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東京の水はどうやって飲めるようになってるのか?

先日、東京都の持っている巨大な水源林にいってきた。
デジタル技術も都市を支えるインフラの一つになりたい。その際、水道局、下水道局、港湾局、交通局などの既存の都市インフラの先輩部局の在り方が参考になるのではと思いインフラ系部門の現場に時間をみては行って話をきいてる。
これが毎回、滅法、面白い。今回は水道局の奥多摩から山梨県甲州市にかかる水源林に行ってきた。以前に行った金町浄水場と併せて都市インフラのおもしろさをみなさんが知る機会もないと思うのでメモをもとにまとめてみた。(間違いあったらごめんなさい)。

水道局の仕事は木を植えるところからはじまる


水は森から生まれる。明治初期は水源の笠取山などもすべて裸山だった。まったく木がないくらい乱伐されていた。江戸期は守られていたが明治維新の時代の転換点で乱伐で裸山に。

これはまずい、ということで東京市長の尾崎行雄も視察に来た。日比谷公園で有名な本田静六博士も来た(noteの表紙画像もその時の写真)
百年前と現在の山の景色の違い

明治時代に東京の水を安定供給しようという問題意識から水源林が始まった。東京の水道や水源を守るため、多摩川上流の山梨県を含めて山林を購入。山梨県の土地まで分水嶺のこっち側は全部おさえるという行政区割りの発想ではなく流域発想がすごい。(関西では心無い京都人や大阪人が滋賀県を揶揄すると「琵琶湖の水とめたろか」で滋賀県民が優しく返答する伝統があるが多摩川水系では成立しない)
最初はヒノキ、カラマツなどの針葉樹を植える。ヒノキなどで人工林を植えて40年くらいかけて成長したら間引く。間引いたところに順次、広葉樹を導入して混合林に。混合林にして最後は極相林へ。数百年かかる遠大なプロセスで水源林が生まれる。
林業職の公務員がいて木の勉強を大学で専門的にした人が働いている。

森はどのように維持管理されてるのか?

水源林は多摩川の源流に位置していて東京都の水源の約2割は多摩川水系。約25000ヘクタールの森。
この広大な森は約260の林班という単位に分けて、さらに小班(約5100)に分ける。森のベースレジストリ。何年に何を植えていつ間伐したのか?の記録がずっと残っている。まずは台帳を作って現状把握し記録するから始まるのはジャンルが違っても仕事の基礎。

森林の状態を定期的に調査し、数値化してデータベースで記録している。樹高、直径を記録。平成11年度からパソコンでデータベースになったが以前は紙で管理している。記録は明治から残っている。
標準的な樹木の成育データは、地域ごと、樹種ごとに整理されて参照できるようになっている。実際の木の樹高などを測って参照値と比較すると成長状態が標準値と比べて良いか悪いか?の把握ができて森の健康状態を測定する。数字を測定するの大事だけど何かと比較することで意味合いが出てくる。ジャンルが違ってもどの仕事でも共通の所作。

水源林をまもる700キロ以上(785km)のネットワーク
水源林の中に700キロ以上の道をつくり管理している。多い日だと維持管理に10キロくらい歩く。100人の関係者で維持管理をしている。獣道も使って整備する。
専用の靴があったり専用のナタなどの収容道具もあってアウトドア好きとしてはつぼった。渓流づりできそうな渓があったり歩いてたらシカに出会ったり昔は裸山だったとは思えない豊かさに。天然のなめ茸も門外不出のポイントがいくつかあるらしい。マニアはたまらないですね。

水道局職員の林業職が愛用する専用シューズ。これ欲しくなりますね。

林道70キロと作業道10キロ、歩道700キロ。モノレール11本。これらのいろんな道を使い分けて毛細血管のようなネットワークで作業の道をつくる。
その際、歩道も職員が自らつくる。これは熟練の技で上手い人がつくる歩道は崩壊しにくい。歩道のための木材は現場で木を切り加工している。台風後にそれらの道が崩壊しないか?もっとも緊張が走る。
笠取山の登山道を歩いてたので、この道の先端はどこですか?と聞いたら青梅がトレイルヘッドらしい。青梅駅の裏からずっとつながってるとすると、青梅ー雲取山ー甲武信岳ー瑞牆山(みずがきやま)ー八ヶ岳のロングトレイルが連なっているのではないか!?。20年くらい前は奥多摩の山をトレランで走り回っていたけどこのロングトレイルはいつかULスタイルでスルーハイクしてみたい道。
鹿の被害を防ぐために鹿柵が約160キロ。鹿のふんを観察して生息数などの状況を推定している。歩いてる途中で鹿もみかけた。マダニ被害は山好きの人で話題になるのでどうかときいたら、職員も被害に遭う人もでている。被害を避けるため森から出るときは目視でお互いに点検。

