関わらず1位にランキングされている国もあります)。
このように客観性の高いデータを集めながら、比較する方法が適切ではない為に、何を主張したいか不明瞭な事案がGGGRには点在しています。悪意をもってまとめるとすれば「銃や麻薬、戦争や紛争が身近で、上下水道や治水整備に乏しい後進国では男性が圧倒的に早死にする為、産院の設備に恵まれず出産が命懸けであったとしても女性の方が遥かに健康寿命が長い」と言えましょうが、この比較を以ってして日本の女性の健康寿命が、上位にランクインした諸外国と比べて著しく劣るような現実はありません。日本と比肩する長寿国のシンガポールが133位にランキングされている事も含めて、この比較方法や順位付けは妥当ではないでしょう。
さらに、このサブインデックスのスコアが全体のスコアに影響する割合が非常に低い事も判ります。日本は確かに「1.059」で59位ですが、1位の「1.060」が58ヶ国もあるのです。言い方を換えれば0.001ポイント差の2位とも言えるのですが、GGGRの順位付けルールでは59位となるのです。
ちなみに、冒頭で「1位で当然ですよね~」と紹介した1つ目のサブインデックス男女出生比率ですが、111ヶ国が0.944で1位、0.943の実質2位は112位になってしまいます。すなわちこのGGGRで上位に食い込むには、2位ではダメなんです。
これらを念頭に、もう一度メインインデックス健康と生存(40位)を見直してみますと0.001ポイント差の1位が39ヶ国。もちろん先に比較したブラジルも1位です。日本は40位。この比較と順位が合理的で納得出来たと言う方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
寧ろ40位でも余り気にならなくなってきませんか?
3. 「教育達成度」
次のメインインデックスは教育達成度です。2017年のUNESCOのデータを元に比較しています。本インデックスは
ー識字率
ー初等教育の就学率
ー中等教育の就学率(日本の中学校+高校に相当)
ー高等教育の就学率(日本の大学や専門学校等に相当)
のサブインデックスからなります。
本メインインデックスの順位は91位。これだけ見ると、前項の健康と生存よりも劣って見えますがどうでしょう。
識字率は1位、48ヶ国が同じく1位にランキングされています。初等教育も同じく1位、72ヶ国がランキングされています。中等教育128位、高等教育108位が足を引っ張っているようです。
全体で153ヶ国ですので最早下から数えた方が早いレベルですが、前項の健康と生存の傾向が念頭にあれば、この指標が就学率の男女差である事に直ぐに気がつくでしょう。すなわち、上位である程に男女差が大きく、下位である程に男女差が小さいのです。
次に社会実情データ図録より日本の「高校・大学進学率の推移」をご覧ください。日本の高校進学率は約96%、大学進学率も58%と男女比率は殆ど差がなく同水準と言う傾向です。繰り返しますがこのスコアは男女比率の差が少ない程に低いので、男女差が殆どない日本のスコアは低く換算されます。
2018年を比較対象とするなら起算年は2002年。出生数が1,153,855人(男児592,840・女児561,015)とほぼ同数が高校までは進学しますのから他国の男子が初等教育を終えた後に(小学校卒業後)学業から離れ出すと女性優位・男性不利の構図が生まれ、ランキングが上昇するのです。
以上を踏まえて、もう一度順位とスコアを確認してみましょう。メインインデックス1位にランキングされた国が103ヶ国あり、日本は128位です。ちなみに0.001ポイント差で2位・・・ではなく104位とランキングされたリトアニアはとても気の毒ですね。繰り返し言及しますが、GGIに関しては2位じゃダメなんです!1位にならなければランクは大きく後退してしまいますので。
しかし順位だけ見てしまうと気持ちが下がるものの、スコアが微差である点を見れば日本も決して悪くありません。いや寧ろ、スコアが悪い程に男女が別け隔てなく進学出来る事を意味しますから、下位ランクの国の方が国民全体としては幸せなのかもしれません。104~127位の国名を読み上げてみてください。本当に、この国の女性が教育部門において日本よりも幸福な環境に身を置いてると言い切れましょうか?
