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長島・大野・常松法律事務所から8億円の出資をうけるMNTSQが本気で凄い話

こんにちは、岩崎です。
都内で弁護士をしながら、「弁護士による弁護士のためのキャリアマガジン」という弁護士向けのnoteマガジンを運営してます。

さて、昨日(2019年10月21日)、衝撃のニュースが飛び込んできました。
モンテスキュー(MNTSQ)というリーガルテックベンチャーが、四大と呼ばれる大手法律事務所の一つである長島・大野・常松法律事務所(NOT)と、国内大手AI企業であるPKSHA Technologyと資本業務提携したというニュースです。

初めこのニュースを見たときは、
「NOT数年で8億の出資か~、いよいよ本気だな~」
くらいの感想だったんですが、改めてリリースを読んで見ると、「いよいよ本気」どころか、「数年前から本気でやってた」ということが分かって衝撃だったので、この衝撃を忘れないうちにnoteに書いておこうと思います。

リリースの内容

リリースによると、MNTSQの現時点でのプロダクトは、DDの効率化ツールとのことです。

*DDとは
デューディリジェンスの略。
企業が別の会社を買収するときに、その会社が何か大きなリスクを抱えてないかチェックするために行うもの。数人の弁護士が、ドッチファイル何冊(多いときは何十冊)にも及ぶ契約書や議事録などをしらみつぶしに読んで、リスクを洗い出す作業。つらい。とてもつらい。
大手法律事務所の若手を疲弊させる大きな要因のひとつ。

正直、「テクノロジーを使ってDDを効率化しよう」というアイディア自体は珍しくなく、それこそ、大手でDDを経験したことのある人なら、誰でも一度はと思ったことがあるはずです。

ただ、MNTSQが凄いのは、その「誰もがあったら良いなと思い描くアイディア」を、(おそらくかなり高い精度で)形にしたことです。

リリースの内容をしっかり読んでいくと、その凄さと本気度がわかります。以下、引用です(太字部分は私が重要だと思った箇所)。

MNTSQは、2年間の非公開の準備期間を経て、自然言語処理技術を活用したソフトウェアを開発し、2019年2月よりNO&Tにおいて非公開のパイロットプロジェクトを実施してきました。

MNTSQのプロダクトはNO&T所内の法務デュー・ディリジェンス業務において実際に利用されており、現時点において、契約書の内容を解析し、基本的な情報の整理や危険な条項の検出を自動で行うことが可能となっています。これにより、法律事務所のサービスにおける作業アウトプットの精緻化や業務の効率化に寄与しており、弁護士や事務所スタッフの作業時間の削減にも成功しております。

このような背景のもと、MNTSQは、法律事務所向けの事業展開を進めるだけでなく、一般企業の法務関連領域にも進出することを構想し、NO&TおよびPKSHAとの資本業務提携に至りました(NO&Tからの8億円という出資金額は、法律事務所からの出資としては世界的にも類を見ない金額であると認識しております。)。

以下、私が衝撃を受けたポイントです。

2年間の準備期間を経て、2019年2月からNOTと非公開プロジェクトを実施していた

特にリリースはせず、コツコツ2年間開発を行い、2019年の2月からはNOTと一緒にプロジェクトを進めていたということですね。すごい。

プロダクト開発には当然かなりのお金が必要なので、おそらく2年の準備期間中NOTから出資・支援を受けていたんじゃないでしょうか。
一切リリースせず、秘密裏にコツコツ開発するのって、相当しんどいと思うんですが、それをしっかりやり切ったということですね。すごい。

どちらが良いという話でもないですが、まだ何をやるか具体的に決まっていない状態からがんがんプレスリリースを出している(ように見える)森・濱田松本法律事務所(MHM)とは対象的な戦略です。


