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米チェース銀行のデザインストラテジストに転職します

アメリカで初めての転職をし、8月2日付で米JPモルガン・チェース銀行のリードデザインストラテジストになります。アメリカの銀行のデザイン&ストラテジーチームで、長射程の金融・社会の未来を、デザインの力を通じて形作っていきます。アメリカ人の部下も持つことになり、吐きそうですが、次のステージでの挑戦を頑張りたいと思います。

以下では全てLinkedIn、Website等で公開中・パブリックに閲覧できる情報のみ記載しています。また一部、解釈がぶれる表現を加筆修正しました。

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アメリカでもデザインストラテジストは新しい職種で、まだはっきりと職能が定義されていないのが現状です。様々な企業でこの職種が求められていますが、一般的にMBA、UX/UIデザイン、社会学など、様々なバックグラウンドの人材がおり、プロジェクトも、ビジネスコンサル的なものやサービスデザイン的なものなど、様々あります。その中でも、今回募集があったポジションは、LinkedInから応募したのですが、未来学(Futurism)の知識・経験歓迎という大変珍しい職種で、募集要項には直近のストラテジーではなく、もっと先の中長期的な金融の未来をデザインの力で可視化し、銀行内の事業部やステークホルダーのビジネス戦略に橋渡す仕事とあります。

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同企業の同様の職種の募集要項にはFuturism(未来学)の文字。
銀行 x デザイン x 未来学。時代は変わりつつある。
(LinkedIn検索より)

デザインはもとより、アメリカのビジネスや金融の仕組みがどうデザインされ、意志決定しているかにも深い知識が必要となり、ワクワク半面、プレッシャー半面、クビにならないように頑張ります。転職時期がF-1ビザのSTEM OPT申請中で、許可が降りるまで働けないかもしれないという胃が痛い時期を超え、無事に予定通り転職できるようになったので、ほっとしつつ筆を執っています。
本記事ではそこに至るまでの想いや、所信表明などを書いていきます。

世界ごとデザインできる場所を目指して

これまで日本での学生時代・社会人時代を通して、新しいユーザー体験やプロダクト、サービスのデザインと、世の中に新しいモノ・コトを生み出す行為に全般的に関わってきましたが、2018年にNYに渡ってきて以来、こちらでコロナ勃発からロックダウン、BLM、ヘイトクライムなど、確実にこれまでとは異なる世界への分水嶺を目の当たりにしてきた中で、もはや1つの製品で解決できる「問題」は非常に限られており、人間の価値観ごと、世界ごとリデザインしないといけない時代に差し掛かっているように感じています。

S.Brandのペース・レイヤリング理論 (1999) を借りると、"流行り物"や"旬の製品" という意味の「ファッション」レイヤーでモノゴトをデザインするのではなく、もっと下層のどろっとした、人間の「カルチャー」や「ネイチャー」、すなわち人間の価値観や社会システムのレイヤーに立ち向かい、それを21世紀型に、持続可能な社会に向けて移行させていく必要があると感じます。

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人間、組織、社会の未来を、デザインを通して、かたちを伴って夢想・妄想する。それをアート的な「表現」ではなく、デザインとして「社会実装・問題解決」まで繋げる。そのスケールで21世紀の世界ごと再想像できる企業や国際機関がアメリカにはあり、それに挑戦するために私は日本でのキャリアを捨て、アメリカにやってきたのでした。

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例えば「未来の新聞」のフォーマットで、ありうる社会を可視化する
上図はパーソンズ時代に作った「多元世界時代の新聞」

UX/UIデザイナーの面接「全落ち」という事件

と大きな野望を語ったものの、なかなかそんな大きなミッションの仕事がそこら中に転がっているわけではなく、私もまだまだアメリカに新たに飛び込んできた移民として、生き延びるためにお金を稼がなければなりません。GAFAを初めとした、いわゆる西海岸系のテック系企業のUX/UIデザイナー、インタラクションデザイナー、プロダクトデザイナーといった職種はアメリカでももちろん旬の職種で、日本以上の給料も期待できることから、日本時代の経験を生かして、当初は私もこれらの職種にLinkedInを通じて応募していました。

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LinkedInで検索すれば、誰もが知る企業のデザインポジションがずらり

しかし、上述のような思いが根幹にあるので、面接まで進んでもそこから全くオファーに至らず、私の就活は暗礁に乗り上げてしまいました。

UX/UIデザイナー系の職種に闇雲に応募しては、GAFAを含む、多くの企業の面接に進み、誰もが知る企業のトップデザイナーと緊張しながらそれなりの会話をし、それなりのポートフォリオプレゼンをしましたが、絶対にこの会社でUXやプロダクトを作りたいんだ!というプロダクトデザイナーとしての情熱が、実はハリボテのものだと、自分でも気づいていましたし、面接官にもバレていたように思います。

