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事業計画のハナシ 事業計画を書いてみて!と言われたら

BASE株式会社執行役員の柳川です。金融事業の事業責任者をしています。
私はエンジニア→PdM→事業責任者というキャリアを歩んできました。
現在は事業戦略、プロダクト戦略、組織戦略全ての責任を持ちながら、事業責任者を務めさせていただいています。

事業計画三部作(参考記事)

プロダクト開発概要(参考記事)

事業計画を書いてみて!と言われたら

今回は事業計画を書く上での心持や心構えについて書いてみます。
いきなり事業計画書いてみて!と言われても何を書けばいいか、どういうこと考えて書けばいいかわからないと思います。今回は一例ではありますが自分の過去の経験をもとに抽象化して役に立ちそうなことを書いてみようと思います。

一応エクスキューズを書いておきます。
事業計画に求められるものも、事業計画の立ち位置も各社違いますので、まずはしっかりそこを会話してください。
事業計画を書いて欲しいと依頼している人も事業計画の定義ができてなかったりしますので、会話しながら確かめていきましょう。簡単なことではないので徐々に組織としてレベルアップしていきましょう。

そもそもなんのために事業計画を作るのか

事業活動というのは基本的に以下のサイクルで進行していきます。

投資獲得 -> 獲得したリソースで結果を出す -> 再投資

投資獲得するためには、投資をしたら事業成長するということが説明できる必要があります。その事業の成長性を説明するための強力なツールが事業計画です。では事業計画は投資を引き出すためだけのものなのかというとそんなことはありません。事業計画の作成に向き合うことで、実際に事業アウトプットが変わります。
事業計画を書いて説明をする過程の中で、説明のための整理がされる必要があります。整理とは具体と抽象を行き来することです。つまり発散して収束させることであり、思考することです。この過程を得て事業は洗練され実現度が上がります。簡単に言うと、事業計画を書くとこで書いた人の頭が整理され、人に伝えられるようになり、事業をよりスムーズに進行させることができます。
事業計画というと単年度のものを書くこともありますが、複数年度のものを書くこともあります。複数年度のものは中期経営計画と呼ばれたりもします。

事業活動は短期の期待に答えながら、中長期の成長を作ることです。これを整理説明しながら進めるための武器が事業計画です。
短期の期待に答えながら、中長期の成長を作ることは口でいう何倍も難しいのですが、難しい難しいと言っていても始まらないので、まずは事業計画を書いてみるのです。
大きなことをするにはリソースが必要だけれど、何もなしにリソースは取れない。つまり、事業計画をどう書くかによって、取れるリソースが決まり、プロダクトの未来が決まり、事業の行く末が変わるのです。こう考えると至極クリエイティブな作業だと思いませんか。

事業計画は正解を当てるものなの?

事業計画を約束としてみるのであれば、当たらなければいけません。例えば株主と約束した事業計画を外すわけにはいけません。しかし当てることが事業計画の本質ではありません。「当てるために当たりそうな水準の低い計画をひいとけば良いじゃん」、と言うことではないのです。数字上達成してればいいと言うものではないのです。

事業計画は投資計画です。「この投資が中長期でこのようなリターンとして返ってくるので、この投資には正当性があります」と言うことを説明することで投資を獲得すること、そしてその説明が嘘じゃないと証明すること、証明することでさらに大きな投資を得ること。この連続が事業活動です。
もう少し簡単に言えば、「成長しない計画を引くのであれば、投資は必要ありませんね!投資やめましょう!チーム解散!」と言う話なのです。

また、事業計画の達成を目指す形でモメンタムを作り、計画がなければその数字まではいかなかったよねと言う実利を作ることも大事です。何もやらなくても達成できる計画は意味がないのです。何もなくても達成できるなら、なにもやらなければいいんです。そうすれば営業利益が上がりますからね。

「事業責任者は、自分で引いた事業計画に苦しめられてて意味わからんわ」と思っている人もいるかもしれませんが、この背景を押さえておいて欲しいです。当たればいいわけじゃないのです。ここが天気予報と違うところです。意思を示した上で達成しないといけないのです。自分たちの力で。

