新たなる陰謀論『税調インナー』と『宮沢洋一ラスボス説』がガセネタすぎて
これ、最初に書いてしまうと「日本の税金・税制の仕組みはかなり難解で、ベテランの税理士や公認会計士ですら、特定の政策をいじると何が起きるのかよく分からない」という意味で、
税務調査という職掌自体が非常に高い専門性を求められるんですよ。
そこに、財務省が知恵出しをしているので『税務調査インナーサークル(税調インナー)』ができている、という財務省悪玉論的なガセネタと魔合体することになるんですよね。そもそも税調インナーというのは、税務税制を党内で検討する議員という意味であって、議論自体は結果が全部公開されています。別に隠されているわけでもないし、インナーという言葉の密室感に想像力を煽られた人たちが陰謀論にして騒いでいるだけなんじゃないでしょうか。
今回税制議論で税調に起用された小渕優子さんにしても齋藤健さんにしても、いずれも税務税制に詳しいスペシャリストというわけではありません。小林鷹之さんも財務省出身とはいえ国際畑で、勉強はされていると思いますが税制はほとんどタッチされていません。
で、朝日新聞の千葉卓朗さんが一昨年こんな記事を書いておられて、まあそうだよなって思うわけです。
総理・岸田文雄さんや当時の政調会長・萩生田光一さんが絶対安定多数の政府と党務をバックに税調をねじ伏せていたと言われればそれまでですが、当時の税調の「聖域」論にせよ、インナーサークルなんて誰も言ってませんでした。実際、別に内輪で全部決めてるわけでもありませんから。
ただ、冒頭に書いた通り専門性が高すぎて、財務省や総務省とのやり取りも多い界隈ですから、なんとなく権力的に凄そうに見えて「税調インナー」と周りが煽って言ってるだけでしょう。
ぶっちゃけ今回の103万円の壁みたいな税制の根幹をいじる可能性があったり、将来的に3号被保険者制度自体を段階的にやめていくよとかいう話になったりすると、税調でまともな税制議論ができる宮沢洋一さん以下特定の党幹部議員や関係職員が出てきて、どこまで何をすればどういう影響になるか、不公平なくいけるのかという着地の議論ができる、というシステムです。
「しょうもないなあ」と思うわけですが、最近ではTiktokなどで宮沢洋一さんを中傷するショート動画なども多数出てきていて、財務省陰謀論と並んでかなりの煽動が行われている状態です。死人が出るかどうかは別として、勘違いした人がまた官邸前デモとか仕込むんじゃないかと思うぐらい、無駄な動きになってしまっています。
さらに、ガソリン代が少し上がるわけですが、年末に向けてガソリン代が上がって年越し資金がない、みたいな煽りまで出てきました。
でも実際には当面リットル当たり10円程度の補助金がなくなるだけであって、100リットル給油しても千円なんですよね。千円ってきょうび年越し蕎麦でももうちょっとまともなの喰えよってレベル感じゃないでしょうか。
アホらしいんですが、それに加えてガソリン税減税の話が進んでいます。これはまあ私個人も二重課税との長年の批判の最たるものですのでいずれ整理が必要と思っていたところですから良いと思うのですが、一方で温対税が炭素税カテゴリーに近いところで導入されています。また、実質的な人頭税みたいな扱いで森林税も国民一人あたり1,000円を自治体が徴収しておりますので、ひとくちに「税制」といっても立場によっていろんな名目で徴収されていて、国民のどのような活動でいかなる徴税があるのかはちゃんと勉強しないと分からないところなんですよ。
政策としての税制に関しては、国や都道府県・自治体が扱う徴収側の税務と、税理士や公認会計士がクライアントと納税するときの税務とでは司るノウハウもやり方も違うので、例えば103万円の壁解消の民間側手続きで税理士が「移行するのにたいした手間がない」と煽るのは、単純にその税理士がその程度の顧客しか持っていないからです。
目下、仮に給与所得控除が制作的に合意されてやるぞとなった場合に、どういう手順で何するんだっけっていうロジも弊所含め猛烈に詰めているところですが、まあ割といろいろ起きるので途中で別のものを諦めるぐらいのことは考えたほうがいいよねって結論になるんじゃないかと思います。
さらに、一部議論では民間を中心に基礎控除と給与所得控除とがごっちゃになり、なぜか最低賃金との対比や生存権の話まで飛び出してきました。主張は自由にしていいと思うのですが、一方で、やはり所得税法で決まってきた控除については逐条解説を紐解いて何が起きてこのような制度になっているのかという原則を見直す必要があると思うんですよ。
当然、最低賃金も生存権も何も関係ないのが控除の世界であって、せいぜい「昭和の時代は父親が稼いで母親が専業主婦をやるという家庭像から導き出された、古い家計の構造を前提とした控除の仕組み」なので3号被保険者制があるけど、いまや世界的にも冠たる共働き国家になった日本では、むしろ女性の社会進出のほうが行政コストを上げ、出生率を下げているのではないかという不都合な真実も踏まえた控除の仕組みも考えなければなりません。
つくづくSNSやyoutube動画でザイム真理教など陰謀論的ガセネタが横行して、一部定着してしまったがゆえに、政策を立案したり維持・改革していくために必要な知見への経緯が失われてしまっているんじゃないかなあという危機感はどうしても持ちますね。
高度に専門化されてきた世の中は、そう簡単に物事を動かせなくなっている、ということへの理解と、とはいえこのままやっていっても高齢化で社会保障費の増大が厳しいので何かしなければならないという理想・理念的なものとをちゃんと両手に抱えてやっていく気構えが必要なのではないかと思います。