広大な水源林は二つの法律で守られている。森林法の中でも水源かん養保安林の指定がありむやみに切ってはいけないし切ったら植えるルールになっている。もうひとつは自然公園法。秩父多摩甲斐国立公園になっている。治山と砂防は違う。森林法は治山。水道局も扱う(主管は産業労働局)。規制はやみくもに緩和すればいいっていうものではない。

首都圏の2割の水をまもるための小河内ダム


水源林の下に小河内ダムを建設。鉄道も引いて小河内ダムを作った。いまも線路の跡が残る。当時は国内で計画された最初の大型ダムであり、その建設技術が国内にはなかったので海外の著名なダムを調査・研究して設計した。海外から学ぶというのはデジタルサービス局でももっとやらないといけない。虚心坦懐に世界でもっとも進んでる人から学ぶのが成長においてはいちばん効率がいいし安上がり。
ダムができても水不足は続いた。1964年の東京五輪のときは水不足が深刻。東京砂漠と言われたり、小河内だから「しょうがない」とか言われた。そこで多摩川だけでなく利根川水系の利用も始まり供給体制が多重化されて改善。近年では八ッ場ダムの貢献も大きい。
巨大なダム湖に見えるがそれでも満水状態で1ヶ月半くらい水需要をまかなえない。
昭和43年以降ダム下の放流口(第一号取水管)からは放流はしてない。そこまで水位が下がったことはない。なぜか?小河内ダムに大きく依存していた東京の水道は、東京オリンピックが開催された昭和39年にダム湖の水を使い切ってしまった。今は利根川・荒川水系が優先。小河内ダムの水は東京水道の切り札。
奥多摩は日本でも有数の急な土地、渓谷。しかしダムの土砂堆積率は約4%で低く抑えられている。なぜか?水源林もあり土砂の流れを抑えている。森を守ることでダムも守られる。

ハードとソフトのテクノロジーのライフサイクルの差
ダムは作って終わりではなく運用されてはじめて価値を出す。その運用サービスは60 年にわたって継続されている。当たり前だがその当時のものがちゃんと運用されている。デジタルの場合、60年後に今作ったサービスを維持運用できるだろうか?民間サービスの場合は数年でトライアンドエラーやスクラップアンドビルドで済むが行政サービスはそうはいかない。ダムの運用はトライアンドエラーできないしましてやダムは気軽にスクラップアンドビルドはできない。
デジタルのライフサイクルの速さと行政サービスや都市インフラのライフサイクルの長さ。このミスマッチをどう調整していくのか?は都市にデジタル技術を入れる際の大きな課題になると感じた。
ダム建設では19年で87名が亡くなった。そのおかげでいまも水が飲める。
当時のコンクリート柱を10本、保存している。そして10年に一回コンクリート破壊検査で強度測定しコンクリートの劣化度、強度を測定している。
コンクリート柱はあと10本ある。ゆえにあと100年は物理的に強度測定ができる。それ以降は…新しいことを考えないとね。
ダムの放流をコントロールする仕切弁が1600ミリの巨大な鋼板弁。巨大!。いつの日かダムを運用しながら部品交換するかは技術的課題。ダムは頑丈なだけに大きな機械をいれかえるのは大変そう。
ダムの中は9℃しかない。夏もクーラー状態。湖底の水温が低いから。
ダム内に長い糸が垂れ下がっている。x軸y軸のダムの傾きの測定をしている。デジタル的にも測定している。デジタルとアナログの二系統で数値が一致するかで見ている。デジタルの測定を二重化するのではなくデジタルとアナログで別系統で測定して数値の一致を見る系統を分けて多重化。
最近完成したダムは八ッ場ダム。ダムの基本構造は変わってない。そう考えると昔の人の設計はすごい。コンピュータのない時代に手計算であれだけの構造物をつくった。

昭和36年からデータ測定が継続している奥多摩湖
昭和36年から定点で水質測定をしている。連綿と記録を取り続けている文化。現在は深山(みやま)丸という船でダム湖の水質測定をしている。貯水池内の水質測定は10箇所で実施し、貯水池全体の水質状況を把握している。水温や濁度などを測っている。近年は気温上昇に伴い、水温は多少上がりつつある傾向とか。
アオコの発生などを監視。発生すると水質に影響する。分画フェンスでダム全体への広がりを止める。また下流の浄水場に早期に伝えて浄水場での処理方法を最適化に役立てる。
単発の計測は意味ない。大事なのは継続測定。だから毎週測定をしている。

