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お願いだから、このデータにだけは目を通してほしい。

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“あの発言”から一週間以上が経った。荒井勝喜秘書官の発言のことだ。

あれ以来、私のTwitterではLGBTQ関連のつぶやきが圧倒的に増えた。アライ(当事者ではないが支援する人々)の方々には、「いいぞ、もっとやれ」と思っていただけているかもしれないが、そこまで関心のない方々にとっては、「またこの件かよ」「もうお腹いっぱい」と思われているかもしれない。

それでも私がつぶやかずにいられないのは、どうしても彼らに連帯したい、彼らの味方でありたい、との思いが強くあるからだ。

たとえばこんな声が飛んでくるように、私の性的指向が異性であることは(残念ながら)よく知られているから、なぜ性的マイノリティの方々に対してここまで強い思いを抱いているのか、不思議に思われる方も多くいるかもしれない。

ひとつには、今から20年近く前にトランスジェンダー当事者の杉山文野さんと出会い、そこから多くの当事者と出会っていったことによって、少しずつ「知らなかった世界」から「友人たちの切実な願い」に変わっていったこともある。

ひとつには、私自身が身体障害者というマイノリティとして生まれ育ったことで抱いている「なぜ、たまたま“数が少ない側”に生まれたことで、これだけ理不尽な思いをしなければならないのだろう」という疑問や憤りを、LGBTQ当事者である彼らにも重ね合わせることができているから、ということもあるだろう。

しかし、これらをベースにしながら、さらに熱い気持ちで彼らを支援していきたいという思いを強くしたのは、次々と明るみになるこうしたデータを目にしたことがきっかけだった。

たとえば、これは認定NPO法人「ReBit」が、2022年9月に行った『LGBTQ子ども・若者調査2022』の結果だ。

あなたは、「この一年で」自殺を考えたことがあるだろうか。

ある人はYESで、ある人はNOかもしれない。しかし、その割合を考えると、おそらくはNOの比率が高いのではないかと思われる。ところが、LGBTQの若年層では48%、じつに約半数の若者が「この一年で自殺を考えた」と答えているのだ。

さらに驚かされるのは、自殺を「考えた(自殺念慮)」だけでなく、実際に「試みた(自殺未遂)」人が14%もいる点だ。「人生のなかで一度でも」ではなく、「この一年で」自殺を試みた人が14%も存在しているのだ。

あなたは、「この一年で」自殺を試みたことがあるだろうか。

ある人はYESで、ある人はNOかもしれない。しかし、14%もの人がYESと答えるイメージはまるで湧いてこない。

なぜLGBTQ当事者は、なぜセクシュアルマイノリティである若者たちは、みずから死を選ぼうとするのだろうか。みずからの命を奪おうとしてしまうのだろうか。

先ほどの調査結果の続きを見てほしい。

LGBTQ当事者に「保護者に相談できるか?」と聞いたところ、91.6%がNOと答えている。10人に9人以上が「親に相談できていない」のだ。

また、LGBTQ当事者の不登校率は、非当事者と比べて中学生で5.4倍、高校生で10.6倍も高くなっているというデータも明らかになっているが、それでは教職員には相談できているのだろうか。

これについても、なんと93.6%もの当事者が「相談できない」と答えている。保護者にも、教職員にも相談できず、彼らは孤独に苛まれている。だから、「死」を頭に浮かべてしまうのではないだろうか。

「勇気を出して相談すればいいじゃないか」

そう思う人もいるかもしれない。そこで思い出してほしい。荒井秘書官の発言を。

「見るのも嫌だ」
「となりに住んでいるのも嫌だ」
「秘書官室もみんな反対する」

こんな発言を聞かされた10代の若者たちが、安心して大人に相談などできるだろうか。自分の親がこうした考え方なのではないだろうか。自分の担任もこうした考え方なのではないだろうか。そんな不安を抱いて当然だろう。そうした状況を我々が作り出しておいて、「勇気を出して相談すればいい」など軽々しく言うべきではない。

まずは、彼らが安心して相談できる社会にしていくことが先決だ。それには私たちが「味方だよ」「理解者だよ」と伝えていくことが何より必要だ。この記事の冒頭で、「アライ」という存在について触れた。LGBTQ当事者ではなくても、彼らについて理解し、支援しようとする人々のことだ。

ぜひ、この記事を読んだみなさんにはアライになってほしい。それは思想信条の話ではない。主義主張の話でもない。右か左かという話でもなければ、保守かリベラルかという話でもない。ただただ、「若者たちの命を守りたい」という話なのだ。

だから、私はこれからもメッセージを発し続ける。たとえ、多くの方から「乙武さん、もういいよ。その話題はお腹いっぱい」と思われていたとしても。

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