MELT-BANANAインタビュー(前編):日本より海外の方が圧倒的に知名度が高いバンドの活動の実情
MELT-BANANAは今年で結成30周年を迎えた。あの衝撃的なデビューからもうそんなにたったのか……と感慨深くなってしまうが、去る6月17日にWRENCHとの対バンで見た彼らのライヴは、そんな感傷など軽く吹き飛ばしてしまうようなすさまじいパワーとカッティング・エッジなエネルギーに満ちていた。平たく言えば、30年前の登場時と同じように彼らは尖っていたし、2023年の今でも彼らのノイズはガリガリと時代に爪痕を残すような鋭い切っ先を突きつけていた。ハードコア・パンクやポスト・ロックやグラインドコアやノイズコアやオルタナティヴや、そんな流れから生まれてきた彼らは、今もハードネスとラウドネスとノイズとスピードとポップの最高値を弁証法的に更新し続けている。
MELT-BANANAは1993年にYAKO(vo)AGATA(g)を中心に4人組として結成された。1994年にZENI-GEVAのKK.NULLが主宰するNux Organizationからファースト・アルバム『Speak Squeak Creak』をリリース。ハードコアをベースにしながらも極度にスピードアップしたテンポとノイジーなギター、キュートな女声ヴォーカルのコンビネーション、ポップではじけ飛ぶような曲調の新鮮さで大きな話題となった。セカンド・アルバム『Scratch or Stitch』(1995)は、現在までのところ唯一の国内メジャー・レーベル(メルダック)からのリリースで、エンジニアをスティーヴ・アルビニ、ミックスをジム・オルークが手がけた。サード・アルバム『Charlie』(1998)は彼ら自身のレーベル、A-Zapからの初リリースであり、この頃から海外での活動が活発化していく。1999年にはジョン・ゾーン主宰のTzadikからアルバム『MxBx 1998/13,000 Miles at Light Velocity』を発表。英国のDJジョン・ピールから絶賛され彼の番組にたびたび出演するなど英米を中心に高い評価を受けた。その後もマイク・パットンやTOOLなどのツアーにたびたび同行するなど活動の場を広げていく。最新アルバムは『Fetch』(2013年)だ。
現在のMELT-BANANAのメンバーはYAKO(vo)とAGATA(g)の2人だけである。ベースが抜け、ドラムが抜け、2012年以降はサポートさえもいない2人だけのライヴ活動を続けている。打ち込みのブラスト・ビートをバックにAGATAが歪みきったノイズを叩き出し、YAKOがサンプラーを振り回しながらシャウトする。普通のロック・バンド、それも彼らのようなハードでラウドなロックをやるバンドとしては致命的とも思えるドラムとベースの不在が全く気にならない。それどころか、そのぽっかり空いた穴から、なにかまったく別の異様な触手が生えてきて、見たことも聴いたこともないような生き物に進化している、そんな印象さえある。
ここ20年以上、彼らの主な活動の場は海外である。検索すればわかるが、彼らに関する情報は圧倒的に海外からのものが多く、日本語で読めるものはごくわずかだ。私は10年前に『ミュージックマガジン』誌で彼らにインタビューしているが、それが17〜18年ぶりの日本の音楽誌の取材だった、というようなにわかに信じがたい話も聞いた。アメリカでもイギリスでもヨーロッパでも20〜30箇所のツアーを当たり前にこなす彼らが、日本では散発的にイベントや対バンに出演するのみ。彼らの活動の模様は「Patreon」という有料の会員制WEBスペースで頻繁に更新されているが、まだ十分に一般に浸透しているとは言いがたいだろう。そのせいか日本での彼らの認知は不当と思えるほど低い。