本当は、デザインを1ピクセル単位の美しさのためではなく、1年後の世界を思い描くために使いたい。

もはや、自分はプロダクトデザイナーという職種ではない地平に立っている。それを分かってはいつつも、プロダクトデザイナーという職種で全くどこにも引っ掛からなかった、という事実は、曲がりなりにもこれまでデザイナーとしてやってきた過去の自分を否定された気がして、落ち込みました。

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面接で使ったポートフォリオのプレゼンの一部。
"それっぽく" は仕上げていたが、ハリボテのように思える

ニューヨークがデザインするもの

そんな中、コロナを経て、2020年後半から、ニューヨークではデザインストラテジストという職種がにわかに増えてきていることに気づきました。コロナ、それに付随して際立つ経済格差やヘイトクライム、様々な要素が複雑に絡み合うこれらの "人間中心" の問題が噴出する中、我々はここからどうやって明るい未来を見出せばよいのか。SDGsなんて言っているけど、そんなの本当に可能なのか。どうやってそこに向かっていったら良いのか。未来への漠とした問いが一気に噴出してきたように思います。

今ここにいるユーザーのペインの解決ではなく、遠い将来への漠然とした不安の解消を。人々は、組織は、社会は、未来を渇望している。その現れのように感じました。

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多くの企業でデザインストラテジスト職が募集されている(LinkedIn調べ)

特にニューヨークおよび東海岸は国連本部があり、ウォール街があり、ホワイトハウスがあり、政治・経済・国際政策の中心地です。最近ではそうした企業や国際機関も積極的にデザイナーを登用し始めており、GAFAでもなく、デザインコンサルでもなく、そういう場所で人間の未来、お金の未来、国の未来を考えることで、世界ごとデザインできるのではないかと考え、デザインストラテジストという職種に積極的に応募し始めました。

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UNDP(国際連合開発計画)も未来をリサーチするForesight Researcherなんて募集をかけていたりする(応募したけど返信は無かった)

面接で語ったのは「2050年の日本について」

先行きの見えない未来をデザインする、デザインストラテジスト。とはいえ「未来」という言葉も非常に大きな単語です。明日だって未来、10年後も未来です。デザインストラテジストいう職能も、直近の製品や組織のビジョンをデザインするようなビジネスに近接した領域から、数年先の世界を考える、社会学や人類学が必要な領域まで様々あります。

企業がビジネスを行なっている以上、ジョブマーケットでは前者の「地に足のついた」デザインストラテジスト職が多い中で、今回JPモルガン・チェース銀行のデザインストラテジスト職の募集要項には、未来学(Futurism)の知識という条件が書いてありました。これは毎日色々な企業のJobの募集をチェックする中でも非常に珍しく、直近のストラテジーではなく、中長期的な未来をデザインの力を通じて可視化し、先の見えない闇を照らし出し、現状のビジネスに北極星を示す、スペキュラティヴデザイン、トランジションデザインと呼ばれる新しいタイプのデザインの領域。それはまさにここ最近の私の専門領域でした。

2019年に京都工芸繊維大学KYOTO Design Labにてデザインリサーチャーとして取り組んだ、誰もが生きがいを持てる日本の未来を夢想したプロジェクト「日本のひとびと(2050 - 現在)」はCore77という国際デザイン賞を受賞しました。

今回の募集は初めて自分のやれること・やりたいことに完璧にマッチすると感じ、即座にエントリーしたのち、運良く面接の機会を頂きました。
面接はアメリカの一般的なデザインインタビューのプロセスと同様で、デザインディレクター・マネージャーレベル(将来の上司となる人たち)と1対1形式でまずいきなり話し、それで見込みありと判断されると最終面接(オンサイトインタビュー)に呼ばれます。最後に重役と話す日本の面接プロセスとは真逆です。

zoom越しの1-1インタビューの雰囲気はこんな感じ

最終面接は半日を使い、1対1、1対3と様々な形式で、雑談っぽいCasual Interviewや、これまでの経験や困難なケースにどう対応するかを見るBehavioral Interview、その場でお題に沿ってホワイトボードに思考プロセスを描いていくWhiteboard Challengeと呼ばれるセッションなどを立て続けにこなしていき、その部署のメンバーとたくさん話し、また多面的に評価されます。そして最後に、将来の同僚となるデザイン・ストラテジーチームと関係する部署のメンバーを前にした、ポートフォリオプレゼンテーションがありました(質疑応答込み1時間)。

デザイン職のオンサイトインタビューはGAFAも同様の流れ。
このビデオみたいな感じ

プレゼンテーションでは一般的に2-3個、過去のプロジェクトの内容やプロセスを説明するのですが、先のUX/UIデザイン面接全落ちでの経験から、もうハリボテのポートフォリオを語るのはやめよう、大爆死してもいいから、後悔の無いように自分が語りたい話をしようと決めました。