機能は、契約書の内容を解析し、基本的な情報の整理や危険な条項の検出を自動で行うこと

これは、まさにDDをやったことのある人全員が、「こんなツールあったら良いな~」と思う機能ですね。端的にみんなが欲しい機能を提供する姿勢がすごい。

PDFで出てきた契約書をOCRにかけて、自然言語処理でリスクを洗い出すという感じでしょうか。

既にNOTで使われているとは言っても、まだまだ最後は弁護士のチェックが必要なはずなので、1stドラフト(のような単純な洗い出し作業)をMNTSQのツールがやってくれて、それをベースに弁護士がチェックしていく感じなんじゃないかと思います。

この一番最初の作業が一番しんどくて若手を疲弊させるものなので、ここを効率化できるなら相当助かりますね。

既にNOTで実際に使われており、一定の成果を上げている

ここもポイントですね。
NOTは、言わずとしれた日本最高レベルのリーガルサービスを提供する法律事務所なので、そこで使えているということは、他の法律事務所や企業でも十分に使えると考えられます。

そもそも、DDの価値は、「実行前にリスクを見つけ出す」ということだけじゃなくて、実行後に何かあったときに、「ちゃんとDDしたけど、それでもそのリスクを見つけることはできなかった」といえることにもあるわけです(=何かあったときに、「そこまでやって見つからなかったらしょうがないよね」という方向で考え易い。)。

その意味で、天下のNOTが作ったプロダクトというのは安心感がありますよね。一方で、このプロダクトを販売したとしても、結果的に信頼できる弁護士にチェックしてもらうことは必要になるので、NOTの本業とのコンフリクトはない(むしろ仕事は増える)という判断でしょう。

今後は、法律事務所だけでなく一般企業向けの法務領域に進出予定

別の記事では、2020年1月を目処に販売開始予定との記載もありましたね。また、DD効率化ツールだけでなく、契約書のレビュー機能などにも進出するとか。

他の法律事務所にも提供するというのが面白いですね。
競合他社に提供すればそれだけ真似されるリスクはあるわけなので、それだけプロダクトに自信があるんでしょう。

実際、日本でもっともDDの知見のある法律事務所の一つであるNOTと初期からプロダクトを一緒に作っていて、今後も一緒にプロダクトを改良していくうえに8億円の資金があるわけなので、クオリティーは他の追随を許さないものになるんじゃないかなと思います。

契約書レビューはLegalForceAI-CONなどの競合がいるのでどうなるかわからないですが、間違いなくリーガルテック大本命の一つでしょう。

NOTから今後数年間で8億円の出資をうける

8億円、、、すごいですね。既にプロダクトはある程度完成していて、ここからさらに8億円ですからね。横綱相撲感がすごいです。

MNTSQの代表は元NOTで67期の板谷先生

Wantedlyの記事によると、MNTSQの代表は元NOTで67期の板谷先生のようですね。

若手時代にDDの非効率さに気付き、友人であるPKSHA TechnologyのCEOだった安野さん(現MNTSQ取締役)に声をかけたのがMNTSQ立ち上げのきっかけとのこと(そもそも友人にPKSHAのCEOがいるのが凄いし、NOTのメチャメチャ忙しい業務の合間をぬって課題を解決しようとする姿勢も凄い。板谷先生凄い。。)。
**追記・修正**
安野さんは、PKSHA TechnologyのCEOではなく、正しくは、PKSHAの自然言語処理部門である子会社「BEDORE」のFounderかつ代表取締役でした。大変失礼いたしました。
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なので、NOTが主導したとというよりは、「たまたまそういうマインドと能力を兼ね備えた人物がNOTに入った」という側面が強いのかもしれないですが、それでも、いちアソシエイトに過ぎなかった彼の話を代表が聞いて、2つ返事で了承したNOTも凄いと思います。

特に、大きな法律事務所になると、パートナー(経営に関与する弁護士)が100人以上いたりして、利害調整がめちゃくちゃ大変なはずなんですが、そこをしっかり通して8億円の出資を決めたというのも凄いです。

