ゴール裏は、誰もが楽しめる場所。19歳女子大生が長崎で広める応援文化。【V・ファーレン長崎】
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V・ファーレン長崎の応援を引っ張るのは、Jリーグでは数少ない女性サブコールリーダー・みおうさん。幼少期からスタジアムで育ち、まさに英才教育を受けた彼女の笑顔の裏には、たくさんの努力と自身の経験に基づく強い想いがあった。性別や年齢の壁を越えて突き進む、異色の応援団員が目指すものとは。
【プロフィール】
福島美桜。2000年生まれ。V・ファーレン長崎設立当初からのサポーター。15歳で応援団体『ウルトラ長崎』に入り、昨シーズンのアウェイ徳島戦でコールリーダーとしてデビュー。今シーズンからはホームゲームを含む試合でコールリーダーを務める予定。Twitterアカウントはこちら。
私はコルリになる。そう確信していた。
取材班:みおうさんはいつからV・ファーレン長崎を応援しているのでしょうか?
みおう:物心がついた時にはバンデーラの中にいました!
取材班:すごい…(笑)。まさにスタジアムで育ったんですね。
みおう:私も当時の記憶はないんですけど、「V・ファーレン長崎」という名前が付いた2005年にはスタジアムで応援してたみたいです。当時のV・ファーレンは地域リーグで、バンデーラ(タスキ)の中に入っていた人は20人とか。女性ってなると片手で数えられる程度の人数しかいなかったです。
取材班:当時からバリバリ応援してたんですか?
みおう:応援にはぜんっぜん興味なかったです(笑)。小学生の頃から跳ねてはいたんですけど、スタジアムに行く理由はサポーター仲間に会うため。だから試合中でもスタグル食べに行ったり、どんぐり拾いに行ったりって遊んでました。
取材班:サッカー以外の部分に楽しさを感じていたんですね。
みおう:でも私、中学生くらいから薄々、「将来コールリーダーになるんだろうな」って予想してたんですよ。
取材班:急に!(笑)。中学生にしてそんなこと考えてたんですか!?
みおう:昔から応援してた人がどんどんいなくなっていったので…。多分今のゴール裏で初年度からガッツリ応援してるのは私の家族だけ。つまり、拒否権なしの英才教育なんです(笑)。
でも中学生くらいから応援すること自体に楽しさを感じていたので「ウルトラ長崎(以後:ウルトラ)入ってええやろ!」って両親にはずっと言っていて、高校生になってやっと許可が出ました。
取材班:その予想が見事に的中して、コールリーダーになられたんですね。
みおう:高校生の頃から拡声器をもった応援はしていて、はじめてコールリーダーを務めたのが、昨シーズンのアウェイ徳島戦でした。あの日、行きの車の練習では本当にボロボロだったんですけど、不思議と「絶対いけるわ!」って思ってて、本番はうまくやり通すことができました。今シーズンはアウェイ全試合でコールリーダーをして、慣れてきたらホームでも前に立つ予定でした。
誰よりもサッカーを理解したい。
取材班:少し話を戻しますが、みおうさんは高校入学とともにウルトラ長崎に入って、それに加えて学校では男子サッカー部に入ったんですよね?
みおう:最初は、週末の応援を優先するために写真部に入ろうと思ってたんです。でも私がV・ファーレンの応援をしてることを知ってる子が「ここの学校、マネージャーなれんって話聞いたかもだけど、行ってみたらなんとかなるかもよ」って誘ってくれて、まぁとりあえず1回だけ見学に行ってみたんです。
そしたら「マネージャーとしては取らんけど、プレイヤーとしてなら取る」って顧問の先生に言われて。
取材班:普通はそこで引き下がってしまいそうし、何ならマネージャーをする気もなかったんですよね?
みおう:それまでの私は、サッカーのルールが分からないのに応援してたんですよ。だから「ここでもし(男子サッカー部に)入ったら、サッカーのルールが分かるようになるよなぁー」って思うようになって。実際プレーしてみるのは面白かったので、とりあえず入ってみようかなって感じでした。
取材班:なるほど。でも正直、そこまでしなくても良くないですか??サッカーのルールだったら、誰かに教えてもらうことだってできますし!
みおう:プレーヤーの気持ちも分かってからサポーターの前に立とう、って思ったんです。拡声器持ってるやつがなんもルール知らんとかだったら、なんそれ?ってなるし、それやったらプレーヤーの気持ちもサポーターの気持ちも理解できたら完璧じゃね?って(笑)。人に何かを言う立場になるなら、それくらいしようと思ってました。
取材班:プレーヤー経験がみおうさんにもたらしたものは大きかったですか?
みおう:大きかったですね~。サッカーはチームスポーツだってことを学べたり、全力でやってるのにミスしてしまう時の感情が分かったり。
男子サッカー部では公式戦に出られないんで、高2から長崎大学の女子サッカー部で公式戦に出ていたんですが、初めて負けた時は「選手たち、こういう気持ちだったんだ」って理解することができました。
取材班:それに加えて、高校時代に審判の資格も取ったんですよね?