なのでUX/UIデザインの面接では求められるスキルが違いすぎて出さなかった、2050年を夢想する京都のプロジェクトをぶつけてみました。遥か遠い未来社会へいかに発想を飛ばすか、そして人々に未来社会を想像させるためのデザインアウトプットの作り方について語りました。

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面接で使ったスライド。2プロジェクトを紹介し、遠い世界の夢想には「デザイン x 技術」ではなく「デザイン x 人類学」が重要になることを説いた

デザイン、もしくはデザインでない何か

「2050年?そんな夢みたいな話は他でやってくれ」となってもおかしくなかった大博打でしたが、結果的にはこれがデザインストラテジーというチームにはどハマりしたらしく、オファーをもらうことができました。ちょっと泣きました。

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面接で使った終盤のスライド。
UX/UIデザインとは異なる地平で、私のデザイン論が結実した

アメリカでのデザインポジションでの転職活動ということで、最初はGAFAのどこ行ってやろうかな〜なんて余裕をかましていたところから一点、迷走した果てに、最後には自分の専門領域・パッション・過去の実践経験が全てハマった集大成となりました。

逆に言うとその全てのパーツが噛み合わないと、外国人がアメリカのデザインポジションでオファーを貰うのは難しいとも感じました。こうした技術的なことは後日、誰に需要があるのか全くわからない「アメリカでデザイン就職するための技術」マガジンにまとめていきます。

私が今回オファーをもらった職種も、Design Futurist(デザイン・フューチャリスト)と呼ばれることもあり、考えるのは直近のビジネスのストラテジーではなく、もっと長射程の Not Here, Not Now(ここではなく、いまでもない)場所です。数年先の技術ではなく社会を想像し、そのありうる社会での人々の将来のペインを解消するために、今何ができるのか、未来から現実に戻ってきて(バックキャスティングと言いますが)技術の使われ方や人々の行動変容、価値観のトランジションを促していく仕事です。

まさにそれが2018年、もともとアメリカに留学して学びたかった分野です。パーソンズ美術大学にて、スペキュラティヴ・デザインの始祖ダン&レイビーから体得した21世紀のデザイナーとしての態度で、抽象度の高い人々の夢や不安、ビジョンや妄想をデザインを通じて可視化し、現在のビジネスと望ましい世界との間に橋を掛ける仕事です。それはもはや古典的な「デザイン」の定義を超えた、デザインであり、デザインでない「何か」であるように思います。

私はそれを「ソーシャル・ドリーミング」と呼んでいます。みんなで将来の夢や理想の社会像を作り、いかにそこに向かうことができるかを考える行為です。
2021年4月から、アメリカにいながら、リモートで東北大学工学部の特任准教授の機会を頂いており、私が日米で体得してきたことを実験的に授業で展開しています。これもまた、どこかでお話しさせて頂く機会があると思います。

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地上最強のデザイナーを目指して

この8月から、私費留学でアメリカにやってきて4年目に突入します。ビザもコネも無く、日本での貯金を食い潰しての極貧生活に耐え、ようやくそれをペイしてお釣りがくるところまできました。
でもここで一息ついてたらレイオフくらう気がします。英語もまだまだ完璧ではなく、「今日で解雇」が普通にある国なので、地上最強のデザイナーを目指して引き続き邁進していきます。それくらいでいないとアメリカで生き残れる気がしません。

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職場はマンハッタン、Hudson Yardsの近くにあります。

まさか自分が銀行員になるとは、予想もつかない人生がまだまだ続いていきますが、当面は引き続きニューヨークにいることになったので、もしニューヨークに来られる方がいましたらお気軽にお声がけください(日本とのリモート飲み会でも!)。
マンハッタンに電車通勤圏内のニュージャージー州ジャージーシティにずっと住んでいるのですが、同地区内で最近引っ越したので、お茶でもしましょう。

リモート文化のおかげで、日本からも多くのお声がけを頂き、スタートアップのデザインアドバイザリーであったり、この4月からは東北大学の特任准教授として活動させて頂いたりと、日米様々な場所でデザインの実践・教育の機会を頂き、デザインの分野で「好きなことで生きていく」を実践できています。

最近の活動や、メディア出演などの情報はnotionにゲートウェイページを作ったので、お仕事のご依頼・お問い合わせはこちらからどうぞ。

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もう21世紀なんだから、物理的にどこに存在しているかは関係なく働けるようになったらいいなと思います。国籍を超えた地球人として、後世にパスできる22世紀の世界をデザインしていきたいと思います。このnoteでも、2018年から続く、私のリアルライフログを多くの方に読んで頂き、ありがとうございました。引き続き、岩渕のアメリカ人生「第6章: 銀行員編」にご期待ください!


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岩渕正樹 NYのデザイン・フューチャリスト
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