話は少々逸れますが、ここでUNESCOの資料をご覧ください。
New Methodology Shows that 258 Million Children, Adolescents and Youth Are Out of School ( PDF )
世界中には258万人の非就学児童が存在すると言うレポートです。レポートのLower secondary ageが日本では中学生、Upper secondary ageが日本では高校生を指します。日本の場合中学校も義務教育ですので、ここではUpper secondary ageに着目しましょう。女子67万人、男子70.8万人の合計137.8万人が就学出来ずにいるそうです。実に気の毒な話です。
日本の男女の進学率が96%ですから、これ以上進学率を上げるのは困難。ギャップを大きくするには何らかの方法で男子の進学率を下げるしかありません。そうすれば女性優位の構図が産まれGGIは上昇するでしょうね。
※GGGRでは日本の初等・高等教育の数値は入力されていません。
以下蛇足になりますが、就学率については女子≧男子のイコールまでが1位の評価です。例えばブルネイは女子93.7:男子90.3=女男比1.04ですが、0.04は切り捨てて、スコアが1.000になります。日本はn/aですが義務教育で100:100の評価を得てスコア1.000と認定された模様です。
以下、女子<男子の差が広がるに連れて順位が下がります。
・・・が、実情は153カ国中120カ国が1位の指標です。以下は121~123位(0.983)、124~126位(0.982)と狭いレンジが続きます。最下位が147位(女子67.3:男子88.9=女男比0.76)と悪いですが、ほんのちょっと男子が多いだけで順位が121位以下にランキングされてしまいます。女子980人:男子1000人の比率でスコアが0.980=128位相当となる事は読み手側が留意しなければならない重要な点でしょう。
4. GGGRの問題点ーその1
前半の2つのメインインデックス、健康と生存と教育達成度の紹介を終えた所で、当然お気づきになったであろう問題点を下記にまとめます。
◯単純比較出来ない事案を比較してスコアリングしている
ブラジルと日本の健康寿命の比較のように個別に比べれば日本の方が良いとされるケースでも、男女間のギャップで単純比較されるとブラジルの方がGGIが高く出ます。ブラジルと中国を比較しても同様です。
◯実態と順位が乖離する傾向がある
例えば一学年300人の生徒全員でテストを行い、200人が100点を獲ったとすると、99点の生徒の順位は201位になってしまいます。従って、高順位だからと言って両手を挙げてよろこべず、低順位だからと言って悲観するのも誤りです。92点獲ったのに最下位になった生徒が「お前最下位だったんだって~」と公然と言われたり、「それだからお前は最下位なんだよ!」と罵られるのはいかがなものでしょうか。
◯これらのスコアは女性の幸福度と直結しない
恣意的に操作・収集できないWHO・UNESCO・ILO・IMFのデータを元にしながら、疑念を抱かれても仕方がない比較手法を採用している為、実態との乖離が認められます。他のメインインデックスについても、順位が低い=男性優遇&女性不遇と直ちに結論付けられない可能性があります。
途上国のように男性優位の環境が顕著にあり、その視点から女性の立場がどれくらい悪いかを類推し数値化する分にはGGIが機能するものの、人権意識や経済が成熟した先進国ではスコアに不利になるケースがあるようです。従って、スコアが悪いからと言って多くの女性が不幸とは限らず、スコアが良いからと言って多くの女性が幸福だ、とは軽々には言えなさそうです。
5. 「経済部門における参画度と機会」
次のメインインデックスは経済部門における参画度と機会(115位)。サブインデックスは5項目に渡るので順を追って見ていきましょう。
ー労働力の男女比
ー同一業務での収入格差
ー推定収入格差
ー議員・上級職員・管理職の男女比
ー専門職・技術職の男女比
まず労働力の男女比(79位)です。ランキング1位のスコア1.000(男女比がイコールまたは女性比率の方が多い)の国は余り参考にできそうにないのでG8をピックアップしてみました。日本は元より、G8各国ですら1位諸国の後塵を拝しています。しかし良く考えて見てください。近代国家には電気や水道、道路や鉄道のようなインフラ整備=土木作業がつきもので、スコアが1.000に近づく程、女性もこれらの作業に従事する事を意味します。日本では交通整理をする女性を稀に目にする程度で、高速道路やトンネルの建設、アスファルトの張替えや電気・水道工事では殆ど見る事はありません。これを女性差別と取るか、女性への配慮・優しさと取るか。どちらがお好みでしょうか?