みおう:はい。部活をしながら3級の資格をとって、いまも審判として活動しています。これもやっぱり「プレーヤーもできて審判もできればサポーターとして完璧じゃね?」って考えがきっかけで取得しました(笑)。
取材班:そんなサッカー漬け生活と並行しながら、ウルトラ長崎での立場はどう変わっていったんですか?
みおう:サポーターの前ではじめて拡声器を持ったのは高2でした。サブコ(サブコールリーダー)っていって、コールリーダーから少し横に外れたところで拡声器を持ってました。慣れるまではとにかく緊張しましたね。
自分の声が、ホントに大勢の人に届くんですよ。まず何言えばいいのか分からんし、煽るような言葉も全然出てこんし、何か言ったとしても早口だし…。
でもサッカー部での経験はすごく活きました。たとえば「主審が言ってること違うだろ!」って荒れることがあるじゃないですか? でも私はなんで笛を吹いたかも分かるし、何より主審が言うことって絶対なんですよ。「いくら言っても変わらんし、いいけん声出そうぜ」って言えるのはサッカー部での経験があってこそだなって。
取材班:改めて聞きますが、みおうさんがそこまで全力で向き合える原動力はどこにあるんですか?
みおう:自分の中にずっとあるのは、上に立つのって相当な責任を伴うってこと。そこに立つなら、選手の気持ちもわかりたいし、みんなに指示を出す人がダメだったら、ついてきてくれる人もついてきてくれない。
たとえば「お酒飲みながらやるぜー!」ってのもいいとは思うんですけど、もし自分が選手だとして、お酒飲みながら「もっとやれよ!」って言われたら、「もっとやりたくならんわ」って思って。選手が頑張りたくなる応援をしたいじゃないですか。
だからこそ、「前に立つならそこまでしなきゃいけなくない?」って私は思います。お立ち台に立つことには、そういう責任感があるのかなって。
私と同じ思いをさせたくない。
取材班:みおうさんはどんなゴール裏を作っていきたいですか?
みおう:全員が応援できるゴール裏にしたいんです。
昔一回、ロープでくくりを作って「ここはガッツリ応援する男性だけ」ってしたときがあったんですけど、「え、なんで?」って思ったんですよ。「私だって全然声出すし飛ぶし、なんで女ってだけで真ん中に行けんわけ?」ってめっちゃ思ったときがあって。その経験があるからこそ、女の人でもやれるしって思いが出てきて、だから全員が応援できるゴール裏にしたいんですよ本当に。
応援したいのにできないってホントにつらいんですよ。私はそれが嫌なんですよね。「女だから応援できない、子供だから応援できない、いや関係ないし!応援するならいいやん!応援できるとやったら誰でもしたらええやん!」って思って、ゴール裏にみんなを誘ってます。
取材班:そのために普段から心掛けていることはありますか?
みおう:常に笑顔でみんなの前に立つこと! とりあえず、ここに来たら楽しいぞって思わせたもん勝ちだなって。何をやるにも楽しくないと続かないじゃないですか? サポーターがスタジアムに来てくれるのは、楽しいからとか、みんなに会えるからとか、私がV・ファーレンを応援し始めた時の理由と似ていると思います。
だからいかに楽しい思いをさせられるかが大事だなって思います。よくウルトラの代表も試合後に「片付けせんでいいけんが、みんなに挨拶しておいで」って私に言いますし、サポーター同士のコミュニケーションは大事にしています。
あとは前に立ってると、サポーター一人ひとりの姿がよく見えるんです。「あれ、あの子めちゃ飛んでない?」って思ったら「めちゃ飛んでるやーん」って言いに行ったり。どっかのナンパか!って感じですけど(笑)、でもそんな風に楽しい雰囲気を広げていきたいです。
取材班:逆に、楽しさだけでは難しい時ってないですか?たとえば、目の前の人が棒立ちで試合に見入ってたらどう感じますか?
みおう:応援って自由なんですよ。飛んでないからって強制させる権利はないんですよ。だから、その人をどう飛ばせられるかの戦いです。
「今は選手たちがつらい時間だから、声出して後押ししてやろうぜ!」とか、どうやったら自分から飛びたいと思ってくれるかなって考えてます。「おい!そこ飛んどらんぞ」とか言うんじゃなくて「今のコルリの声よかったけん、俺らもとばんば」って思ってくれるにはどうしたらいいか。私がその人を飛ばせるような盛り上げ方をしてないんだ、って考えになっていきました。
取材班:なるほど。では試合後の反応なんかも、無理に一つにまとめようとはしないんですか?
みおう:ウチらの考え方は、「ブーイングする人がいるならすればいいやん、拍手する人がおるなら拍手すればいいやん、でも拍手しよるけんっていって、『ブーイングしよるやつら拍手しろよ』って言ったり、ブーイングしよるやつらが『何でお前拍手しよってん。拍手やめてブーイングしろよ』ってのは絶対せん」なんです。それは個人の自由だから。
自分の意見を伝えればいいやん、って考え方ですよね。ブーイングでも拍手でも自分の考えを叫ぶでも、一人一人を尊重できるゴール裏がいい。「ウルトラはみんなを代表してるだけで、強制する力はないから」ってことを父がずっと言ってて、小さいころからそれを聞いてた影響だと思います。
取材班:これは私の勝手な憶測ですが、性別や年齢関係なく一人一人を尊重できるみおうさんの姿勢は、男子サッカー部に女子として入った経験に関係がありますか?
