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「DESIGNS 永野護デザイン展」大阪、福岡へ! 永野護さんインタビューを特別公開

月刊誌「Newtype」にて、漫画「ファイブスター物語」を連載している、デザイナー・永野護さんの初の大型展覧会「DESIGNS 永野護デザイン展」が、2025年に大阪と福岡でも開かれることが決定しました。これを受けて、Newtype 2024年4月号に掲載された永野護さんのインタビューを一部再編してお届けします。
※インタビューは、埼玉・ところざわサクラタウンでの開催時(2024年2月)に行われたものです。

(右から)永野護さんとパートナーである声優の川村万梨阿さん

見たがっているものを全部出してやれ

──「DESIGNS 永野護デザイン展」は連日盛況ですが、開催前は、あまり人が来ないのではと心配されていたそうですね。

永野 「花の詩女 ゴティックメード」公開時(2012年)に、期待していたほどは集客できなかったんですよ。10周年のリバイバル上映(2022年)のときくらい人が来てくれたら問題ないんだけどね。そんなことがあったから、今回は「ファイブスター物語」だけじゃなく、いろいろな人が見たがっている「ガンダム」シリーズや「重戦機エルガイム」も全部出してやれ、せっかくだしというのもあったんです。

──公開当時、「花の詩女」は事前に「ファイブスター物語」との関連を明かしていなかったですし、今より情報がSNSで拡散されていませんでしたから。

永野 久しぶりですよ。僕がこんなにSNS見たのって。ふだんはあまり見ないので、「花の詩女」公開時に1週間くらいずっと見ていたら気持ち悪くなったけど、今回の展覧会の評判が気になるのでSNSを見ました。来てくれた皆さんがどう思っているかわからないので、ガーッとSNSを見たわけですが、おおむね好評のようでよかったです。

──会場には40年以上前から現在に至るまで、ご自身の描いた原画やイラストが380点以上展示されています。実際に会場をご覧になってみて、いかがでしたか?

永野 絵が小さいな……と。単行本のカバーイラストもいちばん大きい第11巻や第13巻(縦1.2m以上、横1m以上)の3倍くらいの大きさで描けばよかったなと思いました。第1巻(85cm×64cm)なんか4倍くらいにすればかったって。第1巻のカバーイラストを描いた当時は小さいアパートだったから、あれより大きい絵は描けなかったんです。「寝るところないんだけど……」って(笑)。机に載らないから壁に掛けて塗っていたわけですよ。次のマンションに移ったときはB全の大きさも描けたんですけど、やっぱり大きい絵を描くのは目標のひとつでもあって、可能な限り大きく描きたいんです。ふすま2枚を合わせたくらいの絵を描いてみたいなって、いまだに思いますよ。まだ体力のあるうちにね。

──展覧会でカバーイラストの原画を見た来場者の方は、実際の大きさに驚いていたと思いますが。

永野 同じ場所で開催された「アニメ・クロニクル」(2020年)というイベントで、カバーイラストを2点飾ってもらったときは「まあ、こんなもんだな」って思ったんですけど、今回の展覧会では、なんでこんなに小さいんだ?って感じたんですよ。美術館とかにふらっと立ち寄って大きな絵を見ると、巨大=それだけで存在理由があるのがわかります。敬愛する(日本画の)牧進先生の絵もすごく大きいじゃないですか。絵を描く側としては大きい絵を描きたいっていうのはありますね。僕の絵を見てくれる人は単行本や雑誌のサイズで見ているわけだから、絵ってそういうサイズのものかと思うかもしれないけど、違うんですよ。だからあのサイズでも昔は連載を2、3か月休載してカバーイラストを描いていたけど、数か月かかる理由がわかってもらえたかな(笑)。ちょいちょいと描ける絵ではないんですよ。

