「渡辺明九段 膝の手術で1ヶ月休場」に考えさせられたこと
要約ポイント
将棋の渡辺明九段が膝の前十字靭帯断裂により、順位戦の対局を途中で中断。
長年の正座による負担で、すでに靭帯が損傷していた可能性が指摘されました。囲碁界では世界戦の影響で椅子対局が主流となっていますが、将棋界では
伝統的な正座での対局を重視しています。趙治勲九段の交通事故後の棋聖戦など、過去の事例を交えながら
対局環境の改善について考察しています。
はじめに
今回は、将棋の渡辺明九段が膝の怪我で
対局を途中で中断し、しばらく対局への
参加をお休みすることになったという
ニュースについて、私が感じたことを
お話しします。
この放送は、プロ棋士40年、囲碁
サロンと子供囲碁道場を運営する
三村智保が、囲碁の情報をサクッと
伝える番組です。
対局中の体調不良について
対局の時には、盤の前に長時間正座を
するということが、囲碁の棋士でも
将棋の棋士でも同じです。
今回、渡辺明さんは歴代4位のタイトル
獲得数を誇る大棋士でありながら、
ブログを毎日更新されたり、Xでの
投稿もされて、積極的に情報発信を
している非常に人気のある大棋士です。
対局の内容で負けるのなら良いですが、
体調不良で途中放棄することは棋士に
とって最も辛い決断です。それほど
痛みがひどかったということでしょう。
渡辺九段の怪我について
今回の怪我は、フットサルをしている時に
起きました。膝の前十字靭帯断裂という
診断で、膝の中の前側にある靭帯が
切れてしまったということです。
40歳でフットサルをやっているという
ことは、相当のスポーツマンだという
ことが分かります。サッカーの審判資格も
持っており、子供の大会で審判を務める
など、本格的な取り組みであることが分かります。
正座による身体への影響
重要なことは、すでに長年の正座によって
7割ぐらい靭帯が切れていた可能性が
あるということです。正座が原因で靭帯と
半月板も損傷していた、としたら怖い話ですね。
私も藤沢秀行名誉棋聖門下として、研究会
や合宿で長時間の正座を経験してきました。
後半になると膝が痛くて、角度を変えたり
組み替えたりしますが、痛みが止まらず
集中できなくなることもありました。
囲碁界の対局環境
私の道場では現在、椅子対局を採用して
います。時折、合宿などで床に座って
対局することがありますが、現代の子供
たちは1時間も立たずに音を上げます。
囲碁の場合は世界戦があり、中国・韓国の
棋士との対局ではテーブルと椅子を使用
します。日本のプロ棋士も現在は7-8割が
椅子対局です。
将棋界との違い
将棋界は和室で対局という伝統を
重視しています。
一方、囲碁界は世界戦の影響で椅子対局が
増えており、日本棋院会館も7割ほどが
洋室化されています。
ただし、タイトル戦など重要な対局ほど
正座での対局が増える傾向にあります。
日本棋院の最高位の対局室「幽玄の間」
は畳敷きで正座での対局となります。
過去の事例から
棋聖戦の例では、趙治勲棋聖(当時)が
交通事故で大怪我を負い、椅子対局を
することになりました。対戦相手の
小林光一九段は畳に座り、高さを合わせて
対局したという事例もあります。
私たちの世代は正座で気合いが入る感覚が
ありますが、10代20代の若い棋士たちは
椅子対局が当たり前となっています。
おわりに
今回の渡辺明九段の事例を通じて、正座
による身体への負担について、改めて考え
させられました。今後の対局環境の改善
に向けた議論が進むきっかけとなる
可能性もありそうです。
この記事は「三村九段のミム囲碁ラジオ」第114回の書き起こしです。音声での視聴はこちら↓↓