イノベーションは「余白」から生まれる!「ディスカッション予測bot」開発秘話
エネルギー業界の課題をマーケットの力で解こうと挑むenechain。今回は、重要な業界会議での発表に向けて開発された画期的なAIツール「ディスカッション予測bot」と、その開発を主導した戦略企画部の代田 沙夜さんの取り組みをご紹介します。
enechainはバリューのひとつに「余白 。」を掲げ、時には立ち止まって自分自身のエネルギーを充電することや、合理性だけにとらわれることなく遊び心を大切にすることを、社員の行動指針としています。「ディスカッション予測bot」は遊び心から生まれた、まさに「余白 。」を体現したプロジェクトです。このプロジェクトで、代田さんは2024年度上半期に最もValueを体現した社員に贈られるValue Awards 余白 。賞を受賞しました。
— はじめに代田さんのお仕事について教えてください。
私は戦略企画部というenechainの事業における重要なイニシアチブの企画管理を行う部署で、業界動向の分析やステークホルダーとの調整など、幅広い業務を担当しています。
— 具体的には、日々どのような業務を行っているのでしょうか?
民間のヘッジ取引マーケットを提供する立場として、各所からの意見照会に対応したり、内容によっては資料を作成したりします。また、事業者が規制対応を行う際に取引プラットフォームを活用していただくケースがあり、それらの一連の企画・運営にも携わっています。さらに、1年半前からは社外向けレポートサービスも開始しました。
— どの仕事も高度な知識と経験が必要な仕事で大変ではないですか?
業務内容は非常に多岐にわたっており、しかも不定期に発生することが多く、先々の見通しも難しいものばかりで、正直いって大変と感じることは多いです。特に人手不足の中でのレポートサービス立ち上げは当初とても負担が大きかったです。インターン生や業務委託のメンバーを含めた5名体制で、2日がかりで1回のレポートを運営していたのですが、次から次へとエンドレスで続き、それの対応をしている間は他の業務がストップするといった状況でした。
— やはり。今は状況が変わりましたか?
生成AIが大盛り上がりの兆しをみせた比較的早いタイミングで、生成AIを活用して私たちの業務を効率化できないか考えました。私自身は、生成AIはおろかテクノロジーの知見が全くと言っていいほどありません。その点を補い、強化するために、代表の野澤、テクノロジー部門、HRにもアシストいただき、インターン生の採用や、社外アドバイザーへのコンサル依頼を行いました。そのような経緯を経て、最初に着手したのが社外向けレポートサービスを極力自動化し、作成にかかる時間を短縮する効率化対応です。
— 「ディスカッション予測bot」の前に社外向けレポートサービスの自動化プロジェクトがあったんですね。
社外向けレポートサービスの自動化に取り組む中で、レポートだけではなくその業界会議の議論展開を予測してくれるAIツールがあったら面白いねと、冗談交じりに出てきたアイデアから生まれたのが、その名の通り「ディスカッション予測bot」です。
「いつかやれたら……」くらいの調子で話していたところ、打ち合わせに参加していたインターン生の森島さんが遊びでベースとなるツールを直後に作ってくれた……というのが始まりです。まさに「余白 。」から生まれたプロジェクトと言えます。
— インターン生が遊びで!
森島さんは、社外向けレポートサービスを自動化しようと計画していたところに、救世主の如く現れたインターン生です。独学で生成AIの技術を学び、インターン生の面接の時点から、生成AIを用いた自動化プランについてディスカッションを行い、そのミッションに取り組みたいとジョインしてくれました。社外向けレポートサービスの自動化プロジェクトもリードしてくれただけでなく、その傍らで後述するbotを遊び感覚で初期開発してくれるなど、優れた創造性と実行力を備えた逸材です
— そのツールがベースとなってとんとん拍子に進んだんですか?
いえ、その時は社外向けレポートサービスを優先して進めるために、妄想だけ膨らませてディスカッション予測botの開発は一旦止まっていたんです。
ところが、その後、代表の野澤が重要な業界会議に登壇するという話が出てきたので、自分たちのプレゼンが、その会議の議論にどういう影響をあたえうるか、このbotで予測してみたいということで、急遽作り込むことになりました。
— 完成イメージはありましたか?