──情報量を上げるには絵を大きくしないと、ということなんですね。

永野 だから「花の詩女」もなぜBlu-rayとかにしないのか、わかったでしょ? 会場に設置したモニターでチラッと見せたカイゼリンの登場シーンは画像も圧縮しているし、実際の劇場のスクリーンに比べて、映像も音も別物なんです。劇場用の映画は、あの大きさで見せるためにつくっていて、家庭内の小さな画面で見るものじゃないんですよ、本来は。もともとTVサイズでつくっているものは別ですけどね。なんで永野は「花の詩女」をBlu-rayにしないのかって言われるけど、いろんな作家がいるからおもしろいわけで、みんな「右にならえ」じゃおもしろくないでしょ。

──展覧会では、カバーイラスト以外にも1980年代の未公開スケッチなどがたくさん公開されています。

永野 展覧会に携わってくれたスタッフには心から感謝していますが、こういう昔の絵も展示する展覧会は「これ以上、俺の腹の中をじろじろ見ないでくれ。もう勘弁してくれ」というのが本音ですね。でも、皆さんが楽しんで写真を撮ってくれてすぐにSNSに上げているのを見ると、それくらい喜んでくれたんじゃないかって思うし、バンバン写真撮ってくださいと思いますね。

──「重戦機エルガイム」などの設定画に書き添えられた手書きの説明をていねいに読んでいる方がたくさんいて、時折渋滞しているようです。

永野 (笑)。ああいう細かい設定テキストは、メディアに載るときに消されちゃうこともあるからね。人それぞれ、楽しむ場所は違いますよね。

──会場で蛍光ピンクのオペラカラーを見て、その発色のよさに驚いた方が多かったです。40年以上前の「デス・アンカー」も退色していなくて。

永野 絵の具の顔料が退色したら、それは絵の具じゃないんですよ。下地の紙の色が残っていると、その下地の白が変色するから退色したように見えるんです。厚塗りすれば、絵の具自体がアクリルの保護膜になって色は変わらないんです。40年以上前に描いた「デス・アンカー」がなぜあそこまで蛍光ピンクが出ているかというと、蛍光ピンク自体がプラスチックのコーティングになっているから。それに、下地に白を塗ってからじゃないと発色しないんです。白を塗っているから下地の紙が白い塗膜で覆われて紫外線が当たっても劣化しない。なぜなら下地として塗っているのは亜鉛の白、ジンクホワイトだからです。僕は美大には行っていないので、こういった知識は自分で勉強しました。たとえば、カドミウムレッドとかチタンホワイトとかジンクホワイトとか、なんで鉱石系の名前が入っているのかなと疑問に思って文献を調べました。このオペラピンクとウルトラマリンブルーはアメリカで最も人気のある色で、なおかつ大正時代につくられたアクリルカラーのなかでも今までにない色だった。19世紀や20世紀初頭にはなかったけど、アクリルの合成が発達してできた色で、白を下に敷いて初めて発色する蛍光カラーだから印刷では絶対出せない色なんですよ。

「デス・アンカー」は商業デビューする以前に描いた作品

──原画、イラストだけでなく、各メーカーの新作を含む立体物が展示されたコーナーもあり、皆さん熱心に撮影されていました。

永野 各メーカーが一堂に会して展示する機会はほとんどないから、模型ファンから見れば、そこが醍醐味だよね。ひとつのテーブルに違うメーカーの立体が展示されていて、それぞれの特色を楽しめたんじゃないかな。ボークスの非売品の1/24ダッカスを展示するようお願いしたんだけど、あの会場だと巨大な立体が必要だったんです。1/72や1/100のツァラトラ(ツァラトウストラ・アプターブリンガー)は単体で見たらすごいボリュームだけど、あの広い会場だと小さく感じてしまう。ギャラリーサイズの会場でやる個展だと十分な大きさなんだけどね。さきほどの巨大な絵の話につながるけど、今回の会場には巨大なダッカスが必要だったんですよ。これだけたくさんの人が来てくれて、展示を見て、お土産にコラボグッズを買おうとしたのに売り切れが続出していたのは、申し訳なかったですね。

