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100日目で死んだワニくんで100日目からカネを稼ぐのが悪い3つの理由。

ワニ。めっちゃ話題になってますね。ってか、炎上......してますね。

これ、そもそもなんだけど「書籍化されない」「MVで使われない」「映画にならない」と本気で考えてた人ってどれくらいいるんですかね。多分、本気の本気で「作者はお金にしない」と思ってた人は少ないんじゃないでしょうか。いい大人がタダでずっと漫画描くほうが不自然でしょう。当たり前。

それなのに「結局カネもうけかよ」的な批判が百出するというのは、ほんと民度が低いなーって、ぼくは最初思ってたわけですよ。つーか、タダで100日間も楽しませてもらってたやつらが何をグダグダ言ってんだって。頭悪いんだろうなーって。

そう思って、ワニ、読んでみたんですよ。1話から100話まで。ツイートも読んでみたんですよ。この最後のカネ儲けに批判的な人の投稿をいくつか。

で、読んでくうちに、彼らが何に怒ってるのか、だんだん理解できるようになってきて。しかも、その怒りはある意味、非常にもっともだなと思うようになったんですね。

あ、もちろん批判は結構ですが、嫌がらせはダメですよ。なんでも作者のきくちゆうき先生や、スッキリ!で自身が予想する最終回を描いた犬山紙子先生に対して悪質な嫌がらせが大量にあると聞きました。そういうのは絶対にダメです。

でも「100日目に死んだと思ったら映画化したワニ」に「ふざけるな」と思うのは自由だし、それがなぜなのかを考えるのは、別に誰も傷つけないですし、何より「死について」我々が考えている、非常に重要なポイントに触れている。そう思うんですね。

単なる金儲けが悪いわけではない

今回の展開について、Twitterで批判している人のツイートを冷静に見てみると、単なる金儲けが悪いと言っている人ばかりじゃないんですよね。「金儲け自体悪!」みたいな人もひょっとしたらいるかもしれないけど、多くの人はどちらかというと、その「手法」に「ガッカリ」を表明していると感じました。

1)死んですぐ
2)電通案件

ここらへんに「ガッカリ」と言っている人が多い印象です。

まあ、確かに、これ、わかりますよね。100日目で「ワニくん.....」ってなってるところに「はーい!ワニくんロスのみんな! 映画化も書籍化も決まってるからね!」って。

多分、きくちゆうき先生にお金渡したい人なんて、ナンボでもいると思うんですよ。下手したら映画化、グッズ化などしないほうが、カネも評価も手に入ったかもしれない。ただ、このやり方が気に入らなかった。

「100日目で死んだワニくんで100日目からカネを稼ぐ」こと自体は悪くない。でも「やり方が汚ねえよ!」というわけです。もうちょっと掘り下げて考えてみます。

理由① 強烈な愛着を動員に使われた

1)2)からわかることは、作者もその周辺も「死ぬ前から死んだあとのことをかなり具体的に考えてた」ってことです。

自分たちが「ワニくん死んでほしくない......」などと切に思っている間、「売る」側は「そういう気持ちの連中からいかにして全方位からカネを巻き上げるか」ばかり考えてた。そして、そのことを隠そうともしてない。だからワニが死んだその日に「祝!映画化!」「ビバ!書籍化!」と言っちゃうわけです。

ワニくんに感情的に強烈にコミットしていればいるほど、そしてその「死」を、単なる漫画の「オチ」ではなく、本物の「それ」に近く感じていればいるほど、また、作者のきくちゆうき先生の漫画が上手ければ上手いほど---いきなり「100日後に死ぬ」と言われてほのぼのとした絵柄のワニくんの漫画が登場するところから、たった4コマ x 100日で「ワニくんの死に耐えられない」まで持っていく技量が高ければ高いほど---読者は逆説的にも「動員された」と強く感じるはずです。

ただの漫画キャラ「ワニくん」に対し、これだけの気持ちを起こさせる人なんだから、その気持ちから購買意欲をわかせるところまで持ってくのだってわけないよな、ということです。

そうすると、読者としては、ワニくんに対する強い愛着と、その愛着を用いた動員との間に認知的不協和が起きる。その不協和を「金儲けだ」という批判で断ち切ろうという。そういう反応だったのではないかと思います。

