暮しの手帖のすごさをネットサービスの設計者はみんな理解したほうがいい話
Service Design Advent Calendar 2017に、ちなんだ投稿です。
はじめまして!オリジナルライフという会社を運営してる榎本です。
「消費者ジャーナリズムで産業の進化に貢献する」を会社のコンセプトにしています。実際にお金を払ってる消費者の当事者としての生の声や体験レポートの可視化を頑張っています。消費者ニーズによりそった先進的なサービスをやってる会社が勝ちやすく、チートを行なっている会社が勝ちにくくなる=『産業のサービス品質全体が進化する』世界を実現したいと思っています。
お手本にしてきたのは、情報誌時代のリクルートのサービスデザインなんですが、全くもって真逆のメディアに見える、「暮しの手帖」が、『ユーザーニーズの可視化で産業の進化に貢献している』という点で共通だったのが、衝撃だったので、ここにご報告させていただきます。
暮しの手帖のすごさ①商品テストがすごい
こちらは有名なベビーカーの商品テストの紙面です。市販のベビーカー7種類に赤ちゃんの重さのおもしをのせて、実際に100km街中をはしらせて耐久性を見るというものです。メーカーでは、電動ベルトの上をはしらせてテストはしても、当時のデコボコした坂道や砂利道を人間がおすことはやっていなくて、結果は衝撃的なものだったそうです。
実際に実名で本気で記事を書くので、↓のような辛辣な記事は日常茶飯事。
『メードインジャパンに、またも泥を塗ったストーブ』ってすごい書き方。
でも、あるメーカーのおじいさまが『下手な仕事をしてると暮らしの手帖に刺される。でもいい仕事をしたら必ず評価してくれる。だから頑張った』とおっしゃていたことがあります。
実際に編集長の花森さんが、上の写真の二年後、2度目の石油ストーブのテストの巻末で、下記のように書いています。ちょっと長いですが、引用します。
この仕事をつづけていくと、いろいろなことがあります。たいていは、つらいこと、いやなことばかりですが、ありがたいことに、ああ苦労した甲斐があったなぁ、と心からしみじみおもえるようなうれしいこともあります。
今度の石油ストーブのテストがそうでした。近頃こんなにうれしかったことはありません・・・。テストの結果はごらんの通りです。
まだ外国品と完全に肩を並べているわけにはいきませんが、とにかく二年前とくらべると、格段によくなっていると言えるでしょう。
もし、二年前に、私たちがあのテストをしていなかったら、こんなによくはなっていなかったかもしれないし、第一こんなに沢山の新しいメーカーもできていなかったかもしれない・・・思い上がった言い方、と言われることを承知のうえで、私たちはこのことを書いておきたいのです。
暮しの手帖のすごさ②テーマ研究がすごい
暮しの手帖は、戦後の暮らしをどうよくするかをテーマに、純粋にそのテーマをつきつめて企画をつくっていったそうです。
上のキッチンの研究のような、特定テーマのそもそも論をほりさげることをやってきたそうです。
当時復興で、バラックから出て、実際に家を立てることが現実的な人が増えてきて、どのような家にするかは切実な問題だったそうです。
そして、家を立てるときに、もっとも重要で改革が必要な場所を台所であると考え、10号連載で、一年がかりでおいかけるテーマであると宣言してはじめた企画のようです。
上の画像にあるように、台所の機能を「流し台」「調理台」「煮炊き台」の三つにわけ、それの組み合わせで、I字型、L字型、コの字型と分類したそうです。
そして、毎号、実際の家の台所を、上記の観点で分析し、良い面、悪い面、改善点を語るということをしたそうです。(台所の悪い面を指摘される協力者を見つけるの大変そう)
最終的には、メーカーと共同でオリジナルのステンレスキッチンをつくり、今のI 字型キッチンのはしりになったとのこと。
流し台と調理台と煮炊き台からつなぎ目をなくしたもので、これによって高さを個人にあわせられるようになったそうです。すごい!(ちなみに1965年のことです。)
暮しの手帖のすごさ③読者の巻き込み方がすごい
①②が実現できた、その内容が真に迫れた背景に、「暮しの手帖研究室の協力グループ」の存在があったそうです。年収や支出、最近買ったもの、欲しいものまで共有された数千世帯の協力グループを組織して、記事を書くときも協力グループのアンケートを駆使して、「1000名の主婦から寄せられた意見」という説得力を大事にしていました。