最新デザイン(取材当時)からは「ファイブスター物語」のGTMデトネーター・ブリンガーが大きく公開された

──最新デザイン&解説集「F.S.S. DESIGNS7 ASH DECORATION」(発売中)についてもお聞かせください。

永野 この展覧会の監修と並行して「デザインズ7」の準備もしていたから、担当編集も含めて本当に大変でした。あとがきにも書きましたけど、「デザインズ7」に掲載されるものでひと区切りとなって、次の「デザイン
ズ8」では、デザインラインそのものが変わったGTMが登場する予定です。あ、GTMから別のロボットに変わったりはしませんよ。かつてヤクト・ミラージュだったデトネーター・ブリンガーを描いて「デザインズ7」でこれまでのデザインラインが一段落した感じですね。デトネーター・ブリンガーはデザイン画自体が横1mくらいあって、せっかくだから展覧会で引き延ばして見せようとなって、あの巨大パネルになりました。「デザインズ7」はネタバレがすごいですよ。デムザンバラなどが載っていませんが、意図的に収録しなかったというのもあります。そこには何らかの理由があると思っていてください。

【取材・文:加藤智之(rainbow egg)】


【PROFILE】永野 護(ながの・まもる)
1960年生まれ。京都・舞鶴出身。デザイナー。1983年に日本サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)に入社。翌年放送のTVアニメ「重戦機エルガイム」で、キャラクターとメカのデザインを担当し、注目を集める。その後も、TVアニメ「機動戦士Zガンダム」などに参加。1986年より角川書店(現KADOKAWA)発行の月刊アニメ誌「Newtype」にて、漫画「ファイブスター物語」(読:ファイブスターストーリーズ)の連載をスタート。単行本は2024年の時点で17巻まで刊行(続刊中)されており、関連書籍を含めたシリーズ累計の発行部数は1000万部を超える。2012年には、自身で監督や脚本を手がけた、劇場アニメーション「花の詩女 ゴティックメード」を公開。デザイナーとして、オリジナリティあふれる唯一無二のデザイン(ロボット、キャラクターほか)を発表しつづけており、今なお多くのファンを魅了している。

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◆開催概要(大阪会場)

イベント名:DESIGNS 永野護デザイン展
会期:2025年1月17日(金)~2025年2月11日(火・祝) ※休館日無し
開催時間:10:00~19:00 ※最終入場18:30
会場:グランフロント大阪北館B1F ナレッジキャピタルイベントラボ
〒530-0011大阪府大阪市北区大深町3-1
主催:DESIGNS 永野護デザイン展大阪実行委員会
特別協力:株式会社エディット
協力:ニュータイプ編集部
会場協力:一般社団法人ナレッジキャピタル
展示協力:株式会社バンダイナムコフィルムワークス、株式会社創通、株式会社バンダイナムコエンターテインメント、ボークス株式会社、株式会社アワートレジャー、株式会社ウェーブ
※福岡会場の詳細は後日発表されます

1985年のサンライズカレンダー用に描かれた「重戦機エルガイム」のイラスト。この原画など数点が大阪会場では追加展示予定 (C)創通・サンライズ

◆入場券

◇前売券(販売期間は2024年11月18日(月)10:00~2025年1月16日(木)23:59まで)
一般:2000円(税込)
大学・専門・高校生:1800円(税込)
中・小学生:800円(税込)
〈販売場所〉ローソンチケットにて販売
◇大阪会場限定!グッズ付き前売入場券(アクリルクロック)
どの入場区分でも5500円(税込)
◇当日券
一般:2300円(税込)
大学・専門・高校生:2100円(税込)
中・小学生:1000円(税込)
〈販売場所〉グランフロント大阪北館1階カフェラボ横特設会場
〈当日券販売時間〉9:30~18:30まで