現在彼らは2013年の『Fetch』以来の新作を制作中である。リリースは2024年を予定している。本来であれば新作の完成を待ってインタビューすべきだが、その前に前記のような状況を少しでも変えたい、変えるべきだ……そんな一方的な思いから、このインタビューをオファーした。海外での活動、コロナ禍で遭遇した困難、ドラムがいなくなった経緯、曲作りのプロセス、新作の制作……話題は多岐に渡った。彼らの主だった音源はSpotifyなどのサブスクリプション・サービスで聞くことができるし、YouTubeでは最近のものも含めたライヴ映像が数多く上がっている(そのほとんどは海外でのものだ)。ぜひこの機会に、MELT-BANANAという日本が生んだ最も奇妙な、そしてパワフルでオリジナリティ溢れるバンドに興味を持ってもらえれば幸いだ。前後編の2回に分けてお送りする。
なおこのインタビューは7月に都内で行われたが、掲載まで3ヶ月以上もかかったのは、ひとえに私の怠慢からだ。メンバーのおふたりにお詫びしたい。
海外ツアーで感じた日本での限界
ーーMELT-BANANAは今年で結成30周年なんですね。
YAKO:そうですね。そうなりますかね。
ーー一口で30年といっても大変なことだと思いますが。
YAKO:でもやっている方からすると、もうそんなにたったのか、という感じ。20代とかはいろいろ試したり試行錯誤していましたけど、30代40代ってあまり記憶がないんですよね。特に30代の頃は海外で一番やっていた時期なんですけど、あまりに忙しいと時間の流れがわかんなくなっちゃうんですかね。
ーー30周年のイベントとかやらないんですか。
YAKO:いや、特に……(笑)。
ーーちょっとお聞きしたらニュー・アルバムのリリースも来年になりそうということで、どうせなら年内に出して「結成30周年記念ニュー・アルバム!」とか打ち出して派手にやればいいのに、と思いましたけど(笑)。
YAKO:うちらそういう周年イベントっぽいのってやらないんですよね。
AGATA:ファーストのレコ発(『Speak Squeak Creak』1994年)以来やってないんじゃないですかね。
YAKO:だいたいアルバムを出す時にはアメリカ・ツアーをそれに合わせて入れちゃうので、日本にはいないことが多いんです。アメリカ・ツアー中にアルバムがリリースされちゃうので、特にイベントみたいなのはやらないことが当たり前になってますね。
AGATA:全部自分たちだけでやってますからね。普通のバンドだとマネージャーとかレーベルの人とかが「周年イベントやりましょうよ」みたいな感じで盛り上げてくれるんだろうけど、僕らの場合、自分で自分の誕生日パーティーを企画するみたいな話になっちゃう(笑)。
YAKO:自分でやるのって結構面倒じゃないですか。チラシ作って配ったり、宣伝したり……
ーーライヴのブッキングとか物販とかウエブ・サイトの運営とか、そういうのも全部おふたりだけでやってるんですか。
AGATA:そうですね。恐ろしいぐらいDIYになってますね(笑)。
ーーでもそれで問題なく回っていると。
YAKO:問題なくはないですけど(笑)。全部やってるとやっぱり時間が足りない。事務的なことと音楽だったら、やっぱり音楽に時間使いたいし、それ以外のことはやっぱり面倒くさいです。
ーー30年の歴史で、海外での活動が主になってきたのはいつ頃からなんですか。
YAKO:セカンド?(『Scratch Or Stitch』1996年)
AGATA:でもセカンドはメジャー(メルダック)から出たから……
YAKO:じゃあサードだ(『Charlie』1998年)。
AGATA:サードで自分たちのレーベルを作ったので(A-Zap)。そこからは海外が多くなっていったんじゃないかな。少しずつ変わっていった感じだよね。見えないぐらいの速さで。
YAKO:サードを出した時にアメリカの流通会社の傘下という形で自分たちのレーベルで出したんですけど、日本よりアメリカの流通の方がしっかりしてたんです。だからそれに伴って何かツアーしようかとかいう話がどんどん増えてきて。
ーーインディーズの配給網も含めて、当時はアメリカのシステムの方がしっかり確立されていたから。
