テックブログは続かない - 何サイトか潰した後にブログが有名な企業に転職しての気づきと反省
これまでエンジニア採用を中心に社内の協力が必要不可欠であることについてお話させて頂きました。この協力の最たるものがテックブログです。採用担当1人ではできず、協力を仰いだ数名でも続かない。全社的に巻き込まないと達成されないのがこれらのブログです。
私自身、これまで企業ブログ・テックブログが危篤状態になったり、看取ったりしたこともあります。「見栄えが悪いので更新するか閉じるかしてください」とよく言われたものです。しかし一人ではどうにもなりません。
その後、LIGという有名ブログを抱えた企業に入りましたが、その裏側ではかなりな努力と全社での理解が感じられました。今回はどのようにしたら採用まで効果が期待できるほどのブログに成長できるのかお話していければと思います。
採用としてのテックブログの意義
何故企業ブログやテックブログをするのでしょう。インバウンド営業を狙ったものも当然ありますし、社内報的に利用している企業も散見されるようになりました。では採用としてはどうしたものが期待されるでしょうか。
ここ数年流行っているスカウトでよく見かける展開ですが、スカウトを受け取った時に対象者は基本的に「どこの企業からだろう?」と思います。名の知れた企業であれば即座に興味の有無でジャッジします。しかし知らない企業の場合は検索することになります。プロダクトや事業を知った次は、中の人について調べるわけですが、ここで人となりと技術を知ることができるのがテックブログです。
採用をしていると「シニアエンジニアのアドバイスを受けて自身の技術的成長をしていきたい」という声を少なからず聞きます。こうしたことを仰る方の現職ではテックブログや社内勉強会は存在しない傾向にあります。つまり飢えている状態です。まずはきちんとテックブログを更新をしていること、そしてレベルが低すぎないことさえ意識すればこの要求事項は達成されるケースがほとんどです。
エンジニア採用を進める上で、一緒に働くことになるであろう人たちが直接情報発信をする場であるテックブログの重要性は増しています。これがヘッドハンターや紹介会社だと、仲介する方が有能であれば代わりにプレゼンしてくれるケースが多く、ギャップを埋めてくれます。しかしスカウトだと興味を引いた後に個人の「ググり」に引っかかるかどうかです。記事があればあるほど目に止まりやすく、共感できるポイントが増えていくので有利になります。逆に「紹介会社より安価だから」と何も発信をしていない企業がスカウトだけしても苦戦します。
テックブログが死ぬ要素
「会社を盛り上げるために協力してくれ」で始まったブログは多く見ましたが、概ね最初の一ヶ月盛り上がって終わります。私が観察した範囲では、下記の要素のうち2項目くらい揃ったら直ちに危篤状態になります。
・編集長が居ない/転職する
・誰がいつ投稿するか決めない、スケジュールがない、締切がない
・濃密すぎる文章チェック・法務チェック
・(上記とは逆に)チェックが皆無で内容がしょぼく、社内外にディスブランディングとなって「投稿したら負け」という雰囲気になる
・(ヘッドハンティング対策で)完全匿名にする
・業務時間外に書かせる
・PV、LGTM、応募者などKPIを設ける
・社内に称える文化がない
・他職種から遊びに見えるような立て付け
文章チェックは大事ですが、しっかりしすぎると社内のモチベーションが枯れます。流石に「ぼくはインターネットはこうやって動いていると思っている」と書いてこられた時は呼び出しましたけどね。
執筆者にとってメリットを提供することを意識すべきです。「ヘッドハンティング防止」の観点から匿名にする会社さんの話も耳にしますし、心当たりもありますが、本人たちがハンドルネームなどを出して責任を持って取り組むべきですし、個人ブランディングの入り口としてTwitterやLinkedInなどのリンクは任意にするべきでしょう。
テックブログの開設・継続は経営層案件
テックブログをなんとなく単独グループで始めたり、経営会議で「やっていいですか?」「どうぞ」で決まる例は多いかと思います。しかしこれが甘い。自社内でリソースが賄えるように見えるので「安価な施策」と思われ、承認されるケースですが、この認識は誤りです。
一般的にブログを広報媒体まで昇華している企業は1営業日1投稿以上しています。最も激しいテックブログの例としてClassmethodさんがありますが、1日に必ず数件は投稿しています。2011年から始まったブログは2017年の段階で10,000本に到達するほどです。
これは実現困難な目標ですが、現実的にストレッチした目標として1営業日1投稿で計算した場合、ざっくりですが本文執筆コストを0.5人日だとすると下記のような計算になります。
0.5人日 * 20営業日 = 10人日
先のように「手弁当だしコストかからないからどうぞ」と軽い意思決定をした企業にはこの計算が入っていない場合が多いように思います。テックブログや取材を伴う記事の場合、仕込みがあるので1記事0.5人日はミニマムで、少なくとも倍の20人日は見積もっておいた方が良いでしょう。20人日というとほぼ1人月です。ブログのために1人定常的にアサインするくらいの見積もりが必要です。つまりこの1人月を余分に抱えている状況がないとブログを広報にまで昇華するというのは非常に難しいと言えます。余剰がない現場にテックブログをやろう!と呼びかけても動けないですし、「効果がないならコストも掛かっているしサイトを閉鎖してしまえ」という経営判断も起こりえます。
では週1など頻度を下げて運用すれば良いのでしょうか?これもやったことがありますが、概ね下記のようなことから士気が下がります。
・役割が回ってくる頻度が空くことで社内/本人の優先順位が下がり、継続が難しい
・一人が穴をあけると(週1の場合は)2週間間が空き、月間カレンダー表示にすると白くなる
・一人がパスすると「良いか・・・」という気持ちになり、過疎る
・編集長の士気が下がり、廃サイトが出来上がる
・最悪、編集長の転職に発展する
こうして末期になると「見栄えが悪いので更新するか閉じるかしてください」と採用担当に言われる末路を迎えます。
※10/5 Classmethodさん方面で読まれているので20,000本達成記事も追加
まとめ:社内ブログ・テックブログをどう捉えるべきか
まずは社内ブログ・テックブログにかかる工数を見積もり、投資として位置づけるべきです。まとまった工数がなければ続きません。これは手弁当ではなく業務にするべきです。
その上で経営層は全員採用担当、全員広報担当くらいのメッセージを出す必要があります。工数を割いてでも取り組むという意思をトップが表明しなければなりません。
次に編集長の任命です。公開日と担当を決め、お尻を叩きます。編集長が引き継ぎなしで退職すると直ちに危うくなるので注意が必要です。
そしてインセンティブ設計。執筆者にとってのメリットの提示をしなければ継続は難しいです。しかしこのインセンティブ設計がまた厄介です。何をもってよしとするのか。ただ継続投稿しただけではbitを埋めるだけの微妙なエントリが増える可能性があります。ではPVやソーシャルブックマーク数なのか?そうなると社内の特定人物に集中する可能性があります。その点、先のnoteでもお話したコネヒトさんのように、個人ではなくチームに還元する仕組みは納得性があると感じました。
先のEM Talk #3ではコネヒトさんのお話で 「テックブログや登壇をすれば開発組織にお金がプールされ、溜まったら旅費としてカンファレンスに行ける」という仕組みは理にかなっていると感じました。
こうした決断ができない場合、決断できる程度まで営業利益率が上昇するくらいまで手を出さなくて良いと思いますし、そのためにはテックブログがないと響きにくい採用経路に体重をかけるのは避けても良いと思います。採用はゴールではありません。内製もゴールではなく途中の選択肢の話です。優良な受託パートナーに投げてまずは事業に専念するという選択肢は悪くないと考えています。
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