botの開発にあたっては、できるだけ会議の議論そのものを再現しているようなリアリティのあるものを目指しました。すなわち、野澤がプレゼンしたら、誰がどんなふうに反応するかまでの詳細なアウトプットを求めました。
実はこれ自体がすごく難しいことで。生成AIは、多くの情報から汎用的な解を出すことに長けており、特定の何かをマネするといったことは難しいと言われています。
例えば「会議でこういう提言をしたいが、どういった反論が予想されるか?」という問いであれば、考えられるものを類型化して洗い出すといったことは比較的簡単にできます。
ただ、これだと実際に生の議論をずっと見てきている業界人からすると、生成AIに頼らなくても直感である程度わかるわけで、何なら人間の方がシャープに予想できてしまう。
— わざわざ生成AIを使う必要はなくなってしまうと。
そうです。それなら作る意味があまりないので、もはや、まるでその会議で議論が行われているようなアウトプットを出してくれる、いわば「なりきりbot」にしていきたいとこだわりました。
— そこまで精度高くできるものなんですね。
生成AIにほど遠そうな部署の仕事に、自動化という効率化だけではなく、こんなんあったらいいなというアイディアを実現できたことは、社内でも反響があり、他の部署でも、こんなことを生成AIを活用して実現できないか、と考えるきっかけになったようです。
ちなみに私は、今回のプロジェクトを通して、微力ながらもテクノロジーの活用に対するリテラシーが向上しました(笑)
— botの開発を再開したのは、いつ頃だったんですか?
プレゼン本番1ヵ月前に磨きこみを始めることになりました。ベースとなるツールを既に森島さんが作っていたとはいえ、この短いスパンで、しかも社外向けレポートサービス自動化プロジェクトを進めている傍らで検証するのはかなりタフな状況でしたが、テクノロジー本部のデータ・サイエンス・デスクのメンバーにも、プロジェクト全体をサポートし、ツール構築・検証もコミットしてもらいました。
最初の段階で実際のプレゼン内容をbotに入れてみたところ、当たり障りのない反応しかなく有用とは思えず、リアリティを出したい部分を明確にし、そこだけを集中的に改善することに決めました。
何をどう改善してほしいのか、botを磨きこむための要件を私が整理し、森島さんがプロンプトの改善などツールの磨きこみを実施、このトライ&エラーを毎日繰り返し、資料提出締め切り間際についにリアリティあるアウトプットが出てくるようになりました。野澤やフェローからは、本物の議論とそっくりで、実際の議事メモかと勘違いするところだった!と驚かれるほど高く評価してもらいました。
— 1ヵ月というタイトなスケジュールで、どのように進捗を管理していったんですか?
日次単位でオンライン・対面のハイブリッドミーティングで進捗確認をしながら、モデルの改修を都度検証してSlackを通してフィードバックするというサイクルを繰り返しました。このコミュニケーション方法は効果的でした。
実はその間に別のモデルでbot開発するアイデアがあり、2~3週間はその開発に費やしていました。そのモデルでは求める水準を超えるのは難しいと分かった時、会議まで残り2週間しか残っていませんでした。なので、資料提出の締め切りに間に合った時はホッとしました。
— 最後の最後まで諦めずに、やり切るところがenechainらしいエピソードですね。
そのおかげでbotを活用して、資料の表現に問題がないかを見直しできました。
資料提出後も、プレゼンでのトーンなどの調整に活用しました。会議当日を数日後に控え、野澤のプレゼン練習音声をbotにかけ、そこで得られた気付きを野澤に共有し、プレゼンに反映してもらいました。
— このプロジェクトは「余白 。」以外のenechainのバリューも体現されていると感じます。
enechainには、「Galácticos(ギャラクティコス)」というバリューがあり、各人の多様性を尊重し活かしていくというカルチャーが根付いていて、社員はそれを意識せずとも実践しています。
生成AIのツール構築を勉強している森島さんと、システムエンジニア側のプロマネができる佐崎さん、エンジニアプロフェッショナルの北村さん、そしてドメイン知識面からツールの品質をコントロールする自分、という各人の強みを活かす体制でそれぞれが主体的に自分の役割を果たすために動くことができたのは、このプロジェクトの成功要因のひとつです。
社外向けレポートサービス自動化プロジェクトで忙しいなか、当たり前の疑問として「今これをやる必要があるのか?」という話にもなりました。今回、そこで話が止まらずに、どうやって限られた時間で最大限の成果を出せるだろうか、という建設的な話し合いが行われたことで、タフな状況でも「Deliver Impact」(結果にこだわろうというenechainのバリューのひとつ)にこだわり、やり切ることができました。
— この経験を糧に今後enechainで挑戦したいことはありますか?
今後も、業界全体の変革に貢献できることには大なり小なりチャレンジしていきたいと思っています。また、スタートアップならではのスピード感を活かして、新しい事業の成長に貢献できるよう、引き続き全力で取り組んでいきます。
文:コーポレート本部 Communicationsデスク 時松志乃
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