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[書評] ボブ・ディラン『はじまりの日』

ボブ・ディラン『はじまりの日』(岩崎書店、2010)

ボブ・ディラン『はじまりの日』

ボブ・ディランの名曲〈Forever Young〉の絵本。ポール・ロジャースが絵をつけ、アメリカ生れの日本語の詩人アーサー・ビナードが歌える日本語訳にした。

子供が読んだら最高と思うが、ディラン・ファンの大人が読んでも最高の絵本だ。

この歌で思い浮かべる色は何だろう。若草いろなど、ぴったりじゃないかな。

岩崎書店がつけた本の帯がそんな色を思わせる(下)。

ボブはどんなことを思ってこの歌を作ったんだろう。

本書を開くと、まず見返しのところに、次の文章が引用してある。

「ぼくはひとりアリゾナ州(のトゥーソン)に行って、そこで息子のことを思いながら『フォーエバー・ヤング』という歌をつくった。べつに作詞作曲をやろうと意気込んだわけじゃなく、自然にうかんできて、そのままできあがった。なるべく感傷的にならないようにと、ちょっと努力しただけだ」
               ボブ・ディラン

これはディラン・ファンなら、にやりと笑みを浮かべながら(その真偽はともかく)いかにも言いそうなことだなと、思うかもしれない。

だが、それよりも、その文章のずっと下のほうに、こんな言葉があるのに目を見開かされた。

「ボブ・ディランの歩んできた道のことを“ロック”って、呼ぶんだよ」
               みうらじゅん

そうなのだ。息子を思ってつくった歌には違いないのだろうが、そこには脈々とロックの精神が宿っているのだ。みうらさん、さすが。

本の最後に「この本の絵について」(ポール・ロジャース) という文章が載っている(本書では、ふりがながついている)。

絵を描くにあたって、ぼくはボブ・ディランのいろんな歌をくりかえし聴いた。たぶん、聴かなかったアルバムはないのではないかと思うくらい。そしてディランの音楽だけでなく、彼に勇気と影響をあたえた人々のことも思い浮かべ、絵にはそういう人々を登場させた。ここでぜんぶ説明してしまうと、読者のみなさんにとって自分で見つける楽しみがなくなるので、少しだけ絵の中の「どこ?」と「だれ?」を語っておきたいと思う。ディランの歌を聴きながらページをめくっていけば、きっと新しい出会いがあるにちがいない。(ちなみに、うちの息子ネートのいちばんのおすすめアルバムは、1966年に出た『ブロンド・オン・ブロンド』だ)

こう述べて、解説が始まる。扉の絵は、ニューヨークの有名なライブハウス「ガーズ・フォーク・シティ」の前で歌うウディ・ガスリだ。〈ギターケースのステッカーには「これはファシストをやっつける機械」と書いてある〉。

いきなり物騒な言葉の登場だ。対象読者年齢が5-8歳となっているが、その子が大人になったころに、この言葉の意味が分るだろう。

4枚めの絵の詩句 'May you always do for others and let others do for you.' は、私見ではディランの生涯を象徴する言葉だ。本書では、「まわりの 人びとと たすけあって いけますように」とビナード氏が訳し、ロジャース氏は興味深い絵をつける。

この絵(公園に集まっている人びとを描く)の絵解きをするだけでディラン・ファンなら何時間でも語り合えそうだが、ロジャースも説明していない、右端の魚を積んだトラックは、あの畢生の名曲 'Visions of Johanna' 最終連のことに違いない。

8枚めの絵には本棚が描かれ、ディランが影響を受けた文学書が並ぶ。ホイットマン、パウンド、エリオットの3人の詩集がかたまって置かれており、感慨深い。

#ボブディラン #絵本

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