事実婚を選択した、極めて個人的な理由
わたしとパートナーとの間には、もうすぐ子どもが生まれる予定です。
パートナーとは事実婚なので、「事実婚だと子どもにまつわる行政手続きが大変そうで」と周りに話すと、「籍入れちゃったほうが楽なんじゃないの?」と言われることもあります。
そう言われたときには「改姓もいろいろと手続きがめんどくさいからな〜」なんてぼやかした返事をしていましたが、改めて、なぜ事実婚を選択したのか、すこし長めの答えを記します。
先に結婚し、改姓をした友人たちの話
2019年「選択的夫婦別姓」という制度が政治家の間で検討されていることを知り、「女性が改姓して当たり前ではないんだ」とえらく感銘を受けた記憶があります。
そこから数年後、実際にわたしが事実婚をするに至るまで、何人かの女性の友人たちは結婚をし、改姓をしました。そして何人かの友人は改姓後に離婚も経験しました。
バリバリ働く友人たちに改姓について聞くと「本当に手続きがめんどくさかった!」と口を揃えて言います。
またある友人は、「結婚自体はとても嬉しいことなのだけど」と前置きをしたうえで、「改姓手続きしたけど、自分が失われるようで、思ったよりつらくて泣いてしまった」と言っていました。
別の友人は「夫が離婚の書類を送ってくれないので、早く姓を戻したいのに戻せない」と。
スタートアップの社長を務めていた知人は「今すぐ離婚したいけど、資金調達のタイミングで改姓できないから離婚ができない」と飲み会の場でぼやいていました。
こう話していたのはすべて女性の友人で、男性はひとりもいません。統計上も、結婚して姓を変える人は、女性が圧倒的に多く、全体の約95%を占めているそうです。(内閣府男女共同参画局『夫の姓・妻の姓別にみた婚姻件数』2022年のデータより)。
どうする、わたし
こうした人たちを横目に、わたしはペアローンの手続のため、短期間のうちに、結婚と改姓の決断をする必要に迫られていました。
わたしはすごく憂鬱な気持ちでした。
「わたしのパートナーは姓にこだわりがあるタイプだし、するならわたしがするしかないのだろうなあ。でも、わたしは改姓で嫌な思いをした友人や知人をたくさん見てきたのに、本当に自分が姓を変更して大丈夫なんだろうか」
また「ここで話がこじれて別れることになれば、出産する年齢が遠のき、子どもを授かれなくなってしまうんじゃないか」という、自分の年齢への心配もありました。
その心配から「わたしが受け入れなくてはいけないのではないか」という諦めの気持ちも少しありました。
旧姓使用で問題ないって本当に?
実際、姓を変えたらどんな不都合があるのでしょうか。
保守系の政治家は「社会生活を送るのは旧姓使用で問題ない」って言っているし、海外での問題はあれど国内の問題はあまりないのかもしれない。そう考えて、わたしは改姓に伴うタスクをリストアップしてみました。
すると、思いのほか旧姓使用のめんどくささが露呈してきました。
そもそも、さまざまなサービスにおいて、旧姓使用できるかどうかがFAQに載っていませんでした。そのため、わたしは片っ端から問い合わせをすることになりました。
問い合わせたすべての証券口座と共済は、旧姓使用が不可でした。さらに、旧姓の口座から入金することはできないので、新姓の口座を開設する必要があるとの返答。
契約していた経営セーフティ共済に至っては、「契約は新姓に変えていただきますが、旧姓口座を使えます。その場合、振込はできますが、融資や解約時に、こちらから旧姓口座に入金はできません」と言われました。
共済は融資を受けたり、お金を積み立ててあとで一括で受け取るために加入するもの。積立できるのに入金できないなんて、馬鹿にしているのでしょうか?
インターネットで調べたり、電話で問い合わせたり、旧姓はダメと断られたり。
「旧姓を社会生活で使いたいだけなのに、なぜパートナーの片方だけにこんなに負荷がかかる制度になっているんだろうか」と思わざるをえませんでした。
また、旧姓の口座が利用できないなら、旧姓で維持しようと思っていた預金口座も新姓にしないといけません。
旧姓で確定申告も納税もしたかったのに、これも新姓にしないといけないのかもしれません。
金融機関の身分証明に使う、パスポートも運転免許も切り替えなくてはいけないんだろうなあ。いままで、パスポートや運転免許証を身分証として、さまざまなサービスに登録してきたけど、どうなるんだろう。
気づいていないだけで、まだまだ「変えなくてはいけないこと」が山積しているんだろうと思います。
海外に出れば、日本でしてきたような交渉を、なれない言語でする羽目になるのでしょうか?
「こうして、社会生活で旧姓を使いたかった人たちは旧姓を諦めて、すべて新姓に切り替えていくんだろうなあ」という感想を抱きました。
わたしの理想の結婚って、こんな不健全なものだったんだっけ
さらに、改姓をしたあとに万が一離婚することになった場合、姓を変えなかった方はスムーズに新生活に移行できるかもしれないけれど、姓を変えた方は再度改姓手続きに苦しむことになります。パートナー双方で、離婚の重さが全く違うわけです。
お互い助け合って生きていくための結婚なのに、こうした不平等はすごく不健全なんじゃないか。それが私の理想の「結婚」なのか。
旧姓使用に苦しむ生活が目に見えているなかで、これからも旧姓使用の壁にぶつかるたびに、わたしは呪詛と後悔を重ねていくのだろうか。
わたしの姓にまつわる困りごとだから、どうせわたしが主体性を持って動くのだろう。そのたびにパートナーとの仲にヒビが入るのだろうか。
わたしは検討に検討を重ねた結果、「やはりわたしには改姓は難しい」と思うに至り、パートナーを懸命に説得して事実婚に落ち着き、今に至ります。
今度こそ、前へ
6月10日、自民党の大きなスポンサーでもある経団連が、選択的夫婦別姓制度の早期導入を政府に提言しました。
その提言に呼応するように、自民党は3年前より休眠状態となっていた「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」で議論を再開すると表明しました。
選択的夫婦別姓制度の導入に関しては、過去に何度も期待と失望が繰り返されてきた経緯があり、全く油断はできない状況ではありますが、今は、少しずつ導入に向けて前に進んでいるフェーズとも言えるのかもしれません。
わたしも現在、姓を変えないために事実婚をしているひとりの人間として、女性として、選択的夫婦別姓制度の導入を心待ちにしています。
また現在、選択的夫婦別姓制度を実現させるために精力的に活動されている「一般社団法人あすには」さんがクラウドファンディングを実施しています。
国連から日本政府に対し、4度目の改善勧告を出してもらうよう働きかけを行うようです。ご賛同いただける方は、ぜひご支援のご検討、よろしくお願いいたします。