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なぜデザイナーは組版の専門家のいうことがわからなくなるのか

タイトルの主語が大きすぎて炎上しそうなので、まずはじめに、ここでいう「デザイナー」は、イラレ(Adobe Illustrator)あたりからデザインを始めた、グラフィック寄りのデザイナー(縦組み長文などをやったことがない)のことを指します。
Illustratorでの操作を前提として説明します。図の原稿用紙のマス目も、Illustratorでつくったものです。InDesignは出てきません。
自分の経験を振り返って書いています。独学でやってるひとが迷い込みやすいルートなんじゃないかと思うので、何か理解の手がかりになるかもと。もし、そういう系のデザイナーだけど専門家の言うことはちゃんとわかるよ、っていう方いらしたらスルーしてくださいね
※用語の定義は、いちおうJIS規格(「JIS Z8123 印刷技術用語」など)に揃えています。ひとによって定義が違ってたりするので…


その1:字間は詰めるのがデフォだと思っている

ベタ組みとツメ組み

専門家の組版の話は、「ベタ組み」を前提として語られることが多いんじゃないかなという気がしています。原稿用紙に1文字ずつ詰めていく感じの配置です。

水色のマス目=仮想ボディと考えてください。

ベタ組みをいちおうここで定義しておくと、「字間を空けずに仮想ボディを接して文字を配置すること」です。
原稿用紙を重ねた状態だときれいに見えるのですが、外した途端に、文字と文字の隙間のばらつきが気になるひともいるんじゃないかと思います。とくにデザイナーはそういう傾向があるんじゃないかなと。
(わたしも今なら、原稿用紙を外した状態でもきれいだな、って思えるんですけど、デザインやり始めの頃は、。と」の間とか、」のあととか、「の前の隙間とか、「花火」だけぎゅっとしてるのが気になってたと思います…)

一方で、デザイナーが日頃よく目にしているのは、こういう状態(下の図)なんじゃないかと思うんですよね。文字のかたちに合わせて間隔を調整する配置です。ひとまず「ツメ組み」と呼ぶことにします。
(ツメ組みも定義が難しい言葉なので、この記事ではこの状態↓を指していると考えてください。『つくるデザイン』では「プロポーショナル組み」という言葉をつくってむりやり説明しました)

これはOpenTypeパネルプロポーショナルメトリクスだけオンにしたもの。
これを入れるだけで、フォント自体が持っている情報で、自動で字間が詰まります。
(ただし、句読点とかかぎ括弧とか、詰まりすぎな部分もあるので、
文字組みアキ量設定などで調整の必要はあると思います)

こういう状態にするには、
(a)OpenTypeパネルプロポーショナルメトリクスにチェックを入れる
(b)文字パネルで[カーニング:メトリクス]にする(メトリクスカーニング)
(c)文字パネルで[カーニング:オプティカル]にする(オプティカルカーニング)
などの方法がありますが、多くの人が使ってそうなのは、文字パネルの(b)かなあと思っています。OpenTypeパネルのは、存在に気付きにくいと思います。
(厳密にはそれぞれ結果が違うんですが、それについてはおまけのところを見てください)

上の操作のどれかひとつでもやると劇的に締まった感じになるので、感動とともに、「これがデザインだ!」って刷り込まれちゃう人も多いのではと思います(これは無理もないです)。で、ベタ組みのほうを「何もしてない初期状態」って思ってしまう。ツメ組みもベタ組みも、どちらもひとつの方法だということを知らないまま、ツメ組みにしなければ、と思っちゃうんじゃないかなと。

独学&てさぐり&勘でやってると、「日本語組版の基本はベタ組みです」というところをなかなか通らないと思うんですよね…。縦組みをやろうとして文庫本や文芸書などを見てみて、もしかして、縦組みは原稿用紙のマス目に詰める感じがデフォなのか…?(「ベタ組み」という言葉すら知らない)ということに初めて気づくというか。わたしはそんな感じでした。

(ベタ組みにするには、[プロポーショナルメトリクス]をオフにしたうえで[カーニング和文等幅]などにする必要があります。[プロポーショナルメトリクス]にチェックが入ったままになっていると、[カーニング:和文等幅]にしてもベタ組みにはならなくて、ベタ組みにならないな…まいっか、ってなっちゃうこともあるかもしれない。文字パネルと段落パネルに気を取られていると、OpenTypeパネルの存在は忘れやすいです。ベタ組みにするのは、この関係がわかってないと難しいと思います)

ベタ組みのデメリット

実際は、何もしてないように見えるベタ組みのほうが、きれいに見せるのは難しいと思います。まず、テキストフレームのサイズは、フォントサイズ刻みで設計する必要があります。この感覚、イラレメイン&ツメ組みで使っていると、なかなか育たないと思います(というか、知らないし、パラパラになるのになんでそんなめんどくさいことをしないといけないのかわからないと思う)。

ベタ組みの場合、テキストフレームのサイズをフォントサイズ刻みにしないと、
行末がフレームの端に揃わなかったりします。
しかも1行目は禁即処理が関係してるせいで、1文字分引っ込んでます。