YAKO:そうですね。そうするとやはりツアーもしやすいし、アメリカは広いのでやる箇所も多いじゃないですか。そうするとどうしても海外でやるほうに傾いていっちゃう。
ーー最初は日本中心でやろうと思ってたんですか。それとも最初から日本海外関係なくやろうというスタンスだったのか。
AGATA:最初はとにかく音をしっかり作っていこう、バンドをしっかりやろうぜということで手一杯だったから。特にどこでっていうこだわりはなかったですね。
YAKO:最初にZENI-GEVAのKK.NULLさんがレコード出してくれたのが決定的だったのかな(『Speak Squeak Creak』はNULL主宰のNUX ORGANIZATIONからのリリース)。その時にアメリカに連れていってくれて。2回やっただけだったんですけど、ああこんな場所もあるんだっていうのがすごいインプットされちゃった。今思えば、その時にもう方向性は決まってたのかもしれないですね。
ーーなるほど。
YAKO:でも日本でやるのも楽しいからね。日本で全然やらないってわけではまったくないですね。
ーーたとえば同じように海外での活動が主になっている、ある日本のバンドのメンバーも日本のシーンに対する絶望感を口にしていていました。
YAKO:あー、でもその気持ちはわかりますね。これ以上を求めるのは無理だろうなっていうのは私も思う。たとえば日本国内で1000人2000人のホールを一杯にするようなバンドになるかって言ったら絶対ならないだろうなというのは思ってました。
ーー最初からそう思ってたんですか。
YAKO:最初はそもそもどれぐらいの規模のところでやろうとか、そんなことも考えてないもんね(笑)。
ーーバンドとしての将来像とか、目標とか。
AGATA:目標じゃないけど最初は、こういう人とやりたい、という話はしてました。でもそれも身近な人たちばかりだったので、わりとすぐ実現しちゃって(笑)。
YAKO:ここまで行くぞ!的な大きな目標というのは私は特に……
AGATA:うん、ただ一生懸命やってただけで。
YAKO:いい音楽を作れていればいい、という。
AGATA:そう。でも上限は見えたよね。TOOLの時に。
ーーああ、TOOLとツアー回ったんですよね。2007年ですか。
YAKO:そう。1ヶ月ぐらい一緒に回ったんです。ミスター・バングルとかファントマスと回った時は、凄いなーと思いながらもまだ親近感を持てるような感じがあったけど、TOOLとやった時は、こういう風にはなれない、というのをすごい実感しちゃって。
ーー当時のTOOLのツアーだったらアリーナ・クラスですよね。
AGATA:1~2万人ぐらいの会場ですね。それだけの規模のツアーを彼ら自身が全てを仕切ってるんですよ。そういう風に人を動かしていろいろマネージメントする能力は(自分たちには)ないなってすごい思いました。
YAKO:毎日トラック14,15台で移動してて。スタッフの人数もすごいんですけど、それがうまく回るように、最終的にはメンバーが全部見ている。すごい人たちだなと。
AGATA:音楽的にもね、ヘンな言い方ですけどロボットみたいなんですよ。なんでこんなことができるんだろうってぐらいの。
ーー正確無比な。ハードコア版のキング・クリムゾンみたいな。
AGATA:ああ、そんな感じですね。
YAKO:あの音楽性でここまで大きくなれるかっていうのがびっくり。すごいなあと。
ーーここは自分たちが目指すべき場所ではない、という。
YAKO:いや、目指してもこうはなれないな、という。
ーーその頃はもう完全に海外中心の活動になってましたね。
AGATA:そうですね。でも意識してそうしたわけじゃなく、日本だと同じだけ(ライヴの)本数入れるのが無理なんですよ。
ーーイギリスやアメリカだといつも20箇所ぐらいツアー回りますよね。
YAKO:そうですね。イギリスでも最近だと30箇所近いかな。
ーー日本でやるとすると……
AGATA:日本だと四国だけとか東北だけとか。全国を一気に回ったことはないですね。東阪名以外だと週末じゃないとなかなかライヴできないんじゃないですか?