同一業務での収入格差(67位)は、どういう手法で1~7点にスコアリングしたのかが不明なので割愛します。
推定収入格差(108位)の指標は、こちらも男女差が小さければ小さい程スコアが上がります。実質的な賃金や物価は無視されますので、幸福度と直結するかどうかは微妙です。ザンビアでは女性が男性を上回る年収399,000円を獲得しています。男性は388,500円ですから確かに女性が優位ですね!
しかし291万円しか獲得出来ない日本人女性は不幸と決めつけて良いのでしょうか?一人あたりのGDPでトップクラスのルクセンブルクが幸せそうに見えてしまうのは私が煩悩の塊だからでしょうか?
次のサブインデックス、議員・上級職員・管理職の男女比(131位)は個人的に政治的権限の有無(最後のメインインデックス)と並んで興味深い題材です。なぜならば、このどちらの選択をしても等しくGGIが低くなるからです。
・機会を与えられなかった為に女性比率が低い
・機会は与えられたが選択しなかった為に女性比率が低い
もし前者であれば明確に男女差別となりましょうし、後者ならば順位の低さを気に病む必要はありません。
詳細はこのエントリーをするきっかけになった下記noteに譲るとして、日本では20年以上に渡り女性が起業をして社長や役員となる事に関心が薄いように見えます。一方、男性は社長や役員を目指して起業します。こうして20年も経過すれば、自ずと男性が要職に就く割合が増えますから、このランクはどちらかと言えば日本の女性が望んだ結果ではなかろうかと考えずにはおれないのです。
男女によって得手不得手がありますし、役割分担も考慮すれば、会社の役員数や代表者の男女比を50:50に数合わせする行為には何の意味もないでしょう。現実に女性(や男性)が幸せに生活し、労働するシステムを提供してくれるならば、そのリーダーが男であろうと女であろうと最早問わないのが現代社会に求められる姿であるような気もします。
国会議員については次のメインインデックスに譲るとして、多くの日本人女性がその地位を望んでいない現実があるならば、実際にそのように指標に表れたとしても良いではありませんか。
6. 「政治的権限の有無」
最後のメインインデックスです。順位は144位とこちらも経済部門における参画度と機会と並んで指標が悪く全体の順位を下げている要因になっています。サブインデックスは3項目です。
ー国会議員の男女比
ー閣僚中の女性の割合
-過去50年で国家代表者を務めた年数
まず国会議員の男女比(135位)からですが、経済部門における参画度と機会でも述べたように、そもそも日本では女性自身が国会議員を目指していないように思われます。
また、数少ない女性立候補者に対して、女性が応援して投票しているかと言うと決してそうではない側面も垣間見れます。現在の日本は当然のように男女に参政権がありますし、投票率から逆算すれば女性有権者の多くが女性立候補者に投票したならば104人中28人(当選率26.9%)しか当選しないなんて事にはならず、もっと多くの当選者が出ているはずです。すなわち、女性自身が国会議員を目指しておらず、また同性の女性からも国会議員になって欲しいと望まれていないと言うのが実情ではないでしょうか。
つまる所、先の経済部門における参画度と機会も考慮すれば、多くの日本人女性の考える幸福像は、会社社長や役員、国会議員のポジションにはどうもなさそうであると考えて差し支えなさそうです。もちろん、個別に見れば「私は国会議員になりたい」「会社社長になりたい」と考える方がいらっしゃるのは事実でしょうし何ら否定するものではありません。あくまでも全体として追求する幸福像がここにはなさそうだと言う意味です。
いずれにしても、立候補者不在なら当選者も出ませんから、女性国会議員を増やしたいのであれば女性立候補者を増やし、同様に女性からの支持を集めねばなりません。
最後に、閣僚中の女性の割合(139位)と過去50年で国家代表者を務めた年数(73位)をまとめて解説します。GGGRが非常に不愉快なのは、各国の政治形態の違いを全く考慮せずに指標を出し、それを比較している事です。
例えば日本の議会制民主主義では、国家代表者すなわち内閣総理大臣になる為には大まかに
1. 国会議員に選ばれる
2. 両院から指名される(内閣総理大臣指名選挙に立候補する)
3. 国会議員から過半数を得票
と言うステップを経なければなりません。ステップ3から逆算すれば、過半数を得る為には当然与党に在籍せねばなりません。ステップ2では、与党内の派閥闘争を超え、代表選挙を通して予め決めておくのが通例です。与党議員であると言うだけでは自身を指名してはくれませんから、派閥の規模が重要になります。