理由② ワニくんを二度殺した

2つ目の理由。これは1つ目の理由よりも、さらに抽象的です。ワニくんは同じ日にふたたび「殺された」。それが許せない。どういうことでしょう。

作中、残念ながらワニくんは死にました。が、そのことに文句を言う人はいないでしょう。最初から「100日後に死ぬ」と宣言されていたのだから。

問題は書籍化、映画化した場合、この「100日後」という設定が、Twitter上で発表したようには機能しない、とうことです。

ぼくも話題になったので、あとでまとめて作品を読みましたが、これ、毎日一話ずつ読んできた人とは、まったく体験した世界、違うだろうなと。

1日目には「死」は100日後。だから「死ぬ」と言われても、どこか「ぼんやり」しています。実際、100日って3か月程度ですからね。余命三か月を宣告された人は「実感がない」とよく言います。自分の死であったとしても、それくらいの感覚だというのです。

そして、これが2日目、3日目......n日目となっていく。「死」が近づいてきます。それなのに、ワニくんの日常に「それ」を思い起こさせるものがない。言ってみたら、ほとんど1日目と変わらない世界がそこにある。

ところが、ただその「死」が近づいてきてると「知ってる」だけで、同じ日常がまったく異なるものに見えてくる。それこそがまさに「この作品」のキモだったと言っていいと思います。

100日間。毎日少しずつクレッシェンドする「死」の足音。100日間、ほのぼのした日常に触れることで「死のグラデーション」を突き付けられる読者体験は、まさにTwitterというメディアだからこそ生まれたものでした。

これが書籍化されたらどうなるか。

ちょうど「後追い」したぼくがそうだったように、1日どころか、1時間も読むのに時間かけないわけですよ。その読者体験は、Twitter上でリアルタイムで追っていた人のそれとまったく異なるものになるでしょう。

仮に書籍化されなかったら......。

非常にアーティスティックな作品として「完成」したはずです。一言で言えば、伝説になった。

ところが、その伝説になることを、作者や電通は拒否した。それによって、伝説が死んじゃったんですよね。つまりワニくんは作中で、そして作品として、同じ日に二度「殺された」というわけです。ここに納得がいかないという批判です。

理由③ 「ワニくんの死」を我々から奪った

そして3つ目の理由。2つ目の理由とも重なるのですが、ぼくにはこれが最も本質的な批判だと思われます。どういうことかというと、非常に抽象的な話になるのですが、

作者は我々から「ワニくんの死」を奪った。

当然のことですが、死は二度とその対象を取り戻すことができない、究極の喪失です。

その究極の喪失を、ワニくんのそれを、読者は一度受け入れた。100日間かけてじっくり、そしてその最後の日に、それでも突然の出来事を、狼狽しながらも------受け入れたんです。

いや、この言い方も正確じゃないな。えっと......そんなに簡単に「死」って受け入れられないんです。だから、より正確に言うと「これからもしばらくは、時間をかけてその死を受け入れていく」はずだったんです。

ワニは100日目に死んだけれど、生きている私たちにとって彼の死は100日目で終わらない。101日目、102日目と続く、はずだった

もちろん「ワニくん」は「フィクション」の存在でしょう。でも、仮にフィクションだとしても、その「死」をこれから時間をかけて受け入れていく。そういう「楽しみ方」だってあったはずです。

非常に不謹慎な言い方になりますが、「死の熟成」「死のエイジング」とでもいうか。それは『ワニ』のような作品を100日間、時間をかけて「味わってきた」読者が、作品の根底で理解していたことだったのではないか。

ところが、作者や電通は、そうした読者のメンタリティに真逆のムーブをしてしまいます。

ワニくんロスだろ?
喜べ! 書籍化されるから
映画化もされるよ
LINEスタンプだってあるし、
いきものがかりの「いきる」MVも見てね!

ナメとんか。

我々読者が望んでいたのは「ワニくんの死」なのに、作者や電通サイド(販売サイド)は「それでもまだ"生きている"ワニくん」を与えることで、読者から「死」を奪ったんです。

それは、たとえフィクションであったとしても「死」を軽んじた振る舞いであり、また「読者のレベル」を低くみた、「ナメとんか」な動きだった。

今回、Twitterで一番多く目にした批判は「余韻が奪われた」でした。

「余韻」と言うと曖昧ですが、要するに「1日前に死んだワニ」「2日前に死んだワニ」という楽しみ方を、まだまだこれからずっと続く「死」を読者は奪われてしまった、ということではないでしょうか。

「ワニくんに死んでほしくない」。読者はそう口にするかもしれない......。もちろんその「気持ち」に偽りはないのだろうけど、それでも他方でそれは「死んでほしくないもの」だからこその「死」を正しく受け止めたかった、という思いの表出だったのだと思います。

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