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北海道で24時間勤務の除雪バイトをしていた女は私です

ある冬の日、北海道で18きっぷの旅をしていた私は、車窓いっぱいに広がる銀世界を眺めながら思った。

「この暖かい車内から外を眺めているだけでは、北海道の真髄は分からない」。

深々と雪が降る道北で、旅ではなく暮らしをしてみたい。ポジティブな面だけじゃなくて、ネガティブな面も含めて雪国の現実を知りたい。そんなことを考えていた時、道北にあるゲストハウスのオーナーのポストが目に飛び込んできた。

「今年も除雪バイト募集します」

ゲストハウスに住み込んで、除雪作業員として働く……これだ!すぐオーナーに連絡して、働かせてもらえるよう頼み込んだ。そんなこんなで2024年の年末から道北に滞在し、年が明けた頃から除雪バイトが始まった。


除雪バイトの1日

除雪場所は北海道幌延町のJR幌延駅。人口2,000人程度の小さな町にある、唯一の有人駅だ。基本的に24時間勤務で、シャワー室等は設置されていないので入浴はできず、睡眠時は詰所に用意された布団に自分用のシーツを敷いて寝る。

出勤の日のスケジュールはこんな感じだ。

〜除雪バイトの1日〜
( ˘ω˘)スヤァ⋯⋯( ゚д゚)ハッ!
6:30 起床
7:00 出発
8:00 出勤
前日のチームから引き継ぎを受け、
雪があれば除雪作業へGO。
なければ詰所にて待機。
11:30 昼休憩
12:30 除雪作業へ
1〜3時間除雪して、終わり次第終了。
詰所で待機して、降雪状況次第で出動。
21:00 詰所にて就寝
( ˘ω˘)スヤァ⋯⋯( ゚д゚)ハッ!
3:50 起床
除雪作業へ。1時間前後除雪して終了。
詰所にて待機。
8:00 退勤。引き継ぎして業務終了。

作業量や作業時間はどれくらい雪が降るかによって全然変わるんだけど、雪が降らないと1日2〜3時間しか働かない日もあれば、ヘロヘロになるまで除雪してもどんどん雪が降ってくる……なんて日もたま〜にある。

とはいえ詰所ではゴロゴロしたり本を読んだりスマホをいじったりと好きに過ごしていいし、どんなに忙しい日でも睡眠時間はしっかり確保されているし、列車が通る時間帯は除雪に入れないので、睡眠以外でも休憩はたくさんある。正直言って雪が少ない日は天国のようなバイトだ。

オーナーいわく、昔Xで「除雪バイト募集/24時間勤務/日給○○円」といったポストをしたところ「24時間勤務なんてブラック過ぎる」「だから人が集まらないんだ」とプチ炎上したそう。うける。

除雪=雪かきではない?

駅の除雪バイトの作業内容は、主にポイント部分や線路付近、踏切やホームの除雪。ポイントというのは列車の進路を分岐させるための装置で、これが雪で固まってしまうとうまく切り替わらず、「ポイント不転換」となって列車が停止してしまう。これを防ぐために、"カッチャキ"という道具で間に挟まった雪を砕いたり、プラスチックのブラシでかき出したりする。

これが地味に大変な作業で。雪が溶けて固まってガチガチの氷になっていたりすると、力いっぱいガンガンやってもちょびっとしか砕けない。永久凍土ですか?

あと、"側雪(がわゆき)"といって、列車が走る際にかき分けた雪が壁のように高く積もってゆくのだが、これを"ママさんダンプ"という道具でなるべく遠くに押す必要がある。

ママさんダンプ

これがまぁ〜〜〜キツい。汗だくだく。ダウンなんて着られたもんじゃないし、一緒に働いてた同僚は半袖1枚で作業してた。私は中高運動部で体力には自信があったが、なんせヒョロいので馬力が足りない。必死でママさんダンプを押すものの、足元は雪面を滑るばかりで、まるでランニングマシンに乗っているかのような滑稽な姿だったと思う。