とにかく凄い、どこをとっても凄いしか出てこないくらい凄い。
NOT鮮やかだなあという感想しか出てこないです。

感想

全体としてめちゃくちゃ強気なリリースで、「追いつけるもんなら追いついてみやがれ」という姿勢を感じるので、余程プロダクトに自信があるんだろうなと思いました。

今後の展開予想~四大(五大)のジレンマ~

MNTSQの登場により、リーガルテック業界は間違いなく大きく動くでしょう。ついに大本命が登場したという印象です。
ただ、一番難しい決断を迫られるのは、リーガルテック企業ではなく他の四大(五大)なんじゃないかと思います。

*四大(五大)法律事務所:
企業法務系の大手法律事務所の中で特に大きい4つの事務所の総称。
西村あさひ法律事務所(NA)、長島・大野・常松法律事務所(NOT)、森・濱田松本法律事務所(MHM)、アンダーソン毛利友常法律事務所(AMT)。最近はTMI総合法律事務所(TMI)と併せて五大と呼ぶこともある。

MHMは、松尾研究所&株式会社イライザとの共同実証研究の開始と、Legalscapeとの協業について、立て続けにプレスリリースを出していたので、リーガルテックに意欲がありそうですが、リリースを見る限り、MHMとして具体的なプロダクトを開発しているようには見えません。

他の大手法律事務所もリーガルテックに関して具体的に動いている感じはなさそうです。

まあ、MHM、NOTに続いて他の事務所もこれから続々とリリースがあるのかもしれませんが、少なくとも現時点ではNOTが圧倒的にリードしている状態なのは間違いないでしょう。

しかも、MNTSQは、2020年1月を目処に他の法律事務所や企業向けに製品販売を開始する予定とのことなので、他の事務所は、MNTSQの製品を導入するかの決断を迫られることになります。

MNTSQのプロダクトを導入すれば、業務効率化が図れ、アソシエイトの負担を減らすことができることができる一方、それはバッチバチの競合他社が開発した製品であるとなった場合に、導入できるか。

個人的には、特に四大についてはさすがにすぐに導入するという意思決定は難しいんじゃないかという気がしますね。
ただ、そうすると、アソシエイトの負担が減らず、離職率や採用にも影響するし、将来的には、テクノロジーによってレバレッジをかけたNOTにM&Aのシェアを奪われていくことにもなりかねません。

大手法律事務所は、しばらくこのジレンマに悩まされると思いますが、個人的な予想では、他の四大(五大)のうちの一部は、自ら(どこかの会社と提携して)同様の製品開発に乗り出すんではないかと思います。
新日本法規とLIRISが製品開発を初めているようですし、そこに出資するとかもありそうですね。
それでもMNTSQのクオリティーが圧倒的だとなった場合に、やむを得ずMNTSQの製品を導入するということになるんでしょうか。

見逃せない大きな効果

あとひとつ見逃せないのは、MNTSQの登場により、新卒弁護士のリクルートにおいては、圧倒的にNOTが人気になると思います。

そもそもNOTは組織として仕組みが良くできていて、四大(五大)の中でも人気が高い事務所でしたが、どちらかというと保守的な印象がありました。そのため、アグレッシブな学生がNAやMHMに流れるという場合もあったはずです。

それが、今回のリリースで、実はNOTが一番新しいことに挑戦していて若手を後押ししているという印象になり(だって、MNTSQの代表67期で、そこに8億の出資ですよ!)、新しいことに挑戦したい学生達からも大きな人気を獲得するでしょう。

さらに、DDというもっとも若手を疲弊させる作業をテクノロジーで効率化することにより、若手の働き方も改善するわけなので、その点でも人気が出るはずです。

というわけで、どの方向から見てもケチのつけようのないリリースで、今後ますますリーガルテックは面白くなりそうだなと感じたニュースでした!


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