見出し画像

安倍首相辞任会見とNHK報道は計算されたプロパガンダだった

安倍晋三首相が、先ほど辞意を表明しました。私は記者会見前後の各局報道を見ていましたが、官邸の影響が強いメディアといわれるNHKの報じ方を見て、安倍氏の戦略が見えてきたのでここで解説します。

会見前に偏ったニュースを流すNHK

まず、17時からの辞任会見までの数時間、NHKは特別枠で「首相が辞意表明予定」とのニュースを報じ続けていました。

内容は、約8年間にわたる安倍政権を振り返るものですが、驚くほど偏った内容で、眉をひそめた方も多かったのではと思います。

まずは経済政策について、アベノミクスを経済界が高く評価したとか、株価を上げたなどと絶賛。

さらにトランプ、プーチンらとの会談の数が多かったなどと、内容とは無関係の部分を不自然に持ち上げるなど、外交政策全般についても無批判に礼賛しました。

安倍政権下の株高が実体経済を全く表しておらず、年金基金等の政府系機関投資家の資金をつぎ込む形でむりやり高値を維持していた実態については1秒も語りませんでした。

また、北方領土交渉が事実上完全敗北に終わったことも全く報じませんでした。

経済政策についてさらに指摘するなら、2度にわたる消費税増税についてさえ言及しておらず、驚かされました。増税を行った事実を報じたのは16時44分ごろ、会見が始まる直前にほんのわずか触れただけです。

森友加計桜報道、あわせてわずか数十秒の不自然

こんな状況ですから、森友事件で夫が公文書改ざんを強要され自殺した赤木雅子さんの裁判や、いまも法廷で戦いが続く加計学園問題。官邸の守護神こと黒川検事長のスキャンダルや検察庁法改正未遂、種子法改悪、秋元IR疑惑、河井克行元法相夫妻と安倍事務所の裏金買収疑惑など、安倍政権の代名詞というべき疑惑の数々を、第一報直後の予備報道ではまったく報じなかったのです。

さすがにモリカケ桜だけは最後に少し触れましたが、3つ合わせてわずか1分未満でした。

基本的には、功績でもない内容を無理やり功績のように報じる、きわめて問題の多い報道だったと思います。

「街の声」を装い、官邸サイドの意図を刷り込む悪質な演出

極めつけは、繰り返し放送された「街の声」です。

内訳は女性4名、男性3名。この人たちが安倍首相辞任についての感想を述べていました。
簡単にまとめますので、まずはNHK側の意図を考えながら見てみてください。

1 神妙な表情の若い女性「やめると思ってなかったからびっくりしました」

2 若い男性 「頑張りすぎちゃったのかなって」

3 男性 「体調が悪かっただろうに大変だったろうと思う。ゆっくり休んでほしい」

4 男性 「辞任は不本意だと思うが、後任の方にはぜひ頑張ってほしい」

5 中年女性「次は沖縄のことをもっと考えてくれる人になってほしい」

6 女性「まさか、ショックです。五輪延期やコロナ対策などが続き、十分に休みが取れていなかったでしょうから……本当にショックです」

7 若い女性 「体調が悪かったから仕方がない面がある。続けられるなら続けてほしかったけど、しょうがないかな」

未解決の疑獄事件は少しばかり触れただけなのに、こうしたなんら重要とは思えぬ一般人の声を、NHKは繰り返し報じました。

さて、それぞれの発言をわかりやすく分析しますと、以下になります。

1 びっくりした(驚き)
2 無理したんだろう(同情)
3 ゆっくり休んで(ねぎらい)
4 後任は頑張って(次への期待)
5 ※後述(アリバイ的な批判)
6 ショック(悲しみ)
7 続けてほしかった(無念)

これが報じられたのは、総理の辞任会見の前座となる重要なニュースの中ですから、NHKの場合は担当ディレクターのみならず、もっと上の意向が確実に働いていることがわかります。