除雪=雪かきのイメージがあったが、雪の弊害を避けるためにはふわふわの雪をエーイと放り投げること以外にも、大切な作業がたくさんあることを知った。

午前4時、まだ暗い線路を歩く特別感

朝早くに起きて出勤し、除雪作業で汗だくになり、暖かい詰所でゴロゴロして、近くのスーパーでおいしいものを買って食べて、また少し作業して、心地良い疲労感とともに眠る。結構気持ちがいいバイトだと思う。

中でも「いいなぁ」と思ったのは、朝の除雪作業のためにまだ暗い午前4時の線路を歩く時間。町は静まり返っていて、車も通らなくて、自分たちがザッザッと歩く音だけが聞こえる。ライトに照らされた雪面がキラキラと輝いていて、白い吐息はしばらくそこに留まってゆっくり消えてゆく。

そして、朝が来る。夜に一度死んだ町が息を吹き返すかのように、まばゆい光が駅に町に降り注ぐ。

幌延駅の朝
駅の裏

朝に交代するチームは70歳前後のおじいちゃんたちで、引き継ぎ事項や他愛もない話をして、「おつかれさまでした」と退勤する。朝の澄んだ空気の中、車に乗り込み、すぐ近くのセコマに寄って温かいおにぎりやチキンを買って車の中で頬張る。退勤後のご飯は3割増でおいしい。

車からの景色

朝日が射す帰り道はとても清々しい気分だ。よく晴れた日には樹霜といって木々の枝に霜がおりていて、宝石のようにキラキラと輝いている。外の景色を眺めながら、退勤後の少し眠たい頭で、同僚たちとぽつりぽつり会話するあの時間が結構好きだった。

女性が除雪ってどうなんだろね

「女の子なのに○○やって珍しいでしょ」みたいな話はちょっと苦手なのだが、こればっかりは力が要る仕事なので、女性が除雪バイトをするのはどうなんだ、という話もしたい。

まず、私自身はすごくやってよかったと思う。

雪の重さを知れた。スコップで雪を放り投げるだけが除雪ではないことを知れた。知りたかった「雪国で暮らすとは」に触れることができた。

ただ、周りにとってはどうだったのだろう、とも思う。

駅の除雪は、列車見張員1名+除雪作業員2名の合計3名で行う。除雪作業をできる人が2人しかいない中で、その片方が私のようなヒョロい女だった場合、もう片方の負担が増えてしまうのは当然だ。一緒に働いたのはゲストハウスに滞在していたメンバーだったので「全然大丈夫ですよ」と言ってくれたが、やはりこれが力持ちの男性だったらもっと楽に作業を終えられたのでは……と思ってしまう。幌延駅の作業員で女性は私ひとりだったので尚更。

明け方の幌延町

では女性にはおすすめできないかといったら、そういうわけでもなくて。除雪作業員として1シーズン勤務すると、翌年は"列車見張員"の講習を受けることができる。列車見張員の仕事内容は、除雪作業中に列車が来ないか見張ることで(ダイヤに合わせて作業しているので列車が来ることはほとんどないが)、その際は除雪作業をしてはいけない決まりがある。

つまり、力仕事ではない職種があるというわけだ。どちらにせよ1シーズンは除雪作業員として勤務しなければいけないが、その次のシーズンは「迷惑かけてるかな」とか思うことなくのびのびと働ける。ただ、1日お風呂に入れなかったり、男性と同じ部屋で寝ることに抵抗がある場合はやめておいたほうがよさそうだ。ちなみに私はどっちも全く抵抗ない。

そして、力持ちの女性と男性には1000%おすすめしたいアルバイトだ。今後も変動するのでハッキリ言えないが、給料もそこそこ良い。雪が少ない日には「いいんですか!?」と思うほどに良い。

なにより、こんな道北のド田舎の駅(褒め言葉)で合法的に線路に入って除雪作業ができる機会なんて人生でそうないだろう。私はきっと、雪の重さも、午前4時の線路も、勤務明けのセコマ飯のうまさも、ずっと忘れないと思う。


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おさつ いただいたチップでまた旅に出ます。いつかどこかで会えますように。