行揃えを均等配置(最終行左揃え)にすると端は揃いますが、最終行だけマス目にきれいにはまった状態になるので、行ごとの文字数によっては結局のところ、「なんかばらついてるな…」という印象になります。
でもまあ、フォントサイズに合わせたとしても、禁即処理とか英単語、URLの挿入があると、どうにもならないことも多々あります。小書き仮名(「っ」とか「ゅ」)や括弧類、句読点が多いだけでも、行の文字数がばらばらになってしまうので。

行末をフレームの端に揃えることもできますが、この場合、最終行以外は字間が広がることになるので、
最終行との差が気になることもあります。

さらに作業途中でフォントサイズ自体を変えたくなったらどうよ…(行間も変わるし)とか考えると、現物がある程度できあがったりギリギリになってから「文字をもっと大きく」「すみませんテキストをこれに差し替えてください(文字数大幅増量)」みたいな指示が入りそうなケース(広告とかフライヤーとか)では、まあ融通のきくツメ組みで考えるよね…と思います。

ツメ組みの場合はテキストフレームのサイズの融通がききます
(でも、最後の行だけぎゅっと詰まってて他の行がぱらぱら、みたいな現象が起きることはあります)。
画像に幅を揃えたキャプションをつける場合、
ベタ組みだと画像のサイズもフォントサイズ縛りになるわけですが、
あと2ミリ縮めたい、みたいなこともよくあるので、
ツメ組みのほうが考えることが減って楽かなあ、と個人的には思います。

じゃあ手のかかるベタ組みはあまり使われていないかというと、めちゃくちゃ使われています。縦組みの小説は基本ベタ組みですし、新聞もベタ組み、横組みでも長文はベタ組みが多いです。手元にある商業誌を見てみると、よくわかると思います。書籍については9割くらいはベタ組みなのではと思われます。
ようは、フォーマットがころころ変わらなければ、ベタ組みできっちり設計できるんですよね。

あとそもそも、テキストフレームの存在を知らない、ということもあるかもしれません。イラレだと、クリックしただけで入力できるので、端を揃えなくていいテキストなら改行で間に合ってしまうし。

デザイナーに愛される約物半角

もうひとつ、デザイナーに愛されてそうなのが[文字組み:約物半角]なんじゃないかなと思います。
段落パネルでこれにするだけで、括弧類や句読点類の幅が半角扱いになって、隙間の空きすぎが解消されたように見える便利機能です。とくにキャッチコピーやタイトルなどの場合、かぎ括弧(「)などの前後の隙間が詰まると、文がひとまとまりにつながって見えるので、重宝すると思います。

(約物半角だけだとありがたみがわかりにくかったので、
トラッキングも追加して全体をちょっとぎゅっとさせています)

括弧類の隙間が詰まるときれい、っていう感覚に染まってしまうと、ますますもって、気になる隙間は詰めなければいけない、と考えてしまうだろうなと思います。

(これ書きながら、そういえば最近、約物半角に頼らなくなったな(わたしはイラレでは括弧類を全角にすることはほぼないので、文字組みアキ量のベースには使うんですけど)、ということに気づいたんですが、OpenTypeフォントならプロポーショナルメトリクスを使うだけで、括弧類もなにもかも詰めてくれるので、[文字組み:なし]でもどうにかなってしまうんですよね。約物半角にすると、組版原則が入る関係でむしろアルファベットの前後が空いてしまうし。OpenType前か、なんだかよく分からないまま手探りで文字を組んでいた時代に、約物半角を頼りにしていたのかもしれません)

その2:行単位でレイアウトする感覚がない

インデザには原稿用紙のマス目つきのテキストフレームフレームグリッド)がありますが、イラレにはそんなものありません。

見出しと本文の間にもうちょっと隙間を空けたい、と思うことがあると思います。

なので、行間の調整はでやってるひとが多いんじゃないかと思います。

こういうときは、行送りでいい感じに空けてみることが多いと思います。
行間はわかるけど行送りって何?という方もいらっしゃるかもしれないですが、
イラレの文字パネルの右上の設定項目がそういう名前です。しょっちゅういじってると思います。

ためしに、見出しと本文の間をいい感じに空けてみると、その次の行から原稿用紙とのずれが発生します。

適当に調整すると、だいたい原稿用紙とずれます。

ずれると何が困るかというと、2段組にしたり、隣のページと見比べると、行がずれているのがバレるという点です。でも、数ページにわたる長文じゃなければ、比較対象が近くに来ないと思うので、気にならないままかもしれません。あと、どのみち印刷時にページごとに多少のずれはあるので。

線を引くとわかるけど、パッと見では気にならないかもしれません。


行取りのありがたみ

インデザの場合は、文字を原稿用紙のマス目に吸い付けるという芸当ができ、見出しを2行分のスペースに配置する、といったことが設定で可能です(行送りの値を計算しなくていいので楽です)。行のずれはこれで防止できます。