財務会計と管理会計

急に専門用語チックなもの出してすいません。財務会計と管理会計という考え方もあります。財務会計というのは、いわゆる共通の会計のルールで書かれたものです。基本的に記載のルールは一貫しているので、どこの会社のものを見ても共通の読み方で読めるよ!と言うものです。IRとかで出てくるのはこの財務会計です。基本的には僕たちは財務会計のルールで株主と約束しています。財務会計は事業の知識がなくても読めるのです。すごいよね。

一方で管理会計というのは、会社ごとに、もっというと事業ごとに、部署ごとに書き方が違います。厳密なルールがありません。チームが実際に日々の運営として追いやすく工夫したものが管理会計です。事業チームとしては、この管理会計の工夫が腕の見せ所であります。どういうふうに管理すれば、実際にチームがうまく動くかという極意が全て詰め込まれたものが管理会計です。数字の切り方もそうですし、財務会計と目標の数字を変える場合もあるでしょう。

ここではこれ以上詳しくは記載しませんが、ぜひみなさん今一度、財務会計と管理会計に着目してみてください。

KPIツリーを引いてみる

事業計画を書く際に何から始めるか。KPIツリーを書いてみるのが一番いいです。でもいきなりKPIツリーが書けるかというと難易度が高い気もします。まずはKPI分解をしましょう。

まずは何からで言うと、売上から分解するのが一番いいでしょう。売上はだいたい平均単価と数量に分解できます。もしくは新規とリピーターに分解してから平均単価と数量に分解するパターンもあるかもしれません。
または利益から分解するパターンもあるかもしれません。売上と原価と販管費に分解してから、さらに分解していくパターンもあります。
とにかく紙に書き出してみましょう。書き出しながら好奇心で広げていきましょう。

KPIツリーの作成に関して重要なのは、正解はないということです。
正解がある気がしてしまうのですが、正解はないです。これが一番大事です。


KPIをどういう切り方にして、どのようなツリー構成にするかは、何を重視するかによって変わります。そして、何を重視するかは事業方針によっても、競合状況によっても、プロダクトのフェーズによっても変わります。今はトップラインの向上を目指す時期なのか、営業利益の向上を目指す時期なのか。新規を取るのかリピートを取るのか。離脱率を下げるのか新規獲得を増やすのか。全然変わりますし、自由なのです。この切り方でチームがどう動くかが変わります。事業責任者や、事業企画や、経営戦略室などと呼ばれる部署の大事な仕事です。
これが前述に管理会計という形で現れるのです。

まずは過去の傾向をまとめてそのまま引いてみる(オーガニックグロースを読む)

KPIツリーの分解をした後には、そのKPIツリーに数字を代入してみる必要があります。
過去データがあれば一番早いです。しかしそれぞれプロダクトごとにどれくらい過去データがあるかは異なります。当然のことながら過去データがあればあるほど、その後の予測も精度は出でます。ただデータがない場合も過去のデータから引く以外ないので代入してみましょう。
当然プロダクトリリース後の伸びの角度をそのまま10年とか引くと信じられない出来上がりの数字になるし、一旦落ち着いてきたタイミングから数字を引くと、それやる意味あるのというくらいの数字になったりします。それは分かりつつも、一旦引くしかないので引くいてみましょう。
ここで引いたものがいわゆるオーガニックでの成長パターンになります。ここが基礎で、これにトップダウンの思考と施策積み上げの思考を入れて行きます。

上から考える(トップダウン)

事業にはそれぞれの段階における成長期待があります。外から外形的にみた場合の成長期待です。T2D3とか40%ルールとか聞いたことあるでしょうか。その成長期待を考えると、これくらいの時期にこれくらいの数字行ってないとなーと言うのがなんとなく見えてきます。
裏付けする施策があるのかないかは関係なく、それを当てはめて、むこう5年位の数字を無邪気に引いてみる。それをKPI 分解していくと、各KPIこれくらいの数字行ってないとなと言うのが見えてきます。KPIは掛け算なので、それぞれの値がどうなるかということに幅が出ますが、過去傾向から引いた数字とも見比べつつ、なんとなく想像してみます。行けるのか行けないのか。
当然行けそうだなとなる場合も、無理だなーとなる場合もあります。
ただ事実として、このトップダウンの視点が株主などのステイクホルダーから見た視点です。無理やり合わせることはできないけど把握はする必要があります。