ーー集客を考えるとそうかも。
AGATA:あるバンドに言われたんですけど、月火水は家に帰って木金土日はツアーに出てまた帰って……というのがメジャーだよと。
ーーそう考えると厳しいですね。日本だと結構知名度のあるバンドでも東阪名ぐらいしかやらないケースも多いし。
AGATA:もったいないですよね。もちろんアメリカも平日は人が少ないですけど、もっと気軽に遊びに来る感じはありますね。
ーー最近のMELT-BANANAの海外でのライヴ映像を見ると、すごく盛り上がっていて、新たに海外人気があがっている印象があります。
AGATA:こないだのアメリカ・ツアーは妙に盛り上がったよね。7年ぶりぐらいだっけ?
ーーえっ、そんなに間が空いてたんですか。
AGATA:ヨーロッパのあまり行かない国とか長めのイギリスツアーとかに行っていたら、なかなかアメリカでまとまったツアーを組むタイミングがなくて、それで全然行けなくて、やっと決まったらコロナでキャンセルになっちゃって。
ーーお客さんも待っていた。
AGATA:でもけっこう若い人が多かったんですよ。
YAKO:初見の人が多かった気がします。どこで知ったのかわからないけど。
ーー検索しても英語の情報はいっぱい出てきますよね。日本語の情報の少なさに比べて。インタビューもいっぱいあるし、MELT-BANANAについての英語情報を得るのはわりと容易です。海外での人気がそうした情報の多さに繋がっているし、情報が多いからこそライヴで新しいファンが増えている。いい循環になってますよね。
AGATA:どこかで見たんですけど、Spotifyのおすすめで知ったって人がけっこういるらしいです。
ーーアーティストは、たとえばSpotifyでどこの国のどこの都市でどの曲がよく聴かれているとか、そういう情報が見られるんですよね。
AGATA:でもなぜか日本のアカウントでそういう情報を見ようとすると、必要な情報が見られなくて……(以降、SpotifyやFacebookのビジネス・システム上の不備の話になるが略)……そういうことが続くとだんだん面倒くさくなってきて。それはほかの国のブッキング・エージェントの人も言っていて。なのでアメリカのエージェントの会社にはネット対策専門の人が雇われましたね。
ーーMELT-BANAはしばらくアルバムを出していませんが、その間に音楽鑑賞はサブスクが主流……というよりもほとんど唯一の手段になってしまいましたよね。CDとか日本ではまだかろうじて生きてますが、アメリカではもう死滅寸前です。
YAKO:物販見ててもアナログレコードかカセットテープ、という感じですね。
ーーだからサブスクの使いこなしはバンド活動やるにあたってとても大事なんだけど……。
AGATA:なんですけど、配信サイトのサブスクとかSNSとかこんな大変ならもういっかなあー、みたいになっちゃって(笑)。以前英国ツアーで会った若いバンドで、すごく面白い連中がいたんですよ。歌も演奏もうまくて、どこで音源聴けるのって訊いたら、どこも聴けないよと言われて。音源出すことに興味がないみたいで。こういう人もいるんだと思って、ちょっと僕にとってはカルチャーショックというか驚いたんですよね。
ーー例えばサブスク嫌いなアーティストっているわけですよ。取り分がめちゃくちゃ少ないから。そういうバンドはたとえばBandcampを使うわけですが、MELT-BANANAとしてはどういうスタンスなんですか。来年予定している新作は……
YAKO:まあアナログかな。でもそんなに売れないじゃん、ってマニュファクチュアしてくれてる社長さんに相談すると、何か作ればどこかで売れるんだから作りなよ、っていうぐらいのノリなんですけど……
ーー物販だとその場の勢いでみんな買うから……
YAKO:CDとか買いやすいですよね。だからCDとアナログと……カセットも出した方がいいのかねえ?
AGATA:どうなんだろうねえ?