深山丸からの水質測定の様子

水深を選定したうえで水を放流する。選択的取水。平成4年から実施。理由は冷水対策。湖の底の方の水温が低い。これを放流すると下流の水温が下がり魚の生育などに影響が出てしまう。だから今は、ダムの深度方向の水温を測定し、ダムに流入する水温とそろうように水深を狙って放流している。

金町浄水場で活躍するタナゴ

川の水を浄水場で処理して都全体に1日400-500万トンの水を水道局は供給している。東京ドームで約4杯分!の量を供給。
水需要は歴史的に見るとピークからは少し下がっている。みなさんの節水意識が大きい。
取水して高低差を使って沈殿池で汚れを落として、オゾンを吹き込んで汚れを粉々に分解し活性炭で吸着させて微生物で分解する。配水池に貯めて都内の水道管に12台の巨大ポンプで送り出す。
約27,000kmの水道管が東京の地下に埋設されている。文字通りの巨大ネットワークに圧をかけて水を送り出している。
水の浄化と送り出しには電力を猛烈に使う。電力を少しでも減らすために水の需要予測をデータ解析して最適な量を作るようにする。たとえば水の需要は一日のうちで朝・夕がピークになるからそれにあわせて多めに作る。あとはサッカーワールドカップの決勝戦やオリンピック・パラリンピックなどの特異日や気温でも変わるのでこれらの過去データを学習しつつ需要予測。ワールドカップのハーフタイムはみんなが一斉に使うので備えないといけない。
100万トン級の処理ができる巨大浄水場が4ヶ所、あとは中規模が多数。巨大浄水場は1つが災害で壊れても他で賄えるように冗長性。
巨大浄水場から給水所に水を送る。これは送水。そこから各地区に送るのが配水、さらに家庭に送る。これが給水。
給水所がノードになっていてキャッシュのように水をある程度貯めて需要の動きを吸収して家庭に送る。
載せられるところには太陽光パネルを置いて電力を賄えるようにしているが追いつかない(水を作るところの節電よりも家で水をお湯にしたりするところでCO2が発生しており水のライフサイクルで見たほうがいいのかも)
大地震が来ても耐えられるように耐震補強中。テロ対策が大事で万全の警備体制で特殊対策訓練も。
水質がとにかく最重要。だから何重にも水質管理の仕組みがある。おもしろかったのが生物「も」利用して多重化していること。タナゴを飼っている。タナゴの水槽に筋電位を測定するセンサがついていて活動量を測定している。毒物が流れてきて水質が悪化するとタナゴの活動量が変わるのでそこをモニタしている。なんでタナゴですか?->金魚やメダカに比べてタナゴは毒物への反応と誤検知とのバランスがちょうどいいと。
水源林も守っている。奥多摩に持っていて手入れをしている。そこで落ちた水は伏流水となって数十年後に水道になる。広葉樹が大事。
機械的な技術にデジタルの技術、そして微生物までも駆使して水が供給される。

雑感
「魚は水に感謝しない」という格言があるが、都市インフラというのは利用している人が特別に感謝をしなくなるくらい当たり前に馴染んでこそ本物なのだろう。水道に関しては水道局ができて100年以上かけてこの域に辿り着いた。行政におけるデジタルはまだまだだ。先輩技術部門のように当たり前のように高品質を提供できるようにならないとね。逆説的だが誰にも感謝されないくらい当たり前の品質を上げたい。

もうひとつは改めて都庁はエンジニアリング文化の組織だと感じた。特にデータ。水道局では森林から水質に至るまで明治から連綿とデータを取り続けている。そしてデータをもとにインフラ運営や森のメンテをしている。このデータ文化がなぜデジタルサービスづくりだけが受け継げてないのだろうか?あるべき姿に正しく踏襲することが大事だしその素養はあるはず。けっして行政とエンジニアリングやデータの相性が悪いわけではないと勇気づけられた。

参考情報


東京都の水道局の水源林の情報やツアーの案内

上下水道という仕組みが人類と都市にとってどれだけ巨大なイノベーションだったのか?を最初に知った本。現代的な都市では当たり前と思っている「新鮮な水」「清潔なトイレ」「冷たい冷房」などなどの諸機能は実装当初は最先端技術で苦労の歴史だったことがわかります。元祖スマートシティともいえる本。

東京の先祖である江戸はどうやって誕生したのか?江戸時代のスマートシティプロジェクトともいえる斬新な取り組みの数々。

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伊勢神宮をはじめ長期的に人と森の関係を育んできた日本の森林文化のドキュメンタリー映画。何度もみたお気に入りの作品。

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