イラレでも、フォントサイズと行間から計算すれば可能です。

2行分を見出しに使う、という設計にすると、ずれずに済みます。
あと、見出しのフォントサイズを大きくもできます。

原稿用紙の行を基準に文字を配置していけば、隣の段やページとの間に、行のずれがないようにできます。ただ、フォントサイズと行間の値ベースになるので、勘でいい感じに決めるよりは場所をくうと思います。

直前の段落とは間隔を多めに空けたい場合、見出しを挟むのに3行必要になります。
スペースがない場合、直前の1行空けは無しでいくこともあります。
見出しが下の段落に関係していることがわかりやすくなりました。

こういう操作を「行取り」というんですが、このメリットの説明なしに行取りのやりかたをえんえん説明されても、「何のために???」という疑問が先立って、なかなか頭に入ってこないと思います。
A5ページ・2段組で、上の段と下の段の行がずれている、とか、横組みの見開きで左右のページで行の高さが違うのが気になるな、と思ったときに、はじめてありがたみがわかるというか。ペラものが多いとわからなくても無理もないと思います。

2段組で、見出しを2行取りにした状態。行がずれていません。


見出しを2行取りにして、ベースラインシフトで見出しの位置を少し下げて、
見出しの直前の間隔>見出しと本文の間>行間にすると、
最小限のスペースで関係性をわかりやすくできます。
ちなみに、見出しや本文をツメ組みにしているのは、デザイナーはそっちのほうが見慣れてるだろうなと思うので。字下げも説明が複雑になるのでやってません。


縦組みと横組み

縦組みについては、タイトルやキャッチコピーなどをのぞくと、ベタ組みが多いんじゃないかと思います。ツメ組みかな?と思ってよくみると、禁即処理で追い込まれていただけとか。

縦組みについては、たぶん、右のベタ組みのほうが普段よく見慣れていると思います。

『つくるデザイン』にも書いたんですが、わたしはこれには、日本語の文字のかたち(とくにひらがなとカタカナ)が影響していると考えています。

あるときひらがなを全部書き出して、かたちを分類してみたことがあるんですが、「も」とか「し」とか「よ」とか、とにかく縦長気味の文字が多かったんです。もともと筆で縦書きしやすいかたちをしているはずなので、そうなるのもわかります。
それで、縦組みにするとベタ組みでも文字の間隔がそれほど気にならないのは、文字のかたちが影響しているんだろうなと目星をつけたわけです。

この比較↓を見てみると、正方形タイプのフォントですら、ツメ組みにすると、横組みのほうが詰まり方が激しいことがわかります(もともと横長ぎみにデザインされているフォントは除く)。

最終行がプロポーショナルメトリクス、それ以外はベタ組みですが、
横長系フォント以外はどれもけっこうぎゅっとしているのがわかると思います。
縦組みの場合、横長系フォント以外は、横組みほどはぎゅっとならないです。

なので、わたしは縦組みの長文はベタ組み、それ以外はツメ組みまたは状況をみて考える、という方法をとることにしています。

おまけ:プロポーショナルメトリクスとメトリクスカーニング

おまけの話です。
ツメ組みにした上で
、テキストにカーソル挿入+文字パネルの[カーニング]に直接数字を入力して字間を調整する場合(よく「手詰め」と呼ばれている処理)は、OpenTypeパネルの[プロポーショナルメトリクス]にもチェックを入れておこう、というそれだけの話です。

「プロポーショナルメトリクス」は、フォント内の情報で文字詰めをやってくれる機能。
「メトリクスカーニング([カーニング:メトリクス]にすること)」もフォント内の情報で文字詰めをやってくれる機能ですが、それプラス、ペアカーニングの情報も使って詰めてくれます。
「フォント内の情報」ってなんだろう…といつも思っているけど、
たぶんひとことでは説明しきれないのでそう言ってるんだろうな…と思っています。

最初の状態がこれとして、

全部同じに見えますが、微妙に文字それぞれの位置は違います。
プロポーショナルメトリクスかメトリクスカーニングにすると、
片方だけでもツメ組みになるよ、というサンプルです。
行末は揃える処理(均等配置)を入れています。

文字パネルで[カーニング]の値を直接変更してみると、メトリクスカーニングのみ設定したものだけ、間の空き方が激しくなります。ツメ組みにしたときに、手詰めすると思うようにいかない(値をマイナスにしたはずなのに、よけい間があくとか)、というときは、[プロポーショナルメトリクス]のチェックが外れていないか見てみるといいです。

[カーニング]を[0]から[200]に変更したもの。

なんとなくなんですけど、メトリクスカーニングにすると、いちおうプロポーショナルメトリクス+ペアカーニングの状態にはなるけど、数値を自分でいじったとたん、プロポーショナルメトリクスの設定がそこだけチャラになって、隙間の開きが大きくなるのだろうか、と考えて納得しています。これであっているかどうかはわからないけど、そのつもりでいれば、[プロポーショナルメトリクス]のチェック忘れは防げます。

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