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個人開発したTODO共有アプリ - 5年50万ユーザー突破までの軌跡

個人開発しているアプリ、minto(ミント)が2024年5月で5周年、累計50万ユーザーを突破しました。
そこで、なぜアプリを作ったか?から現状のアプリのことまで1記事でまとめました。
とても長いですが興味ある部分だけでも読んでいただけると嬉しいです。

きっかけ

個人アプリを始める前に、会社の新規事業部で新規アプリの開発担当として働いていたのですが、どのプロジェクトも成果を上げることができませんでした。会社から給料をもらいながら開発費を垂れ流す身になるのはとても辛い思いがありました。同時に「自分が1から企画してプロジェクトをスタートしたらうまくいく自信がある。チャレンジしたい」という欲求がふつふつと湧いてきました。

なぜminto

ちょうどその頃、同僚から家族のTODOをSlackで共有している話を聞き、ハックまでして解消したいペインがあるのなら、それをアプリにして広く大衆が使えるようにすればヒットするのでは?と思いました。それと同時に自分自身も当時付き合っていた彼女と同棲していたため、そんなアプリがあったら素敵だなと思いました。
といっても既に最適なアプリがあるのなら作る意味もないので調査したところ、「カレンダー 共有」はタイムツリーという王者がいたのですが、TODOアプリには決定版というアプリがなく「これはチャンスだ」と思い立ち作るのを決めました。

初期のスケッチ

ローンチまで

それからというものオフィス下のスタバで夜10時の閉店まで毎日開発を続けました。土日も作業を続けて3ヶ月でリリースをしました。
リマインダーもない、タスクの並びかえもないMVPすぎるアプリでしたが、TODOの共有アプリというニッチ市場に刺さる槍はありました。
当時からランチェスター戦略というマーケティングの有名な言葉は知っていてそれを意識していました。

リリース当初のアプリ

出したは良いが鳴かず飛ばずの時期

2019年当時は個人アプリが今より珍しかったのもあってか、リリースツイートをしたところ自分の普段のツイートとは比較にならないほど拡散され、急にダウンロードが伸びました。
が、それはいっときの花火でした。そこからは鳴かず飛ばずで0ダウンロードの日すらありました。

ダウンロード数0

1万ダウンロードまで

どうやって開発のモチベーションを維持したか

minto以降も新作を作ったり頓挫した経験を経て心底思いますが、アプリのローンチはただのスタートラインであってそこからアプデを続けられるかが全てです。
どんな大企業のアプリだとしても、ストアのアルゴリズム的にその法則は絶対です。

なぜ当時一銭にもならない〜副業をやったら1ヶ月で回収できてしまう売り上げの時期に開発を辞めなかったのか理由を挙げると、

  1. 明確な完成図が見えていた

  2. 無知だった

  3. 熱量の高いユーザーがいた

からです。

1. 明確な完成図が見えていた

リリース当時は並び替えもできないTODOアプリでしたが、1年先のアップデートからマネタイズまで自分の頭の中には明確な完成図がありました。リリース時点では、その10%の完成度にも達していなかったのでそこまでアプデをやりきればユーザーはついてきてくれるはずと思っていました。そこまではやろうと決めていました。

mintoの後に開発・リリースしてコケてしまったアプリがあるのですが、今思えば完成図がローンチ寸前のときからかなりブレていました。結果、このアプリは価値があるのか?という点に自信が持てずアプデをする開発の手を止めてしまいました…。

カービィやスマブラを作った桜井政博さんはゲーム企画の段階からディテールまで完成系が見えているそうです。ツール系アプリとゲームだと完成図を想像する難易度が天と地ほど違うと思いますが、最初に完成図をディテールまで描けているかは結構大事だなぁと思います。

2. 無知だった

今と違って当時は個人開発に関する情報は少なく仲間もいなかったので、根拠のない自信が頼りでした。今思えばあれこれ情報を入れたり競合アプリと比較せずにただアプリのアップデートに向き合えたのが続けられる要因の一つだったなと思います。

3. 熱量の高いユーザーがいた

ユーザーが少ない中でヘビーにアプリを使ってくれるユーザーがいるかどうかはめちゃくちゃ大事です。少ない中でもコアなファンが見つかれば、アプリを改善して同じようなファンを増やす作業にアクセルを踏めます。
当時の熱量の高いユーザーは紛れもなく自分でした。毎日のようにアプリを使っていたし、使うたびに便利さを自分だけが知っているような状態でした。
このアプリの便利さを多くの人に知ってもらいたいという気持ちが開発の原動力になりました。
そう言った意味でも"自分が最初のユーザーであること"はとても大事だなと思います。

