BFC2 1回戦A 浅田と下田/阿部2 感想

ブンゲイファイトクラブ出場作品の私の"感想"を書きます。

言葉がそのままの意味で実現してしまっている作品は好きだ。今作も比喩ではない蒸発が登場する。この奇妙さが自分は単純に好きで、なので今作もそこが面白いと感じた。最初、小学校高学年の女の子が男湯にいるというジャブもきちんとあって、期待の誘引->満足、という手順が踏まれているところも良かった。


それで、感想を書くにあたって読み直したところ、気になるポイントが四つ出てきた。
* 主人公の蒸発が、浅田の父親と違って比喩ではないということ。
* 蒸気になった主人公の口ぶりについて。
* 浅田の様子がおかしくなった原因について。
* 総体として、この作品はなんなのか?

## 主人公の蒸発が、浅田の父親と違って比喩ではないということ。
主人公の蒸発が強烈で、しかも何の説明もない。浅田の父親が行方不明であるという文脈もあるので「比喩がない。これが、この作品の文体※なのだ」と勝手に納得してしまったのだが、浅田の父親は蒸発していない。
それどころか実際には「まるで浅田が存在しないかのように」とか「頭の中はガンガン痛むほどのショックを受けている」とか、比喩が比喩として使われている。
つまり、主人公の蒸発は文体的に特別な出来事なのだ。

## 蒸気になった主人公の口ぶりについて。
様子がおかしくなった浅田に言及する主人公の口ぶりが妙だ。
浅田の行動を明確に見ている(断言の形で書いている)のに「高校に入学するそうだ」の部分だけが伝聞になっている。行動ではない……浅田が話していただけだから「そうだ」になっているのか? しかしそれにしては浅田の父親がホームレスをしていたこともきっかけのことも断言の形で書いている。
高校への入学は未来の話だから、伝聞の形になっているのか?

## 浅田の様子がおかしくなった原因について。
浅田の様子がおかしくなったのは、いかにも主人公が湯気になったことが原因に思われる。主人公がいなくなってしまったことを気に病んで、様子がおかしくなってしまった。湯気になった主人公と浅田はコミュニケーションを取ることができなくなる。読者は浅田をかわいそうだと思い、ここに浅田と下田の関係の中に情があることを感じる。ここに切なさがある。
と、直感したのだが、考えてみるとおかしい。
主人公は自分の意思で湯気になったし、きっかけさえあれば、自分の意思で元の姿に戻れるようだ。
主人公は浅田のために約束を守ろうとするし、親の嫌がる顔も見たくない人間だ。人の気持ちが分からないというタイプではないだろう。
もし浅田の様子がおかしくなってしまった原因が主人公の失踪にあるのなら、主人公は元の姿に戻るはずではないのか? つまり、浅田の変化の原因は主人公の失踪でなく、従って、そこに浅田と下田の関係に情を見出すのは、読者の幻想ではないのか?

## 総体として、この作品はなんなのか?
以上の三点を踏まえて、この作品をどのように読むのが面白いのか?


※文体という言葉が適当である気はしていない。どちらかといえば、世界観という言葉の方が良いような気もするが、世界観という言葉を使うと、文体という言葉の方が適切であるように感じている。つまり、両者の中間にあるものを指す言葉が欲しいのだ、俺は。

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