みおう:顧問の先生が本当にいい人で。重い荷物を私が持ってても「そこはさ女の子やけん、もってやらんばやろ」みたいなのが全くなかったです。女の子扱いじゃなくて、同じ人として接してくれたから、男も女も関係なくできるよって考えが大きくなりましたね。合宿でカレー3杯食わされた時は死ぬかと思いましたけど(笑)。
取材班:V・ファーレン長崎を愛する者全員で、ゴール裏を盛り上げていきたいんですね。
みおう:日本ではコアサポで固めたゴール裏がかっこいいって言われるじゃないですか? 私もかっこいいとは思います。でも、小さい子からお年寄りまで全員がゴール裏に集まって、声出して、みんなが楽しめるスタジアムの方がアツくね?って思うんですよ。そっちの方が絶対アツいやんって。
後ろでウロチョロしてる子がいたら、「おいで!席空いとるけんさ、ちょっとおいで!」って声かけてみたり、親しみをもってもらえるようにTwitterを始めたり、でもやっぱり「バンデーラの中に入るのは敷居が高くて…」って話はちょくちょく聞きます。まだまだ敷居が高いと感じるかもしれないですけど、誰だって本当にウェルカムなのがウチの団体の特徴なんです。
サポーターの輪を広げたい。
取材班:以前「他サポも長崎のゴール裏に来て!」と呼びかけるツイートをしていたかと思いますが、応援団体の方がそのような発信をするのはかなり珍しい印象を受けました。
みおう:他のチームのサポーターが、長崎のバンデーラの中で飛ぶことは全然あるんですよ!長崎県民って、たとえば道を聞かれたら行き先まで一緒についていくとか、「おもてなし精神」がとにかくすごくて。それを生かしたゴール裏を作ることも目標の一つです。
取材班:みおうさん自身も、他サポと積極的に交流してるんですか?
みおう:してますしてます!浦和サポとフットサルしたときも、元々怖いイメージだったんですけど「めっちゃ面白いやん浦和って!」って思ったり。長崎で流しそうめんしてるときに、たまたま北海道のサポーターも食べてて、一緒にそうめん食べただけなのに今でも遊ぶほど仲良かったり。他のサポーターって知れば知るほどいい人たち多くて、交流しないのが逆にもったいないって最近は思うようになってきました。
取材班:スタジアムの中だけじゃなくて、スタジアムの外でも人と会う楽しみを作ってるんですね。
みおう:私はこの15年間、サッカーに関わったことによってたくさんの人と出会えました。それがサッカーの楽しさでもあると思っているから、みんなにも知ってもらいたい。応援の本気度は関係なく、同じサッカーを愛している人なら絶対楽しいんですよね。
もちろん、自チームへの誇りが前提にあっての楽しさです。「あ、久しぶり~!今日も勝ち点3もらうわ!じゃあね~!」って私はいつも言ってます(笑)。
あとは他サポと交流することで、絶対に負けたくないチームが出てくる。私はそれが栃木。長崎にいた選手が栃木に移籍したのもありますけど、仲いいサポーターがいるからこそ負けたくねー!ってなります。試合が終わってから両チームのサポーターが混ざってごはん食べたりとか、交流が増えれば試合がもっと楽しくなるってことを広めていきたいですね。
やっぱりサッカーは楽しい。
取材班:最後になりますが、みおうさんがコルリをしていて一番嬉しい瞬間はどんな時ですか?
みおう:例えば攻められてるときに棒立ちしてる人が、私の言葉を聞いて飛んでくれたりしたときが嬉しいです。あとはゴール入れた後の景色がめっちゃキレイなんですよ。傘を回すのもそうですし、サポーターのみんなが周りの人とハイタッチしているのを前から見るとめちゃくちゃキレイで、見てるだけで楽しくなります。
取材班:壮観ですね…!この景色が原動力になっていますか?
みおう:そうですね。あとはサッカー自体が男の競技みたいになってるじゃないですか? ウチのウルトラは女性も多いんですけど、他のチームのサポーターと交流しても、ガッツリ応援している女性をなかなか見つけられなくて。女でもここまでやれるよってのを見せるのが、私の中では一番大きいかもしれないです。そういう先入観にとらわれずに、応援する楽しさを感じてもらいたいです。
取材班:楽しいからスタジアムに来る。みおうさんが幼少期から変わらない部分ですね。
みおう:コロナで失ってから初めて気づくじゃないですけど、やっぱ週末は楽しかったなって思う自分がいて。やっぱサッカーは楽しいんですよ!点決まって喜んだり、サポーター同士で遊んだり、まずは私が楽しみながら、みんなにもその気持ちを感じてもらいたいです。
【了】
----------nest編集部より----------
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