ーーカセットのブームがいつまでも続くとは思えないけど……
YAKO:でもモノとして可愛いもんね。ダウンロードコードつけて出すことになるのかなあ、という。たとえばフィギュアにダウンロードコードついてれば私買っちゃうかも。
コロナで受けた影響
ーーなるほど。聴くためではなくコレクターズ・アイテムとしての価値ですね。物販で売るものはそういうことも重要ですね。話を戻しますが、海外での活動が主になって、コロナでライヴやツアーが中止になった影響は大きかったんじゃないですか。
AGATA:まず最初のタイミングが悪かったですね。ちょうど行く頃になって……ビザってとるために(現地の)弁護士に頼まなくちゃいけなくて。
ーーそれを自分でやるんですか。
AGATA:アメリカはそうですね。イギリスやヨーロッパはエージェントがやってくれますけど。俺らの感覚だとやっぱ日本人気質っていうかな、もし自分がツアーの日にコロナが収まっていたら、ビザ取ってないから行けません。というのは、コロナのせいのキャンセルじゃないじゃないですか。となると、どうなるか分かんないからビザは取っておかなきゃいけないってなっちゃって。
ーーそうですね、念のために。
AGATA:向こうの人は「無理だと思うよ〜」ってすごい言うんですよ。でも仮に急にコロナがおさまっていきなり来いと言われてもビザがなきゃ行けない。その判断をどうするか自分ではわからなくて。結局面倒くさくなってビザ取ったんですけれども、取れているけれども国境は閉じているので入れないみたいな状況になっちゃって。そのうち、いつもは1年間有効のビザをとるんですけど、目的をはっきりさせないととれない、みたいなことになっちゃって。
ーーああ、何月何日から何日まで何日間のツアーのため、みたいな。
AGATA:そうそう。1年間有効ならそのツアーが延期になっても、また予定を入れればいいんですけど、そんな感じだから、そのつど申請しなきゃいけない。そうなると次の予定が組みにくくなって。結局その決まってたツアーの後、もう一度ブッキングし直すんですけど、コロナが長引いて次から次にキャンセルになっていくんですよ。ビザを頼んでもそれが無駄になる、ということが続いて。
YAKO:ブッキングエージェントからすると、ツアーはキャンセルじゃなくて延期という形にしたいんですよ、チケットの払い戻しとかしなくて済むから。延期にしてまた次の予定を組むんですけど、それがまたコロナで行けなくて延期になって、ということが3回ぐらい続いて。
AGATA:アメリカもイギリスもヨーロッパも、ブッキング→キャンセル→ブッキング→キャンセルが続いて。だんだんエージェントに申し訳なくなってくる。その間エージェントはひたすら働いていても、俺らがツアーしない限りは一銭にもならないわけですよ。その心苦しさとか結構半端なかったよね。
YAKO:すごい無意味な、不毛なやりとりを延々やってた数年間だったよね(笑)。
AGATA:もちろん(自分たちの)収入うんぬんという苦労はあったんだけど、その間一番きついと思ったのはそれですかね。人にお金を払わないのにひたすら働いてもらうというおかしな状況をどう納得したらいいんだろうみたいな。
ーーああ……それは、そういう交渉事も全部自分たちでやってるからこそ感じる実感ですよね。スタッフがいて代わりに交渉していたらそこまで感じないかも知れない。
YAKO:確かにそうですねえ……
AGATA:ドイツのエージェントが「トゥルーマー・ブッキング」っていうんですけど、あまりにキャンセルが続いたから「トゥルーマー・キャンセリング」にしようって言い出して。向こうは冗談で言ってるんですけどこっちは一瞬ドキッとして(笑)。
海外ツアーの実情
ーーめちゃくちゃ立ち入ったことをお聞きしますけど、海外でたびたびツアーをやって、収支はどんな感じなんですか。
YAKO:まあ生活するぐらいには……ツアーやってるとだいたい週休1日ぐらいで働き続けるわけじゃないですか。だから会社行ってる人と同じように働いているとすれば、まあそれなりには入ってくるかなと。
AGATA:金持ち感は全くないですけど(笑)、生きていく分には。
YAKO:副業しなくて生活するぐらいにはね。
AGATA:それはやっぱり自分たちだけでやってるからだと思います。僕ら(既存の)レーベルでも仕事したことあるじゃないですか。そのレーベルの取り分とか考えると……今は2人だけでやってるんで、それでもできるかもしれないけど、これが(メンバー)4人だともう無理です。俺ら一番多い時でクルーを入れて6人でツアーしてたんですけど、今だと飛行機代もめちゃくちゃ高いし、赤字でしょうね。人数が増えると人件費と、それに伴うホテル代とか飛行機代とか急に増えるので。
ーーああ、でしょうね、
AGATA:僕らは人が必要な時、現地のハコで雇ってもらっているんですよ。この日は(物販の)売り子がいないと無理かなあ、とか。
YAKO:ステージが2階にあって、階段で機材を上げなきゃいけないとか。
ーーローディーやロード・マネージャーの役割ですね。
AGATA:いろいろ考えた結果、ひとりの人にずっと一緒に付いてきてもらうよりは、そういう(臨時雇いの)人たちの方がその日だけなのでめちゃくちゃ元気なんですよ(笑)。
ーークルマ移動だと運転もしなきゃいけないけど、それもご自分たちで全部やってるんですか。
AGATA:自分たち、というか主にこの人(YAKO)が(笑)。
ーーめちゃくちゃDIYですね!