新規事業の場合は、既存事業の成長率は抜いてないと意味わからないよね!みたいなことも基準になります。
どう考えても無理で伸びないならリソースを突っ込まないという考え方も当然あるので、ここで得た感覚は大事です。

下から考える(施策積み上げ)

プロダクト開発をする人は、こちらの方がイメージがつきやすいかもしれません。いわゆる施策の積み上げの形で、こう言う機能開発や施策が考えられるからこれくらいの数字が動きそうを積み上げていく作業です。
施策を積み上げた場合実際にはどれくらいの数字になるかを考えてみましょう。このときに積み上げる施策はわかりやすいものだけで良いです。確実に数字に効くもの。数字に効くか効かないか、どれくらい効くかが不明瞭なものを入れても、お絵描きにしかならないので入れないです。ただし、中期計画とかのスコープであれば入れます。

積み上げて行ったときに、上から考えた数字に対して不足しているか、超過するか見ていきます。
またどの時期から開始できるかわからないもの、いわゆる開発見積もりが信用しがたいものも、原則入れるべきではないです。入れるべきではないのだけれど、いくつかは入れないと、期待した数字に届かない場合もあります。ここは必達リリースとして腹がくくれるか、リソースの調整ができるか、考えながら入れる入れないを決めていきます。

むしろここで、事業をこの角度で成長させるなら、これぐらいのリソースが必要ですけど、予算用意できますか?と言うやりとりがあるのが望ましいです。

この辺り、何を計画に入れて何を入れないかのメリハリの付け方は企業秘密でもあり、チームの状況や練度によっても変わるので、今回はこれ以上記載しません。(ディスカッションはいつでもしたいので話しかけてください。)
場合によっては開発見積もりが不確かなものをエイや!で入れた方がいいタイミングもあります。
言いたいこととしては、それなりに考えて計画はたてられています。

トップダウンと施策積み上げは別の人がやるのがベター

トップダウンと施策積み上げは別の人がやるのがベターです。頭の切り替えが難しいのと、どうしてもトップダウン側が甘くなるので。初期は事業数字が両方やり必要があるタイミングもありますが、できるだけ帽子はかぶり分けてください。
例えば、トップダウンの数字を引くときはファイナンスのチームとよく話してから決めて、施策積み上げの数字を決めるときはチームメンバーとよく話して決めるなど、工夫できることはあります。

このトップダウンと施策積み上げの緊張関係がいい計画を作ります。一方通行ではだめです。相互的にやりとりがあっていい計画が作れます。

実際自分のチームでは、トップダウンは事業責任者と事業開発が作り、ボトムアップはチームが作り最後に調整するみたいなことをしています。

そんなに厳密にやらないパターンもある

また別の切り口として、かけてるコストに見合う事業になっているのか、今後見合うようになるのかを、ざっくり考えると言うのもあります。厳密な数字積み上げに換算できない状態の事業でも、突っ込むリソースが少なければリスクに対してリターンが大きいからやってみようみたいな判断もあったりします。
「わからないからとりあえずやってみよう」、がいいパターンもあります。そして「わからないからとりあえずやってみよう」が許容されるためにも、開発コスト感がつかめて、低くできると言うのには価値があるのです。これがプロダクト開発がわかる人が事業を見るメリットです。

この辺り複雑なように見えますが、本当に簡単な話で、どのラインのお金を動かすのにどれくらい説明がいるかは、会社の状況や決まりによるよ!と言う話であります。この辺りは各社臨機応変にやっていると思います。

事業全体を大きくすることで、余裕を作る

正直これをやったら伸びると思うけど、どれくらい伸びるかわからんから事業計画に組み込めないなとか、これ予定通り開発終わるかわかんないから、計画に組み込めないな、みたいなことは全然あります。
だからといって、読める施策ばっかり詰め込むと、中長期的な非連続的な、非線形の成長が望めなくなります。
新規事業において、非連続的な成長ができないというのは存在意義を問われるようなことであり、ここはうまくやらないといけません。
ここに関しては事業全体をでかくするしかないと思っています。事業全体のポートフォリオの中で、不確実性のあるものに突っ込むリソースを仮に2割と決める。2割の絶対額は事業全体の規模が大きくなれば増えるよね、と言う理屈です。色々考えたけどこれしかない。