私の知る限り、彼らは民放以上にこうした点は非常に厳しくやるので、現場判断で勝手な編集はできないと思います。

つまり、「街の声」などといいながら、この並び方、意見の抽出にはNHK上層部(=政権側)の強い意志、意図が働いています。

とくに重要なのは5の、唯一といっていいやや批判めいた声です。

もっとも批判といっても具体的な内容はなく、ゆるふわな、ちょっとだけ礼賛ムードを抑える役目のスパイスみたいなものです。

「沖縄」というワードだけを前に出し「ああ、左翼だらけの沖縄ならしょうがねえな」と思わせる程度のものとなっています。

この5を、視聴者の印象に残りやすい一番最後の7ではなく、埋没しやすい5に配置したのは、NHKがこの「街の声」全体を

「わずかな不満もあったが、安倍さんは病気を押して本当によく頑張った」

とのストーリーにまとめたい意思によるものでしょう。

くりかえしますが、

1 〇(驚き)
2 〇(同情)
3 〇(ねぎらい)
4 〇(次への期待)
5 ×(アリバイ的な批判)
6 〇(悲しみ)
7 〇(無念)

の順番であったことが重要です。
この並びから、官邸が仕掛けた「安倍晋三辞任シナリオ」が読めるのです。

プロンプターを使わなかったのは意図的な演出

こうしてNHKは首相会見の開始前に、まるで天皇陛下の禅譲でも報じるかのような

「圧倒的感謝!! 総理!お休みください!!」

モードを作り上げました。

そして、その後の会見演説も、かなり計算されたものと感じられる内容でした。

まず私が開始前に思ったのは、今日はプロンプターを使わないのか?というものでした。

普通に推理すると、原稿をぎりぎりまで直していたから間に合わなかったのか、と思われがちですが、そもそもこの日の会見はかなり前から予定されていたものであり、その見方は疑問が残ります。

だいたいプロンプターじたい、今日は準備、設置されていなかったので、最初から使うつもりがなかった可能性もあると思います。

通常、手元の原稿を読む形だと、やってみればわかるのですがのどもとが圧迫され、弱弱しい声になります。

こうしたことから政治家は頭を上げたまま話せるプロンプターを使うのですが、今回は結論から言うと、安倍首相が

「悲劇のヒロインを演じる」

ことが目的だったため、あえて原稿の直読みをおこなったのではないかと思います。

総理が手元の原稿を見ながら話すことで、視線は常にうつむき加減になり、視聴者にしおらしいイメージを与えられるからです。

通常ならばこれはマイナスですが、「病に倒れた悲劇のヒロイン」を演じるためならプラスに働きます。

カメラも、強くあおるような下からの撮影ではなく、目線に近い位置にありました。これは親しみを感じられる構図として有名です。

辞任演説の内容も、直前まで直していたような痕跡は感じられず、非常に完成度の高いものでした。

読みながら目に涙を浮かべ、道半ばで倒れる大将を演じた安倍総理の姿は、何も考えずに見ている視聴者の同情と共感を集めるには十分なものだったと思います。

難病を押してがんばってきたが、持病の悪化をうけ、国政を滞らせるわけにはいかないからやむなく身を引く責任感ある宰相──。

そんな、側近たちが描いたシナリオが私には透けて見えるようでした。

見る人が見ればバレバレの、このような想定シナリオと大本営報道、および本人の大根芝居を目の当たりにしても、記者クラブ非所属の記者2名以外は、相変わらず首相を持ち上げる質問しかすることができず、この8年間における日本のジャーナリズムの壊滅的な状況を知らしめるばかりでした。

今はただ、こうした質の低いプロパガンダに騙される国民が減ることを願うばかりです。

20年9月1日追記
『安倍首相辞任会見の決定的な矛盾/官邸のずさんな工作を暴く』と題して、続編を書きました。翌日の支持率爆上げの謎と、有本香氏の致命的な誤爆?!などから分析する、さらなる考察です。ご興味があればご覧ください。
https://note.com/maedayuichi/n/n4ffcde7584a3

いいなと思ったら応援しよう!