1万ダウンロードまで。やったこと・やらなかったこと

1万ダウンロードに達するまで1年近くかかったのですがそれまでひたすら流入してきたユーザーが価値を感じないまま離脱しないよう"バケツの穴を塞ぐ作業"をしていました。

リリース当初は電話番号認証必須でした。これを無しにしてほしいとの声が最初は多かったのですが、上に書いたとおり1番最初にやるべきことは、種火となるコアユーザーの確保でした。
そこで最初期は、アプリのダウンロードと初回ログインという障壁を乗り越えてくれた貴重なアーリーアダプターにファンになってもらうべく、コアフィーチャーである"TODO 共有"の方を強化し続けました。

リマインド機能、タスクの並び替え…etc.

大体コア機能がひと段落したあと、電話番号認証で離脱していた20%を救う施策を進めました。

オンボーディング改善, ゲストアカウント機能…etc.

この順番は今でもよかったと思っています。

逆にやらなかったことはマーケティングです。
Appleのサイトに書いてあるレベルの最低限のASO対策はしましたが、広告を打ったりはしていません。
これはZOOMが初期にマーケティングをせずバイラルマーケティング中心でひたすらプロダクトの磨き込みをしていた事例を参考にしてます。

個人開発者との出会い

個人開発を初めて半年が経ったころ、ずっとフォローしていて会いたいと思っていた文字数カウントメモの開発者のtakashiさんにDMし会うことができました。初めてお会いしたときにtakashiさんは、自分のアプリの改善点を何個も取り上げてくれました。

刺激を受けたあと奮い立ち、年末年始その改善点をひたすら実装しました。結果3ヶ月程度でユーザー数や維持率が改善しました。

振り返ると、とにかく1万ユーザーまでは下記のサイクルを回し好循環を作ることが大事でした。

  1. 思い描いた完成図 / 身近な人の声を聴いてアプリを改善

  2. 離脱率が改善

  3. ユーザーから高評価を得る, ストアレビューの評判が高まる

  4. ストア上でのランキングが上昇しimpressionが上昇 (1.に戻る)

1万ダウンロード突破してからの心境の変化

1万ダウンロードに到達するまでは、自分の描いた完成図に向かってひたすらにアプリを開発すれば問題ありませんでした。
それがユーザー数が増えるに従って事情が変わってきました。

ユーザーの声の増加

リリース当初は1件もなかったユーザーからの問い合わせが2日に1回程度くるようになりました。中には当初想定していなかったような改善のヒントになるフィードバックもあり、ロードマップの変更を繰り返しながら実装をすることになりました。

この頃、作者が彼女と別れユーザーじゃなくなってしまうという事案が発生。ますます"自分のアプリ"から"みんなのアプリ"への意識が強くなりました。

作って壊すが難しくなる

リリース当初は作って壊すが容易でした。ガシガシ作って気に入らないなと思った機能は後からドライに変更してもお咎めなしでした。
しかしユーザー数の増加と比例して、機能修正の難易度も高まり始めました。

例えば、タップ数を減らすためにタスクの入力フォームでキーボードの改行ボタンをタスクの登録扱いにするリリースをしたところ「改行ができなくなった」という問い合わせを多く受け機能を戻す事態になりました。タスクアプリに長文を入れることが自分はなく想定外でしたが、家族の伝言板ツールとして一部のユーザーはアプリを使っていたのです。

"最初から出来ない"は問題ないのですが、"最初出来たものが出来なくなる"はユーザーに大きなハレーションを産むことを実感しました。

マネタイズ

2019年5月のリリースから半年、自分がイメージしている一旦の完成系までは機能を揃えたのちにマネタイズを開始しました。

人生初。労働以外のお金を得る

最初はバナー広告を出すところから始めました。
AdMobは収益が8,000円を超えるとGoogleからの口座振り込みが発生するのですが、初めて振り込まれた日はとても嬉しかったのを覚えています。これまで労働の対価として給与を受け取る働き方しかしていなかった自分にとって初めて自分のサービスで収益化を達成した瞬間でした。