事業計画を出すということは期待値を握ること、信頼に答えること

信頼に答えないと行けない。信頼に答えないと、信頼してもらえなくなる。信頼してもらえなくなるとチャレンジさせてもらえなくなる。約束を守らないといけないし、守れないときは理由がないといけないし、理由があろうが守らないといけない。当たり前なんですが事業とはそう言うものです。

我々は期待に答え続けないといけない。期待を下回らない計画を立てることも、その計画を達成することも大事であり、それがあっての新たなチャレンジであることを肝に命じる必要があります。
特に株式上場するというのは、世の中の様々な期待を背負って大きくなるという選択肢を取ることなのです。このフォーマットに乗ることはめちゃ面白いです。

所与の条件はないです

事業計画を作るにあたって、所与の条件はないです。作った事業計画の活用の仕方のルールなどはありますが、事業計画自体は道具なわけです。やりたいことや、やるべきことをスムーズに進めるための道具です。と言うことは決まりなんかないんです。やりたいことや、やるべきことをやるために事業計画と言う仕組みをどう活用するかを常に考えましょう。
決して「事業計画を作らないといけないので作ります」、にならないようにしましょう。

ぶっちゃけ事業計画を引いてPL責任を持つってどんな気持ち?

PL責任を持って幾星霜だけど、正直きついし毎月吐きそうで万人にはおすすめはしないです。でもこう言うことの積み重ねなんだよなーとはしみじみ思います。
何かしらのプレッシャーの元リズムを作って、モメンタムを作って前に進むしかないのです。計画があってそれの進捗を追っていると、達成しても達成しなくても、「なんでそうなってどうすればもっとよくなるか」考えるんですよね。宣言している以上プレッシャーもかけられるわけですし、自分でも勝手にプレッシャーかかるわけですが、そうなることで全力で考える。
そう言うモメンタムの作り方もある。確実に言えるのはダラダラやっていてもしょうがないのです。
成長すればするほどプレッシャーは増える、そういう資本主義のバグはあるがそれもありがたいのです。

おすすめはしないけど、必要なことですし、悪くはないです。

まとめ

事業計画の話は、なかなか出てこない上に難しいのです。しかもこれにプロダクト開発の不確実性も絡むわけで一筋縄じゃいかないです。
施策の不確実性 * プロダクト開発の不確実性なので複雑性がどんどん増えます。
ただ、このプロダクト開発とビジネスをつなげる、そして再現性を持ってサスティナブルに事業を作っていく、言い換えればいいチームを作ることでプロダクトをグロースし、更にいいチームにしていく、ということに回答を探していくというのは、個人的な人生のテーマのひとつなので、頑張りますし、いい感じで言語化、メソッド化したいです。

いいチームを作って、良いプロダクトを作れば、事業としても成り立つ、は全然自明じゃなくて、その裏に奇跡のようなエトセトラが隠されている。そう思います。難しいけど面白いと言う月並みな感想でございます。

余談

ちなみにあなたは事業計画まわりの一連のことを誰に教えてもらったんですか?と言う疑問もあるかもしれません。結論誰にも教えてもらっていません。体当たりしながら、本とか読みながら、試行錯誤して自分なりに体系化しました。
部分部分の話はあるんです。でも全体を貫いた概観は、僕の場合は自分で考えて得るしかありませんでした。

自分で事業計画を書いて、自分で事業活動をして、自分で予実を管理して、その反省をもとにまた事業計画を書くと言う経験ができている人って希少なんですよね。
事業計画をかかない or 書いてもそんなに重視しないけど事業活動もしているパターンか、事業計画を書き予実管理をする部署と、事業活動をする部署が切り離されてるパターンが多いのです。
なので自分で言うのもなんですが、そこそこ貴重なnoteであると思います。

「事業計画とかなんで書かないといけないのよ」、とか「全体的に茶番じゃね?」とか思っていいました。それゆえに真剣に考えて、自分の中で落とし込んでと言う作業をせざるを得なかった感じです。でもそのおかげで実感を持って言葉にできてきます。
まだまだ修行中の身です。今回書いたことも変わっていくと思いますが、一旦形にできてよかった。色々ディスカッションさせてください。

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