暮しの手帖のすごさ④使命感がすごい
1967年に戦後20年たち、戦争の生活の記憶が薄れ、特に一般庶民がどんな風に生きてきたかの記録を残す目的で『戦争中の暮しの記憶』の募集を行なっています。1736通の応募があって、126名の入選を決めています。そしてすごいと思ったのが、なんと96号の本誌をすべてこのテーマにして、普段の連載をストップしています。当時暮しの手帖は約80万部売っています。広告を一切とらないビジネスモデルなので、売れないと大変なことになります。それでもできるだけ多くの人に全文を届けるため、別冊でも連載でもなく、本誌1号をまるごとこの企画にしています。これなかなか判断できないことだと思います。
これは96号の新聞広告の文章です。本当にすばらしい。こういった仕事をしたいと心から思いました。
『君は、四十歳をすぎ、五十をすぎ、あるいは、それ以上もすぎた人が、生まれてはじめて、ペンをとった文章を、これまで読んだことがあるだろうか。今、君が手にしようとしている、この一冊は、大部分が、そういう文章でうずまっている。これだけは、どうしても君に書き残しておきたい、その気持ちが、この人たちに、初めてペンをとらせたのだ。これは戦争中の、暮らしの記録である。この戦争は1945年8月15日に終わった。それは言語に絶する暮しであった。その言語に絶する明け暮れのなかに、人たちは、体力と精神力のぎりぎりまでもちこたえて、やっと生きてきた。親を失い、夫を失い、子を兄弟を失い、そして、青春を失いそれでも生きてきた。家を焼かれ、財産を焼かれ、夜も、朝も、日なかも、飢えながら生きてきた。戦争の経緯や、それを指導した人たちについては、古いことでも、詳しく正確な記録が残されている。しかし、その戦争のあいだ、ただ黙々と歯を食いしばって生きてきた人たちが、何を苦しみ、なにを食べ、なにを着て、どんな風に暮らしてきたか、どんな風に死んでいったか、具体的なことは、どの時代の、どの戦争にも、ほとんど残されていない。その数少ない記録がここにある。君が、この一冊を、どんな気持ちで読むだろうか。それはわからない。しかし、君がなんと思おうと、これが戦争なのだ。それを君に知ってもらいたくて、この一冊をのこしてゆく。できることなら、君もまた、君の後に生まれるものために、そのまた後に生まれる者のために、この一冊を、たとえ、どんなにぼろぼろになっても、残しておいてほしい。これがこの戦争を生きてきた者の一人としての切なる願いである。』
この号は書籍化しているのでご興味あるかたはぜひ。この本のコメント欄もメディアサービスのプロマネとしては熱い思いになります。
まとめ
暮しの手帖は、「暮らしを良くする」という大きなミッションを達成するために、暮しのプロである消費者を徹底的に巻き込んで、実際に「暮しを良く」することに貢献できてきたと思います。
しかも、全盛期は毎月100万部の有料雑誌で、一切広告費をとらずにビジネスとしても成功させています。
50年も前に、こんなおばけみたいなことができている事例があるわけで、僕らは勇気しかわかないですね!
リクルートと暮しの手帖の共通点は、、、長くなったのでニーズあればまたどこかで!
さいごに(ちょっとだけ宣伝させてください!)
と、いうようなことを、現代において、ジャンルをしぼってチャレンジしているスタートアップが弊社になります。(ビジネスモデルは全然違いますが)
http://apple.co/1RxQJqD
難しいけど、めちゃくちゃ面白いチャレンジです。実際超楽しい。
この難しいチャレンジに一緒に挑戦してくれるデザイナーを募集しています。
ちょっとでも興味をもってくれた方、もしくは、「暮しの手帖」好きなデザイナーさん、普通に色々話しをしたいので、Wantedlyでお茶しに来てください。スタバリザーブをご馳走します。
引用元:『花森安治の仕事-デザインする手、編集長の眼展』図録
追記:
というか、noteのCMSの完成度が高すぎて驚いてる。簡単にかけるCMS創らなければと思ってたけど、noteがいいな。OEM提供やっていないのだろうか。。。
追記2
暮しに、修正しました!ありがとうはてなブックマーク!!