サブスクリプション開始

アプリをリリースして2年後の2021年にプレミアムプランを開始しました。

なぜサブスクリプションを始めたのか

AppleがIDFA(広告ID)の取得をユーザーの許可制に制限した2020年ごろから広告一本では今後の運営は厳しいものになるだろうと思っていました。
特にmintoはTODOアプリという性質上、広告単価の高いインタースティシャル広告(全画面広告)を出す余地がなく、広告だけだとマネタイズが厳しいアプリでした。
(ゲームのステージ終了など一区切りがあるアプリだと全画面広告表示の余地がある)

また、ユーザー数増加に伴い毎月のサーバー費用も線形に増加している状態でした。そんな事情もあり2本目の収益の柱としてサブスクを開始しました。

リリースして直後はなかなか契約が発生しませんでした。

初期のプレミアム画面。"エンジニアががんばって作ったデザイン"すぎてデザイナーの先輩が爆笑していた

その後、追加したプレミアム機能

プレミアムプランリリース当初は2つしかプレミアム機能がありませんでした。自分でも「この機能だけだとなかなか加入しないよな..」と思い、機能追加に注力していきました。

  • 広告非表示

  • カテゴリ数無制限

2024年現在は下記の機能までプレミアム機能を拡張できました。

  • 広告非表示

  • カテゴリ数無制限

  • 写真添付

  • サブタスク

  • カスタムリマインダー

  • ウィジェット

  • プレミアムテーマ

何が1番サブスク加入数に効いたか?

サブスク加入数に1番効いた施策は何かというと、カテゴリ数の上限を5→3件に制限したことです。
ユーザー数は右肩上がりで増えるもののサブスク加入率は1%にも満たずユーザー数とサブスク加入数の伸びが乖離している状態でした。
無料で使えてサイコー!なアプリですが、これでは経営が成り立ちません…。

自分はGoogle Keepのヘビーユーザーなのですが、ずっと無料で使えています。これは資本と体力のあるGoogleだからできるユーザー拡大戦略の一部であって、1個人開発者の小さなTODOアプリでは真似出来ない戦略です。
サブスクの設計をする際に世の中にある企業のフリーミアムモデルを参考にしすぎました。機能を絞れという話ではなく自分のアプリだけにフォーカスして設計すればもう少し経営的に健全なサブスクモデルにできたかもしれません。
反省しつつ途中で機能を制限する決断をしました。

機能制限実施。そしてお叱りの声

前述したように"最初出来たものが出来なくなる"は大きなハレーションを産みます。

アプリ内のバナーでお知らせしつつリリース。
数日後、ストアレビューで星1レビューが相次ぎました。覚悟していたもののやはり精神的にくるもので、出かけていてもスマホの通知が気になっていたのを記憶しています。

やっぱりやめ!既存ユーザーは今まで同様カテゴリ5件使えるようにしようとパソコンを開いたこともありました。ただ1度決めたこと。この決断は痛みを伴うがアプリの将来を見越して絶対に良い決断だと思い前言撤回はやめました。
ネガティブなレビューはその後数件続きましたが、1ヶ月程度で終息しました。気持ち的にはハラハラしたものの、落ち着いてデータを観測すると大きな影響はなくサブスク加入率も1%を超え当初より改善しました。
1時の感情に流されることなく、冷静にデータを見て判断せよ。大局を見よ。その重要さを痛感した出来事でした。

この施策をしてハラハラしてるときに、イーロンマスクがTwitterを買収して名前をXに変更したのを見て、機能制限で一喜一憂している自分がアホらしくなりました。笑

年額プランの開始

月額プランに加えて2022年8月に年額プランを開始しました。月額プランよりも2ヶ月分お得な年額プランは上述したカテゴリ数制限の波もあり、徐々にユーザーを増やしていき、リリースから2年後の2024年に月額プランをなんと追い抜きました。

青: 年額, 緑: 月額

長く家族・カップルで利用してもらえるアプリに成長したことと、年額プランのシナジーが高まった結果だと思っています。

サブスクリプションの現状

プレミアムプランリリース当初は伸び悩んだサブスクリプションですが、プレミアム機能の拡張、年額プランの追加など改善を続けた結果、2024年現在、広告収益の3倍を超える収益の柱になっています。