AGATA:(Patreonの)ツアー日記読んでください!
YAKO:私そのために中型免許の限定解除して、30人乗りのマイクロバスまで運転できるようにしたんですよ(笑)
ーーマジですか(笑)。
YAKO:それじゃないとアメリカでは12人乗りのバンが借りられないんですよ。
AGATA:だからほかの日本のバンドもツアーしてますけど、そういうバンドはすごいなと思います。人を雇って、金銭的にね。
YAKO:マネージャーとかいて一緒にツアーを回ってくれたらすごい楽だろうなと思いますよ。
ーーでも運転まで自分たちでやるってけっこう珍しい気がしますけど。
AGATA:あ、でもヨーロッパとイギリスでは一人一緒に来てもらって。その人にもうほぼ何でもやってもらいますね。ツアーマネージメントもサウンドエンジニアもドライバーも全部兼ねてやってもらってます。
YAKO:古い付き合いなんで。だからアメリカよりはだいぶラクです。
AGATA:でもアメリカは逆に車社会なのでラクという部分もあるんです。クルマを会場の横につけて、機材は平らな場所を移動するだけなんで。ヨーロッパは結構階段を上げたり、結構不便な場所が多いのでクルマを止めるのも面倒だし。
YAKO:だからアメリカは二人で回れるっていうのもあるんです。
ーーなるほど。私はだいぶ前に某バンドのアメリカ・ツアーについて回ったことがありますが、たかだか1週間ぐらいでも結構キツかったので、長いツアーやるバンドはタフじゃないと務まらないと思いました。体力的にもそうだし、メンバー同士がギスギスしてきたり、よくあるみたいですし。
AGATA:バンドのツアーってやっぱり閉ざされた空間に近いんですよ。精神的に。金がなければホテルの部屋にこっそり入って大勢で泊まったりとかする。そこでお互い何か気に入らないことがあるとどんどん険悪になったりというのは分かります。
ーーたくさんメンバーがいたころと今では何か変わってきましたか。
AGATA:今の方が喧嘩しないよね全然。
YAKO:……まあ二人しかいないですからね。いちいち喧嘩してたらヤバイから……みんなで回ってたころはいろいろ……人数が増えると統制がとれなくなってくるから。
AGATA:あと1時間ぐらいで出なきゃいけないのに、この人だけ30分もシャワー使ってるのおかしくない?とか、そういう些細なことでモメたり……
YAKO:大人数いるとちょっと面倒くさい時がありますね。何時にここに集合とか何時までに来てねーとか、そういうのも全員に伝えなきゃいけないし。
ーーMELT-BANANAの場合、メンバーが減っていくに従って無駄なものがそぎ落とされて、いい状態になっていたという……
YAKO:ひとりの負担が増えて大変だけど、気楽は気楽かもしれないですね。
(後編に続く)
MELT-BANANAインタビュー(後編):たった2人のバンドが最強のハードコアである理由
(2023年7月12日 東京・渋谷にて)
(MELT-BANANA ライヴ・スケジュール)
11月11日(土) KATA&TIMEOUT CAFE( 東京・恵比寿LIQUIDROOM 2F)
11月26日(日) HOKAGE OSAKA(大阪)