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ウェブサイトでローカルフォントの「游ゴシック」はもう使えない

Mac と Windows に無償で付属してくる日本語フォントに「游ゴシック」があります。両環境で共通して利用できる希少な「日本語」のデバイスフォントであることから重宝され、ウェブサイトでもCSSのローカルフォント参照で利用されるケースがありました。

「サイトの書体に “游ゴシック” を適用させるCSS記述方法」のような記事は最近になっても大変多く、あたかもMac・Windowsの全てのブラウザで表示可能と錯覚してしまいがちなのですが、

結論から言うと Mac の Safari・Brave・Firefox(プライベートウィンドウ)ではもうローカルフォントとしての「游ゴシック」をウェブサイトの表示に使うことはできません。(Safariにおいては5年前の macOS Mojave 以降から使えなくなっているはず…。)


フィンガープリント

なぜそんな事態になっているかと言うと、最近のブラウザ界隈の仕様の潮流としてプライバシー保護に重点がおかれており、各種ブラウザに強力な「フィンガープリント採取防止機能」が実装される傾向にあるからです。

フィンガープリントとはなんぞや?については以下が参考になりますが、要はコンピュータの利用環境から使用しているブラウザを特定するための情報です。


そしてフィンガープリントにはいくつもの種類がありますが、そのなかには各コンピュータにインストールされたローカルフォントの一覧の情報を利用して、あなたのブラウザを特定する「フォント フィンガープリント」と呼ばれるものも存在します。

例えばなのですが。購入してきたばかりのコンピュータに、一般には配布・販売されていない会社専用の「コーポレート」フォントをインストールしたとします。その状態でサイトにアクセスしたとき、ローカルフォントの一覧を取得できれば、それだけで訪れた人がその会社の人間だろうことを推察できることになります。

各個人のコンピュータにインストールされているローカルフォントは様々で、その一覧が他の人と完全に一致する可能性は低く、その違いでブラウザ特定の手助けとなってしまうわけですね。


フィンガープリントは銀行等の不正アクセスからの保護に役立てられたりとメリットもある一方で、ブラウザを特定できるため、広告のターゲットに利用されたり、悪質な場合には詐欺の手段に悪用されたりとデメリットもあることは確かです。

そのため各種ブラウザには、ブラウザの特定までに至ってしまう過度に詳細な情報を与えない為の、フィンガープリント採取防止機能が実装され始めています。Safari • Brave • Firefox は先行して強力な保護機能をすでに搭載しています。


Macでローカルの游ゴシックが使えない理由

ではなぜMacでローカルの游ゴシックが使えないかと言うと、これについては以下のページに記載がある通りなのですが、

Safariは、Accept-Languageとnavigator.languagesでユーザーの最優先言語のみをWebサイトに送信し、サイト側からはユーザーの現在の言語設定に対してOSが提供するフォントのみアクセスすることを許可します。BraveとSafariの主な違いは、Braveはトラッカーをさらに混乱させるためにデータソースをわずかにランダム化することと、Braveにはこれらの保護を無効にする機能が含まれていることです。

ブラウザの言語設定を用いたフィンガープリントからの保護 | Brave
  • Safari と Brave にフォント フィンガープリントからの保護機能があり、ウェブサイトにシステムフォント以外のローカルフォントの使用を認めない。

という点と、

  • Macにおいて游ゴシックは、無償提供はされているものの「追加ダウンロードフォント」の扱いであり、システムフォントではない。

という点にあります。

> Macのシステムフォントの格納フォルダ
/System/Library/Fonts

> 追加ダウンロードフォントの格納フォルダ(macOS Sonomaの場合)
/System/Library/AssetsV2/com_apple_MobileAsset_Font7


上記2つの条件を踏まえると、

Macに游ゴシックがインストールされていようと・いまいと、システムフォントではないのでブラウザの表示には使わせてもらえない。ということですね。

また、Mac版 Firefox は2023年11月現在は游ゴシックの表示が可能のようですが、「プライベートウィンドウモードでは表示不可」となる部分的なフォント フィンガープリント採取防止機能が実装されています。昨今の流れを考えると、そのうちデフォルトになってしまうのではないでしょうか。


今後ウェブサイトで游ゴシックを扱うには

これまで游ゴシックは、

  • ローカルフォントのためサブスクリプションの契約なしにウェブサイトで利用かつ高速で表示ができ、

  • MacとWindowsで共通して利用でき、

  • フォントそのもののプロポーションが美しく本文用フォントとして読みやすい

以上のことから一定のあいだ重宝されてきた面がありますが、最近のブラウザの仕様の変遷を踏まえるとどうも今後は「ウェブサイトで使えるローカルフォントはシステムフォントのみ」が標準化されていきそうな雰囲気です。

これまでも iOS や Android では游ゴシックを使うことは出来なかったことですし、どうしても游ゴシックを使いたければウェブフォントを使うのが最適解ということになりますが、ネックはページの読み込み時にフォントのロードも必要なことと、利用に費用が生じる点は踏まえないといけません。

ちなみにAdobe Creative Cloudを契約していればAdobe Fontsの「游ゴシック レギュラー」をウェブフォントとして使用可能ですし、REALTYPEではミディアムやボールドを比較的低コストで運用できます。


Chromeはどうなるのだろう?

ユーザー数の多い Chrome ですが、こちらは現在もユーザーがインストールしたフォントもローカルフォントとして扱い、ブラウザで表示が可能な仕様になっており、引き続きMacでも游ゴシックの表示が可能です。

気になるのは Chrome のフィンガープリント採取防止機能のアプローチなのですが、いまのところ他のブラウザほど強力な機能を搭載する予定はなさそうです。Googleは広告配信業者でもありますからね… 本音はフィンガープリント欲しいのだろうなぁ…。これ以上の情報はまだ追えていないのですが、どうなることやら。


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Takehiko Ono
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