マネタイズ後。次の目標

多言語対応・世界へ

サブスクで収益性が安定したあと、多言語対応を決めました。一部ユーザーから英語版を望まれていたのもありますが、大きくはInkdrop開発者のTAKUYAさんの生き方に感銘を受けたのが大きかったです。Inkdropは日本でタクヤさんが開発しているノートアプリで世界中にユーザーがいます。
円安が騒がれる中、日本で生活しながら世界に売って外貨を稼ぐ。これを次の目標に決めました。

脱個人開発

とはいえ英語が喋れない…。

ChatGPTが出る前でしたので翻訳ツールを使って翻訳を最初考えました。ただ、ネイティブにも違和感のない簡潔なアプリ内文言をツールで作るのは限界があります。
悩んだ結果、初めて自分以外の開発者に助けてもらうことを決めました。
英語に精通している元同僚に英語翻訳と多言語対応の実装を依頼したところ快く受け入れていただき、初の多言語対応をリリースしました。

「早く行きたければ、一人で行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け」という諺がありますが、もう一人で歩くには限界を迎えていました。

毎月の収益が安定してからは費用を払って一部タスクをアウトソーシングしてアプリをスケールすることを意識しています。

公式サイト作成とデザイナーとの出会い

脱個人開発の一環で公式サイトも外注しました。
自力でStudioでサイトを作ろうとしてアプリの開発を優先するうちに4年以上手付かずのままでした。
ココナラでアプリのテイストにあったプロのデザイナーの方を探しデザインを依頼しました。コーディングも同じくココナラで別の方に依頼しました。
結果、女性のデザイナーの感性が活きた素敵なサイトが出来上がり気に入っています。
自分だけの力では限界があることを実感した瞬間でした。

現状のminto

既存機能に気づいてもらえないことが増えてきた

リリース当初シンプルを保っていたアプリも5年経ち機能を増やし続けた結果、UIがだんだんと複雑になってきました。

左: リリース当初, 右: 最近のアプリ

例えば、カテゴリ間でタスクを移動するメニューはタスクの設定画面の1番下にあるのですが、これが動線がまずいのか直感的でないからか中々気づかれません。

ずっと機能追加を続けてきたアプリですが、一度腰を据えてアプリのUI改善とリファクタリングに時間を充てないといけない。その時期が来ていることを実感しています。

成功の罠: 今までのやり方を踏襲するようなマインドになってきている

これはアプリではなく、自分自身の課題ですが、アプリをコツコツアップデートしたら結果が出たので、それでいいと思っていました。
なのでカテゴリ数を5→3件にする意思決定にもだいぶ時間がかかりました。
それでも線形にユーザー数と売り上げは伸びたのですが、非連続的な成長はあり得ません。時に痛みを伴う意思決定が必要だと実感しました。
レバレッジを効かせたアプリへの投資もできておらず、広告もやったりやらなかったりでした。世のアプリで広告やマーケティングに投資せずに成功するアプリなどないと思いますが、なぜか自分だけ例外だと思っていたのか、それでもユーザーは伸びているからいいだろうとアクセルを踏むのに躊躇していました。

最近は主に海外への広告出稿を強化しています。(Search Adsなど)
Instagram, TiktokのSNSマーケティングもやりたいなと思っています。またこれも自分で何でもやる病にかかっている気が最近しているのでプロに初動はお任せしても良いかもしれません。

タスクリストはなくなると思っていた

アプリをリリースして直後、やることが2兆個あったのですがずっと改善すればいつか終わりが来ると思っていました。
それが、5年経った今でも1.6兆個ほどやること・やりたいことがあり、終わりが一向に来る気配が来ません笑
アプリを改善してユーザーが増えるたびに要望は増えるし、新たなマネタイズポイントは見つかるし、機能が増えるたびにリファクタリングも必要…となり終わりが見えません。

何もやっていないとアプリは停滞する

当たり前なのですがアプリの改善を定期的に行なっていなかったり、マーケティングに無策であったりしたらアプリの数値がどんどん停滞します。
一時期、新作アプリの開発に集中してmintoのアップデートが1ヶ月以上止まったときにそれを実感した覚えがあります。
やることがなくなった時にアプリの終了の始まりがくると思うのでこれからも改善していきます。

まとめ

アプリをリリースして5年目の節目として、これまでにやったことと意識の変化についてまとめました。読み物になるようにまとめたので長文になってしまいましたが、ところどころヒントになるような箇所があれば幸いです。

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