つまりこうした手続きだけを見ても、女性が派閥を形成し、男性議員をも取り込み、女性国会議員を総理大臣にしようと言う行動がなければ、日本では女性国家代表者の出現が困難である事が判ります。大統領が直接選挙によって選ばれる国家であれば、女性の国家代表者が出現する可能性がありますが、日本の政治形態では当面女性の内閣総理大臣は現れないでしょう。
同様に、女性大臣が出難い理由も明白です。そもそも女性議員が少なく適材適所に選びにくい状況に、先の与党内の代表選挙が絡んできます。総理大臣に指名されるまでに多くの国会議員に世話になったのですから、助力した派閥内から大臣を選択するのは何ら不思議ではありません。マスコミはそれを面白がってお友達内閣と揶揄しますが、それは自然な成り行きではないでしょうか。民間閣僚も制度上は可能ですが、それまでのステップを無視して組閣する行為はその後の信用を失墜させるリスクが伴います。
民間企業ですら、例えば男性5名で起業して軌道に乗った所で「今日から役員にします」と女性を連れてきたらナンジャソリャ?となりましょうし、女性が女性の為に起業して、役員も社員も皆女性と言う環境に「男性比率が低いので今日から役員にします」と男性を連れて来られたら修羅場は免れないでしょう。それが古い政治の手法だ、馴れ合いだと言われようが、人と人の繋がりや成功までの過程を振り返れば、それもまた自然な行為なのです。
以上を鑑みれば、女性閣僚を多く出すには女性の国会議員を多く選出し、派閥を形成して内閣総理大臣選出のキャスティングボードを握らなければなりません。大統領が直接指名した人物が閣僚入り出来る政治形態の国であれば女性の比率も高いでしょうが、良くも悪くも日本はそうではありません。
そして思い出してください。そもそも、多くの女性にはその気がない事を・・・
7. GGGRの問題点-その2
後半2つのメインインデックス、経済部門における参画度と機会と政治的権限の有無の問題点を列挙します。
◯その国の女性自身の希望を無視して比較している
そもそもその気がないのだから順位が低いのは順当でありますが、それを以ってジェンダーギャップが存在し、女性が不遇な国である事とイコールではありません。
◯政治形態や選挙システムを無視している
民主主義国なのか共和国なのか、社会主義国なのか、また国家代表者は世襲なのか選挙で選ばれるのか等を全く無視しており、特に日本のような間接民主主義の国では指標改善すら不可能です。寧ろ、よくも言われっ放しで我慢しているなと言う印象すら受けます。
8. GGGRの順位を改善するには
以上のような全体像から、このGGGRはGDPの低い後進国において、経済・教育・健康について比較するには悪くなく、また独裁国における女性議員や閣僚の割合は指標として役に立つでしょう。逆に高所得国や間接民主主義の先進国にはうまく当てはまらず、余計なお世話の面が強そうです。
従いまして日本がランクを上げても得をする事は殆どありませんが、敢えてGGIを改善しランキング上位を狙うとすればどのような活動を取るのが有効かを考えてみます。
例えば健康と生存インデックスで日本が1位になる為には、まず男性と女性の健康寿命の差をより広げる必要があります。女性の健康寿命は世界最高レベルでこれ以上の上昇は望みが薄い。ならば男性の健常寿命を下げる、すなわち早死にして貰う事がGGIを上昇させる手段となるでしょう。
男性には再び喫煙を推奨し、大量の炭水化物やアルコールを与えて生活習慣病で亡くなって貰うのです。徴兵制を導入するのも良いかもしれません。日本のような男女平等に健康寿命が高い国は順位が下がってしまうのですから。
教育達成度なら、男子中学生や高校生を闇討ちでもしてみてはいかがでしょう。とにかく受験を妨害して進学を諦めて貰うのです。男女共に96%と高い進学率で、女子の進学率だけを上げるのは最早無理筋です。100%まで上げたとしてもたったの4%しか上昇しません。
そうであるならば、とにかく男子の就学率を下げる作戦が有効です。先述の徴兵制のように男子を受験から遠ざければ、男子の学力を削ぐにも一役買いそうです。その際、男女平等を理由に女子も徴兵されそうになるかもしれませんが、断固として拒否してください。
経済部門における参画度と機会においては、本来やりたくもない会社社長や役員を女性に押し付ける事にもなるでしょうが、とにかく数合わせの為に女性を重用しまくります。また、土木やインフラ整備を始めとする3K労働(=きつい・汚い・危険)は女性が率先して引き受けましょう。
他にも専業主夫を希望する男性を増やす事も重要です。男性から正社員の仕事を奪い、収入を下げます。逆に女性は正社員になり収入アップ。
いずれの方法もGGI上昇を強力に後押しします。
政治的権限の有無のインデックスなら日本は大統領制への変更が当面の目標となります。女性大統領が誕生し、大統領に閣僚指名権があるなら閣僚も女性が多くなります。また女性の閣僚が増えれば女性国会議員も増えるでしょう。
ですから手順としては、まずは大統領制導入を公約に衆議院で過半数を取るのです。国会議員を増やして、派閥を作って、内閣総理大臣指名選挙に立候補して、なんてやっていたら1世紀掛かっても女性の内閣総理大臣は誕生しません。
・・・と、心底クダラナイ皮肉を言わねばならない程、GGGRの評価方法には不可解な点が多く、ここまでお読みになった皆様も日本がGGIのまな板の上に乗せられる事がいかに愚かで、スコア改善を目標に掲げる事が不要であるかをご理解頂けたのではないかと思います。
9. 結論ーGGGRとの向き合い方
153カ国中121位である点については受け止めるしかありませんが、みなさんどうお感じになられたでしょうか?マスコミやSNSではジェンダーギャップランキングで121位の日本として、
◯男性の育児や家事への参画が少ないから低い
◯痴漢や性犯罪で被害者女性の落ち度を指摘されたから低い
◯女性を客体として消費し、性的搾取しているから低い
◯男性は生まれながらに加害性を持ち、女性は日常的に苦痛を受けているから低い
○夫婦別姓が認められていないから低い
○高齢男性が女性蔑視発言をするから低い
と都合良く引用し、ジャパンバッシングに利用するのを見かけます。しかしこれまでご覧の通りGGGRにそうしたサブインデックスは一切ありません。ですからそうした環境を変えたいが為にGGGR=121位を持ち出すのは全く見当違いで傾聴に値しないと言えます。
またGGGRの順位を改善するにはで述べた通り、土木作業や運送業を担ったり、統計上やりたくもなさそうな会社社長や役員、国会議員を目指さなければなりませんが、それが多くの女性にとって幸福な環境となるのでしょうか?
GGGRの問題点ーその1・その2でも指摘した通り、男女比率や男女差に特化した指標であるが故に、順位の上下が良し悪しの判断にならない事、僅差であっても順位が猛烈に下がる事も、このレポートの正当性にクエスチョンマークがつく要因です。
以上を総括しますと、GGGRの順位に一喜一憂したり、順位の低さを理由に日本の男女差を論う行為は最早不当です。同様にGGGRでランキング上位を狙う事も無意味ですし、このレポートを以って日本は女性不遇の国であるとは認定もされません。
GGGRに惑わされるのは今日で終わりにしましょう。今後は誰かが持ち出してきたGGI=121位と言う枕詞に耳を傾ける必要はありません。「GGI=121位だから~」とジャパンバッシングを展開する人の主張には何の正当性もないのです。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。
noteデビューを後押ししてくれたトゥーンベリ・ゴン氏と、本エントリーの発端となったFAG氏に感謝の意を表します。
出典
WEF:Global Gender Gap Report 2020 ( PDF )
社会実情データ図録:日本の「高校・大学進学率の推移」
朝日新聞デジタル:性差別により「消失」した女性、世界に640万人と推計(ニューヨーク=藤原学思 2020年6月30日)
Forbes Japan:性別選好による違法な中絶、インドの女児680万人を「消失」させる?
WHO:Healthy life expectancy (HALE) Data by country 2016
New Methodology Shows that 258 Million Children, Adolescents and Youth Are Out of School ( PDF )
UNESCO, UIS Education Statistics Data portal. 2017
グローバルノート:世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)
グローバルノート:世界の名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)
時事ドットコムニュース:【図解・政治】参院選2019・女性立候補者数の推移(2019年7月)
時事ドットコムニュース:【図解・政治】参院選2019・女性当選者の推移(2019年7月)
Wikipedia:内閣総理大臣指名選挙